悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 刺殺専門の殺人鬼は、日本神話の主神、天照大神の写鏡であり、生きる為に殺す殺人鬼だと聞きました。

 巻解さんは生きるためのお金と八つ当たりのために、海胆岬さんは料理に使う食材のために、殺してきた。私情と事情で殺してきた。そしてそれは、刺殺専門、卑弥呼だってさほど変わりはない。

 

「姉様、生きてますか」

 

「白音が百合百合にキスしてくれたら、幾らでも生き続けられるにゃ」

 

「死んでください」

 

「かかっ! 女子同士であれば近親相姦も問題は無いと思うぞ?」

 

 なんで敵のあなたまで私と姉様の百合展開を推すんですか……。

 

「テメェら揃って面ぁいいんだから、しゃあねぇんじゃねぇのか?」

 

 会話を交えつつも突いてくる槍を、どこからか駆けつけてきた巻解さんが球体関節の指で掴み止めた。

 

「……巻解さん?」

 

「ギャハハハハッ! ……おい」

 

「かかかっ! なんだ、轢殺の?」

 

 二人の殺人鬼が、口元だけを笑いわせあいながら睨み合う。

 

「テメェ、人の妹分虐めてくれてんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」

 

「かかっ。なんだ、そんなことか。……うぬと白猫娘になんの関係がある?」

 

「ギャハッ! 関係なんていらねぇよ。気に入ったもん傷つけられても怒れねぇ時点で、生きる意味も殺す意味もねぇ」

 

 私たちそっちのけで、殺人鬼が殺し合う。木の棒と拳の衝突とは思えない、金属同士がぶつかり合うような甲高い音がそこら中に響く。

 

「……ねぇ、白音。前にあったときに聞いた『ネビロスのモルモット』って、彼のことよね」

 

「はい。轢殺専門の殺人鬼で、そして黄彩の女王の一人です」

 

「……へぇ。白音の彼氏の……」

 

 卑弥呼は、例の天照大神の力なのか、槍に太陽のような光を灯していて、巻解さんは球体関節の翼を広げている。

 

「かかっ!」「かかかっ!」「かかかかかっ!!」

「ギャハ!」「ギャハハ!」「ギャハハハハ!!」

 

 巻解さんはいつもの野蛮な笑い声を上げながら、太陽神を轢き殺さんと駆け回る。

 

「白音。とりあえず、私たちはここを離れるにゃ。怪我が酷すぎる」

 

「……はい。っそうだ、巻解さん! 黄彩は!?」

 

「心配はいらねぇ、よっ! ほろりと可思議に任せてきた!」

 

「なんでよりにもよって用事ある人と病人に任せたんですか!?」

 

「……白音、意外と余裕あるにゃんね?」

 

「いえ、慣れです」

 

 これは本当に怖い話で、ツッコミすぎてどんな状況でもツッコミを入れられる体になってしまったんです。

 

 

 

 

――。――。――。

 

    (閑話休題)

 

 

 私、不可思議可思議は、水風呂に浸かりながら執筆してたら風邪引いたと伝えたはずなのに、京都のあちこちを襲撃している禍の団を相手に、主人救出のために重い身体を引きずって、銀閣寺まできていた。

 

 あったま痛い……。視界がふらつく。火照った顔面が暑苦しいし、咳き込めば脳が揺れてさらに頭が痛い……。

 

「ウフフフ。悪いね、可思議ちゃん。ほろりちゃん。捕まっちゃった」

 

「……黄彩くんって、メスだったっけ」

 

 言い方……。

 

 私の主人は、神器の中でも最高峰の一つ、結界系神器、絶霧(ディメンション・ロスト)に、魔法の高速を何重にも重ね掛けされた拘束で十字架に貼り付けられている。

 

 嗚呼、もういい。名も無い敵役なんてここじゃ適役じゃ無い。

 

「合わせなさい、我が主人。――禁手(バランス・ブレイク)――書物の国のルイス(ブレイク・クラッシュ・デストロイ)

 

「ウフフフフフ。――禁手(バランス・ブレイク)――奇跡の黄石(シトリング・ラフィ)

 

 ――物理法則に触れない魂も魔法も刻んで創造する、――芸術家の求める真理の彫刻刀が、――拘束具も十字架も、――芸術的に切り捌く。

 主人は危なげに着地して、不意を討ち拘束した魔法使い達に微笑む。

 

「アッハッハッハッハ。出る幕無いなぁ、あたし。だからこれくらいはさせて欲しいね」

 

 道中で出会いともに来た料理人の殺人鬼は、刺身用の細く長い包丁で魔法使いを捌き、持ち込んだ皿に盛り付けた。

 

「さて、可思議ちゃん。黄彩くん、……黄彩ちゃん? まぁどっちでもいいや。白音ちゃんのところに連れて行ってあげて?」

 

 ……いや、もう結構限界なのだけど。その辺に座ったりしたらもう立てなくなるくらいには。

 

「ほら、あたしは痛む前に食べないと。お腹壊したく無いしね」

 

 ……もう既に人間として壊れてる気がするけど。

 でもまぁ、人を刺身にして食べるシーンなんて描写したくないのも事実。

 

「行こっか、可思議ちゃん。風邪も治そっか?」

 

「お願いするわ」

 

 主人の肉体改造術で風邪の原因の尽くを駆逐され、深く呼吸してみれば、頭や喉の痛みが引いていく。

 

「ウフフ。さらに上達して、麻酔無しでも痛みなく弄れるようになったんだ。すごくね?」

 

「……医者と芸術家が兼業できるわね」

 

「ウフフ。ボクみたいなやつがそんなことして体力保つわけないって」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「かかっ! なんじゃ、うぬあの黒猫娘に惚れとるのか!」

 

「ギャハハッ。いやまぁ、顔合わせるのは今日で二回目だけどな」

 

「ほう! つまりあれか? 一目惚れというやつか!?」

 

「まぁそうなるわな」

 

「かかかっ!! なんじゃんなんじゃ、しばらく見ぬうちに、うぬだけ悪役殺人鬼卒業してラブコメ主人公か? 抜け駆けか!?」

 

「ギャハハハハッ! なんだそれ超ウケる!!」

 

「かかかかっ! でもうぬのところには料理人のやつがおったろう? まさか、今流行りのハーレムか!」

 

「人を勝手にラブコメ主人公みてぇにしてんじゃねぇよ! ギャハハハハハハ!!」

 

「かかかかかっ!!」

 

 

 ……なんだろう、アレ。

 

「何あれ何あれ何あれ何あれ!? てか何これ!?」

 

 殺し合っていたはずなのに、殺し合いながらの会話の方が盛り上がって、いつの間にか矛を納めて、コイバナのような何かを初めて、姉様が慌てふためいている。

 

「めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!? 白音ぇ!!」

 

 戦闘の雰囲気が全く消え去り、とりあえず死ぬ危険性がほぼなくなる程度に応急処置がお互いに出来てから、姉様は首が落ちそうなほどに私の肩を揺らす。

 

「……巻解さんと姉様が結婚したら、……使駆兄様?」

 

「本気にしないでよ白音ぇ! ……え、マジなの!?」

 

「かかっ! なんだ、知られたのだからいっそ告ったらどうだ? 主神が見届けるぞ?」

 

「相手が誰でもその状況は嫌すぎるにゃ! それに殺人鬼が相手なんて御免すぎるにゃ!!」

 

「くっ、かかっ! うぬ、今もうフラれたのではないか? かかかかか!!」

 

「ギャハハハハッ!」

 

 ……殺人鬼って、殺し合った直後でも仲良いんですね。この人たち。

 

「かかかっ! それじゃあ、殺人鬼の頂点から全力全開渾身の告白! カウントダウン3、2、1!」

 

「わっ、ちょ、何するにゃ!? 傷が開くからやめっ」

 

 卑弥呼さんは乱雑に、適当に、傷口がギリギリ開かない程度に姉様を捕らえ、巻解さんと強引に向き合わせる。

 

「白音ー! 助けるにゃー!!」

 

 巻解さんは野蛮な笑みを収め、神器の禁手化も解除して、黒歌姉様の目をじっと見る。

 

「黒歌」

 

「なっ、なんにゃ!?」

 

「……あー、そういや、直接は言えてなかったな。知らないうちのことだろうが、一度助けられた。ありがとう」

 

「え、えっと、どういたしまして? ……何これ超恥ずい!!」

 

 姉様は怪我での発熱を加味しても、明らかに照れで顔真っ赤にしてるけど、巻解さんも顔を真っ赤にしていた。いつもの人形みたいな身体からは感じられない感情の色が、私にも見えた。

 

「…………」

 

「……な、なに」

 

「あー……、ダメだ、やり辛え。おい卑弥呼! なんだこれ!」

 

「くっくくかかかかかっ!! いや、見てる方は滅茶苦茶面白いから安心せい。ギャップ萌えというやつかの?」

 

「……路線変更だ。まさか、昔流行った殺人鬼流を俺が言うとは思わなかったぜ」

 

「お、お前私に何する気にゃ!?」

 

 

 卑弥呼さんは暴れる黒歌姉様を抱き抑えながら爆笑していて、なんでか巻解さんも口元がにやけ始めている。

 

「ギャハッ。……黒歌」

 

「な、なんにゃ。私もいい加減覚悟を決めたにゃ」

 

 諦めたのか、本当に覚悟を決めたのか、姉様は抵抗をやめて一度深呼吸をした。

 

「俺がお前の死因になってやる。お前の死に際まで一緒にいてやる。お前を殺すのは最後にしてやる」

 

「……」

 

 え、終わりですか?

 それ告白だと思えるの多分、可思議さんくらいじゃないですか? 黒歌姉様、絶対行間を読むとか出来ない人ですよ?

 

「……え、なんにゃ。殺害予告? こんなキリストよりもガチガチに固められて言われるのがそれ?」

 

 やっぱり伝わってないじゃないですか……。

 

「かかっ! 多少はマイルドにアレンジを加えたようだが、それでも伝わっていないみたいだしの」

 

 この殺人鬼、めちゃくちゃ楽しそうですね。

 

「ほれほれ、さっさと諦めて、惚れ惚れするような告白を吐くがよかろう」

 

「よかろうじゃねぇよ、ったく。…………好きだよ。一目惚れっつーか、一目見る前から惚れてた」

 

 照れ超えて、諦め超えて、拗ねたように文字通りの告白だった。

 

「え、にゃ、その、えっと……」

 

(ほれ! 白猫娘! 後押しは任せたぞ!)

 

 ……卑弥呼さん、目でめっちゃ訴えてきてる……。

 

「……おめでとうございます、使駆兄様」

 

「んー? おお、いいなその呼び方。しっくり来る」

 

「白音の裏切り者ぉ!!」

 

 まぁ、私からしても先輩よりはいい兄貴分って感じでしたし、しっくりきますよ。

 

「かかっ! いやはや、贄を得られなかったとはいえ、なかなか良いものが見られたな。来て良かったわい」

 

「私まだ返事してないんだけど!?」

 

「姉様、諦めてください。使駆兄様なら文句はないです」

 

「殺人鬼なのに!?」

 

「……姉様も似たようなものじゃないですか。悪党同士、気が合うんじゃないですか」

 

「白音ぇ! 実は楽しんでるでしょ!?」

 

「当たり前です。どれだけ姉様に迷惑かけられたと思ってるんですか」

 

「……うん、それ言われたら何にも言えなくなるからやめて?」

 

 だから言ったんですよ。

 

「んだよ、拒否るにしてもそこまで嫌がられたら普通に傷つくぞ。ここら一体殺したくなってくる」

 

「べ、別にそういうんじゃないけど、…………分かったわ。白音が懐くほどの男と見込んで、付き合ってあげるにゃん。……だから、だったら、とっとと私を惚れさせるがいいにゃん」

 

「殺人鬼にラブコメ主人公を求めてくれるなよ。良くてもアングラ系だ」

 

 そういうのは、兵藤先輩の役回りですからね。私も黒歌姉様も、その輪から離れちゃってますけど。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 無事救出された黄彩と、助けに来てくれた可思議さん、さらに遅れてきた、妙に血生臭い海胆岬さんとで合流し、黄彩の成長した神器の力で、私も姉様も痛みなく完全治療されました。

 

「今、京都のあちこちで禍の団の英雄派が襲撃を起こしている。目的は九尾の狐、八坂を利用した実験を行い、グレートレッドを呼び出し、まぁなんかすることだ」

 

「……なんでお前が仕切ってるんだにゃ」

 

「かかっ! 轢殺専門は殺人鬼の中でも耳が広かったからのぅ。こういうのは、目の広い芸術家よりも向いているだろうよ」

 

「ウフフ、その通り。それにせっかく使駆くんに恋人が出来たんだから、いいところを譲ってやるくらいの器量は、ボクにもあるのさ」

 

 今は、霧が晴れて直後に連絡を寄越してきたアザゼル先生のもとに向かっていて、そこには兵藤先輩達もいて、英雄派のリーダー、曹操の他にも、何人も英雄の名を語る者達がいたそうです。二条城で実験を行うという犯行予告まで貰って、逃したそうですけど。

 

「ねえ、とりあえず私、帰っていい? 今アザゼルとかに見つかると面倒にゃん」

 

「かかかっ。おい黒猫娘、うぬのはぐれ悪魔云々は妾に任せてもらおう。良いものを見せてもらった礼よ」

 

「ウフフ。ボクと使駆くんの名前も使ってくれて構わないよ、火廻(ひまわり)ちゃん。黒歌ちゃんはボクたちの身内ってことにしておきたいしね」

 

 ……ひまわり? 流れ的に卑弥呼さんの名前だと思いますけど、……意外と可愛い名前ですね。

 

「かかっ! さすがは芸術家といったところか。うむ、妾の旧名は天月(あまつき)火廻(ひまわり)。何処で知ったか知らぬが、天照の写鏡となる前の名よ」

 

「ウフフ、その巫女服の裏地に書いてあるよ。物持ちが良いようだね?」

 

「黄彩、言ってることに変態が滲んでますよ」

 

「かかっ! 良い良い。その程度で怒るほど、妾は大層な身体でも年齢でもない。見たければいくらでも見るがよかろうよ」

 

「ギャハハ……、お前、しばらく見てねぇうちに女を捨てすぎじゃねえか」

 

「アッハッハ。何年越しの再会で変わったのはお互い様って感じだね!」

 

「テメェは全く変わってねぇがな」

「うぬは大して変わっておらんな」

 

 でしょうね。意外性まみれの殺人鬼の中でも、海胆岬さんの精神は魔王様クラスです。というかセラフォルー様レベルです。

 

 

 

 

 

 

 




 キャラ紹介
 卑弥呼(ひみこ)
 天照大神
 旧・天月(あまつき) 火廻(ひまわり)
 女性、年齢不詳。

 刺殺専門の殺人鬼で、武器は爪楊枝のように細い木製の槍。

 天照大神の写鏡で、日本神話の主神、天照と同等の力をもつ。

 存在が天照に引っ張られすぎて、人間としての機能を半ば失い、食事や睡眠ではなく信仰で生きている。……が、その信仰も本来の天照に集まってしまうため、本能に身を任せて贄の生き血を啜るようになったのが、殺人鬼になったきっかけ。
 日本各地の神社を勝手に寝床にしながら生活していて、実質、ホームレス。

 殺人鬼の中で最高峰の権威を持ち、頭の上がらなくなるものは殺人鬼でなくとも多い。

 処女の血を最も好み、童貞の血を最も嫌う。
 処女の血が神聖なものであり、同時に天照となる前の肉体に近しいものだから。
 海胆岬ほろりの人肉料理でも代用できるが、値段の割りにあまり足しにならない為、ほとんど利用されない。


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