悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 黒歌姉様となし崩し的に和解して、別れたり合流したりして、作戦会議のようなことをして、夕食までも終えた後のこと。

 九尾の狐を利用する実験が行われる二条城へと私たちは向かう為、今は二条城まで行くバス停に集合してるところです。

 戦力としては、グレモリー眷属とシトリー眷属の二年生、黄彩の眷属の巻解さんと可思議さん。突撃参戦した九重ちゃん。それと、海胆岬さんも使駆兄様に言いつけられて参戦することになりました。

 黒歌姉様と卑弥呼さんははぐれ認定の解除のために、冥界へと向かって行きました。

 

「徳の高い人の肉って美味しいらしいし、英雄の血を引く人の肉も美味しいんだろうねー」

 

「……小猫ちゃん、この怖いお姉さん誰っすか?」

 

 集まったところで、海胆岬さんがいつも通り不穏なことを言って、兵藤先輩がビビりながら聞いてくる。

 

「アッハッハ! はじめまして、私が犯人です」

 

 この人、普通に話せないんでしょうかね……。

 

「ただの殺人鬼ですよ。使駆兄様の……部下?」

 

「んーまぁ、そんなとこだな」

 

 兄様が認めた途端に、みんなが見せていた警戒が消えていく。

 

「てか兄様!? いつの間にそんな、てかどんな関係に!?」

 

 兵藤先輩、なんか久しぶりに話したと思ったら煩いですね。……こんな人でしたっけ。

 

「うにゃ……、来たよ」

 

「え? 黄彩、バスの時間はまだ……、あ」

 

 来たのはバスじゃなくて、霧。人肌のように気持ち悪い、感触が、足元から上がってくる。これは、絶霧(ディメンション・ロスト)

 

「黄彩!」

 

「ん!」

 

 今度は黄彩の手、掴めたっ!

 

 

 

 転移した先は一昨日にも来た清水寺の、清水の舞台。

 

 すぐ隣には私の手を握り返してくれる黄彩がいて、目の前には、敵意を向ける、学生服姿の男。

 

「こんばんは、芸術家殿。そして初めまして、グレモリーの戦車」

 

「うにゃ? ……どっかであったっけ?」

 

 黄彩と何処かで面識があるんでしょうか。まるでそんな風な言い方だけど、黄彩には全く覚えがないみたいで、男も目元をピクつかせている。

 

「ま、まぁ、仕方ないだろうさ。あんたみたいなデカすぎる奴には俺みたいな小物なんて目にも止まらないか。――だけど、あの時に得た力によって、俺はあんたと戦えるようになった」

 

 黄彩と、戦える? 魔法よりも魔法みたいな、異次元の戦い方をする黄彩と? この人が?

 

禁手(バランス・ブレイク)――冷静な精霊(コールド・フェアリー・コード)

 

 男の体から冷気が放たれて、そこいらじゅうに霜ができ始める。

 

「……あんたに叩きのめされたあの日、年下に負けた不甲斐なさ、悔しさ、怖さが、俺を次の領域へと持ち上げてくれた」

 

「黄彩、この人と戦ったことがあるんですか?」

 

「うにゃ〜? ん〜。……ごめんね、覚えてない。――作品No.30――近代的木乃伊(ミイラ)

 

 まだ話の途中だったのに、黄彩は容赦しなかった。完膚なきまでに、完全に、敵を殺した。

 冷気を発しながら宙吊りになった男は、仕返しのつもりか十字架に貼り付けしたようなポーズでミイラになった。一切の欠損のない、お湯でもかければもとに戻りそうなほどに萎れた死体。今にも話し出しそうなのが、恐ろしい。

 

「……せめて最後まで聴きましょうよ」

 

「だって興味ないもん。……眠いし、狐の人がどうとか、クリムゾンレッドがなんとか、なんもかんも興味ないし、眠いもん。疲れた」

 

「もしかして、……機嫌悪い?」

 

「……そんなことないもん」

 

 右腕に、黄彩が抱きついてくる。両腕で、捕まえたものを逃さないように。

 

「でも不機嫌です」

 

 どう歩けば、無人の京都で二条城にたどり着くかわからないけど、とりあえずここを離れる。駅にでも行けば、方向くらいは分かるはずですし。

 

「違うもん」

 

 ……もしかして。

 

「黄彩、もしかして私と二人っきりにあんまりなれないから?」

 

「……違うもん」

 

「やっぱり機嫌悪いじゃないですか」

 

「……バーカ」

 

 可愛くないけど可愛い……。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 私と黄彩は京都駅まで行ったあと、線路を徒歩で歩いて二条城前の地下鉄駅まで来て、そこから戦闘音の響く二条城へと乗り込んだ。

 

「うにゃ、出遅れたみたいだね」

 

「……黄彩のせいですよ」

 

 京都駅まで向かう道中にはもう黄彩は疲れ果て、ここまで私がおぶって来た。

 

 既に状況がだいぶ進んでいて、東洋風の細長い黒龍と巨大な九尾の狐が怪獣大決戦をしていて、足元じゃみんなが英雄はの人たちと戦ってい――っ!!

 

「聖剣よ!!」

 

「あっ、ぐぁっ――!!」

 

「海胆岬さん!?」

 

 金髪の女性が、木場先輩の神器の聖剣バージョンのような神器で、疲弊した様子の海胆岬さんの足元から大量に聖剣が出てきて、あちこちを貫いた。

 

「お姉さんの神器は聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)。どんな属性の聖剣も作れるけれど、本場の聖剣には流石に敵わない。……でも、流石に包丁には負けないわ」

 

「……アッハッハァ。まいったまいった……」

 

 足元から伸びた聖剣が消えると、支えを失って海胆岬さんは倒れる。急いで駆け寄って、頭を打つ前になんとか抱き留められたけど、その体は生きてると思えないくらいに冷たい。

 

「おっと。ありがと、白音ちゃん」

 

 足から腕から腰から、あちこちから血を流して、顔も真っ青にさせながら、海胆岬さんは笑いかける。

 

「……なんで笑ってるんですか。死にそうなんですよ!?」

 

「アッハァ。……そりゃ、あたしが殺人鬼だからね」

 

 そういえば、殺人鬼の人たちはいつも笑っている。『ギャハハ』『アハハ』『かかか』って、なんでも楽しそうに、いつでも笑っている。

 

「……殺人鬼はいつ死ぬか分からないから、だから、いつでも笑ってなきゃいけないんだよ」

 

 吐いた血を着物の袖で拭いながら、おぼつかない足で海胆岬さんは立ち上がった。

 

「ウッソ、なんで死んでないの?」

 

「殺人鬼が笑うのは、誰に殺されてもいいようにだよ。あたしを殺したやつを、死体になっても嘲笑うために、全てを笑って、肉に笑顔を染み付けるんだ」

 

 三徳包丁を抜き、ふらつく腕で金髪の女性に向ける。

 

「あたしはまだ未熟だからね。死ねないなぁ……。だから殺す。悔い殺して、食い殺……」

 

 一歩歩いただけで、倒れた。血を流しすぎたし、骨が砕けすぎたし、肉が切れすぎたんです。

 

 料理人の殺人鬼――海胆岬さんは、悔いを残したままに死んだ。

 誰も、見向きもしていない。海胆岬さんを殺した張本人は紫藤先輩を次の標的に定めて襲い掛かりに行っていて、先輩達も相手との戦いに精一杯で誰かを心配する余裕なんてほとんどない。

 

「黄彩!」

 

 それでも黄彩なら、大量の神器使いたちを相手に戦っている黄彩でも、聞こえていないはずがない。

 

 誰も彼もが神器の禁手化で異形の見た目となった敵を相手している黄彩は、私の声と同時に美少女となった。

 

「仕方ない、ペースをあげようか。禁手――奇跡の黄石(シトリング・ラフィ)

 

 突如、小学生男児から中学生の美少女になったことで、異形達は困惑して攻撃の手を緩める。

 

「ウフフ。君らの相手をしてる暇なんて、今無くなったぜ。――切断加工」

 

 真っ二つ。一人残らず、神器の鎧すらもざっくりと、縦に裂くように切り分けた。海胆岬さん以上の即死。

 倍の量に増えた死体の顔を見ることもなく、黄彩は私の方に来る。

 

「……黄彩、お願いします。海胆岬さんを助けて」

 

「ん、オッケー」

 

 肉体は出血も含めて完全に修復され、遺体でも顔色はだいぶ良くなった。

 けれど、心臓までは、死体から生体までは、戻らない。

 

「グレモリーの眷属にボクが成れなかったのは、継ぎ接ぎ死体のようにバラバラだってサーゼクスくん、っていうか、アジュカくんが言っていたね」

 

 私の仙術で黄彩の体調面は幾らか改善されたけれど、根本的な問題はまだ解決していない。

 

「でも、小猫ちゃんの仙術を見て、ボクは別の仮説を立てた」

 

「仮説、ですか? いや、というか、こんな時に話すことですか?」

 

「まぁ聴きたまえよ。……継ぎ接ぎと例えで言ったけれど、体に縫い目や溶接跡が見えるわけでもないのだから、それを継ぎ接ぎっていうのもおかしい話だ。なら、継ぎ接ぎなのは魂とか精神とか、そういう目に見えないものが駄目になってるからだと思うんだ。だから、そういうところも直してしまえば、たとえ電車の人身事故で挽肉になろうとも、眷属に出来るんじゃないか」

 

 黄彩は懐から、女王の駒を取り出した。

 

「ほろりちゃんの料理は美味しかったからね。あり体に言って、気に入ったよ」

 

 海胆岬さんの胃があるあたりに、黄彩は女王を溶かし込んだ。

 

「ハッ! ハハッ! アハハハッ!! アッハハハハハハハハッ!!! 君の眷属、海胆岬ほろりだよ。――黄彩」

 

「ウフフフフフフ。ボク達は黄彩だ。――ほろり」

 

 黄彩は海胆岬さんに、青色の宝石のついたペンダント型神器を手渡す。

 

「え、何これ?」

 

「ボクや可思議ちゃんと同じ神器、光る原石(タレントシグナル)。ボク達はほろりちゃんの料理人の才能を、神の代わりに保証するよ」

 

「それはそれは、どうもありがとう。ご馳走したいところだけど、それより先にあたしにはやることがある」

 

 海胆岬さんの見る方向では、使駆兄様が、さっきまで海胆岬さんや紫藤さんと戦っていた女性と戦っていた。そこに、海胆岬さんは殺気を振り撒きながら歩く。

 

「使駆様、それはあたしのです。譲ってください」

 

「ギャハハッ! なるほど、飯は期待してるぜ」

 

「ありがとうございます。そして、いただきます」

 

 使駆兄様は聖剣をへし折りながら引き下がり、代わって海胆岬さんが立つ。

 

「黄彩ちゃん眷属、料理店『(ほたる)』店主、海胆岬ほろり。さぁ、君は誰かな? 美味しく殺してあげる」

 

 悪魔の翼を広げながらの宣戦布告に、金髪の女性も剣を向けて答えた。

 

「英雄派、聖ジャンヌ・ダルクの魂を引き継ぐ者よ。何度も蘇るなら、何度だって殺してあげるわ!!」

 

 さっきまでと同じ、足元から聖剣を伸ばす攻撃を、今度は羽ばたき飛び立つことで海胆岬さんは回避した。

 

「へぇ、なら――禁手(バランス・ブレイク)――断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)

 

 地面から伸びる聖剣はさらに増え、組み上がり、組み立てられ、巨大なドラゴンが出来上がった。

 

「金属は食べられないんだけどなぁ。――禁手(バランス・ブレイク)――殺戮料亭『蛍』(キリング・レストラン・ファイアフライ)

 

 可思議さんと同じく、初っ端で禁手化した海胆岬さんの神器の宝石は大きくなっただけ。けれど……、絶対普通じゃないのは経験でわかります。

 

「アハッ! アハハッ!! アハハハハッ!!!」

 

 大根や胡瓜でも切るような素振りで三徳包丁を持ち、ドラゴンへと切り掛かった。

 

 まるで、解体ショー。

 部位毎に切り分けて、細胞(聖剣)ごとに切り分ける。黄彩風にいうなら、芸術的。綺麗で可愛く、美しい。

 ドラゴンが聖剣の山まで切り崩れると、次はジャンヌがバラバラに解体されて、刺身に成り果てる。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 後日譚。というかまぁ、二条城での戦いが終わってからのこと。

 

「……ダメだね、これは」

 

「うにゃん?」

 

 海胆岬さんのお店で食事を終えると、首から神器を外して黄彩に返却した。……神器ってそんな簡単につけたり外したりできるものでしたっけ。

 

「ベースの能力は工程省略だったっけね。……そんな異能、あたしにはいらない。味気ない。だから、返すよ」

 

「ん、そう。美味しくないんじゃ仕方ないね。ほろりは料理人だもん」

 

 黄彩は受け取ると、ポケットに神器をしまった。

 

「アッハッハッハッハ! ……あたしみたいな殺人鬼の料理の腕を褒めてくれたのは普通に嬉しかったけど、……でも、あたしは包丁と鍋で十分だよ」

 

「ボクは普通にザクザク使っちゃうけどねぇ。切るの楽だし、研ぐ必要もないし」

 

「料理は作業工程も含めて料理だよ。冷凍食品とかを否定する気はないけどね」

 

 

 

 

――。――。――。

 

    (閑話休題)

 

 

 ――時を少し遡り。

 東寺へと飛ばされた私の前には、禍の団の英雄派ではなく、禍の団の頂点にして、世界の端点と端点、無限の龍神、オーフィスがいた。ロリィ美少女で、ゴシックロリータ風の衣装で、胸には黒のバッテンシール。

 

「お前が、不可思議可思議」

 

「そうだけど。……何か用かしら」

 

 小説家でしかない私には、無限の龍神との接点はもちろん、何か求められる心当たりも無い。

 

「その世界を破壊する力、グレートレッドを倒すために貸して欲しい」

 

 なるほど。

 オーフィスの目的は、アザゼル先生からも聞いている。グレートレッドを次元の狭間から追い出し、戻ること。つまりはホームシックだ。

 

書物の国のルイス(ブレイク・クラッシュ・デストロイ)は世界を破壊する力なんかじゃ無いわ。世界を作る力よ。――小説家の仕事は世界を作ることなの。あんたの喧嘩にも、どこぞの戦争にも興味は無いわ」

 

 前にも会ったらしいアザゼル先生が言うには、感情とは無縁の存在らしいけど、私にはそうは見えなかった。

 失望。というか、落ち込んでいる。失恋の傷心が一番近い色に見える。相手が龍でも神でも、流石に幼女にその色を出されるのは心苦しいと言うか、息苦しい。

 ちょっとした旅行のはずだったのに、なんでこんな思いさせられてるのよ。……ほんと、あーあ。

 

「……話を聞かせなさいな。喧嘩以外なら、少しは付き合って上げてもいいわ」

 

「喧嘩……。力は、貸してくれない?」

 

「私にできるのは文脈と行間で世界を作ることだけ。付き合わせるなら私に出来ることをお願いするわ」

 

 オーフィスはゆっくり跳躍するように浮き上がり、五重塔の一段目の屋根に座った。

 

「……静寂」

 

 オーフィスが求めているのは喧嘩でも戦闘でもなく、静寂。グレートレッドが現れるまでの間は次元の狭間がまさにそれだったらしいけれど、追い出された。グレートレッドに。――あるいは、世界に。追い出されたというか、掻き出された。

 

「真の静寂の世界、……作って」

 

 ――断る。

 

「そんなものを世界とは呼ばないわ。『色は匂へど、散りぬるを』『むかしむかしあるところに』『メロスは激怒した』、世界というのはそうやって始まるものよ。文脈も行間もない白紙を、私は世界とは呼ばないの」

 

「……我は、帰りたい。次元の狭間、真の静寂に」

 

「あんたのしてることはただの食わず嫌い。運動部が『本は読むと眠くなるから嫌い』っつって嫌うのと同じで、この世界の文量に怖気付いて読もうともしていないだけ」

 

「……違う」

 

 本を嫌う人間というのはどこにでも一定数いて、そして私が最も愛すべき人間だ。白黒写真しか知らない人間にこそ、色を知っている人間は美を教えるべきなのだから。

 

「オーフィス、私の小説を読みなさい。白紙なんて目に止まらないくらい、面白い世界を見せてあげるわ」

 

「……今日のところは、出直す」

 

「次はもう少し暇な時に来て欲しいわね。……いや、あんたにはいつでも暇なのか」

 

 ――なら、いつでもくれば良い。

 ――同情ならいくらでもしてやる。

 ――龍でも神でも、読めばあんたはただの読者だ。

 

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