悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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「使駆様! 結婚してください!」

 

「うっせぇブッ殺すぞ」

 

 伏見稲荷大社を一通り見て回って、いざ下山しようと思った矢先に、とんでもない光景を見てしまった。

 先輩達と共に千本鳥居を登ってきた巻解さんが、最後の鳥居を潜った途端に、待ち受けていた海胆岬さんに告白し、一考の余地も無く玉砕。直後、海胆岬さんは飛びかかるように巻解さんに襲い掛かった。

 

「アッハッハッハッハハハハハハハハ! ! ――スジ切り」

 

 どこからか取り出した牛刀の刃先で、首を四度、突き刺すように切り込みを入れにいく。……が、瞬時に継続型禁手のスイッチを入れたため、巻解さんの身体に傷はつかなかった。

 って、一般人もいるんですよ!? 巻解さんと一緒に来ていた兵藤先輩や紫藤先輩、ゼノヴィア先輩は流石に驚きながら警戒するだけで、神器や聖剣を出しておらず、アーシア先輩もアワアワしているだけ。

 

「……毎度毎度のことだが、何がしてぇんだよテメェは」

 

「あたしと同じ骨壺に入ってもらおうと思って」

 

「どんだけ終末的なヤンデレだ!」

 

「葬式の後から始まる恋もあると思うんです!」

 

「始める前に終わってるだろうが!」

 

「あたしと合い挽き肉になりましょう!」

 

「エグすぎるわ!!」

 

 巻解さんの速い手刀と、海胆岬さんの早い牛刀が唾ぜり会う。

 

「けっ、警察! はやく通報しろ!」

 

「わ、わかってる!」

 

「アッハハハァ! それはちょっと勘弁願いたいな!」

 

 器用に画面裏の指を避けて、スマートフォンの画面を牛刀が貫き、通報を阻止した。

 

「警察に通報しても無駄だよ。ここはあたしの縄張りだからね」

 

「「「うわぁー!?!?」」」

 

「アッハッハッハッハ!!」

 

 千本鳥居を駆け抜け逃げ惑う先輩達へと指差すように刃先を向けながら、海胆岬さんは嘲笑い見送る。

 

「……あいっ変わらず、悪趣味な奴だな」

 

「殺される気がないのなら、せめて殺してほしいんですけどねぇ」

 

 一般人の姿が辺りから消えると、兵藤先輩達も武装して海胆岬さんを中心に囲う。

 

「アッハァ……。赤龍帝は味噌煮、元聖女は刺身、聖剣使いの天使と悪魔は、……串焼きかな。悪魔はタレ、天使は塩で」

 

「ギャハハハッ! さがってろよ、お前ら。ただの喧嘩だ」

 

「いやでも、私たち標的にされてない!?」

 

「アッハッハ! 冗談だよ、冗談。黄彩くんと白音ちゃんの友達なんでしょ? 流石に食べたりしないって」

 

 ……料理が結構具体的でしたけど。

 

「こういう奴だが、京都の殺人鬼の頂点だ。別に覚えなくていいぞ」

 

「イヤン! 使駆様のいけずぅ!」

 

「ついでに食人鬼で男の趣味も悪い。つーか普通に悪趣味だ」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 海胆岬さんのプロポーズ、巻解さんが言うところの喧嘩は、従業員の人が来る前に休戦され、伏見稲荷大社を出ました。

 

「出発前に一応報告なんだが、可思議の奴が行方不明っつーか、音信不通になった」

 

「うにゃ、いつものことでしょ?」

 

 助手席に座った巻解さんが、『象に踏まれても壊れない』とか『百人乗っても大丈夫』みたいな修飾語の似合いそうなスマートフォンで、可思議さんに電話をかけていますが、いつまで経っても電話に出る様子は見えない。

 

「……というか、なんでいるんですか。巻解さん」

 

「ダブルデートだよ〜、白音ちゃん。お願いしたら来てくれたー」

 

「超が六つ並ぶくらい苦渋の決断だがな。邪魔はしねぇから目障りな殺人鬼を見逃してくれ」

 

「うにゃん、別にいいけどねぇ」

 

 ……別にいいですけど。

 

「お昼はあたしの店でご馳走するよぉ。黄彩くんは湯葉が食べたいんだっけ? 白音ちゃんは何食べたい?」

 

「……何のお店なんですか?」

 

「あたしの店だよ。作りたいものはなんでも作る。食べたいものは何でも食べられる。……ちょーっと、お金掛かるけどね」

 

「……それって、人間とかもですか?」

 

 殺人鬼に加えて、食人鬼らしい海胆岬さんなら、それもありえると思えた。

 

「んー? まぁ、食べたいなら出すけど、え、何、白音ちゃん食べたい?」

 

「……いえ、全く」

 

「こいつは人肉を調達するために殺した変わり者だぞ。殺人鬼以上に、天職が料理人なんだ」

 

「そんなに褒められると美味しいなぁ」

 

 恋心は本気らしい海胆岬さんは、巻解さんの言葉に口元をにやけさせながら照れている。

 隣の巻解さんは居心地悪そうにしながら、流れる窓の外を眺めている。

 

「褒めてねぇっつーの。……で、今はどこに向かってんだ?」

 

「うにゃ、清水寺だよ。ほら、飛び降りるやつ」

 

「黄彩、自殺の名所みたいに言わないで」

 

「え、でもあたしやったことあるよ? 紐なし清水」

 

「俺もやったな。願いは叶わなかったけど」

 

 紐なし清水って……。

 

「……もしかして、みんなやるんですか」

 

「ギャハハッ! 肝試しみてぇなもんだろうよ」

 

「試してるのは心臓でも心でもなくて、身体の耐久性だけどねぇ」

 

 

 話しているうちに、清水寺へと繋がる、いかにも京都らしい、和風の街並み、一年坂へと到着した。ここから二年坂、三年坂と徒歩で登っていき、清水寺へと到着するそうです。

 

「京都でお土産を買うならこの坂道がおすすめだよ。あと、途中にあたしの店があるからそこで昼食にしようか」

 

 いかにも観光地らしい風景が広がっていて、あちこちに着物姿の観光客がいる。

 

「……黄彩。あんまり買いすぎないでね」

 

「うにゃ?」

 

 私はいつかの、黄彩から送られてきた沖縄と北海道の土産の山を思い出して釘を打つ。

 

「お、生八ツ橋食おうぜ〜」

 

「ボクチョコー」

 

「んー、まぁ、生菓子だから賞味期限短いし、土産よりは道中のオヤツだろうね。あたしは抹茶かな。白音ちゃんは何にする? 奢るよ?」

 

「……ニッキで」

 

「お、渋いねー。ニッキって何か、よく知らないけど」

 

 ……そういえば、八ツ橋って、何なんでしょう。焼き菓子が主流で、生八ツ橋が最近のもの、くらいの前知識は調べていましたが、どういうものなのかってよく知らないです。

 

「……八ツ橋って、なんなんですか?」

 

「煎餅の一種だよ? 起源とかは大人がガチで揉めたから考えても無駄」

 

「あ、はい……」

 

 海胆岬さんは答えながら、私の分の八橋を手渡していくる。

 一口かじると、シナモンの甘みと香りが目一杯に広がる。……優しい味ですね。

 

「八ツ橋シュークリーム超うめぇ!」

 

「小猫、ソフトクリームも美味しいよ。食べる?」

 

 黄彩と巻解さんは既に八ツ橋を食べ終えていて、他のお店のスイーツを食べ始めていた。

 

「お昼が食べられなくなりますよ」

 

「ん。だから、小猫も食べて?」

 

 まだシナモンの香りの残る口で、黄彩の差し出す抹茶味のソフトクリームを食べる。香り高い抹茶が口に広がり、……分かってましたが、口の中がカオスになってきました。

 

「おいし?」

 

「……まぁ、はい」

 

「味は保証するけど、お腹は空かしておきなよ。……残したら殺すから」

 

「うにゃ、殺し返すから平気」

 

 ……そういうことじゃないと思います。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 一年坂、二年坂と進み、三年坂に入ってすぐのところで、私たちは狭く暗い路地を通った先にある、小さなカフェへと案内された。

 

「どうぞ、いらっしゃい。この辺のお店は何処も彼処も、こういう時には『いらっしゃい』じゃなくて、『おいでやす』って言うんだけど、まぁいいよね。――注文を聞こうか?」

 

 このカフェに、メニューの類は全く無い。壁に人気メニューとか、期間限定メニューとかが貼られていた形跡もない。

 

「俺はステーキとライス。味付けは任せる」

 

「ボク炒飯。量は少なめでお願い」

 

「湯葉はいいの?」

 

「今は炒飯の気分なの」

 

 前から顔見知りの巻解さんや、怪物級の目で裏も見える黄彩は適切に適当な注文をしている。

 

「白音ちゃんは? 猫又なら、やっぱり魚? 無難に焼き魚定食とか美味しいよ?」

 

「じゃあ、それで」

 

 注文すると、海胆岬さんは厨房へと消えていった。

 改めて店の内装を見てみると、やっぱりカフェで、京都らしさはあまり無い。洋風というか、……どこか、冥界、グレモリーの城にも似た雰囲気を感じる。

 黄彩は疲れたのか、私の膝を枕に横になって眠りだす。

 

「巻解さんと海胆岬さんって、いつからの知り合い何ですか?」

 

 料理が来るまでの暇つぶしに、何となく聞いてみた。

 巻解さんは首を傾げ、悩む見ながらに答える。

 

「あー? いつからって言うほど長い付き合いでもねぇぞ。んー、精々、一、二年程度か。アイツが悪魔の収穫のために冥界まで来た時に、たまたま出会して殺し合って、なんだかんだであんな感じだ」

 

「色々ツッコミ入れたいんですけど……」

 

「おう、どんどんこい」

 

 では。

 

「一年か二年で何したらあんな婚活殺人鬼になるんですか」

 

「ツッコミにツッコミどころをつくんなよ。何だ、婚活殺人鬼って。……んでもって、何でああなったかはよく分からん。殺し合ったらああなった」

 

「……まぁいいでしょう。悪魔の収穫って何ですか」

 

「食用の悪魔に決まってんだろ。最近は俺が財布、あいつが肉で山分けするようにしてる」

 

「嫌な山分けですね」

 

「殺人鬼の取引なんざ大概そんなもんだ。次は何だ」

 

「殺人鬼って目と目があったら殺し合うんですか?」

 

「人をポケモントレーナーみてぇに言うんじゃねぇよ。別に、殺人鬼なら殺し合いなんて深呼吸みたいなもんなんだよ」

 

 巻解さんはうんざりしたような表情で、深呼吸のように深いため息を吐いた。

 

「……巻解さん」

 

「あんだよ?」

 

 料理が来る気配はまだない。

 

「どうして海胆岬さんと結婚、はともかく、付き合ったりもしないんですか?」

 

「んー? ……そういや、考えたことないな」

 

「今日会ったばかりですけど、それでもわかるくらいにはいい人じゃないですか」

 

「殺人鬼だけどな」

 

「巻解さんだってそうじゃないですか」

 

 言いながら、小さくギャハハと笑う。

 

「……なぁ白音。結構前から聞きたかったんだが、恋ってどんなもん何だ?」

 

「拗らせた中学生みたいなこと言いますね。どういう意味ですか?」

 

「いや、だから、恋って人間誰しもするもん何だろ? 言っちまえば、繁殖の前段階、求愛の成功例が恋仲(カップル)なんだから」

 

「……はぁ」

 

「そいつとの間に子供が欲しいと思えば恋か? そいつの身体見て欲情すれば恋か? そいつが自分よりも大切になれば恋か? 家族になりたいと思えば恋か?」

 

 ……よりにもよって、黄彩と付き合ってる私に聞くんですか?

 

「……人を好きになるのにも、人を嫌いになるのにも、理由は要らないそうですよ。人は何となく好きになり、何となく嫌いになる。ノンフィクション恋愛小説は超絶理不尽無理解ラブコメ……って、巻解さんと似たようなことを聞いた可思議さんに黄彩が語ってました」

 

「ギャハッ、意味わかんねぇ」

 

「私にもよくわかりません。偶に、黄彩は違う世界の人間なんじゃないかと思うぐらいです」

 

「……だがまぁ、知りてぇことは大体分かった」

 

「何を知りたかったんですか」

 

「んー、……まぁ、隠すことでもねぇか。……俺が()()に抱いてる感情」

 

「……姉様、ですか?」

 

 いや、ありえるとは思ってましたし、いざ名前を声で聞いたら、海胆岬さんが巻解さんを殺しにかかり、巻解さんが黒歌姉様に殺しにかかったことも、直感ですが納得しました。

 

「しかしこいつぁ、一目惚れっつーのかねぇ。ギャハハ、超ウケる」

 

「…………お似合いだと思いますよ」

 

「心にもねぇことを言うなよ。……あんま言いたくねぇけど、黒歌よかほろりの方が相性いいだろうよ」

 

「……言わなかったことをどうして自分から言うんですか」

 

「自分のことなんて自分が一番知ってるに決まってんだろ」

 

 巻解さんが気味良くギャハハと笑って、黄彩が起きた時に、トレーを抱えた海胆岬さんが楽しげにやって来ました。

 

「お待ちどーさまぁ。何々、コイバナ? あたしも混ぜてよ」

 

 黄彩の炒飯、巻解さんのステーキとライス、私の焼きサンマ定食。そして、海胆岬さんの分であろう、ハンバーガー。

 

「なぁ、ほろり」

 

「ん? 名前呼びなんて珍しいね。なぁに?」

 

「お前、俺の何処に惚れたんだ?」

 

 海胆岬さんは、私たちにお茶を入れながら平然と答える。

 

「あたしは使駆様に惚れた理由? そんなの、使駆様がカッコイイからに決まってるじゃん。女子が男に惚れる理由なんてそんなもんでしょ」

 

 ……秋のサンマって、美味しいですね。





 キャラ紹介

 海胆岬(うにみさき) ほろり
 年齢不詳、女性。
 料理人。

 神器無し。

 金髪ポニーテール、着物を好み、エプロンと三角巾をよく着けている。

 京都生まれ京都育ち、両親が経営している料亭の一人娘で、舌の肥えすぎた料理人。
 中学卒業とともに一人店を始め、和食だけでなく、洋食や中華を極めた頃。常識外の食事に興味を持ち始め、昆虫食や宇宙食、完全栄養食なんかに手を出していた頃に、ごく自然に人肉食にも手を出したのが殺人鬼の始まり。

『殺したものは何でも食べる』というスタンスで、自転車の付喪神のような、身体が無機物でもない限り、殺した物は基本食べる。
 ある時悪魔や冥界へと行く機会があり、そこらへんの悪魔を食材として殺していた時に、同じ悪魔をターゲットにしていた巻解使駆と遭遇、殺し合う。

 何度か殺し合ううちに使駆に惚れ、出会うたびに求婚しては玉砕している。


 凶器は主に包丁で、色々な種類のものが着物のあちこちに仕込んでいる。転んだりしたら大惨事なのは言わずもがな。
 
 殺人鬼としての格は、殺人鬼の世界で中の上程度。轢殺専門の殺人鬼の真下の関係で、京都の殺人鬼の頂点。

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