ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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1、運命の少年

 ここは夢かうつつか。

 

 のび太はもやの中をさまよっていた。

 薄いピンク色をしたもやはどこまでも広がっていた。

 

 ここがどこなのか……そんなことはどうでもよかった。

 夢ならそのうち覚めるだろう。

 

 のび太はそんな思いでもやの中を歩き続けた。

 

 しばらく歩いたところで、誰かが声をかけてきた。

 

「おや? こんなところに人が入り込んでくるなんて……」

 

 幼い少年の声だった。のび太はもやの上空を見上げて、声の主を探した。

 しかし、もやの先には何も見えなかった。

 

「なるほど、君はとても不思議な運命を持って生まれてきた人の子のようだね」

「誰かいるの?」

 

 のび太はもやの先に問いかけた。

 

「僕は種を蒔く者」

「種を蒔く者?」

「そうだね、君にも分かりやすく言うなら神様……みたいなものかな。厳密には少し違うのだけれど」

「はあ……神様」

 

 のび太はぼやけた声を出した。少年みたいな声で「神様」なんて言われてもまるで信用できなかった。

 

「これも何かの縁だ。最期の審判を君にゆだねると決めたよ」

 

 神様はそう言うと、ついにその姿を現した。

 もやの中から誰かが降りて来た。

 

 それはのび太と同じぐらいの歳の幼い顔立ちの少年だった。

 少年はのび太と向かい合うと、にこりと微笑んだ。

 

「僕が神様だよ」

「君が? まさか、君みたいな子供が神様のわけないよ」

 

 のび太はこれは夢だと思っていたから、特に細かいことは気にせずそう言った。

 

「まあ、それでいいよ。それより僕は君を最期の審判者にすることを決めたよ」

「いったい何を言っているんだい?」

「僕は神様だろ? この宇宙は僕が創ったわけだけど……」

 

 少年はそう言いながらのび太に近づいた。

 

「この宇宙にどのような生命が生まれるかは、神様に託したんだ。つまり、神様の神様だね」

 

 話がややこしくなったので、のび太は首をかしげた。

 

「つまり、君が生まれることは僕の予期しなかったこと。君だけじゃない。地球が生まれることもすべて僕の予期しないことだったんだ」

 

 少年はそう言いながら、のび太の周りを回った。

 

「改めてこの宇宙を見ると、失敗作だと思ってね。いまこの宇宙を消去しようかどうか考えていたんだ。つまり、この宇宙を滅ぼすかどうかをね」

「宇宙を滅ぼす? 神様の君がどうしてそんなことをするの?」

「あえて神様だからだよ。この宇宙は失敗作だと思うんだ。特に人類という種族は失敗作だったと思う。君はそう思わない? 人類は最高傑作だと思う?」

「人類と言われてもな……」

 

 のび太は人類レベルでなど物事を考えたことがなかった。

 

「でも、僕のことで言うなら、失敗作かもしれないな」

「ん? 君は自分のことを失敗作だと思ってるの?」

 

 のび太はしばらく考えてからうなずいた。

 

「僕は何のとりえもないから。勉強もスポーツもダメ。何やったってうまくいかないし、おっちょこちょいだし」

 

 のび太は自分のことを素直に話した。素直に話すたびにネガティブな要素ばかり出て来た。

 

「ふーん、なるほど。人類というのはそんな些細なことをいちいち気にするんだね」

「些細なもんか。勉強もできなくてスポーツもできなくて、好きな女の子に声をかけることもできない。それがどれだけ辛いか、君は神様なのにわからないのか」

 

 のび太は少しムキになってそう言った。

 

「ごめんごめん、そんなにムキにならないで。さっきも言った通り、人類は僕の予期しない存在だからね、僕は人類の気持ちなんてわからないよ」

 

 神様は悪びれもなくそう言った。

 

「そうか、でも君の話を聞いていると、人類というのが少しだけわかった気がするよ。失敗作だと思っていたけど、もしかしたら君は僕に見せてくれるかもしれないね、人類の希望というものを」

「……」

「決めた。君にすべてをゆだねる。君が僕に人類のすばらしさを教えてくれたなら、もう少しだけこの宇宙を人類に任せようと思う。でも、少しも素晴らしくなかったら、当初の予定通り、この宇宙を消去する。すべては僕の気まぐれ、いや、君の見せてくれる人生しだいかな」

「僕の人生なんてろくでもないと決まってるよ」

「ろくでもないかどうかは僕が決めることだからね」

 

 神様はそう言うと、再びもやの中に消えていった。

 

「これから君はあらゆる運命に振り回されることになると思う。その中で君がどんな決断をするか楽しみにしているよ。すべてが終わったときもう一度会おう。そのときに最後の審判をする。めげずに頑張るんだよ、野比のび太君」

 

 それから神様の声は聞こえなくなった。

 のび太はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて周囲のもやがかき消されていった。のび太の意識も遠くに消えていった。

 

 ◇◇◇

 

「のび太、いつまで寝てるの! 早く起きて来なさい。学校に遅れるでしょ!」

 

 やかましい声を受けて、のび太は目を覚ました。

 

「のび太!」

「ママの声だ。神様はどこに行ったんだろう」

「のび太、聞いてるの? 早く起きなさい」

「わかってるよ。いま起きたって」

 

 のび太は体を起こして大きな声で言った。

 のび太は1つあくびをした。

 

 昨日の夢のことが思い出されていた。

 いやにはっきりした夢だった。もやの中で神様を名乗る少年と出会うという不思議な夢だった。ただ、神様が自分に対して何を言ったのか、細かいことは思い出せなかった。

 

 のび太は布団を片付けると、ノロノロと一階へ降りて行った。

 

「おはよう」

「ようやく起きたのね、いい加減一人で起きられるようになりなさい。もう小学5年生なのよ」

「わかってるよ。明日から頑張るよ」

 

 のび太はそう言いながら母親のお説教を横切って、食卓の椅子についた。

 向かいには父親が座っていて新聞を広げていた。

 父親は母親と違い、あまり細かい説教などはしなかった。

 

「のび太、おはよう」

「おはよう、パパ。また寝過ごしちゃったよ」

「はははは、子供は寝て育つもんだ。気にしなくてもいいさ」

「あなた、あんまりのび太を甘やかすようなことを言わないでちょうだい」

「しかしな、ママ。これからの若者は自由な世界をのびのび生きていくんだ。古臭い考え方じゃ現代に似合わないよ」

「それが甘やかしてるって言うのよ。いつも遅刻ばかりで学校の成績も悪いし」

 

 両親の言い合いはいつものことだった。のび太はもう慣れっこになっていた。

 

「そうだ、のび太。5年生になったんだし、のび太にもスマートホンを買ってやらんといかんな」

「スマホ? ほんとに? 買ってくれるの?」

 

 のび太は期待に目を膨らませたが、母親が間に入って阻害した。

 

「もうパパ、勝手なこと言わないで。そんなことしたらゲームに夢中になってますます成績が悪くなるだけよ」

「いやでも、ほら。マーク・ハンバーグとか世界の富豪は幼いころからITに親しむ環境にあったと新聞に書いてあるし」

「よそはよそ、うちはうち」

 

 のび太はため息をついて食卓を離れた。

 

 ゆっくり朝ごはんを食べている時間もなかった。のび太は慌ててランドセルにノートと教科書を詰め込んだ。

 

「しまった。昨日の宿題やってないや」

 

 のび太は今になって宿題をやるのを忘れていたことを思い出した。

 たしか、昨日やろうとしたところで眠くなったので、「明日早起きしてやろう」と言って寝たんだ。

 

 しかし、早起きは実らず寝過ごしてしまった。

 

「のび太、遅刻するわよ」

「はいはい、わかってるよ」

 

 のび太はランドセルを持つと慌てて部屋を飛び出した。

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