姉様と再会した日からも変わらず、修行やデートをして何日も過ごしていましたが、今日はそのどちらもを中断。久しく会っていなかった同僚のみんなと、魔王様主催のパーティに参加することになりました。なんでも、若手悪魔同士の顔合わせなんかも兼ねているそうです。黄彩は例によって例の如く、来賓客ということで魔王様達やアザゼル先生、同じく来賓の、オーディン様と何か話しています。
「ウフフフフフフ。どうやら退屈そうだね、子猫ちゃん」
「……死んでください、黄彩」
「何故に!?」
「呼び方が気に入りませんでした」
数々のデートを経て、美少女の方の黄彩との分離を完全にものにした様でして、度々この様にもう片方が絡んできます。
「紛らわしい名前の小猫ちゃんにも責任はあると思うんだけどなぁ」
「それはそう名付けた部長に言ってください」
「リアスちゃんにはもう言った。泣いてたよ」
……何してるんですか貴女は。
「おうおう、お主が、かの芸術家のもう片方かの?」
確かに退屈していたので、黄彩と話していると、オーディン様がこちらへと来て黄彩に声をかけました。美少年の方の黄彩はまだアザゼル先生や魔王様達と話しているみたいですが、抜け出して来たんでしょうか。
「ウフフ。初めましてだね、オーディンくん。初めましてついでに、神様とエンカウントするのもこれが初めてだね」
「ふんっ、儂を敬わんところはどっちも変わらずか。器量は抜群に良いから
「ウフフ。告ってもねぇのに振ってくれるなよな、オーディンくん。ボクだって小猫ちゃんが大好きだから、こっちから願い下げだよ。神様に願うことなんて安産祈願だけで充分だね」
なんで北欧神話の主神相手に上から目線でものを言えるんですか、この美少女。
「まるで、人間というより神を相手してる気分になるのぅ。……いや、そういえば日本には現人神なんてものがおったな。女王卑弥呼や天皇とか。そこに連なるだけの器はあるというわけか」
「ボクが神なんて、趣味じゃないよ。呼ばれるのは良いけど名乗るはなんか嫌だからやだ」
黄彩が言うと、オーディン様は肩を震わせて、愉快そうに笑いながら、魔王様達の元へと戻って行った。
そして入れ替わり、立ち替わる様に、美少年の方の黄彩が私の手を引く。
「じゃあ行こ、小猫」
「はい?」
……いや、本当に、どこへ?
私は目立つ気も騒ぎを起こすような気も、全くないんですけど。
「黒猫の人のところ。ウフフ、遊びに来たのかな」
え、黒歌姉様が?
そういえば、予定がどうとか言ってましたし、
「……行きましょう」
エレベーターで一階までおり、樹海となっている外へと飛び出せば、すぐに黒歌姉様は見つかった。
「……何をしてるんですか、姉様」
「……仕事前の腹ごしらえ、……にゃん」
パーティ会場からくすねて来たらしい料理を食べているタイミングで、私たちは来てしまったらしい。
なんかこう、なんで緊張感のある雰囲気にできないんですか、この人。
「呼び出すのは食べ終わってからにするつもりだったのににゃぁ……、これも芸術家くんの仕業かにゃ?」
とりあえず、あの人のお願いを先に終わらせて置きましょう。
「食べ終わるまで待ちますから、一つ聞いてください」
「白音の頼みなら、百個でも億個でも聞くにゃん」
「ある人から、黒歌姉様への伝言です。――『ネビロスのモルモットは勝手に元気に生きてる。助かった、ありがとう』、と。その人は、黒歌姉様を命の恩人と言っていました」
「……へぇ、ネビロス。懐かしい名前ね。で、白音はどこまで知っちゃったのかにゃん?」
「大体全部です。ネビロス家も、ナベリウス家も、両親も。……姉様が本当はずっと優しかったことも」
「……それは誤解ってやつだにゃん。私はあの日、ご主人がなんか気に入らなかったからぶっ殺しただけだにゃ」
嘘です。絶対、どう見ても、何を見ても、姉様の言っていることは嘘です。いい加減、黄彩と一緒にいて私も人の見方を少しは学びました。
「ふぅ、……ごちそうさまでした。――さ、殺しあいを始めるにゃん」
「ウフフ。ウフフフフフフ」
空になった食器を地面へと丁寧に置いて手を合わせた後、不敵な笑みを浮かべながら殺意を見せる。
「……仲直りはできませんか、姉様」
「めちゃくちゃ望むところだけど、その前にやらなきゃいけないことがあるのにゃ」
「ウフフ。綺麗に可愛く美しく仕上げるよ。――傑作No.01――失敗」
姉様が魔法陣を展開すると同時に、黄彩は地面から伸びた玉座に腰を下ろす。
「作品No.06、07――苦難の左手、裕福な右手」
「うにゃ〜ん……、マジ?」
樹海の樹木を材料に作られた巨大な左手と右手の群れが、私たちや姉様を丸ごと囲うように広がっていく。
「ハグで圧殺はマジ勘弁してほしいにゃん」
「なら私が殴殺します」
「私の妹、殺意高すぎ!?」
「「死ね、おねーちゃん」」
「勘弁してほしいにゃ!! ねっ、仲直りしよ!?」
とか言いつつも、魔力弾で次々と手を破壊していく姉様は、気高く、……そして綺麗。口や行動でどうしようと、もう私に、姉様を嫌うことは、できそうにない。
「作品No.10――体験型水族館」
秘めていた猫耳と尻尾を出し、脳のリミッターを解く。
「ずっと言えてませんでした。……ありがとうございます、姉様」
「言ってることとやってることが滅茶苦茶にゃ!?」
黄彩の操る、人間を容易く収められるサイズの大きさ水の玉を逃げながら躱す姉様を、フルパワーで殴るために追いかける。
「作品No.13――若者」
まだまだ残る数多の手達が刃物のように変化し、落下してくる。
「ばっかばっかホントばか!? ねえちょっとホントに死ぬかっ――」
「えい」
「べっふぇ!?」
金属のように硬そうな巨大な刃物は流石に壊せないようで、思わず立ち止まった姉様の顔面に全力のパンチを放った。
「いったい! ものすっごく痛いにゃ!? よくもやってくれたわね! 妹にもぶたれたことにゃいのに!」
「前にあった時も一度殴りましたよ。……というか、意外と余裕そうですね、姉様」
「ウフフ。小猫のお姉ちゃん、面白い人だね」
「お前がお姉ちゃん言うにゃあ!! なんかこう、きゅってするから!」
そりゃするでしょうね。もう見慣れましたが、黄彩は綺麗に可愛く美しい美少年、常人なら老若男女問わず魅了しかねる美貌の持ち主ですから。私だって『お姉ちゃん』なんて呼ばれ方したら、ときめきますもん。
「おーい、黒歌ー!」
「ちょ、
なんかむかついたからもっと殴ろうと思った丁度良い、というか丁度悪いタイミングで、三大勢力の和平会談の時にも姿を見せたらしい男が、雲に乗って飛びながら黒歌姉様を担いで飛び立った。
「何するのよっ、びこーーー!!!」
「うるっせぇえええ!!」
……また、逃げられた。
いえ、それはまぁどうでも良いんですけど、緊張感ないですね、
……なんだか疲れました。
「ウフフフ。あーあ。楽しかったのになぁ」
黄彩のテンションと共に、浮き上がっていた水玉や刃物がバッシャンガッシャンと音を立てて落下していく。
「また今度、ですね」
「うにゃ、そだねぇ」
改めて周囲を見渡してみたら、結構な大惨事になってますね。巨大な手が突き刺さってたり、巨大な水溜まりが幾つも出来上がったり。
「黄彩」
「ん、なぁに?」
「私、仙術の修行をしてみようと思います」
黄彩は「ふぅん、そう」と、やっぱり興味なさそうに呟きながら私の手を取る。
「ウフフ、ボクは努力が嫌いだからね」
「努力じゃなくて修行です」
「どっちも苦行でしょ? まぁ、徒労にならないことを祈っておくかな」
まぁ、きっと大丈夫です。才能はあり、きっかけも十分以上に貰いましたから。
この後、私たちが居なくなっていたことに気がついた部長や兵藤先輩が駆けつけてきて、パーティ会場の方にはロキが襲撃を仕掛けていたことが伝えられました。
で、あっと言う間に、なんて言うと流石に誇張表現ですが、あっという間でのこと。ロキとの二度目の戦闘が、非常に計画的に始まりました。
フェンリルやらミドガルズオルムやら、道徳的な龍やらラストさんやら、怪獣大決戦みたいな壮絶な戦いが繰り広げられていると、元々計画のうちだった、オーディン様によるミョルニルの転送を期に、戦況は二転三転。物語の歯車の動力源が手回しから、モーターに付け替えられたように、暴力的なまでに一方的な、殺戮的なまでに殺法的な、虐殺的な逆転劇。
「ギャハハハハハ!! ギャハハハハハハハハ!!! ギャハハハハハハハハハハ!!!!」
ロキが地に伏せ、赤龍帝が地に伏せ、道徳的な龍が不時着して、黄彩が着席して、悪魔が、堕天使が、天使が、北欧の神が、一人の笑う男を見上げている。
滅びの魔力も、光の槍も、伝説の聖剣も、赤龍帝の力も、神のハンマーも、どれもこれも、人間が食らえば即死は免れないはずの必殺が、巨人の拳も、天馬の蹴りも、自喰龍の咀嚼も、命を刻む手刀も、月まで届く砲撃も、あれもそれも、生物が食らえば即死は免れないはずの絶死が、全てがモーター音と共に轢殺された。
「ギャハッ! オイオイオイオイ! テメェそれでも神かアアン!? 悪神ともあろうバケモンが俺みてぇな殺人鬼に殺されてんじゃねぇよ!! もっと頑張りやがれ!」
何か能力を使うでもなく、モーター音が鳴り止んでいる状態での、道端の石ころを蹴飛ばすような軽々しい蹴りですが、それでもロキは岩にぶつかり、罅が入るまで、蹴り飛ばされた石のように飛んでいく。
「ラグナロクだかハルマゲドンだかエスカトロジーだか知らねぇがやってみやがれ!!」
是非ともやめていただきたい。というのが、神を人間が蹴り飛ばす光景を見ているしかない私たちの総意でした。
「アーアーアーアー、アー! アー!! アー!!! その程度で何がしたかったんだてめぇはよぉ!!」
また、ロキは蹴り飛ばされる。
「俺一人殺せねぇで終末なんて何考えてんだ!! なんでもっと頑張ってから始めなかったんだ!!!」
何を言っているのか。
支離滅裂というか、やっぱり滅茶苦茶というか。
殺人鬼、巻解さんは断じて、ラグナロク――終末を防ぎに駆けつけた正義の味方だとか、今回の事態を引き起こした黒幕ではないのは一目瞭然。
巻解さんは、さっきまで私たちの前にも立ちはだかっていた。挟み撃ちを受けるように。挟み撃ちを起こすように。
最初こそロキを無視して、私たちに襲いかかってきた巻解さんは、私たちが事実上の戦意喪失を見せると、今度はロキへの
いえ、全てが私刑だったのでしょう。言い換えて、八つ当たり。神羅万象、有象無象、ありとあらゆる全てを殺戮せんと、道端の石にすら殺意を向けて。
やっぱり、滅茶苦茶です。
「あーあ、つまんねぇ。つまらねぇ。どんだけ流そうが埋めようが詰まらねぇ。……そんなんでテメェ、なんで生きてんだ?」
それはいつか、黄彩も言っていたセリフです。生きているのか死んでいるのか分からない相手に向かって、求めているものを持たない相手に向かって、生存を問いかける殺戮宣言。
「ギャハッ!! 存分に多分に性分に死ね! ――トルクチューンモーター――ウエストアクセル」
さっきまでのモーター音、どころではない、肉体のありとあらゆるが空を裂く、金切音にも似た音。
指以外ももちろん、あらゆる全てが球体関節である巻解さんは腰だって球体関節で、普通の肉体なら誰でも捻じ切れるような動作でも、巻解さんなら手首を返す以上に回転できる。
まるでヘリコプターのプロペラのように、広がった両腕が、私には円盤にも見えた。いえ、シルエット的にはむしろ竹トンボといった具合ですが、表現としてはやっぱりヘリコプターの方がイメージには合うでしょう。
ヘリコプターのプロペラに投げ込まれた人間がどうなるのか、想像できない人はいないでしょう。想像したい人もそうはいないはずです。……これから、私たちは想像するまでもなく、その結果を思い出せる。
神すら殺せる、唯一無二の
ですがそれでも、その日、神の一柱であるロキは、一人の人間によって殺された。
一人の、人でなしの殺人鬼のビンタによって、ロキは肉片へと変貌した。