悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 本編、よろしくお願いします。


第四章 美術界の料理人
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 旅行の前に、前日譚というか、事後報告を一つ。

 

 黄彩のレーティングゲームの後、観戦し来ていたオーディン様のお付きだったヴァルキリー、ロスヴァイセさんが色々あって、グレモリー眷属になり、駒王学園の教師になられました。駒は私と同じ戦車(ルーク)で、攻撃魔法の天才らしいです。

 

 以上、可思議さんのおかげで語り忘れた事でした。

 

「そんな、私が悪いみたいに言われても、語られても、史実にならずの事実なのだから困るわ」

 

「……というか、なんで一年生がここにいるんですか」

 

 二年生の修学旅行と同じタイミングでの旅行のため、当然のように駅で二年生と教師の集団と出会しました。

 元々は黄彩と二人っきりの予定だったのですが、可思議さんも見に行きたいという事で、京都に着くまでは一緒に行くことになりました。

 

「旅行だかデートだかだろ? ほら、殺人鬼用の悪魔通行許可証」

 

 普通に修学旅行に参加する巻解さんから、神社や寺院のような場所を悪魔が入ってもダメージを負わないようになるカードを受け取る。

 

「そいつがあれば、日本神話の土地でどんだけ殺しても問題にならねぇ。俺が死ぬまでは有効だから財布にでも入れとけ」

 

 ……なんですか、その血生臭い免罪符。ロスヴァイセ先生とアザゼル先生が信じられないものを見る目で巻解さんを見ている。

 

「駒王町が裏でグレモリーの領地になってるみてぇに、殺人鬼には殺人鬼の世界の縄張りってやつがあるんだよ。京都を狩場にしてる奴から、俺の名義で貰ってきたんだ」

 

「え、京都に殺人鬼いるんですか?」

 

 ロスヴァイセ先生が尋ねると、巻解さんはただ「ギャハハ」とだけ笑った。

 

 ……え、いるんですか?

 

「小猫、可思議。そろそろ電車」

 

「いや、ちょっと、これから殺人鬼のいるところに行くんですか?」

 

「ギャハハハッ! そいつは殺人鬼だが俺と違って基本温厚な性格のやつだから安心しろ」

 

「うにゃ、ボクも使駆も人殺しなんだから、今更でしょ」

 

 そう言われたらそうなんですけど、……というかこんなところで話していいことじゃ無い!?

 

「――()()にも聞かれていないから平気よ」

 

 可思議さんが確約しながら、私達の座る席とは離れた位置の扉へと消えていく。

 

 

 閑話休題。

 

 黄彩のことだからグリーン席をとっているのかと思ったら、普通席なのに驚き半分、ガッカリ半分なところでしたが、聞いてみたら「普通の指定席と違いが分かんなかった」とかで、ああなるほどと納得させられていた頃。

 

「新幹線ってさ、……子供に人気あるくせにいざ乗ってみたら楽しく無いよね」

 

「くせにって、……黄彩にだって子供時代くらいあるんじゃ無いですか。電車とか好きな時期は無かったんんですか?」

 

「今も子供なつもりだけど、……そうだね。ボクにとって公共のものって基本キャンバスだから」

 

「やってることが不良じゃないですか」

 

「優良児では無いよね、ボク」

 

 ……こんなでも、というかこんなだからこそ、一応犯罪者でしたね。

 忘れましょう。

 

「そういえば、京都のどこを見たいとかありますか? なんでか今まで一切決めずに、今日まで来ちゃいましたけど」

 

「うにゃ……、あ、清水の舞台から飛び降りてみたい」

 

「いまさら叶えたい願いとかあるんですか?」

 

 確か、清水の舞台って飛び降りて死なずに生きてたら願いが叶うっていう奴でしたよね?

 

「そりゃ、誰でもあるでしょ。若返りとか」

 

「黄彩がやったら胎児まで戻りそうですね。死んで転生した方が早そうです」

 

「それじゃあリセットが入るじゃん。……別に体はどうでもいいんだけどさ、芸術家の全盛期に戻りたいの」

 

 転生をリセットって言う人初めて見ましたよ。

 

「というか、それ今じゃないんですか? 私も黄彩も、人間でもまだ衰え始めるような歳じゃないと思いますけど」

 

「んーん、ボクの全盛期はもっと前。……小学生くらいの時かな。ほら、道徳的な龍を作ったのもその頃」

 

 そういえば、体を子供のままに保っているのは、その体だった頃に肖りたいが為だと言ってましたね。

 

「ウフフ、小猫の全盛期はいつだろうねぇ」

 

「悪魔はほぼ永遠を生きますから。……早くても数百年後ですよ」

 

「ふぅん、そっか。……人間、やめよっかな」

 

 ……え?

 

「いや、え? 前に部長からの勧誘をめちゃくちゃに断ってたじゃないですか」

 

「今は前じゃなくて今だもん」

 

「そういう問題……、なんでしょうね。なら、何になるんですか?」

 

「ん〜、やっぱり神様?」

 

 とりあえず、新幹線でする話じゃないですね。

 

 

 

「金閣寺とか、東寺も見に行きたいかな」

 

「銀閣寺はいいんですか?」

 

「……え、あれって金閣寺のリハじゃないの?」

 

「いろんな人に怒られますよ」

 

 と言うか、銀閣寺の方が後に作られたんじゃありませんでしたか?

 

 閑話休題

 

 

 あれから京都に調べたりなんかして、回る順番をなんとなく決めてたりした後、二人揃って寝てしまい、駅についた時に慌てながら飛び出しました。

 

「ヒュー、ヒュー、ヒュー、……、新幹線って、疲れるんだね……」

 

「自業自得感半端ないですけどね……」

 

「アッハッハッハッハッハ!!」

 

「「誰?」」

 

 私たちが降りた直後に新幹線が発進していくのを見ながら息を切らしていると、一人の女性が私たちを見て大爆笑していた。

 

「いいねぇ、美味しいねぇ」

 

 金髪ポニーテールで、青と紫の着物の上にエプロンをかけ水色の三角巾を頭につけた、妙にコスプレチックというか、アニメ調な格好をした、女性は、心底愉快そうに笑いながら名乗る。

 

「轢殺専門の殺人鬼、巻解使駆様から聞いているよ。あたしは普段料理人をしている副業殺人鬼――海胆岬《うにみさき》ほろり――二人の護衛兼足役だよ」

 

 ……出会わないように気をつけようとか考えてたのに、一瞬で遭遇しましたね。というか待ち伏せでしょうか。

 

「うにゃ、護衛?」

 

「アッハッハァ。……いや、ちょっと今の京都は危険でね。まぁ、詳しい話は車での移動中に聞いてもらうよ」

 

 黄彩の「まぁ、大丈夫でしょ」と言う言葉を鵜呑みにして、連れられるように、海胆岬さんの車へと乗ってしまいました。

 

「さて、白音ちゃんに黄彩くん。ホテルはすぐだけど、それまでに何から聞きたいかな?」

 

 海胆岬さんは京都を縄張りにしている、京都の殺人鬼の頂点にいるそうですが、道には詳しくないのか、カーナビに『伏見稲荷大社』のナビゲートを設定していました。

 とりあえず、一番気になっていたことを尋ねる。

 

「巻解さんと、どういう関係なんですか?」

 

 私の質問に、海胆岬さんは苦笑いしながら答える。

 

「アッハァ、……まぁ、使駆様とは舎弟以上友達未満、恋人以上隷属未満って関係かな。要するに上下関係ね」

 

「恋人以上って、付き合ってるんですか?」

 

「そりゃもう、会うたびにプロポーズする仲よ?」

 

「めちゃくちゃ玉砕しまくってるじゃないですか」

 

「そうとも言うね。でも、恋仲の関係を継続したいっていう使駆様の考えも尊重しないと」

 

「ウフフ。いい感じにイカれてるね」

 

「イカじゃなくて海胆(ウニ)だよー」

 

 ……確かに、巻解さんの友人らしく、精神のねじ曲がった人ですね。合わないはずの歯車が噛み合っちゃった感じの、ネジを付けすぎたような強靭な狂人。

 

「さて、そろそろ着くけど、次の質問に行こうか?」

 

 次は黄彩が尋ねる。

 

「京都が危険って、何があったの?」

 

「端的に言うなら、八坂が連れ去られたのさ」

 

「ん〜、……誰?」

 

「京都の妖怪の長、西の大妖怪、九尾の狐。京都の表の頂点が京都府知事で、京都の闇の頂点があたし、そして裏の頂点が八坂」

 

 ……そんな人が、拐われた? 妖怪の長――悪魔でいうところの魔王様のような人がですか?

 

「まとめ役が欠けたことで妖怪たちの一部が暴徒化していてねぇ。……ま、だからこそのあたしだよ」

 

 

 話しているうちに、駅の近くのホテルの駐車場に車が止まりました。

 

「さ、チェックインして荷物置いてきな。しっぽりねっとりヤってきてもいいけど、昼までには戻ってきてね?」

 

「すぐ戻ってきます」

 

 ネット予約で部屋はあらかじめ取っていたので、すぐに二人部屋へと通され、最低限の荷物だけ置いて駐車場に戻ると、……海胆岬さんは包丁片手に異形の怪物を殺していました。

 

「え……。黄彩くん、早漏?」

 

「……暴徒化した妖怪ですか」

 

 見たところ……、自転車の付喪神? 塗装が剥げて赤錆の浮いたパイプ状の細い体に、タイヤのようなものが二つ付いた、異形の怪物。

 

「ま、そんなところ。……流石にこれは食べられないか」

 

「うにゃあ……、いつもは食べるの?」

 

「そりゃ、本職は料理人だからね。食人鬼なんて大して珍しくもないでしょ」

 

 ……え、怖。

 さっきまでこんな人に運転を任せていたという事実に、……ぜんっぜん恐怖とか抱けませんね。多分、黄彩で慣れたんだと思います。

 

「まずは伏見稲荷大社だったかな? 一駅先だから多少時間掛かるけど、まぁ使駆様と合流するならそれでトントンってところだろうね」

 

 

 車に乗り込み、話を再開することとなりまして。

 

「さっきの妖怪の一部が暴徒化したって話の続きだけどさ。好き勝手暴れてるさっきみたいなやつの他に、過激派ってやつもいるのね。……とまぁ、つまりは八坂の娘、九重のことなんだがな」

 

「そちらは無事だったんですか?」

 

「拐ってった奴らにロリコンはいなかったみたいでね」

 

 人妻好きが拉致した訳でもないと思いますけど。

 

 

 閑話休題。

 

 

 数十分程度揺られ、伏見稲荷大社近くの駐車場に止められた直後、海胆岬さんは「二人とも、降りないことを勧めるよ」と言いながら、運転席から飛び出るように降りた。

 

 何か馴染みのない気配を感知して窓ごしに外を見ると、複数人の人外に、車ごと囲われている。

 

「……ほろりよ、そこの二人は、京のものでは無いな?」

 

 囲っている集団のうち、頭ひとつ抜けて背の低く、そして偉そうな金髪狐耳の少女が、海胆岬さんに問いかける。

 

「アッハァ。残念ながら八坂とは無関係だよ。黄彩くんと白音ちゃんは新幹線から降りた時にはもう私と一緒にいたんだからね」

 

 海胆岬さんがただ事実を語ると、少女はより一層機嫌悪気に眉間に皺を寄せる。

 

「……だが、拐っていったやつの仲間の可能性もあるだろう」

 

 巻解さんが敵を前にしたときに浮かべる不敵な笑みに似た、威圧的な笑みに怯みながらも言った。

 

「アッハッハッハッハッハ! ……二人の潔白はあたしが保証する。ここは引け、九重」

 

 九重って、確か、拐われたっていう八坂さんの子供でしたよね。過激派の、過激な行動派。

 

「八坂を拉致った馬鹿は禍の団(カオス・ブリゲード)の英雄派だから、悪魔とか邪悪とかとは縁の少ない奴らだよ」

 

「……情報には感謝する」

 

「八坂がいなくて困るのは私も同じだからね」

 

 過激ではあっても暴徒ではないようで、囲っていた人たちの殆どはこの場を去っていった。

 

「ま、観光やデートくらいなら問題ないかな。あたしは使駆様と合流してから適当にしてるから、二人で楽しんできな」

 

 私と黄彩は、千本の鳥居が連なる階段手前に放り出され、海胆岬さんの車は去って行ってしまいました。

 

「……黄彩。これ、登れますか?」

 

「小猫、おんぶ」

 

「はいはい」

 

 ……まぁ、大した負担にもならないですしね。

 

 

 

「ねぇ小猫」

 

「なんですか」

 

「画があんまり変わらないから面白くない」

 

「……私に言われても困ります」

 

 確かに、最初こそ物珍しいし面白いですが、多少曲がったりする程度で鳥居以外何もありませんしね。

 

 

 

 

 

「……それ、どうするんですか?」

 

 途中の休憩所で、意外とお高い狐のお面を黄彩は買っていた。

 

「似合う?」

 

「誰が付けても同じだと……、なんで似合うんですか」

 

 お面なんて誰が付けてもあまり変わらないと思っていましたが、黄彩は顔をちゃんと隠すようにお面を着けながらも、しっかりと無駄なく、完璧にお面を着こなしていました。

 

「ウフフ、ボクだからね。……待って、これ暑い」

 

「そりゃ九月ですし。残暑なんて夏みたいなものですから」

 

 結局すぐに外して、祭りの時期によく見るような、額に付けて私の背におぶさりました。

 

 

 

 

 

 千本鳥居のほとんどを歩かずに頂上まできた黄彩は、ガッカリした表情でため息を吐いた。

 

「……頂上は普通なんだね」

 

「京都まで来て何しに来たんですか」

 

「んー、取材?」

 

 現状、京都に来て見たものって殺人鬼と妖怪と鳥居と神社……、思い返してみたら色々見てはいますね。

 

「見るだけなら画像検索で十分だからね。実際に来て歩くのが大事なの」

 

「歩いてないじゃないですか」

 

 





 設定解説
『殺人鬼の世界』

 あらゆる神話勢力や表世界には国家権力が匙を投げるほどの殺人鬼がいて、表の闇で殺す海胆岬ほろりや、悪魔の闇で殺す巻解使駆など、数は結構多い。

 括りそのものが共闘や敵対によって自然発生したもので、端に行くと殺人鬼かも怪しい殺人犯だったりして、フリード・セルゼンなんかがその一例。

 頂点に君臨しているのが六人の、専門殺人鬼。

『轢殺専門の殺人鬼』
『刺殺専門の殺人鬼』
『生殺専門の殺人鬼』
『自殺専門の殺人鬼』
『焚殺専門の殺人鬼』
『暗殺専門の殺人鬼』

  一つの殺し方を極めすぎた殺人鬼たちで、唯一、殺人鬼同士、縦の関係を持つもの達。
 徒党を組まず、組織を作らず、それぞれ主従や隷属、家族、舎弟など、狭い関係性が六つできている。

 組織図とは別に、専門殺人鬼を中心としたネットワークがあり、あらゆる勢力の情報が殺人鬼達を経由して飛び交っていて、当人達はツイッター扱いだが、情報量や精度はアカシックレコードにも匹敵するという噂。

 逆に、表社会は言わずもがな、神話勢力でも殺人鬼の世界のことを認識できているのは勢力の末端のごく一部で、魔王や総督、主神ともなると、配下から噂が伝わる過程で殺人鬼の情報はすり減ってしまう。

 
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