悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 ロキが殺された事件のは、死亡者一柱という、結果と作戦だけを見比べて見ればほとんど大成功のような結果に終わりましたが、そんなことはどうでもよく。

 夏休みの終わりが近くなり、日本に帰って来た私たちに立ちはだかったのは――宿題。どこかでは『夏休みの友』なんて名称が付けられたりするそうですが、間違いなく、過ちなく、疑問なく、それは『夏休みの敵』だった。

 

 二人に増殖するという不可思議極まりない技術を身につけた黄彩は、冥界では人二倍暇を持て余していたらしく、黄彩は全ての宿題を埋め尽くしている。

 今私は、一ヶ月間のスランプを埋め立てるように、黄彩から勉強を教わりながら宿題を片付けていた。

 

 黄彩は努力を嫌い、才能を知覚して存分に発揮する典型的、どころか根本的な天才児ではありますが、あれで人に教えることも上手いらしく――いえ、違います。選択する言葉が綺麗なんですね。脳に一切摩耗(ストレス)なく溶け込んでくる黄彩の教えは、夏休みの宿題という苦行を限りなく楽にしてくれました。

 

 それでも苦行は苦行ですけど。

 

 最後まで残った読書感想文になんの本を使おうか、読書を省略するために既読本しか入っていない本棚を眺めながらふと、黄彩は何で書いたのかと尋ねました。

 

「小猫は、ネット小説って読む?」

 

「なんです、それ?」

 

 存在すら知りませんでしたが、黄彩の説明を鵜呑みにするなら、動画投稿サイトの小説バージョンといった具合でした。いえ、つまりは小説投稿サイトということになるんですけれど。

 しかし黄彩が感想文を書くのに使ったのは、いえ、これでは書いた人に失礼ですね。黄彩が書くに値した小説というのは、個人の作成した、自作の小説を羅列したようなサイトから選ばれた、ミステリー小説。それ以外にも、羅列されたこのサイトの小説全てが、おそらく一人の人間が書いた小説でした。

 

 まぁ結局、私が選んだのは、既読本ばかりの本棚から選んだ、黄彩と付き合い始めた頃に勉強も兼ねて買った恋愛小説。実体験や共感なんかも踏まえて、作文用紙五枚に書き連ねた。

 

「ウフフ。流石にボクでも、そうまでうにゃく書かれたら照れちゃうよ」

 

「そう言いながら全く照れていないじゃないですか。それより、お腹空きました」

 

 時間は夕方の七時半ば。十九時半ばという時間を夕方と言っていいのか微妙なところですが、まだ外が幾らか明るいので、夕方と言っても間違いではないでしょう。

 

「ん、何食べたい?」

 

「そうめん。デザートには砂糖をたっぷり」

 

「ん〜、じゃあケーキでも作ろうかな。イチゴと生クリームがまだあったはず」

 

 いつもよりちょっと遅い夕食でしたが、存分に英気を養い、明日からの学業に備え、狭いベッドで夜を寝過ごしました。

 

 

 で、翌朝。

 私たちのクラスに、一人の転校生がやってきました。

 文字通りの異色ではありましたが、あくまでも悪魔ではなく一般人。黒髪を茶髪と金髪で乱雑な縞模様のように染めていて、まともな手入れをしていないのか乱れに乱れた、清潔感のない髪の女生徒

 クラスメイト達は腫れものを扱うように、なるべく関わらないようにしていて、同じ腫れもの枠である黄彩の隣の席ではありますが、黄彩もあまり興味はない様子です。

 

 どうやら二年生にも二人、転校生がいることを、放課後の部活で知らされました。

 

「天界から来ました、紫藤イリナです!」

 

「元ネビロス家のモルモット、巻解使駆だ」

 

 夏休み中にあったパーティでも顔を見かけた、元聖剣使い、現天使の紫藤イリナさん。天界から駒王町へ顔役ということで適格なのでしょうが、……なんでどの勢力にも属してない巻解さんが転校してくるんですか。何をどうしているのか、球体関節も見えなくなってますし。

 

「俺だって来たくて、っつーかしたくて転校生なんてしてるんじゃねぇよ」

 

「だったら何が目的なのかしら」

 

 と、部長が警戒しながら尋ねると、巻解さんは着心地悪そうにしている制服の懐から何かをとりだし、場合構わず私の膝の上でクッキーを食べている黄彩の目の前で、それを見せた。

 

「俺ぁただ落としもん届けに来ただけだっつーのに。サーゼクスに捕まってこうなった」

 

「お兄様が!?」

 

 黄彩と私の目の前にあるのは、黄彩のものであるはずの、黄色の女王の駒。巻解さんが言うには、ロキとの戦いの時に拾ったらしいです。

 

「お前の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なんだろ。大事なもんなんだから大事にしろよな」

 

「ん〜」

 

 クッキーのカスがついた手で、黄彩は受け取る。

 

「……で、こいつぁちょっとした提案なんだが」

 

「うにゃ、何?」

 

 黄彩が首を傾げると、巻解さんは頬の刺青を回転させて、モーター音を鳴らす。

 ロキとの戦いで散々聞かされた音に、木場先輩や紫藤先輩が警戒して武器を抜く。

 

「俺をお前の眷属にしてみる気はねぇか? 黄彩」

 

「うにゃ? まぁ、いいけど」

 

 紅茶を手に黄彩が了承すると、巻解さんは黄彩の片手に握られた女王を取り返すように掠め取る。

 黄彩が了承したのだし、私にとって恩人みたいなものですし、反対する気は一切ありませんが、何故か眷属化する様子が見られません。

 

「……なぁ、これってどうやったらいいんだ?」

 

「さぁ。飲み込んでみたら?」

 

 女王を片手に、巻解さんはそんなことを言い出し、黄彩も面白がりながらそんなことを言い出した。

 

「オイオイ。喉につまって死んだらどうすんだよ、殺人機」

 

「いっぱい殺してるんだから一回くらい、いいんじゃない? 殺人鬼」

 

 偉そうというか、上位に立つ黄彩に対して同じ位階で暴れる巻解さんは話していると、二人は私以上に対等にも見える。

 

「んじゃ、まぁ」

 

 と。明らかに飲み込んで良いサイズではない駒を、ガコガコと、無機質と無機物をぶつけるような音を鳴らしながら、飲み込んでしまった。

 

「おっ、おおおおおおおっ!!」

 

 ギチギチと軋む音を鳴らしながら、巻解さんの背から悪魔の翼が伸びる。私たちのものとは違い、所々が球体関節になっている、異形の上に異形の翼。

 

「あー、ああ? 眷属悪魔になればパワーアップするっつー話だったが、案外そうでもねぇな」

 

 ……いや、むやみやたらと強くならないでくださいよ。ただでさえ強いんですから。

 

「おい、我が主人」

 

「なぁに?」

 

「てめぇの眷属、巻解使駆だ。――黄彩」

 

「ボクは有製黄彩だよ。――使駆」

 

 ……よくよく考えたら、いえ、考えるまでもなく。――黄彩と巻解さんのコンビって、新人悪魔達でのレーティングゲームで一番の強敵じゃないですか。ライバルどころかラスボスでしょう。

 

「ギャハハ」

「ウフフフ」

 

 

 それからアザゼル先生が遅れて来て、巻解さんの神器なんかで一悶着ありました。

 巻解さんは殺人鬼稼業を控えて悪魔稼業で生活するため、その悪魔稼業を習うためにもオカルト研究部に入部するそうです。

 

 球体関節は、継続型禁手を一時的に切ることで元の体に戻るそうですが、生身の方が動きにくくて疲れるそうです。……それでも身体能力だけで兵藤先輩や木場先輩を圧倒していましたが。

 

 

 

 そういえば、もうすぐ体育祭ですね。

 

 




 ちょっと短いけど第二章完結っていうか、第三章プロローグというべきか微妙なところですが、これで『美術品の殺人鬼』は終幕。
 第三章は『美術的な小説家』となります。お楽しみにぃ。
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