悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 領空権とかそんな感じの問題を無視して、夜の上空から手がかりを探していると、すぐに見つかりました。……聖剣って光るから、こうして見ると目立つんですね。必死こいて探してたのがアホらしくさえ思えてきました。

 聖剣使い二人、変態二人と共に行動している木場先輩に大体の場所を伝えて、私たちも地上へと降ります。

 道徳的な龍は少し離れた位置に着陸し、私たちを降ろすとすぐに夜空へと溶けるように羽ばたいて行きました。戦力には絶対なれないくらい惰弱らしいですし、あれで正解でしょう。

 

「……ぶっ飛べ」

 

「ホワッツ!? オヤカタ空からメスガキがってなぁ!」

 

 ……不意打ちをしようと屋根から飛び降りて殴っただけなのに。しかも妙に素早い動きで躱されてしまったから余計に腹が立つ。

 

「作品No.59――千本咲蘭」

 

 遅れて追いついてきた黄彩が、千本の千本――大きい針――を花吹雪のように、フリードへと吹き散らかす。

 

「んな危ねぇもんどっから出しやがったぁん!? ――おやぁ? 誰かと思ったら、いつぞやのチビにガキじゃあアーリマセンカァ!!」

 

 黄彩をして想定外の身体能力だったのか、フリードは上空へと跳躍して千本の吹雪を飛び越えた。

 

「もらったぁ!! お前みてぇなガキが、天閃の聖剣――エクスカリバー・ラピッドリィ――俺呼んでちょっぱやの剣に追いつけるわきゃねーの!!」

 

 電柱を足場にさらに跳躍して、黄彩を頭上から斬りかかる!? どこの巨人狩りですか! 大人しく巨人だけ駆逐していればいいものを。

 

「ウフフ。作業工程の省略がボクの能力なんだから、速さなら負けてないはずだよ。作品No.59再構成(リメイク)――一本咲蘭」

 

 千本どころか一本も命中しなかった千本が、黄彩の元へと集まり、一本巨大な針となって黄彩の身を守る。宙に浮いた針が、エクスカリバーを抑えた。

 

「小猫ちゃん! 有製!」

 

 ベストタイミング、とまでは言えませんがナイスタイミングで、先輩達が駆けつけてきてくれました。

 フリードを見るや否や木場先輩が魔剣を創造しながら斬りかかり、黄彩から距離を取らせる。

 

 それからは私達が何もせずとも、匙先輩が神器で放った、ライン、という紐状のものでフリードの足を縛り、兵藤先輩が何度も倍加した力を木場先輩に譲渡し、地面から大量の魔剣を生やして、聖剣使い二人が止めを刺そうとしたところで……。

 

「ほう、魔剣創造か。使い手の技量しだいでは無類の力を発揮する神器だな」

 

 と、この戦いの場に相応しく無い、人の良さそうな微笑みを浮かべる神父の老人が水を刺した。

 

「バルパーのじいさん!?」

 

 フリードが思わずと言った様子で言った名前は、私達が、というより木場先輩が探していた男の名前だった。――つまり、この蝶に蜜をやり花に水をやっていそうな老人が、聖剣計画の首謀者。

 

「……とりあえず、勝手に巻き込まれても邪魔だから引っ込んでて。――作品No.60――鳥籠姫」

 

「なっ、何!?」

 

 街頭やガードレールが伸びたり、歪んだりして混ざり合い、赤く発熱しながらバルパー・ガリレイを捕獲する檻となった。外側に女性のような装飾が大きい両手で包みこむように囲っていて、出入り口らしいものは見られない。

 

「フリードォ! 身体に流れる因子を刀身に込めろ!」

 

「流れる因子を、刀身に……。――おおっ! おおおおおっ!!」

 

 わかりやすくエクスカリバーに光が灯り、パワーアップした感じになっている。さっきまで文字通り歯が立たなかったラインはミシン糸のように容易く切られ、木場先輩の魔剣は一網打尽にされてしまう。

 

「うにゃ〜、形勢逆転って感じだね」

 

「……なんで黄彩はそんな余裕なの」

 

 とはいえ、黄彩の言う通りではある。聖剣使い二人も食い下がってはいるけれど、生憎と技量、と言うより経験でフリードの方が何枚も上手。破壊も擬態も、天閃の速さの前には、当たらなければ聖剣も木刀も同じ。

 

「うにゃ? まぁ、あえて言うなら、また勝てなかった。ってところだね」

 

 ……なぜにここで裸エプロン先輩の名台詞を言うんですか。しかも勝てたんだか負けたんだか分からない時によく言うやつを。

 

「まったく、困ったものね」

 

「部長!?」

「会長!?」

 

 新たに現れたのは、私達グレモリー眷属の主人と匙先輩の主人である生徒会長だった。そういえば確かに、いつかのチェスでも会長は横入りして一人勝ちしてきていた。

 

 これは確かに、また勝てなかった。

 

「これはどう言うことなのかしら、イッセー?」

 

「説明してもらいますね、匙」

 

 先輩たちはフリードのことなんてすっかり忘れ、怯えて叫び、完全に戦闘の雰囲気ではなくなってしまった。

 

「……うにゃぁ、逃げられた」

 

「え?」

 

 黄彩はすぐに戻り戦いに戻っていたみたいですけど、やっぱり聖剣と神器の相性があまり良く無いらしく、因子がどうとかでパワーアップしたフリードに切られたのでしょう。バルパーを捕らえていた作品が滅多斬りにされていて、聖剣使い二人、木場先輩もろともいなくなっていた。

 

 

 

「……過ぎたことをあれこれ言う気はないけれど、あなた達の勝手な行動は、悪魔の世界に影響を与えるかも知れなかったのよ。それはわかるわね」

 

 場所を移り、私たちはそれぞれの主人から説教を受けていた。

 

「黄彩、あなたもよ」

 

「うにゃ、ボクも?」

 

 黄彩はどちらの眷属でもないし、影響力があるとはいえ、所属的には無所属、フリーのはずですが……。それに、黄彩を巻き込んだのは私です。

 

「……待ってください、部長。黄彩を連れ出したのは私です。……契約の、代価として」

 

「いいえ。これは私の勘でしかないけれど、小猫が願わずとも、代価として交渉せずとも、黄彩は小猫の味方をするためにこの場にいたわ」

 

「ん、まぁそうだろうね。ボク、小猫大好きだし。だから反省なんてしてないよ」

 

「……あなたの身はもう、あなただけのものではないのよ。死んだら多くの人々や悪魔、特に子猫は悲しむことを理解しなさい」

 

「ウフフ。知っちゃこっちゃないね。ボクは芸術家だもの、最後の悲しみだってボクの作品の一つでしかないんだよ」

 

 作品にしてしまったものを街頭やガードレールに戻しながらそんなことを言う黄彩に、部長は青筋を立てる。

 

「……あなたのそういうところ、否定はしないけど嫌いだわ」

 

「好かれるためにやってないからね。綺麗に可愛く美しいボクだけど、別に好かれたいわけでも愛されたいわけでもないんだもの」

 

 神経を逆撫するように黄彩が笑っていると、上空から「キュイ〜!」と言う、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。

 

「な、何!?」

 

「まさか、ドラゴン?」

 

 匙先輩にお尻叩き千回というお仕置きをしていた会長も、兵藤先輩に同じことをしようとしていた部長も、手を止めて上空を見た。

 道徳的な龍は、戦闘力はあまり高くないと聞きました。それこそ、質量の押し潰し以上の攻撃手段は無いと。肉や野菜も食べれるけれど、何よりも柔らかい粘土を好んで食べるため、歯もあまり尖っていませんでしたね。

 

「うにゃ、どうしたんだろ。お腹空いたのかな」

 

 黄彩がそんなことを言いながら首を傾げていると、私達のいるところに道徳的な龍は着陸した。

 

「キュッ、キュルー」

 

「下がりなさい! 危険よ!」

 

「匙、私の後ろに」

 

「は、はい!」

 

 主人達の警告を黄彩が聞くはずもなく、道徳的な龍の頭を撫でながら「どうしたの?」と尋ねている。

 

「キュー!」

 

「んー?」

 

 答えるように何か鳴いているけれど、何を言っているのか私には分からない。黄彩はわかってるのかな。

 

「キュキュキュキュッ!」

 

「ヘ〜」

 

「キュアー!」

 

「うにゃ、そう」

 

「キュッキュン!」

 

「ウフフ、何言ってるかさっぱり分かんない」

 

「キュアー!?!?」

 

 最後のはなんとなく分かった。器用に頭を抑えるジェスチャー付きだったから、わかりやすかった。

 

「ウフフ。それじゃあ帰ろっか。今日はボクの家で食べる?」

 

「キュイ!」

 

 道徳的な龍は黄彩の襟に噛みつき、放り投げるように背に乗せた。部長の制止も聞かずに飛び出していくかと思ったら、私の方に歩み寄ってきて、……え?」

 

「キュー!」

 

 え、あ、え?

 黄彩と同じように、私も背に放り投げられて、「待ちなさーい!!」という部長の声を聞かず、今度こそ道徳的な龍は空高く飛び立った。

 

「ちょ、なんで私まで連れてくんですか」

 

「さ〜。お姉ちゃんを助けたかったんじゃ無い?」

 

「私、この子にそういう風に認識されてるんですか?」

 

 ……いえ、悪い気はしませんが。私も、この子、なんて年下みたいな呼び方しちゃってますし。

 でもなんというか、種族というか原材料の違う子に姉弟(もしかしたら姉妹)のように見られるのは、違和感というか罪悪感というか。

 

「んにゃあ、せっかくだし小猫も食べていきなよ。何食べたい? スーパー寄ってくし、大体は用意できるよ?」

 

「……もしかして、このまま行くんですか?」

 

「屋上に駐車場あるとこだから平気だよ?」

 

「キュッ!」

 

 いやいや、ダメでしょう。駐車場にドラゴンが停まってるって、どんだけシュールですか。や、そうじゃなくて、もっとあるでしょう? 神秘の秘匿とか、そんな感じのやつが! これがいいなら私だって羽根で飛んで出かけたりしたいですよ!!

 

「別に、いつものことだよ? 車の運転なんてできないし」

 

「龍でお買い物する人より、車で買い物する人の方が多いですよ」

 

「なら少数派に行かないとね。ボク的に」

 

「少数じゃなくて一人なんですよ。マイノリティではなくオンリーなんです」

 

「道徳的な龍は移動においてはオールマイティだよ?」

 

「語幹だけで返事しないでください」

 

「五回に一回は誤解されて通報されちゃうね」

 

「だからやめてってば」

 

 なんて話をしていたら、道徳的な龍は本当にスーパーの屋上駐車場に着陸しました。微妙に夜遅い時間ということで駐車場の大半が空いているけれど、狙いすましたようなタイミングで、仕事帰りと思われる、レジ袋からビールを覗かせた女性が私達を見つけてしまいました。都合よく幻覚だと思い込んでくれたりはしません。

 

「……あら、こんばんは黄彩くん。ドラゴンちゃんもこんばんわー。ハム食べる?」

 

「キュ〜」

 

 ……もしかして、駒王町でのドラゴンって珍しいペット扱いなんでしょうか。道徳的な龍も女性からハム貰って食べてるし、女性も犬猫みたいに撫で回してるし。

 

「またね〜」

 

 まったく騒ぎにならず、女性以外も見かけると手を振って車に乗り込んでそこから去って行く。

 

 ……ええ?

 

「うにゃ? 小猫、どったの?」

 

「……いえ。行きましょう」

 

 私は、考えるのをやめた。……結構頻繁にやめてる気がしますね。

 

 

「とりあえず粘土買わなきゃ」

 

「……わざわざスーパーで買うんですか?」

 

「いつもは百均だけど、たまにはいい奴も食べさせてあげたいし」

 

 道徳的な龍の主食は、なんと粘土らしいです。人間の体が七割水であるように、道徳的な龍の体は九割粘土だそうです。残りは針金とか、金属類が多数。

 

「それ、98円(税込)ですけど。というかそれしか無いですけど」

 

「……まぁいっか。味の違いなんてわかんないでしょ」

 

「粘土に味ってあるんですか?」

 

「大体土と一緒」

 

「そりゃ粘土ですし、そうですか。……なんで知ってるんですか。粘土の味を。98円の粘土の味を。そして何より土の味を」

 

「ボクの目はゴミ箱の底にだって届くんだよ? 味覚だって目と同じくらいの範囲には届くよ」

 

「吐き気のしそうな人体の神秘ですね」

 

「指向性はある程度向けられるよ。カメラと一緒」

 

「……そういえば、あなたの目は私の服の裏にも届くとか言ってましたよね」

 

「うにゃ、言ったっけ? まぁ、そうだけど。――あ、豆乳切らしてたんだった」

 

「……変態」

 

 私の全身を文字通り舐め回すように見てるってことじゃ無いですか。不快感や羞恥心というより、反転して高揚感?

 

「ボクは芸術家だよ? レオナルド・ダ・ヴィンチだって、芸術のために解体したりしてたらしいじゃん? 人とか動物を解体してる変質的な芸術家はいっぱいいるもん。一般的だもん」

 

「……そう聞くと、黄彩の方が幾らかマシ……、マシなんでしょうか」

 

「うろ覚えだけど、耳を削ぎ落として女の人に送った人がいたはず。――あ、ジャム買うね。どれがいい?」

 

「……百歩譲って私の裸を見るくらいは許しますから、私の耳を削ぐとか絶対しないでくださいよ。――いちごがいいです」

 

「しないよ、武士じゃあるまいし。――チョコソースも一緒に買おっと」

 

「そう言われたら、切腹とかも特殊なプレイみたいになるじゃ無いですか。――美味しそうですねそれ」

 

「拷問なんてSMプレイみたいなもんでしょ。――あ、卵買わなきゃ」

 

「少なくとも、やられる側がマゾヒストなことは無いと思いますよ。――あっちの方が安く無いですか?」

 

「やる方もサディストじゃない人は結構多いと思う。――あの箱、着陸の時に半分くらい中身割れるんだよね」

 

「……買い物に向いてないじゃ無いですか、あの子」

 

「別に、わざわざ安いもの選ぶほどお金に困ってないもん」

 

「……でしょうね」

 

 そもそも、人間国宝がこんな年中お買い得なスーパーに来てるのが異様な光景でした。

 

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