悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 アーシア先輩が二年生に編入することになったり、救出パーティの翌日に編入パーティが催されたりと、騒がしい日々が続いたけれど、それも落ち着き出した今日この頃。

 

 普段通り授業を受けるはずだった私は黄彩に誘われて、美術室で変則的な、黄彩に合わせて言うなら芸術的なチェスをして遊んでいた。一応、黄彩の言い出したことだから公欠扱いにはなっているが、若干の後ろめたさがある。

 

 今遊んでいる芸術的なチェスというのは、(キング)以外は将棋やオセロなんかのボードゲームの駒を流用して、ルールをそれっぽくした遊び。細かなルールは、壁にぶつかってから話し合って決める。

 

 私は将棋の駒を召喚して大軍を率い、いくら倒されても後続が次々と出撃する、数の暴力のような戦法をとっていて、黄彩はオセロの駒で私の駒を裏返した上で、裏切らせる戦法をとっている。

 既に私の『歩兵』の多くが『と金』となって私を裏切り、絶対に裏切らないはずだった『金将』は白黒の爆撃によって裏返り、真っ白な壁となって動かず、他の兵の動きを妨害している。

 しかし、私も負けてばかりではない。動かぬ壁でしかない白と黒を、『竜馬』と『竜王』が蹂躙していて、王が力尽きるのも時間の問題。

 敵陣で暴れる二駒が裏切らないように気をつけつつ、こちらの王の周りが根こそぎ裏切らないよう立ち回っていると、その時。

 

 コトリ、と、白と黒、二つの騎士(ナイト)が乱入し、私の王と黄彩の王を纏めて捕らえた。私も黄彩も逃げ場はなく、騎士の性質上、壁を置いても飛び越えられてしまう。完全なる、第三者の一人勝ちだった。

 

「……まったく、塔城さんまでサボりですか」

 

 呆れた目で私を見る第三者の正体は、駒王学園高等部の生徒会長、ソーナ・シトリー様だった。

 

「ああ、もう、チェス盤をこんな破茶滅茶にして。将棋は百歩譲ってともかくとして、オセロは一体どういうことですか。挟み撃ちにしただけで敵を洗脳するだけでなく強化までしてしまうなんて」

 

 いざ言われてみれば、恐ろしいことこの上ない敵軍だった。なるほど鋭い突っ込みです。ツッコミと表記するのも烏滸がましい。流石は成績優秀、頭脳明晰、容姿端麗、黒髪眼鏡、化粧っ気のなく、胸も控えめという、部長とは正反対なだけの事はあります。

 

「……塔城さん、貴女もさほど変わらないというか、私よりも小さいくらいでしょう」

 

「私の成長期はこれからです」

 

「あー、いえ、そういう話をしに来たわけではありません。……有製君」

 

「うにゃん?」

 

 ソーナ様は自分の胸と、私の胸を見比べてから、黄彩の名を呼んだ。黄彩はオセロの駒をしまいながら首を傾げた。

 

「職員室で、貴方が授業をほとんど受けていなくて心配だという先生達の話を聞きました」

 

「受けてないからね。ちっぱいの人だってそうじゃないの?」

 

「私は生徒会の仕事のついでです。あとその呼び方はやめてください。不愉快です」

 

 多分、そんな呼び方されて愉快な人なんていません。相手が黄彩じゃなければ、ソーナ様でもきっと殴っていたと思う。

 

「うにゃ……、じゃあ、メガネの人ね」

 

 断固として、名前で呼ぶ気はないらしい。最近だと、アーシア先輩が「金髪の人」と呼ばれて泣きそうになっていた。

 

「……胸のことよりは幾分かマシです。いえ、こんな話をしに来たわけでもなく、貴方が授業に出ていないという話です」

 

 確かに黄彩は、全くではないけれど、授業に参加していない。偶に教室にいる事はあっても、やっている事は絵を描くかタブレットで何かしているか。いつか問題になるとは思っていたけれど、案外早かった。

 

「別に、勉強するためにここ来たわけじゃないし。テストは受けるから別に平気だよ」

 

「小学校、中学校とは違うんですよ。高校では点数を取らねば留年したりするんです」

 

「知ってる。だから、平気だもん。……勉強できないのにサボるわけないでしょ」

 

 どこからそんな自信が湧いているのか、黄彩は一切物怖じせずに言いきった。

 

「……まぁ、今日のところは見逃しましょう。仕事の範疇ではなく私なりの気遣いでしたが、ありがた迷惑になってしまったようですしね」

 

 と、どうやら仕事のついでに立ち寄ったというのは本当だったらしく、すんなりと見逃されてしまった。

 当の黄彩は気にせず、コンビニで買い込んだらしいうまい棒を開け始めたけど。

 

「大きな問題になっていない内はそう強くは言いませんが、二人とも、…………いえ、これは本人から聞くべきでしょうね」

 

 ソーナ様は最後に気になることを言い残して、美術室から去って行った。

 私達は放課後まで駄菓子を食い荒らして過ごしたが、以降誰も尋ねることなく、私と黄彩の芸術的なチェスのような何かは続いた。

 

 

 で、放課後。ソーナ様の言いかけた何かなんてすっかり忘れていたけれど、部室にやって来た下衆の存在で、言いがかったことをなんとなしに理解した。

 その下衆というのが、純血の上級悪魔、フェニックス家三男、ライザー・フェニックス。なんと部長の婚約者であり、眷属は美幼女美少女美女美熟女勢揃いのごった煮ハーレム。英勇色を好むというし、こちらに迷惑がかからなければまぁいい。

 兵藤先輩は血涙を流しているけど、それもまぁ良いとして。

 しかし、副部長やアーシア先輩、私、それに黄彩までも視姦してきて、顔を見た途端に真顔になり目を逸らされたからか、黄彩が殺気立っている。

 確かに黄彩は小柄だし、声も女子のそれに近いし、ツインテールという男はまずしない髪型だけれど、顔は男の子のそれ。童顔、美形ではあっても、女顔ではない。

 今でこそ、魔王様の女王(クイーン)であり、部長の義姉、最強の女性悪魔候補三本指に入る、この空間の頂点、グレイフィア・ルキフグス様に背後から抱き抑えられているが、離された途端に部屋中にある何もかもを凶器にして、ライザー・フェニックスを猟奇的なオブジェにせんと飛び出そうとしている。

 

「離して……」

 

「個人的には貴方のことは尊敬していますが、暴れるというのなら私も実力を行使せざるを得ません」

 

 大概の悪魔なら、怒りを抑えて引き下がるのだが、相手は黄彩。今も指先を刃物に作り替えてどうにか振り解こうとしているが、薄皮一枚も傷つけられず、外見通りの腕力ではびくともしていない。

 

「おやめください。心中お察ししますが、どうか私に貴方を殺させないでください」

 

 ゴチンと、後頭部に顎を乗せながら言い聞かせるグレイフィア様は、なんというか手慣れていた。完全に我が子を窘める母親の顔である。……そういえば子持ちでしたね。

 

 黄彩とグレイフィア様が戯れ、私とアーシア先輩、木場先輩が離れたところで見守っていると、部長達の話が進む。

 

 結婚するかどうか、レーティングゲームで決めることになった。レーティングゲームとは、まぁ説明するまでもないでしょうが、要するにチェスをモチーフにした戦争ゲームのこと。ルールは色々あるが、本質的なところは変わらない。

 詰まるところ、数というのは絶対的な優位性に繋がる。ライザー・フェニックスの眷属は十五人フルメンバー。対して、私たちリアス・グレモリーの眷属は七人。内一人は出られないから、実質六人。数だけでも約三倍の差がある。……悔しいですが、ゲームにもならないでしょう。私たちが質で劣るとはまったく思いませんが、個々人の能力で三倍の差を埋められると思うほど思い上がってもいない。

 十日間の時間を与えると言っていて、グレイフィア様もそれを認めたが、それだけの期間では数の穴を埋めるのも、私たちの質を上げるのも難しいでしょう。

 グレイフィア様が黄彩を抑えているうちに、ライザーフェニックス以下眷属は、魔法陣で転送され帰って行った。

 

 十日間どのようにして過ごすか、追いかけて飛び出しかねない黄彩を相変わらず抱き抑えているグレイフィア様も交えての会議が開かれた。途中、黄彩が私に変装して一網打尽にするというトンデモ案が出たりしたが、結局修行をして過ごすことになった。名目上、オカルト研究部の強化合宿ということになる。

 どうあっても黄彩は出られないと言い残して、グレイフィア様は帰って行った。そして黄彩にグレイフィア様の胸について聞いてる兵藤先輩は部長の代わりにライザー・フェニックスと婚約して薄い本のネタになればいい。

 

 

 

「暑い……溶ける……猫になる……」

 そんなわけで、オカルト研究部は現在、山を登っていた。私の背負っている荷物の上で黄彩は寝そべりながら、あまりの暑さに溶けそうになっていた。

 少し後ろには私より少ない荷物を背負った兵藤先輩が呻きながら登っていて、隣を歩くアーシア先輩が手伝おうかと提案するも、部長がこの登山も修行のうちだからと止める。

 

「黄彩、猫になるのはいいけど溶けるのはやめて。着替えに染みがつくから」

 

「小猫ちゃん突っ込むのそこ!?」

 

「にゃ〜」

 

 まさか本当に黄彩が猫に!? 思わず、私らしくもなく叫んでしまったが、副部長に私まで暑さにやられたんじゃないかと心配され、頭を撫でられてしまった。……アーシア先輩の優しい目が私の心の痛いところに突き刺さる。

 

 

 

 黄彩に風を当てるためにもスピードを上げて登り、山頂に建つグレモリー家の別荘にたどり着いた。部長が先に着いていたので、鍵は空いている。

 荷物と黄彩を下ろし、私がジャージに着替えてくると、黄彩はまだリビングで寝そべったままだった。

 

「黄彩、ジャージに着替えてきてください」

 

「ボクもう疲れた〜」

 

「黄彩貴方、ずっと小猫の荷物に乗ってるだけだったじゃない」

 

 お茶を飲みながらまだ着かない先輩達待っている部長が、水の入ったペットボトルを渡しながら言った。寝そべったまま受け取った黄彩は、キャップを開けながら、ドミノ倒しの逆再生のような不自然な動きで立ち上がる。

 

「うにゃ、仕方ないかな」

 

 水を一口飲んで、そんなことを言い出す。脈絡の無い言動に部長が警戒しているのも気にせず、黄彩はペットボトルをテーブルに置いてから、口をへの字に歪めながら、唱えるように言う。

 

「傑作No.15――ボク」

 

 いつも言っている作品ではなく、傑作と黄彩は言った。直後、何が出てくるのかと警戒していたら、黄彩の肉体に変化が起きた。

 背が頭一つ分くらい、つまりは私と同じくらいまで伸び、肩幅や手足の太さはそのままに、胸が少し膨れ、美形だが男の子だった顔は、完全に女の子、美少女のものに変貌した。

 

「なっ……」

 

 変化の終わった黄彩を見て、部長は頬を赤らめて声を漏らす。かく言う私も、顔が熱くなるのを感じる。まるで、強引に一目惚れさせられるような、暴力的なまでの魅力。

 別に何処かが異様に秀でているわけでは無い。巨乳と言えるほどに大きいわけでも無いし、尻も小さい方だと思う。ただなんとなく、黄金比や白金比、白銀比なんていう、それっぽい言葉は彼女の体のためにあるんじゃ無いかと私は思った。

 

「ウフフ、ボクがこうして出てくるのも久しぶりだね」

 

 外見の変化だけでも十分に驚かされたが、声を聞いて更なる衝撃。その声はもちろん女性のものだが、いつもの黄彩の声よりも少し低い声だった。

 

「知らない人では無いけれど、敢えてこう言おうか――初めまして。ボクは有製黄彩だ」

 

 相変わらずのツインテールを揺らしながらこちらに向き、彼女は黄彩の名を名乗った。

 

「なぁに、心配は不要だよ。小猫ちゃん、リアスちゃん。ボクはボクよりも肉体的に完成してるからね。ボクに限り体力や筋力なんてのは些細な問題なんだぜ」

 

 黄彩は欠けたものを補充するかのような速さで、残りの水を飲み干した。

 いや、そんなことよりも。今この黄彩モドキは部長を名前で、あろうことかちゃん付けで読んだ。まるで旧知の仲のように。

 

「……貴方は、……貴女も、黄彩、なの? それも神器の能力なのかしら?」

 

 部長の問いに、黄彩はにっこりと笑いながら答える。その笑顔も、見惚れて発情しそうになるほどに可愛らしい。

 

「ウフフ、ボクはボクだよ。ボクもボクでボクはボクだけどボクの内に生きるもう一人のボクがつまりこのボクなのさ。そして神器の能力でボクに変わったんじゃなくて、能力を使ってボクはボクを作り出した」

 

 支離滅裂な言動。文法的には間違っていないのだろうけど、『ボク』と言う単語が渋滞を起こしていて、ボクとボク、つまりはいつもの黄彩と、今の黄彩の区別が付かなくなってくる。問いに答えられた部長も余計に首を傾げているし、しかし言動のおかげで私の欲情は収まり、平常心を取り戻していた。

 

 そのうちに、副部長や先輩達も到着して、修行は始まった。

 

「小猫ちゃん、えっちぃことしようぜっ!」

 

「ぶっ飛ばしますよ」

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