悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 海胆岬さんのお店で昼食を食べ、清水寺を普通に観光した後には、徒歩でホテルまで、色々と寄り道をしながら帰って来た。巻解さんは修学旅行で泊まるホテルまでさらに歩き、海胆岬さんは一年坂近くに停めた車で帰宅するそうです。

 

 夕食を終えて、黄彩を連れて混浴を堪能した後、私たちはアザゼル先生に電話で呼び出され、『大楽』という料亭に来ていた。

 そこにはグレモリー眷属とシトリー眷属の二年生の先輩たちに、巻解さんと紫藤先輩。それにアザゼル先生と、着物姿のセラフォルー様がいらっしゃいました。

 

 アザゼル先生から語られる内容は、大凡、海胆岬さんから聞いたことと同じ、八坂という九尾の狐がさらわれた、犯人はおそらく禍の団だということ。

 

 それと。

 

「それと、関連性があるのかは分からないが、京都各地で変死体が複数発見された。報告を聞いたところ、どいつもこいつも、全身に細い杭のようなものを刺しては抜かれ、血を抜かれて死んでいたらしい」

 

「監視カメラの映像には画角的に映せていなかったんだけど、音声は残っていたの。その犯人は『刺殺専門の殺人鬼』って、名乗っていたわ」

 

 語ったアザゼル先生とセラフォルー様の目は、似たような異名を持つ『轢殺専門の殺人鬼』、巻解さんへと向けられる。

 

「ん? まぁ、テメェらの予想は大体合ってるぜ。それなりに顔見知りで面識はある」

 

 巻解さんはセラフォルー様が勧めた鳥料理と、日本酒を注文した。

 

「いやお前、未成年……」

 

 真っ先に率先して勧めそうなアザゼル先生が引いていますが、巻解さんは構わず飲み始める。

 

「ギャハハッ。んで、何が聞きてぇんだ?」

 

「件の殺人鬼について、知ってることを教えてくれ」

 

 アザゼル先生が尋ねると、巻解さんは愉快そうに笑いながら語る。

 

「刺殺専門、……本名は知らねぇが、あいつは卑弥呼って名乗ってたな」

 

「……邪馬台国の女王、か。禍の団の英雄派はどいつもこいつも英雄の名を名乗ってるって聞くが、……そういうことなのか?」

 

「そこまでは知らねぇよ。卑弥呼本人なんだか、卑弥呼の末裔なのかは知らねぇ。だが、卑弥呼の名に見合うだけの女ではある。……なんてったってあいつは、殺人鬼でありながら天照大神の写鏡(うつしかがみ)なんだぜ」

 

 写鏡?

 また何か、知らない単語が出て来ましたね。

 

「つまり、その天照ちゃんのそっくりさんってこと?」

 

「ギャハッ。んな愉快なもんじゃねぇよ。鏡に写ってるなら、どっちも本人みてぇなもんだろ?」

 

「……ようはなんだ、主神クラスが好き勝手に殺しまくってるのか?」

 

「神のやることなんて大概好き勝手だろうよ」

 

 

 巻解さんの言葉に、アザゼル先生とセラフォルー様は同時にため息をついた。……多分、オーディン様を思い出してるんでしょうね。

 

「ふわぁ……、うに、眠い……」

 

 私の膝の上に座り、疲れ切った様子だった黄彩があくびをしながら、私の肩に頭を預けて目を細めだす。

 

「……私たちはホテルに戻りますね」

 

「んぅ、抱っこぉ」

 

「ま、こっちも話すことは話せた。行っていいぞ」

 

「またね〜」

 

 みんなはまだまだ食べたり飲んだりするらしく、私たちだけ見送られて、ホテルへと帰りました。

 

 

 

 

 翌朝。

 今日は海胆岬さんは仕事があるそうなので、完全に二人での観光になります。

 それと、先日行方不明になっていた可思議さんから朝早くに連絡が来て、なんでも、水風呂に浸かりながら小説を書いていたら風邪をひいたそうです。……京都まで来て何してるんですか、あの人。

 

 海胆岬さんや黄彩の料理と比べたら、まぁまぁな朝食を終え、私たちはタクシーで金閣寺へとやって来ました。バスもあったのですが、黄彩が人混みを嫌いました。

 

「ウフフ。小猫ちゃん知ってる? 金閣寺って金箔剥ぐと漆黒に染まってるらしいぜ」

 

「え、そうなんですか?」

 

 美少女となった黄彩は、そんな残酷な雑学を披露し始める。

 

「金箔は剥げるものだからねぇ。どっかの誰かが皮肉を込めて、漆黒の金閣寺を『黒閣寺』と名付けた。ウフフフ、銀閣寺とどっちが地味かの方が、ボクとしては気になるけどねぇ」

 

「……あれ、金閣寺が剥げると黒になるなら、なんで銀閣寺は普通なんですか?」

 

「塗料を塗っていないからだね。いや、表面処理くらいはしてるかもしれないけど」

 

 へぇ。

 でもまぁ、黒よりも銀色よりも、金色の方が綺麗でしょうね。波の静かな湖に映すには、黒よりも銀よりも金が映えます。

 

「……まぁ、どんなのでも見慣れてしまえば芸術では無くなるね。綺麗で美しいけど、可愛げがない」

 

「神社仏閣に求めるものじゃないと思いますけど」

 

「ウフフ。そうは言ってもだね。森羅万象が日本人の手によって美少女化する世の中だよ? ……金閣寺と銀閣寺を擬人化するなら、銀閣寺は貧乳、金閣寺は巨乳だと思うんだ」

 

「やっすい設定してますね」

 

「豪勢過ぎると大事なものが欠けるんだろうね」

 

 スマホで写真を撮ったりなんかしていると、黄彩が土産屋で何か棒状のものを……、木刀を買って来ました。

 

「……どうするんですか、それ」

 

「え、なんか木刀って憧れない? 木の棒とかめちゃくちゃ振り回したいじゃん」

 

「男子小学生じゃないですか。……そうでしたね」

 

「それはボクじゃなくてボクのほうだね、身体だけなら。……うん?」

 

 人のいない所で黄彩が木刀を振り回しているのを見守っていると、黄彩は何かに気が付く。

 それはぬるりの生温い感触。足元が切りに包まれているのに気がついた頃には、周囲から人気が消えていた。観光客も、そして黄彩もいなくなってしまった。

 

「……黄彩?」

 

 名前を呼んでも、帰ってくる声は無い。

 

「黄彩!」

 

「どんだけ呼んでも、ここからじゃ届かないにゃ」

 

 代わりに目の前に現れたのは、夏休みぶりの黒歌姉様だった。

 

「……姉様」

 

「久しぶりね、白音」

 

 今聞くまでもなく、目的は知っているし聞いている――仲直り――それに関しては、特に文句はありません。ただ一つ問題なのは、姉様は私を禍の団に入れたがっていること。

 

「……何をしに来たんですか」

 

「勧誘。でもその前に、その……、おしゃべり、しない?」

 

 戦闘の意思は、姉様からは全く見えない。都合よく、無人のお茶屋さんのベンチがあったから、並んで座った。

 

「……」

 

「……」

 

 久方ぶりどころじゃない、素直に嗅ぐ姉様の匂いと体温。警戒心と安心感が同時に湧き出して、気が休まらない。

 

「……その、元気だった?」

 

「……まぁ、部長の眷属になってからは、不自由はしていません。黄彩と会ってからは、結構幸せです」

 

「……そう」

 

 気まずい……。

 

「姉様は、どうでしたか」

 

「まぁ、……アレからもいろいろあったけど、今はそこまで不自由してないにゃ。でもきっと、……私は白音がいないと、ちゃんと幸せにはなれないにゃ」

 

「……それは、ちょっと嬉しいけど、でも複雑です」

 

 今はもう、姉様に対して怒りや恨み、恐れなんて、あまりない。それなのに敵同士で、でも仲直りはしたくて、……なんというか、やっぱり複雑です。

 

「やっぱり、一緒には来てくれないにゃ?」

 

「行けません。姉様とは一緒にいたいですけど、部長と、黄彩とも一緒にいたいですから」

 

「……にゃはは。それは残念にゃ」

 

「……今の私には、姉様よりも大切にしたい人がいます」

 

「……」

 

 姉様は何も言わずにベンチを立った。

 

「……邪魔、しないで欲しいんだけどにゃぁ」

 

 姉様が警戒を見せた。私に対してではなく、顔も名前も知らない、学生服の集団に。

 

「ヴァーリチームは今回の件に関わってこないはずです」

 

「……私はルフェイの付き添い、まぁついでにゃ。別に、こっちから邪魔するつもりは無いんだけどにゃぁ」

 

「……英雄派ですか」

 

 私も耳と尻尾を出し、仙術で身体能力を強化する。

 

「人間国宝の芸術家、言わば現代の英雄ともいえるあの方は確保しま――」

 

 私や姉様ならともかく、黄彩に手を出したのなら、仕方ありません。殺しましょう。

 槍を構えられる前に心臓めがけて拳を叩きつけ、仙術で体内の気を、生命活動が維持できないほど雑に乱す。

 

「グッ、ガァッ……」

 

 吐血すらさせない、私なりの一撃必殺。

 

「……白音。本当に仙術初心者?」

 

「黄彩流の人体改造法を仙術で再現してみたんです。……やってることは気を圧縮して捻じ込んでるだけですけどね」

 

 圧縮されたエネルギーが体内に放置され、急膨張。元来あるはずの体内のあらゆるエネルギーが外へと押し出され、生命活動が終了する。

 

「……なんか、そういう拷問器具あった気がするにゃ」

 

 一人死んだことにも構わず襲ってくる英雄派の人達に、私も応戦する。人質扱いだってさせません。

 聖剣に魔剣、他にも、名前もわからないような民族っぽい武器が、私目掛けて振るわれる。けれど、今の私に死角はありません。これも黄彩に習ったことですけど、聴覚の視覚化していますから、実体さえあれば躱して殴るくらいは容易です。

 

「う、腕が動かねえ!?」

「足が!?」

「おい! こいつ死んでるぞ!」

 

 ……けれども。一人だけ、別格がいますね。黄彩や巻解さん、可思議さんを相手する時と似た、別次元の生命体のような異質な気配。

 

「フンッ、妾はあの愚かな英雄オタク共とは違う」

 

 英雄の名に似合う、覇気とでもいうような、押しつぶされそうなほどに巨大な気配を放つ、副部長の物に似た巫女服を纏い、首に円鏡を紐で下げていて、こけしのような、定規で切り揃えたような髪型の女性。

 爪楊枝のように細く長い、木の棒を削ったような槍からは、拭った後の血の臭いがする。

 

 もしかして……。

 

「刺殺専門の殺人鬼、天照の写鏡、卑弥呼。うぬらに恨み辛みは一切無いが、妾の贄となれ」

 

 うぬらって、……もしかして、姉様も?

 

「……姉様の味方ってわけじゃ無いんですね」

 

「敵味方どころか、めちゃくちゃ初対面にゃ」

 

 ここ最近京都で活動しているらしい殺人鬼は、医者が患者に注射器を向けるような自然さで、私たちに槍先を向ける。

 

「かかっ。供物は穢れなき女子が相場と決まっておろう? 白猫娘も器量は悪く無いが、黒猫娘の方がむしろ本命かのぅ!!」

 

 禍の団では無いのか、派閥の違いの差が大きいのか、殺人鬼は私ではなく姉様の方に襲い掛かった。

 

「穢れってなんのことにゃアアア!?」

 

 巨大な爪楊枝を姉様は素手で弾いていますが、それほどに先端が鋭いのか、指から腕から出血している。

 

「古今東西、処女の血というのは何かと神聖なものとして扱われる。……もしや知らんのか?」

 

「……え、姉様、処女だったんですか?」

 

「……え、白音、処女じゃ無いの?」

 

 その豊かな体を存分に使いこなしてると思ってました。

 

「冥土の土産は十分であろう? さぁ、一滴残らず血を貰おうか」

 

「どいっつもこいつもっ! なんで殺人鬼は頭のおかしいやつばっかりにゃ!?」

 

「……そりゃ、殺人鬼ですからね」

 

「かかっ!」「かかかっ!」「かかかかかっ!!」

 

 殺人鬼はバトンのように巨大な爪楊枝を回し、喉を鳴らすように笑い、優雅に神楽を舞う。

 

「かかかかかかかっ!」「かかかかかかかっ!!」

 

 ルーティーンか何かなのか、さっきまでとは格別に速い突きが八つ、どう見ても同時に襲いかかってくる!

 

「いいいっ!?!?」

 

 肉を切らせて、ではありませんが、軽傷覚悟で槍を弾いたつもりでした。

 

「いったぁっ!?」

 

 姉様も手足に魔力と仙術で外膜を作り弾こうとして、私に三つ、姉様には五つ、胸や胴に小さな穴が空く。

 槍を抜かれた穴から、壊れた蛇口のように血が流れ出てくる。

 

「かかかっ! なぁに、すぐには死なさんよ」

 

 ……槍が鋭いからか痛みはあまりありませんが、出血が酷いですね。仙術で応急処置くらいは出来ますが、長くは持ちそうにありませんね……。

 





 設定紹介
『ボクとボク』

 美少年の黄彩と、美少女の黄彩。

 美少年がベースで、美少女、美幼女(ハニードール)美青年(シトリング・ラフィ)は後から美少年の黄彩が作った肉体データ。その三つの中でも美少女だけは特別性で、製造工程が根本的に違う。

 美少年から見て、美少女は感覚的には多重人格や兄弟姉妹のような感覚で、美幼女、美青年はもう一人の自分という認識。

 夏休み中の修行を経て、大気や地中などから材料を集めることでもう一つの肉体を作り、美青年と美少女とで分裂できるようになった。美青年、美幼女は根本的な違いから、根本的な問題で同時に存在はできない。


 美少女は美少年とは違い、肉体は人類最高峰レベルに優れているが、創作センスは遥かに劣る。
 戦闘ではもっぱら、作品よりも加工法そのもので戦う。切断や圧縮を、あらゆる工程を省略して相手に叩き込む。


 黄彩が美少女を作った原因は、身代わり。
 最初から芸術センスは求められておらず、肉体美をこそ求められて生まれた。
 美少年とは違い、肉体は成長を続けており、最初は美少年と同じ小学生程度の肉体だった。

 それぞれの黄彩の記憶はある程度共有していて、どの程度共有するかは本人達のさじ加減次第。
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