深夜の頃、のび太の家の庭で、何かがうごめく音が響いた。
最初は小さく、徐々に大きくなり、やがて何かが砕け散る音がした。
その音に反応して、まずキー坊が目を覚ました。
「なんだー?」
キー坊はいつものび太と同じ布団の中で眠っている。キー坊は目を覚ますと、第一にのび太を起こす習性があったので、例によってのび太を起こした。
「のび太、起きろ。なんか変な音がしたぞ」
「ん……?」
「なんか庭にいるぞ」
キー坊は力強く飛び跳ねると、のび太の勉強机に飛び移り、器用に窓のカギを解除して、窓を開いた。
キー坊の声は大きいので、ドラえもんも目を覚まして、押し入れを開いた。
ドラえもんはいつも押し入れの中で眠っている。
「どうしたの?」
「キー坊がなんか見つけたって」
のび太は眠そうにあくびをしつつ、メガネを装着して、キー坊のもとに向かった。
「何かいた?」
「何かいる。見に行ってくる」
「コラ、危ないぞ、キー坊」
キー坊は窓から屋根に飛び降り、そのまま、庭のほうへ降りて行った。キー坊の運動神経は人間を超越していた。屋根の上から飛び降りてもまったく平気だった。
「キー坊、外に降りてったよ。ちょっと見てくる」
「騒々しいな」
ドラえもんも押し入れから起き出してきた。
のび太とドラえもんは階段を降りて、正規の方法で外に出た。
一階の居間には両親が眠っているので、のび太は起こさないように、ゆっくりと戸を開いた。
しかし、キー坊の声は遠慮のない大きさだった。
「のび太、恐竜が生まれたぞ。恐竜だ」
「恐竜?」
駆けつけると、キー坊が何かを地面に押さえつけるようにしていた。
「おとなしくしろ。威勢がいいやつだ」
キー坊はそう言いながら、何かを必死に押さえつけていた。
寄りて見ると、何か小さな首の長い生き物がキー坊に押さえつけられていた。
「ミューミューミュー」
生き物はキー坊に押さえつけられ、それに抵抗するように泣いていた。
「キー坊、離してやれ」
のび太がキー坊を抱き抱え上げると、先ほどまで押さえつけられていた生き物がよたよたと歩き始めた。
ままならない動きだった。右も左もわからなく、ただ地面を這いつくばっているままだった。
「ドラえもん、何だろ、これ」
「これは……」
ドラえもんはポケットから懐中電灯を取り出すと、地面を這いつくばる何かに明かりを当てた。
犬や猫とは違う。明らかにそのあたりにいる獣の類とは違っていた。
「あっちにも何かいる」
のび太は他にも何かいることに気づいてそこへ向かった。
「ピーピーピー」
それも先ほどの生き物と似た姿をしていて、右も左もわからず、這いつくばっていた。
「のび太、恐竜だ。恐竜に違いないぞ、これ」
「まさか」
信じられない思いだが、たしかに恐竜と言われるとしっくりくる姿をしていた。
「恐竜の卵から孵ったのかもしれないぞ」
キー坊はのび太の腕の中から飛び降りると、昨日ふろしきに包んで物置の隣に置いていた恐竜の卵らしきもののところへ向かった。
「見ろ、のび太。やっぱりそうだ。卵から孵ったんだ。すごいぞ、恐竜だ」
キー坊はそう言って喜んだ。
のび太も確認するためにキー坊のもとへ向かった。
ふろしきはほどけていて、その中には割れた卵のかけらがあった。
それは間違いなく卵だった。砕け散っていたので、この卵から何かが産まれたのは間違いなかった。
「おっ、この卵の中には、まだ何か入ってるぞ。おーい、恐竜か?」
キー坊が問いかけると、わずかにだけ卵の中で何かが動いた。しかし、外に出ていた2匹と違い、その恐竜らしきものは元気がなかった。
呼吸をしているかどうかもわからないほど、ぐったりしているように見えた。
「なんか元気ないぞ。のび太、こいつ全然元気ない」
「ちょっと待って」
のび太は覆っていた卵のからをていねいに優しく取り除いて、中にいた恐竜らしきものを取り出した。
小さな体で、のび太が触れても大きな反応をしなかった。それの体はぬめぬめしていたが、のび太はていねいにそれを掴むと、外に取り出した。
「ドラえもん、この子、ぴくりとも動かない。どうしよう、息をしてないみたいなんだ」
「大変だ大変だ」
「ちょっと待って」
振り返ると、ドラえもんは何かを取り出していた。
それはわっかのようになっていて、人がかがんで潜り抜けられるほどの大きさになっていた。
ドラえもんはそれを使って、地面を這いつくばる何かを捕獲した。輪に入ったそれらはそのまま、そこから消えてなくなった。
「それは?」
「通り抜けフープ。無人飼育施設が登録してあるから、そこに送ろう」
ドラえもんはそう言うと、ぐったりした最後の一体を通り抜けフープで飼育施設へと送った。
「僕たちも行こう。壁に設置するから、くぐって」
「うん」
「僕が先に行く」
キー坊が真っ先にフープの中をくぐっていった。
◇◇◇
フープの先は、狭いがハイテクな設備になっていた。
「ここは22世紀の飼育施設だよ。簡易的だけど、機械が面倒を見てくれるから」
「へー」
「こいつ、死にそうだ。何とかしてやってくれ」
キー坊がぐったりした恐竜らしきものを掴んでドラえもんに差し出した。
「よし、この保護カプセルへ」
ドラえもんは施設に内臓されていたカプセルの中にぐったりした謎の生命体を入れた。
すると、機械が起動し、謎の生命体も
「のび太君、この子たちもカプセルに入れてあげて」
「よし」
のび太はドラえもんがやったのと同じ要領で、他の2匹をそれぞれカプセルに収容した。
機械はハイテクで、ひとりでに必要な措置を取ってくれた。加えて、あらゆる分析も行った。
「対象は2185年度により施行された異時代特定生物保護法に登録されているウイングラプターです」
機械は謎の生命体の小隊をウイングラプターと特定した。
「ウイングラプターだって?」
ドラえもんは驚愕のレベルで驚きの声を上げた。
「何なの、それ?」
「ウイングラプター。恐竜だよ」
ドラえもんはこの生命体が恐竜であることを説明した。
「ほんとに?」
「うん、それもウイングラプター。法律が施行されるまで、恐竜ハンターらによって捕獲されていたものだ」
「信じられない。恐竜が目の前にいるなんて。でもどうしてだろう?」
「この前持って帰ったあの石が卵だったのかも。いやでも、どうして孵化したんだろう」
ドラえもんは首を傾げた。
「のび太、あのふろしきのおかげかもしれないな」
キー坊は驚いているというより、新しい友達に出会ったように嬉しそうにしていた。
「ふろしき? のび太君、どういうこと?」
「今日、キー坊と一緒に下校してるときに変な人に声をかけられて、その時にふろしきをもらったんだ」
「ちょっと見せてもらっていい?」
「僕が持ってくるよ」
キー坊は器用にフープをくぐって外に出ると、ふろしきを持ってすぐに戻って来た。
「これだ」
「これはタイムふろしきだ。なぜこんなところに」
ドラえもんはさらに驚愕の声を上げた。
「ドラえもん、知ってるの?」
「この時代の使用が完全に禁止されてるものだよ。というより、2177年から単純保持も禁止され、世界的に統一して流通を禁じているものだよ。のび太君、いったい誰にこれを?」
「誰と言われても、知らない人……」
「まずいことになったな。この場合、時空法的にどうなるんだろ」
ドラえもんは恐竜がこの時代に生まれたことよりも、のび太がタイムふろしきを使用したことを重要視した。
タイムふろしきは単純所持が禁止、所持者はどの国でも最高刑が課せられるほど厳しく取り締まられていた。
タイムふろしきは2170年に天才物理学者、マッハベルト・ホーキングシュタインによって発明され、史上最悪の発明と言われた。
このタイムふろしきの登場で、時間犯罪が国家を揺るがす大きなレベルに発展してしまったのだ。
タイムマシンは環境の値にマクロに干渉するので、タイムマシンが絡んだ時間変容は修正が比較的たやすいと言われている。
このタイムふろしきは環境の値に非常にミクロに干渉する。このミクロが厄介で、これがこの世界をゆがませることになっていった。
それをのび太が使ってしまった。しかし、のび太にタイムふろしきを渡した者がいるということでもある。
「今回のこの事件、ずっと複雑なのかも」
ドラえもんはのび太を軸に動く大きな世界観が想像以上に大きいことを悟った。