悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 決戦と殺戮の日から一週間が経ち、精神的にも立ち直ってきた頃。十日間の合宿の後に何日も学校を休んでしまいましたが、その間黄彩も学校には通っていなかったらしく、……私とのハネムーン疑惑の噂がクラスに流れていました。

 

 病欠ということになっていた私と違い、黄彩は芸術家稼業ということで公欠扱いになっているはずですが、日頃の行いでしょうか……。

 家に引きこもっている間に、黄彩についてネットで調べてみたのですが、正直、黄彩の正気を疑いました。今更ですけど。

 おそらく黄彩が立ち上げたであろうサイトには、本名にペンネーム、生年月日といったよくあるプロフィールに、スリーサイズ、血液型、それから肉体の3Dデータ。合宿の時には女体化状態の裸は見ていますが、まさかいつもの姿の黄彩の裸をデータで見てしまうのは完全な不意打ちでした。

 データは完全に著作権フリーとしているようで、公開理由としては、データを活用して作品を作ってほしいそうです。3Dプリントとか、いろいろと活用している人は多いみたいですよ。……まぁ、かわいい体をしていたとだけ言っておきます。

 

 表面的なプライバシーを放棄している黄彩は、休んでいる間に日本を廻り、幾つかの美術館で個展を開いたりしていたそうです。ニュースや新聞にも多少情報が出ていました。

 

 学校に登校して、クラスメイトからの質問を適当に流していると、今日は黄彩も登校しているようで席に座っているのを見つけた。

 

「……黄彩」

 

「うにゃ? あ、小猫」

 

「……久しぶり。あと、ありがとうございます」

 

「ん〜」

 

 この日黄彩は、ホームルームが終わるとすぐに姿を消し、学園のどこからも見つかりませんでした。

 で、放課後。今日の部活は、兵藤先輩の家で行うことになりました。現在部長とアーシア先輩が下宿しているらしく、交渉は容易かったとのこと。校門あたりに集まって出発することは黄彩にも連絡しましたけれど、その日は結局姿を表さず。

 兵藤先輩の幼少期のアルバムを見てからというもの、木場先輩の様子もおかしいし、このオカルト研究部に、あるいはもっと広くで、何かが起きているような予感がした。

 

 その翌日の放課後は、普通に黄彩も部室に来た。昨日の付き合いの悪さはなんだったのかとか聞きたかったけど、来るや否や私の膝で眠ってしまった。変態先輩が「羨ましいっ!」とか騒いでいる。

 黄彩がくる頃には木場先輩以外全員揃っている。病欠した木場先輩の様子がおかしい件について、兵藤先輩が尋ねると、木場先輩の幼少期、聖剣計画について部長が語った。

 

 聖剣エクスカリバーは、素質のある人間にしか使えない特別な聖剣の一つらしく、聖剣計画はどうにかして素質を持たない人間がエクスカリバーを使えるようにできないかという実験計画だった。しかし計画は失敗に終わり、監督者は被験者全員を始末しようとした。――けれど、一人だけ。木場先輩ただ一人だけが瀕死ながらも生き残り、逃げ出してきた。復讐に燃えていた木場先輩を部長が見つけ、その感情を悪魔として有意義に使ってほしいと、眷属にした。

 

 だから、兵藤先輩の家にあったアルバムで聖剣を見てしまった時から、様子がおかしかったのです。

 

 

 そんな話をしていると、副部長が二人の来客を招き入れました。生徒会の会長と、副会長。部長に重要な話があるから我が家に来てほしいと、ただそれだけ言い、部長と副部長を連れて行ってしまいました。なし崩し的に部活も今日は終了。

 私は眠っている黄彩を起こし、一緒に下校しました。

 

 

「……黄彩」

 

「うにゃん?」

 

「私が休んでいる間、黄彩も学校を休んでたみたいですね」

 

「ん〜、まぁ普通に仕事でね。幾つか展覧会と、あと溜まってた依頼に締め切りが近いのもあったから、纏めて仕上げてたの。……おかげでまだねむい」

 

 思えば、明るいうちにこうして二人で外を歩くのはそれこそ、最初の契約の時にデートをした時くらい。

 

「……あぁ、沖縄とか北海道とか行った時のお土産あるからボクの家寄って行ってよ。持ってくの面倒でね」

 

「……わざわざありがとうございます」

 

「うにゃ、いいよ。誰かにお土産なんて初めてだけど、選ぶの楽しかったし。そういえば、小猫も休んでたんだよね。何してたの?」

 

「……盛大に体調を崩しまして」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「ええ、まぁ落ち着きました」

 

 ズレを感じる。価値観や感情、時間軸、次元。何もかもがズレているのに、黄彩が強引にこっちへ合わせようとしてくれているのが、逆に私にズレを感じさせてくる。

 途中コンビニに寄って菓子類を買い込んだりして、黄彩の家に立ち寄った。

 段ボールに詰めてくるからちょっと待ってと言われて、玄関で待っていると、黄彩は大きめの段ボールに大量のお菓子を詰めて持ってきた。

「沖縄のサーターアンダギーと、ちんすこう、あと黒糖チョコレートだったかな。北海道は、ブラックサンダーがいろんな味売ってたから全部買ってみたの」

 

「……これは選ぶとは言いませんよ」

 

 見事に全て梱包の色が違うお菓子たちが、芸術的に詰め込まれている。

 

「……多すぎませんか」

 

「うにゃ? 部活にも郵送で色々送ったから気にしなくていいよ?」

 

「まだあるんですか!?」

 

「いっぱい買ったもん。ボクの家と小猫の家にもまだまだ届くよ」

 

「新手のテロみたいなことするのやめてください。これでも十分以上です」

 

「遠慮しなくていいのに」

 

「迷惑してるんです」

 

「まだまだ序の口だよ?」

 

「……私の家に作品を送りつけるとかやめてくださいよ」

 

「ウフフ」

 

 これで序の口ならこれ以上何があるかと考えて言ってみたけど、黄彩の返答は不自然な笑みだった。

 

「……黄彩」

 

「うにゃん?」

 

「また明日、です」

 

「ん、またね」

 

 私はコンビニでお菓子を買ったことを悔やみつつ、買ってるところに何も言わなかった黄彩をちょっと恨みつつ、段ボールにレジ袋を載せて帰宅しました。

 

 

 白いブラックサンダーは、甘ったるかったです。

 

 

 次の日も、黄彩は部活に来ました。そして事前に部長から連絡されていた、教会所属の聖剣使い二名が、旧校舎へとやってきました。

 

「会談を受けていただき感謝する。私はゼノヴィア、こっちが」

「紫藤イリナよ」

 

 青髪に緑のメッシュが入った、いわゆる男前美人と呼ばれるタイプの方と、茶髪のツインテール。

 

 話の内容を要約すると、七本に分かれ、一本が行方不明になっていたエクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会と三つの派閥で管理していたが、そのうち三本が堕天使によって奪われたらしい。

 ゼノヴィアさんは残った剣のうち、破壊の聖剣を。イリナさんは擬態の聖剣を持っているという。

 

 私たち悪魔には、教会と堕天使の問題に首を突っ込んでもらいたくないそうです。堕天使と手を組むんじゃないか、あるいは既に組んでいるんじゃないかと疑われて、部長は今にも怒り出しそう。

 結局、部長が「魔王の顔に泥を塗るわけにはいかない」と伝えると、ゼノヴィアさんは言葉の矛先を下ろす。私たち悪魔には絶対的な不介入を約束させると、ゼノヴィアさんは満足げに微笑んだ。

 

――それだけで満足して帰ればよかったのだけれど。

 

 悪魔と馴れ合うわけにはいかないと、この場を去ろうとした二人は、アーシア先輩を見つけると、「魔女」「悪魔になっていたとは」と、元聖女にはどうしようもなく突き刺さる言葉を吐いた。私を含め、眷属全員が怒る中、一人が笑った。

 

「ならば、今すぐ私たちに斬られるといい」

 

「ウフフフフフフ。――傑作No.08 この世で最も不要なもの」

 

 ゼノヴィアさんがさながら死刑宣告のようなことを言うと、黄彩が私たちの制止を無視して、窓ガラスから作り出した傑作の剣を向けた。

 

「っ! ……なんのつもりだ。悪魔に馴れ合うだけの人間が、魔女を庇うと言うのか」

 

「ウフフ。別に、金髪の人が魔女でも悪魔でも魔王でも、ボクにはどうでもいいんだけどさぁ。――死なれると子猫が悲しむんだよね」

 

 ゼノヴィアさんはギラギラと睨み付けており、イリナさんは黄彩の持つガラスの剣を不思議そうにみている。

 

「……何様のつもりだ」

 

「芸術家。でもそうだね、ボクのファンは、ボクを神様だと祀ってくれたりもする」

 

 黄彩の言っている通りそう言う人はいたけど、意味が違うと思う。けれど、唯一神を絶対的に信仰している教会に、その冗談は通じない。

 

「それは私たち教会全てへの挑発と受け取るぞ」

 

 部長が黄彩を止めようとするが、その手は黄彩に触れるより前に不可視の何かに弾かれる。一触即発――何かきっかけさえあれば即座に切り合いそうな二人に、静かに佇んでいた木場先輩が口を開く。

 

「……有製君、ボクも、混ぜてもらっていいかな」

 

「誰だ、貴様は」

 

「君たちの先輩だよ」

 

 堪えきれなくなった部長が「喧嘩は外でやりなさい!!」と言う声に従い、四人の戦いは旧校舎の外で行うことになった。

 

 

 

「有製君。……君、剣使えないだろう」

 

「ウフフフ。包丁と大体一緒でしょ? 大丈夫。何かを作ることは壊すことと同義だからね」

 

 話している木場先輩と黄彩の対面では、纏っていた白いローブを脱ぎ、見ているだけでも恥ずかしい黒いボンテージ服姿の聖剣使い二人。

 

 部長が言うには、これは非公式の手合わせと言うことにするらしい。お互い、上層部にバレない程度に、つまりは暗に殺すな死ぬなと言っている。

 

「傑作No.08再構成(リメイク)――この世で最も不要なもの」

 

 黄彩が言うには、その格好のつかない名前の剣は、なんの役にも立たない不要なものらしい。地球上の物ならなんでも切れるが、切れすぎて、一切の歪みもなく切ってしまうために、物作りにも人殺しにも不向きだと言っていた。

 さっきまでのガラスの剣に、地表の砂鉄を組み合わせることで強度を増強、刃の長さを短くすることで扱いやすくしている。

 

「今回悪魔を殺すと都合が悪いが、人間なら問題ないだろう。――アーメン!!」

 

「にゃう、そういえばボクの家は浄土宗らしいんだよね。ボクに信仰心なんて欠片もないけど、こう言えばなんでも誰でも許して貰えるらしいよ――南無阿弥陀仏」

 

 笑いあっているゼノヴィアさんと黄彩は、いかにして「死ね」と言わずに殺害宣言できるかを競い合いながら切り掛かった。あと多分、黄彩の言っていることは何かしら間違ってると思う。

 

「ウフフ。……キリスト教の罪に対する考え方って、つまりは悪いことをすると地獄に落ちるから、なるべく罪を重ねず、細かい罪は神様に媚を売って見逃してもらうってことだと、ボクは思ってるんだよね。――これ以上罪を重ねないようにした方がいいんじゃない?」

 

「異教徒の思考は理解に苦しむが、言いたいことは理解した。――貴様を殺すことが、貴様の言うところの神への媚だ」

 

 破壊力に優れる聖剣(エクスカリバー)が振り下ろされると、黄彩の剣が迎え抑える。発揮されるはずの破壊力が発揮されず、起きるはずの切断も起きず、ただお互いに弾かれあった。

 

「あっれぇ……。ん〜……。ああ、エクスカリバーって、ケルト神話あたりの魔法の剣だっけ。そりゃ切れなくても仕方ないね」

 

「エクスカリバーの刃が欠けた? なんだ、その不気味な剣は。魔剣でも聖剣でもないのはわかるが……」

 

 ゼノヴィアさんの疑問に黄彩は答えず、通じないと判断したのか、『この世で最も不要なもの』を放り投げた。……人のいない方向に飛んでいった剣は抵抗なく地面に突き刺さり、柄だけが地面に生えている。

 

「作品No.13――若者」

 

 黄彩の次の剣は、私たちに一番最初に見せた手刀。

 

「……本当になんなのだ貴様は。理解が出来ん」

 

「にゃー、それは残念だね。生きる価値ないんじゃない?」

 

 

 

 

 部長の言葉を完全に忘れた二人が殺し合いを終わらせようとしたとき、木場先輩が冷静さを欠いたが故に選択を誤り、地に叩き伏せられた。部長が手合わせはここまでと言うと、イリナさんがゼノヴィアさんを止めたため、私も黄彩を止めた、

 

「……うにゃ、離して」

 

「死なれても困るから、殺しちゃダメ」

 

「イリナ、離せ」

 

「離したら殺すでしょ!?」

 

「だから離せと言っている」

 

 

 結局、総下校時刻を告げる放送が鳴って殺し合いの雰囲気でなくなり、二人とも剣を収めました。

 聖剣使い二人が去ってしばらくしてから、私と黄彩も帰路につく。

 

「あれ、嘘でしたよね」

 

 いつもよりご機嫌斜めな黄彩に、気になったことを私は尋ねる。

 

「……ん、何が?」

 

「アーシア先輩が死んだら私が悲しむから、とかそんなこと言ってたじゃないですか」

 

 黄彩は「……そんなこと言ったっけ?」と、でも言いたげに首を傾げたが、すぐに思い出したようで、仄かに笑った。

 

「うにゃ〜、言ったね。バレた?」

 

「バレバレでしたよ。黄彩にあんな普通なセリフは似合いません」

 

「ウフフ。まぁ全部が全部嘘じゃないよ。言ったことを欠片くらいには思ってたのはホント」

 

「じゃあ、……なんであんな、殺気立ってたの」

 

 ……あれこそ、黄彩らしくもなかった。ライザー・フェニックスの時とは全く違う、殺戮的な殺気。あの時はまだ、確かにあれは悍ましい殺戮ではあったけど、芸術を見失ってはいなかった。

 

「うにゃ、まぁ、似てたからかな」

 

「似てた?」

 

「変な理由こじつけて、ボクへの害意を正当化した奴と。まぁ、つまりはボクを虐めたイジメっ子と」

 

「……沢山殺した、同級生?」

 

「そーそ。あーあぁ、今に思えば、ボクとしたことがだよ。あーあだよ」

 

 あーあ、程度のことらしい。人を殺すことが。

 

「黄彩は……」

 

「うにゃん?」

 

 気になってしまった。

 

「黄彩は、何を思って、人を殺したんですか」

 

 本当に聞きたいのは黄彩のことよりも、愚姉にことだけれど、それを黄彩に聞いても、答えはきっとでない。

 

「何を? んー……、別に、このままじゃ殺されるかもしれないから、とかそんなだったと思うよ。感覚的には正当防衛に近いかな」

 

「正当防衛」

 

「適当防衛って言った方がいいかもね。ボクの時も、小猫のお姉さんの時も、もしかしたら」

 

 なんか、ヒヤッとした。考えてたことがこんなバレるほど、私は顔に出るタイプではないと思っていたから……。

 

「ウフフ。人を知るコツは、その時だけを見るんじゃなくて、過去も一緒に見ることだよ」

 

 あの愚姉は、主人を殺す前、どうだっただろうか。主人を殺す殺人鬼? それとも……。

 

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