悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 二年生の修学旅行、私たちの京都旅行前日に、ついに黄彩の眷属とシトリー眷属のレーティングゲームが開催された。

 

 黄彩の眷属が特例のエイトクイーンのため、ルールも特殊なものであり、簡潔に言ってしまうなら、王が負けても負けでは無く、全滅するまで負けじゃ無い。

 人数の有利は圧倒的にシトリー眷属にあり、対する黄彩の勢力は殺人鬼と小説家。黄彩は通信機で指示を出すなど、その程度の干渉は許可されている。……多分しないでしょうけど。

 

「……うにゃ、ぶっちゃけどうでもいいけど、無様にダサく愚かに負けちゃダメだよ」

 

「「りょ〜かい」」

 

 黄彩がカステラ片手に言うと、眷属二人は軽く手を振りながら転移して行った。

 すぐにモニターが点き、グレイフィア様のアナウンスが流れる。

 

『それではこれより、シトリー眷属とシトリング眷属のレーティングゲームを開始します』

 

 ……シトリーとシトリングって、微妙に似てますね。しかもシトリングって、聴き慣れなさすぎる。

 

「ボクのペンネームのアレって、名字なんだね」

 

「なんで黄彩もわかってないんですか」

 

 

 

 

 ビルの立ち並ぶ摩天楼を模された会場。

 

『まさか、いきなり女王とはね』

 

『巻解さんを疲弊させるためにも、貴女は速攻で仕留めます』

 

 ――始まってすぐに、宛てもなく彷徨い歩いていた可思議の前に現れたのは、シトリー眷属の女王。

 

 暗に眼中に無いと言われた可思議さんは、愉快そうに笑う。

 

『クククッ。……言っとくけど』

 

 ――シトリーの女王の足元から銃口が覗き、容赦無く発砲する。

 

『なっ!?』

 

『私は雑魚では無いの』

 

 希しくも、シトリーの女王の神器は追憶の鏡(ミラーアリス)で、可思議さんの神器は書物の国のルイス(ブレイク・クラッシュ・デストロイ)、同じ不思議の国のアリス由来の名称の神器。

 追憶の鏡はカウンター系の神器であり、銃弾を可思議さんの方へと飛来していく。

 

 ――偶然にも銃弾は一発も当たらずに、壁を撃ち抜いた。

 

『こういうの、想定出来ていないでしょう?』

 

 ――そこいら中のビルの、扉や窓が全て音を立てて開き、異形の怪物達が流れ込むように流出してくる。

 ――全身から金属光沢を放つ刀剣を伸ばす狼。

 ――歯の一本一本が銃口になっている巨人。

 ――腰から上がなく、下半身だけで歩く人のような何か。

 ――生物ですらなく、レイピアが棒人間のようにつながった人形。

 ――全身骨だけの妙にコミカルに跳び駆けるウサギ。

 

 名状し難い怪物たちに、シトリーの女王は長刀で立ち向かう。

 

 ――しかし限界は来るもの。

 ――数の暴力で追い詰めるはずが、逆に数の暴力によって潰されてしまった。

 

『クックックックック。私に文を書く暇を与えたのが君の敗因だよ。読者さん』

 

 ――異形の怪物たちが虚空に消えると、其処には何も残ってはいなかった。

 

 可思議さんの初陣は、完膚なき圧勝から始まった。

 

 

 

『ギャハッ! ギャハハッ! ギャハハハハッ!! ギャハハハハハハハッ!! ギャハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 一方その頃。もう一人の女王は、シトリー眷属の本拠地のビルへと直接乗り込んでいた。

 別のモニターには階下にいる巻解さんを仕留めようと降る王と僧侶が映る。

 

『ギャハッ! ……おせぇよ。――パワーダッシュモーター』

 

 モーター音を鳴らしながらの、ただの跳躍。一階の室内から飛び跳ね、天井から屋上まで一直線に破壊しながら飛び出した。

 

『パワーダッシュモーター、キックアクセル』

 

 咄嗟に放たれた、会長の水流の水龍を、水溜まりのように踏み潰し、ビルを蹴り壊した。

 見るまでも無い破壊。災害。崩壊。

 

『ギャハハハハハハハッ!! ギャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! 』

 

 ――アナウンスから、王と女王と僧侶が敗退したことを告げられる。

 

 ――本拠地の崩壊を察知したシトリー眷属達が、巻解使駆の元へと集結する。

 

『――よくも会長を! 許せねぇ!!』

 

 匙先輩が神器で速攻を仕掛け、ラインを巻解さんの右足に巻き付けた。

 

『ハッ! ギャハハッ!!』

 

 巻解さんは拘束を一切気に留めず、騎士の振り下ろされた日本刀を腕で弾き、高速移動を得意とする兵士を掴み止める。

 

『遅え遅え!』

 

 兵士を壁や盾を構えている方向へ投げ飛ばし、日本刀を握り潰す。

 

『ギャハッ!』『ギャハハッ!』『ギャハハハハ!』『ギャハハハハハハッ!』『ギャハハハハハハハハハハハハッ!』『ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

 ――殺人鬼の狂気の笑い声に、シトリー眷属は怯み動きを止めた。

 

『ギャハァッ! こういう拷問があるのを知ってるか? ――ノーマルモーター』

 

 今尚ラインが繋がれているのに、巻解さんは誰も対応できない速さで走り出した。――シトリー眷属の集団目掛けて、匙元士郎を引き摺って。

 

『おおおおおおおおお!?!?』

 

『ギャハッハッハハハハハ!!』

 

 ――殺人鬼、巻解使駆の異名は『轢殺専門の殺人鬼』

 ――異名に違わず、素性に違わず、シトリー眷属を轢き殺した。

 

『クククッ。やっぱり、現実は小説よりも希なりとはいかないね。詰まらない、ただの無双ゲーム』

 

『それ、俺悪くねぇよな?』

 

『素敵に詩的に加減しなさいって話よ。行間も読んで』

 

 

『テメェの小説だけは絶対に読まねぇ』

 

 

 

「うにゃぁ、あの二人って強いんだね」

 

「……知らないであんなこと言ってたんですか?」

 

 

 

 閑話休題。

 

 シトリング眷属の存在そのものが緊急なため、シトリーとのレーティングゲームの直後に、会場も流用して、私たちグレモリー眷属とのレーティングゲームが行われます。……そのことをついさっき伝えられて転送されました。

 ルールは先ほどと同じ。フィールドを壊し放題、王が負けても負けでなく、全滅だけが敗北条件。

 

「ソーナとのゲームを見ていて分かっただろうけれど、――下手な戦略は役に立たないわ。――全力全開、最初からフルパワーよ」

 

 ――私たちは部長の指示に従い、――神器に仙術に雷光に聖剣にと、――全ての準備を整えて完全全力全開で、――殲滅へと打って出た。

 

「ギャハハハハハッ!! あの小説家好みに、素敵に詩的に、んでもって芸術的に叩きのめしてやるよ」

 

「「うぉぉぉおおお!!!」」

 

 正面から一人現れた巻解さんの挑発に乗り、特攻隊長的なゼノヴィア先輩と、巻解さんと同じパワーファイターの兵藤先輩が特攻を仕掛ける。

 

「ギャハッ!」

 

「なにっ!?」

 

 万物を切り裂くはずのデュランダルを、無防備に肩で受け止められ、さらに力を込めても、巻解さんからは血の一滴もでない。

 

「ドラゴンショット!!」

 

「ノーマルモーター、ウエストアクセル」

 

 デュランダルごとゼノヴィアさんを投げ、兵藤先輩の撃った魔力弾にぶつけることで防ぐ。

 

「ギャハハハハッ!! おら、かかってこい。白音」

 

「……行きます」

 

 仙術で身体能力を底上げして、ぶん殴る。

 

「ノーマルモーター、パンチアクセル!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、――ほとんど同威力のパンチが相殺し合い、足元のアスファルトが大きく抉れる。

 

「雷光よっ!」

 

「トルクチューンモーター!」

 

「ちょっ、力つよ!?」

 

 パンチとは不釣り合いに強すぎるタックル!?

 踏ん張りの効かない上空へと打ち上げられ、全く効かなかった雷光を放っていた上空の副部長も撃ち落とす。

 

「ギャハハハハハッ! オイオイ、女にだけいいかっこつけさして、テメェら赤龍帝と聖魔剣使いは見てるだけかっ!?」

 

 ――木場裕斗が両手に聖魔剣を構え、巻解使駆の周囲に足止めするように聖魔剣を創造する。

 

「ギャハァ、……俺相手にスピード勝負で勝てるわけねぇだろうがよ」

 

 ――モーターを回さず、身体能力だけで聖魔剣を受け止めた。

 

「アザゼルから聞いてねぇのか? 継続型禁手――歯車仕掛けの神の肉(デウス・エクス・マキナ・ギア)、つまり、俺の肉体は限りなく神に近いんだぜ? そんな簡単に切れるわけねぇだろうが!!」

 

 ――単純明快なストレートパンチが、木場悠斗を殴り飛ばした。

 

 ――ここまで約十秒。禁手に完全に目覚め、新たな力への道に踏み出し始めた兵藤一誠には、力を増幅させ切るに十分な時間だった。 

 ――溜め込んだ力を、リアス・グレモリーに譲渡する。

 

「くらいなさい!!」

 

「だから、きか……あ、やべ」

 

 ――これまでノーダメージで殺人鬼をしていた巻解使駆には、攻撃を受けても平気だという油断があった。

 ――しかし、リアス・グレモリーの滅びの魔力は、純粋な防御力を無視して攻撃する。

 

 ――一撃絶殺!!

 

「ククッ、さしもの殺人鬼も油断には殺されるってことかな」

 

「あとはあなただけよ」

 

 ……対して、かなりダメージを負っていますが、私や副部長もギリギリいけます。

 

「生憎と、蹴ったり殴ったりは苦手なのよね。だからとっとと終わらせる。――禁手(バランス・ブレイク)――書物の国のルイス(ブレイク・クラッシュ・デストロイ)

 

 ――グレモリー眷属は両膝を地につけ、両手を後頭部に組んで付けた。

 

「――グレモリー眷属一同、降参するわ」

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 場所を移り、旧校舎。

 

「あれはどう考えても反則だわ!!」

 

「できることをしないことこそ卑劣というものでしょ」

 

 神器の力を最適すぎる使い方をした可思議さんに対して、部長が文句たっぷりに怒り散らかしています。

 ……いや、私も納得はしてませんけど。副会長のやられ方も散々でしたが、あれは散々どころじゃ無いです。

 

「クククッ。洗脳や催眠を卑怯だという意見には一考の価値ありとは思うけどね。でもゲームなんだから、出来ない方が、防げない方が悪いのよ。……ねぇ、我が主人?」

 

「うにゃ、面白かったけど、綺麗じゃ無いし、可愛く無いし、美しく無いからもうやらないでね。やるならもっと面白くやって」

 

「……みさくら語で降参宣言でもさせてみる?」

 

「ヒゲダンスも追加でね」

 

 ……それやられた人、ゲームの後に自殺するんじゃ無いですか? あと綺麗でも可愛くも美しくも無い。

 

「ヒゲダンスはともかく、みさくら語は有効かもしれねぇぞ。禍の団の主力は大概プライド高いからな」

 

 アザゼル先生はアザゼル先生で、平然とえげつないことを思いついていますし。

 

「……投げられて肉壁的に敗退した私の方が、幾らかマシなんだったんだな……」

 

「……いや、ほんとすまんゼノヴィア……」

 

 速攻かけて自爆した人たちもいい感じに面倒臭い感じになってますね。

 

「それで今後の有製のレーティングゲームなんだが、……正直予想以上すぎて全く予定が建てられていねぇ。ギャスパーみたく神器を封じてもいいんだが……」

 

「そんなことしたら私は一般人以下よ」

 

「だよなぁ……」

 

 巻解さんもそうだったらしいですけど、可思議さんも眷属悪魔してから身体能力に変化がほとんど起きなかったらしいです。黄彩ほどでないにしても、趣味に合わせて歪みきった生活リズムで生きている可思議さんの身体能力は、女子高生の平均を大きく下回っていました。……とことんバランスが悪いですね、シトリング眷属。

 

 

 

「……ふわぁ、……、なんか眠くなってきた」

 

 殺伐と反省の入り混じる空間の中、黄彩はあくびをしながら私の膝に頭を落とした。

 

「散々に叩きのめした相手の膝で寝ますか、普通」

 

「……? 死体をベッドにしたりとか、そんなアメリカの芸術家みたいなことしないよ?」

 

「誇大解釈が過ぎませんか、それ」

 

「……ボクだって叩きのめしたりしてないもん」

 

「……むしろ跳ね上げられましたね」

 

 

 

 ――めでたしめでたし。

 

 

 

「……そんな強引な使い方、っていうか締め方できるんですね。その神器」

 

「これでもハッピーエンド至上主義みたいなところがあってね」




『第三章 美術的な小説家』はこれにて終了。第四章のサブタイトルは『美術界の料理人』となります。
 夏休みの課題とかオリジナル書きてぇなとかでペース落ちるかもしれませんが、感想いただける限りは書きますので、どうかよろしく。



 本編がちょっと短かったからキャラ紹介もしますね。


 巻解(まきとき) 使駆(しく)
 駒王学園二年生。年齢不明。

 髪は黒髪で短め。恩人へのリスペクトもあり、染める気は皆無。
 身長は日本人男性の平均より少し高い程度。
 服装は黒色を好み、ライダースーツのようなラインの出やすいものを好むけれど、こだわりはあまり無い。基本的にあるものを適当に着ている。

 神器 神の歯車(マキナ・ギア)
 禁手 歯車仕掛けの神の肉(デウス・エクス・マキナ・ギア)

 神器(セイクリッド・ギア)は、肉体を変化させて、モーターとギアボックスのような機関を体内に作り、高速移動する能力を持つ。

 禁手(バランス・ブレイク)は禁手の中でも異例の、継続型禁手と呼ばれるもので、基本的に禁手状態となる。オンオフは可能だけど、標準でオン。
 全身の関節を球体関節にしたり、デュランダルでも傷一つ付かないほどに丈夫な素材に、()()()()()()()()()

 継続型禁手は、ナベリウス家のモルモットになっていた時に、超越者を作り出すために強引に作り上げられたもので、現状に至るまでに何度も死にかけている。
 デュランダルのような、純粋なパワーでの攻撃には神格クラス以上の耐久性を発揮するが、リアスやサーゼクスの滅びの魔力のような防御無視の攻撃には弱い。

 攻撃や移動の技は、連れ去られてモルモットになる前に熱中していたミニ四駆をモチーフとしたもので、基本的には質量にスピードを乗せたゴリ押し戦法。
 パンチアクセルや、ウエストアクセルなんて、関節ごとに分けて技にしているものもあるけれど、ぶっちゃけ、ただ加速して走ったりタックルしたりの方が殺傷力がある。
 加速中に方向転換はほとんど出来無いけれど、停止状態からなら上空へも加速できる。

 モルモット以前の記憶は、実験の後遺症でかなり薄れていて、冥界で暮らしていた記憶の方が深く濃い。
 黒歌によって偶然にも救われたあとは、悪魔を殺して金銭を奪い生活していた。
 大規模で殺戮するわりに凶器も兵器も使わず、痕跡すら殺戮していくため、足取りをほとんど掴まれず、尻尾を掴まれても人間と分かると悪魔の方から無かった事にされていた。

 教会や堕天使、悪魔を始めに、あらゆる勢力に紛れ込んでいる殺人鬼との独自のネットワークがあり、湯水のように情報が無防備に垂れ流されている。本人達は小規模なツイッター程度の感覚。

 殺人鬼たちから呼ばれていた異名は『轢殺(れきさつ)専門の殺人鬼』であり、他の殺人鬼には
『刺殺専門の殺人鬼』
『生殺専門の殺人鬼』
『自殺専門の殺人鬼』
『焚殺専門の殺人鬼』
『暗殺専門の殺人鬼』
 と、計六人の専門殺人鬼がリーダーのような立ち位置に立ってはいるが、専門としているだけに、誰かと共に殺人したりはほとんどせず、専門同士で手を組むことが稀にある程度。
 そもそも殺人鬼ネットワークが雲のように希薄で、仲間意識なんかは個人同士のもの。
 
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