自殺した男が管理人を名乗る存在と出会い転生特典を貰って剣と魔法の世界に旅立つ物語

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読み専だったのですがコロナ禍の影響でどこにも遊びに行けないので書いてみました


不死身の転生者

 俺の名は佐藤一(さとうはじめ)、今年で21歳になる大学2年生だ。本来なら進級して3年生になっている予定だったのだが、必修科目で赤点を取ってしてしまい、結果留年することになった。

 俺の通う大学には奨学金制度があり授業料の8割は奨学金で払っている。そして俺の大学では1度でも留年すると奨学金の貸与が停止される。

 俺の家は特別貧しいわけではないが、奨学金無しで授業料を3年分払えるほど裕福ではない。しかも、今年から弟も大学に通うのだ。弟の入学費、授業料もあるのに俺の分など足りそうにない。

 落第したこと、奨学金の貸与が停止されたことを両親に告げた時の反応はあまり思い出したくない。失望と呆れのあまり怒りすら沸かないと言うのはこういうことを指すのだろうと俺は他人事のように思いながら両親の話を聞いていた。

 

「お前みたいなやる気のないやつのためにこれ以上金を捨てるつもりはない」

 

 父は淡々と沿う言い、母も異論はないのかため息をつくだけだった。

 俺は今日大学を、いや、人生をやめる。自殺するのだ。

 俺は今、家から自転車で20分程の場所にあるホームセンターの立体駐車場の屋上にいる。ここまで来たら後は決心するだけだ。周りに人がいないのを確認し、柵を乗り越え、そして、飛び降りる。俺は落ちながら、小さいころのことを思い出していた。これが走馬灯か、と考えていると、そのうち俺の意識は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 ふと気が付くと俺は真っ白な空間にいた。それに妙に体が軽い。不思議に思い下を見ると体が無かった。驚いて声を出そうとしたが声が出ない。体が無いからだろうか、だとしたら何故目は見えるのだろうか。

 不思議に思っていると何処からか男の声がした。

 

「やあ、目が覚めたみたいだね。佐藤君」

 

 声のした方を向くと人魂のようなものが浮いていた。なんだこれは。

 

「なんだとは失礼だね、君も似たようなものなのに」

 

 俺は人魂になっていたのか、いや、それよりもこの人魂、何故俺の考えていることがわかるのだ?。

 

「それは僕が君たち死者の管理人のような存在だからさ」

 

 死者の管理人だと、ということは俺はやはり死んだのか。

 

「落ち着いているんだね」

 

 自殺したからな、あの状況で助かったとも思えん。ところで俺はこれからどうなるんだ。

 

「そのことなんだけどさ、君、よかったら転生してみないかい?」

 

 転生?そんなラノベやゲームみたいなことが出来るのか?

 

「出来るよ、最近君みたいな自殺する人が多くてこっちは忙しいのさ。だから転生させて人魂の数をへらしたいのさ」

 

 その割には俺しか居ないのだが、どうなっているんだ?

 

「僕は個人面談をしてその人がどうしたいのかを話し合うのが好きなのさ。そのせいで管理している死者が中々へらないけどね」

 

 忙しいと言う割りに楽しそうだな、それにしても転生か、正直あの世界はあまり楽しくないから微妙だな、ゲームやラノベにも飽きたし。

 

「それならゲームに出てくるような剣と魔法の世界でもいいよ、なんなら転生特典も一つだけ付けてあげるよ」

 

 剣と魔法の世界だと、そんな世界なら是非行ってみたい。それに特典ももらえるのか。どんな特典にするべきか……そうだ、不死身と言うのはアリなのか?

 

「……不死身ねえ、まあいいけど。本当にそれでいいの?」

 

 ああ、むしろこれがいい。これならどんな強い相手でも負けないからな。

 

「あっそ、じゃあ剣と魔法の世界に不死身の能力を持って転生ね。サービスとして精神も不死身にしてあげるし20歳になったら不老になるようにしてあげるよ」

 

 随分気が利くな、まあ貰えるなら貰っておこう。デメリットも無さそうだし。ありがとう、管理人さん。

 

「気にしないでいいよ佐藤君。それじゃ、早速転生させるね」

 

 管理人さんがそう言うと俺の意識が真っ暗になった。

 

「自殺したくせに死にたくないとか考えるふざけたヤツに二度と会わなくて済むからむしろこっちから礼を言いたいくらいさ」

 

 管理人さんが何か言った気がしたがよく聞こえなかった。

 

 

 

 

 転生してから6年が過ぎた最初の数年は覚えてないが4,5歳あたりから前世のことを思い出し今ではほとんど思い出している。この世界は「エレメント」といい、俺の希望通り剣と魔法のある世界だ。モンスターもいるようでそれを倒す仕事の人達もいる。ちなみに、俺の新しい名前は「ハジメ・ジョーンズ」だ。名前が同じなのは偶然なのかあの人のサービスかは不明だ。

 

「ハジメ、何をしているの?」

 

 母さんが俺のことを呼んでいる。

 

「本を読んでいたんだよー」

 

「そう、楽しそうねー」

 

 前世で読んだ二次創作で幼少期にやりすぎて天才どころか怪物扱いされたキャラのことを覚えていたのでやり過ぎ無いように注意している。今の俺はおとなしめで内気な何処にでもいる子供を演じている。

 この世界にも小学校はあり、俺も通っているがまだ剣も魔法も授業でやっていない。気になったので親に聞いてみることにした。

 

「お母さん、剣や魔法は何時になったら学校で教えて貰えるの?」

 

 すると母さんが優しく教えてくれた。

 

「5年生になったら教えてもらえるのよ」

 

 後4年も待たなきゃいけないのか、今のところ授業でやっているのは国語、算数、体育、その他といった感じだ国語の方は会話は日本語なのに文字は日本語でも英語でもないので真面目に授業を受けているが特に難しいと感じる程ではない。算数の方は正直今更足し算、引き算なんて勉強するまでもない。体育はまあまあといった感じだ。

 つまり今の俺は成績優秀なのだ。テストを持って帰ると何時も親に褒められる。前世では最後に成績で褒められたのは何時だっただろうか、……やめよう、前世のことは関係ない今の俺は「佐藤一」じゃない。「ハジメ・ジョーンズ」なんだ。気分を変えるために母さんとの会話を止め本に集中することにした。

 

 

 

 

 あれから数十年の時が過ぎた。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 最初の頃は順調だった。学校の健康診断でスキル持ちかどうかの診断を行った時に俺の転生特典がスキル「不死身」という形で周知され、親や教師から期待もされていた。だが元々勉強も運動も得意とは言えなかった俺は徐々に授業でも戦闘訓練でも周りに着いていくのが難しくなり、やがて冒険者になるしか道はなかった。

 最初は冒険者という単語に興奮していたが、実際は安定した仕事を持たないフリーターのようなものである。努力を怠らなかった級友たちは騎士団とか宮廷魔術師のような前世で言う上級公務員のような仕事に就いていた。

 

「おい、ハジメ。ぼんやりしてないで働け!」

 

「はい、すいません」

 

 対する俺は安い給金で肉体労働をしている。

 最初は冒険者として出世しようと俺なりに努力をしていた。だがゲームと違って剣を1時間も振ることはできなかったし、強力な魔法は詠唱が覚えられなくて実戦では使い物にはならなかった。

 親切な冒険者仲間たちがパーティを組んでくれたが、何度死んでも大丈夫という気の緩みでゲーム気分の抜けてない俺はいつも周りに迷惑を掛けてしまい次第に誰も組んでくれなくなった。

 その結果がこうして上司に怒鳴られ、土に汚れながらの肉体労働というわけだ。おまけにこの上司は「技術は見て盗め」なんていう昭和の親父みたいな考えの人で俺は苦手だ。

 肉体が不死身なので危険な作業に回される。精神が不死身なのでメンタルブレイクにならない。不老なので何年でも働ける。本当にどうしてこんなことになってしまったのだろうか。そしていつまでこんなことをしなければならないのだろうか?

 

「もちろん、死ぬまでさ」

 

ふと、管理人の声がどこからか聞こえたような気がした




大学留年するような怠け者が異世界行ったくらいで突然努力家になれたら苦労しないよねという話でした
自殺を考えたことはゼロではありませんがその度に来週の週刊誌読んでから自殺しようと思って生きています。生きる理由なんてそれくらいでいいんです


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