この世界には表に生きる者と裏に生きる者が存在する。
ヒーローとヴィランは表と裏ではない。
俺とヒーローが表と裏なんだ。
東京の空に雨が降っている。
東京タワーの最上部で俺、伊達影之助は夜景を眺めていた。
特に何も考えていないが、こうして夜景を眺める事で疲れを取る事が出来る。
するとポケットに入れたスマホがぶるぶると震える。
『やあ、元気だったかい?』
耳に当てたスマホから、懐かしい声が聞こえて来た。
「……オールマイト、お久しぶりです」
声の主は旧友であり、恩人でもあるオールマイトだった。
『最近は顔を見せてくれないから心配してたんだよ?』
「まあ、仕事で忙しかったので」
『そういえばそうだったね。そっちの方はだいぶ落ち着いたかい?』
「まあ、ボチボチと……」
嘘だ。実際は何も片付いていない。
探しているのは、とある犯罪敵グループ、通称【都市伝説】。
奴らは凶悪であり、手強い。
「それよりもオールマイト、身体はどうなんですか?」
『もうバッチリさ!!』
少し前、日本を揺るがす大事件が起きた。
神野区の悪夢と呼ばれ、オールマイトがオールフォーワンという最悪のヴィランと激突したのだ。
ベストジーニストは重傷を負い、オールマイトは勝利はしたが実質的に引退。
頂上社会に置いて大切な存在が失われたのだ。
だが、声を聴く限りは本当に元気そうだ。
そこでオールマイトは本題に入った。
『君、教員免許持ってたよね?』
「ええ、まあ、一応は」
『雄英に来てくれないか?』
急に雨が強くなり、風が出て来た。
「突然どうしたんですか?」
『非常勤講師が必要でね、僕はもう戦えない。個性強化授業の人数が足りなくてね、君の力を貸してくれないか?』
非常勤講師か……。
思い出してみると雄英高校の近くで依頼を受けていた。
「期間は?」
『まあ、最大でも三年ってところかな』
「……お受けしましょう」
『それは良かった! 楽しみにしているよ、影之助!』
ワハハハハッ、と笑って、オールマイトが電話を切った。
「雨、止んだなぁ」
雨雲が消えた夜空には月が光っていた。
部屋として利用している場所に戻って来た。部屋と言っても、特に物は置いていない。せいぜいが服があったり、冷蔵庫の中に食料を保存しているくらいだった。
柔らかいベッドの上に寝転がり、目を閉じる。
夢に出て来たのは、どこまでも追ってくる黒い手だった。
逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても……。
そして、逃げ切ったと思うと。
「どうして……?」
血まみれの母がそう言った。
目が覚めて、それが夢だったと瞬時に悟る。
この悪夢を見るのはあの時からずっとだから。