ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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2、タイムふろしき

 しずかと共にリルルの見舞いに行く予定だったが、キー坊が妨害したので、のび太はキー坊を連れて家に帰ることにした。

 キー坊がリルルを嫌う理由は今でもよくわかっていない。キー坊も自分で理由がわかっていなかった。

 

 キー坊がのび太の家で暮らすようになって、キー坊はみるみる知性を高めていた。

 すぐに人語を覚え、右側歩行や信号機などの交通規則も完ぺきに習得していた。

 最近は買い物もできるようになり、のび太よりも金額の計算が得意と言うほどになっていた。

 

「のび太、今日の夕飯はコロッケだよ」

「どうしてわかるの?」

「ママがあの肉屋さんで特売のコロッケを買ってたもん」

 

 キー坊はそう言うと、向かいの肉屋を指した。

 のび太が学校に行っている間、キー坊は母親と共に色々な場所に出かけて、知識を吸収しているようだった。

 

「ぼく、コロッケ好き。のび太は?」

「うーん……嫌いじゃないけど、食べ慣れてるからな」

「じゃあ、ぼくが代わりに食べてあげるよ。任せて」

「おいおい、ぼくのおかずがなくなっちゃうじゃないか」

「ぼくが目玉焼き作ってあげる。のび太はそれ食べればいい」

「目玉焼きなんて作れるのかい?」

「うん、今日の昼も作ったら、ママがシェフの味だって褒めてくれた」

 

 キー坊はすらすらと言葉を紡いだ。わずかな間に、すでにのび太より頭が良くなっているように見えた。

 

 ◇◇◇

 

 帰り道、のび太は唐突に声をかけられた。

 

「もしもし、そこの少年」

「はい?」

 

 のび太は立ち止まった。

 声をかけてきたのは、覆面の男だった。見るからに怪しい姿をしていた。周りに人はおらず、のび太は立ち去ったほうがいいかもしれないと考えた。

 

「大丈夫大丈夫。怪しい者じゃないから」

「十分怪しい。誰だ、お前は?」

 

 男に対して、キー坊は堂々と言葉をぶつけた。キー坊はみるみる知性を高めているものの、デリカシーというようなものはまだ身についていなかった。

 

「コラ、キー坊。す、すみません」

「いえいえ、いいのです。とても元気な男の子で将来が楽しみですな。私は行商人です。怪しい者ではないし、何かを売りつける気もございませんので、ご安心を」

 

 男はしごく穏やかな口調で語りかけて来た。見た目は怪しいが、危険性は感じなかった。

 

「実はいま困っていましてね。どうしても処分したいものがあるのですが、どこでどう処分すればいいものか」

「処分ですか?」

「実はこのふろしきなのですがね」

 

 男はどこからともなく、時計の絵柄が並んだ一枚のふろしきを取り出した。

 かなり使い慣れているようで、ずいぶんと古くなっていた。

 

「これ、タイムふろしきと言いましてね。私の時代では使用が禁止された悪魔の発明品なのです。まったく、人間はろくでもないものばかり開発しますから困りますよね」

「はあ」

「このタイムふろしき……私が持ってると色々と都合が悪いんですよ。しかし、私が所有権を手放せば、私は時間犯罪者ではなく、ただこの時代に迷い込んだ人として保護されます。無事に故郷に帰れるんですよね」

 

 男は意味のわからないことをペラペラとしゃべった。

 

「まあ、そんな話はどうでもいいのです。君に、このふろしきをもらってほしいんだ。どうせ、あと1回も使えば壊れるし、私の予想が正しければ、君にこれを託せば、未来は救われるんだ。だから、もらってくれないかな?」

「よくわかりませんが、そのふろしきは高価なものなんですか?」

「いやいや、原価は100円ほどのものですよ。ただもらってくれればいい。あとは煮るなり約成り好きにしてくれていいから。ともかく、もらってくれないかな。私を助けると思って」

 

 男はどうしてものび太にふろしきを渡したがった。

 キー坊はそれを怪しんだようで、男の手からふろしきを奪い取った。

 

「さてはこのふろしきでのび太を包んで誘拐する気だな? 許さないぞ、お前」

「違いますよ。だいたいそんなもので彼を包むことなんてできないでしょう。もらってくれるだけでいいんです。ともかく君に渡したからね。あとは君たちで好きに使って」

「こんなぼろっちいふろしきいらない。なあ、のび太」

「ちょっと見せて」

 

 のび太はキー坊からふろしきを受け取って確かめてみた。

 触った感じ、普通のふろしきだった。絵柄は個性的だが、どこにでもありそうなありふれたふろしきだった。

 男がなぜ、そんなものをのび太に渡したがっているのかわからなかった。

 

「ともかく渡したからね。これで私の危険な仕事もこれで終わり。さあさあ、帰ろ帰ろ。早く帰らないと、本当に時空の迷い子になってしまう。じゃあね」

 

 男は役割を終えると、小走りで走り去っていった。

 実に奇妙な出来事だったが、ドラえもんやキー坊が家に住んでいることを考えると、ささいなことなのかもしれない。

 

「どうしようか、このふろしき」

「そうだ、あの恐竜のたまごを包むのに使おう。名案だ」

 

 キー坊がそう訴えた。

 

「あれは恐竜のたまごじゃないよ。ただの岩だよ」

「いいや、あれは恐竜のたまごに違いない。僕の目に狂いはない」

 

 キー坊は自信満々にそう主張した。

 恐竜のたまごというのは、少し前にみんなで河川敷で野球をしていたとき、偶然キー坊が見つけたものだった。

 たしかにたまごの形をしていたが、河川敷にそんなものが落ちているはずがない。のび太はただの岩だと考えていたが、キー坊はたまごだと考え、家に持ち帰っていた。いまは庭に放置されたままになっていた。

 

 ◇◇◇

 

 家に帰って来たのび太はいつもどおり、自室に向かった。

 

「ただいま」

「おかえり。キー坊、ちゃんと信号は守れたかい?」

「余裕だよ、余裕」

 

 自室に入ると、そこにはドラえもんが漫画を読んで待っていた。

 ずっと前からの当たり前の光景。少し違和感を覚えるところもあったが、のび太ももうそれに慣れっこになっていた。

 

「のび太君、わかってると思うけど、夕飯までに宿題をしなくちゃいけないよ」

「うん、わかってるよ」

「そんなの後でいいよ、のび太。恐竜のたまごを見に行こう。孵化してるかもしれないぞ」

 

 キー坊がのび太の手を引っ張った。

 

「というわけで、夕飯の後にするよ」

「まったく、そんなだから成績がちっとも上がらないんだよ」

 

 ドラえもんはそう言ったが、キー坊の面倒を良見るのび太の気持ちを尊重した。

 

 のび太はキー坊に導かれるがままに、家の狭い庭にやってきた。

 ちょうど、母親が洗濯物をしまい込もうとしている最中だった。

 

「ママ、恐竜は産まれた?」

「あら、おかえり。恐竜は産まれてないわよ」

 

 母親はキー坊に笑顔で答えた。

 それから、のび太に訴えた。

 

「あんなのが庭にあると、色々と邪魔になるから、できれば処分してほしいんだけど」

「あ、うん。でもキー坊がうるさいだろ」

「じゃあ、せめて物置の隣のほうに移動して。頼んだわよ」

「うん」

 

 たしかに、庭に置かれていると邪魔になった。

 たまごは合計2つあり、それが並んでいると、ただでさえ狭い庭がより狭くなっていた。

 

「キー坊、物置の隣に運ぼうか」

「よし、さっきのふろしきを使おう。ぼろっちいから捨てたら、物が泣く。な?」

 

 キー坊は物を大切にする気持ちもしっかりと育んでいた。

 

「そうだね。よし、じゃあ、広げるから乗せてくれ」

 

 のび太は怪しい男から受け取ったふろしきを広げた。

 ふろしきは内と外で、青色、赤色と柄が違っていた。

 

「どっちが内だろ?」

「赤だ。赤いほうが明るくていいに違いない」

 

 のび太は言われるがままに赤色を表にして広げた。

 キー坊は力強く、たまごを抱えると、ふろしきの上に乗せた。

 2つも乗せると、けっこうな重さになった。

 

「けっこう重いぞ。包むと底が抜けるかもしれない」

「そんときはそんときだ。寿命だ」

 

 キー坊はさばさばと答えた。

 のび太はふろしきでたまごをしっかりと包み込むと、両手で抱えるようにして物置の隣に移動させた。

 

「ふう、これでよし」

「なあ、のび太。包んでたら、たまごが還るかもしれないな」

「はは、まさか。でもそうだといいな」

 

 そんな冗談をいいながら、ふろしきで包んだたまごをそのまま放置することにした。

 のび太とキー坊が玄関口から家に上がってしばらくして、ふろしきの時計の柄のいくつかが一瞬だけ光り輝いた。

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