ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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6、探し物

 のび太の家に電話が入った。

 

「のび太、電話よ。たけし君から」

 

 母親に呼ばれて、のび太は階段を駆け下りて来た。

 

「もしもし」

「おう、のび太か。今すぐジャイアンツ球場に集合だ」

「え、今から野球をやるの?」

「ちげーよ、人助けだ。できるだけ人手がいる。ドラえもんとキー坊も連れて来いよ。他にも仲間は多いほどいい」

「はあ、わかったよ。すぐ行く」

 

 ジャイアンの命令は絶対だった。

 人助けと言っていたが、何をするかまでは聞きだせなかった。

 

 できるだけ人手を多く集めるようにと言われたので、ひとまずドラえもんとキー坊をメンバーに加えた。

 

「人手なら、ピースケたちも連れてこうぜ。なあ、それがいいぞ」

 

 キー坊はそう提案した。

 恐竜らはいまカプセルの中に保護されているが、機械の診断によると、外での活動は可能で、発育のためにも外での活動が望ましいということだった。

 問題は恐竜を外に出して騒ぎにならないかどうかだった。

 

「一応、マジックドームが働いてるから大丈夫だと思うけど、一応迷子になった場合に備えて発信機をつけておこう」

 

 ドラえもんはピースケ、キュー、ミューにそれぞれ小型発信機をとりつけた。それは取りつけられると、外からは見えない仕様になっていた。

 

「これで迷子になってもすぐ探せる。でも、外は車が走ってるから、くれぐれも注意してね。最悪の場合は僕が何とかするけど」

「おし、ミューは僕に任せろ。ミュー、一緒に行くぞ。ドーロ交通法を教えてやるから」

 

 みるみる知識を身に着けているキー坊は兄になったように恐竜たちの手本になろうとした。

 ミューは特に元気が良かったので、カプセルを出ると、そのまま翼のような腕を広げて滑空して地面に降り立った。

 

「すごいぞ。ミューは空が飛べるのか。僕も飛びたい。どうやるんだ?」

「ミューミュー」

 

 ミューは再び羽ばたいて滑空したが、キー坊にはどうしても真似ができなかった。

 

「ウイングラプター。歴史では恐竜が鳥類に進化するのに貢献したと言われている。絶滅するはずだった恐竜が生き延びるのに重要な役割を果たしたんだよ」

「そういえば、図鑑に恐竜は鳥類だったという説が載っていたっけ。でもウイングラプターなんて見たことない」

「未来に定義されたものだからね。この時代にはまだその呼称がないんだ」

「よし、キューは僕が面倒を見るよ」

 

 のび太はキューのカプセルを開いた。

 先ほど、ミューはすぐに羽ばたいて空を滑空してみせたが、キューは恐る恐るカプセルを出て来たものの、カプセルと床の高低差を感じて身をすくませた。

 翼を広げるのではなく、そのまま翼を縮こませて、カプセルの奥に引っ込んでしまった。

 

「大丈夫だよ、怖くないって。ほら、来いよ」

「キュー……」

 

 キューは怖がるばかりでカプセルから床に降りることもできなかった。

 

「ほら、いざというときは僕は支えるから」

 

 しかし、キューは首を横に振るばかりだった。

 

「ダメだ。キューはミューみたいにはいかないみたいだ」

「どの種族にも個体差はあるからね。そういう個体もあるよ」

 

 ドラえもんはそう言ったが、のび太は何とかキューを羽ばたかせてやりたかった。

 おそらく、キューはウイングラプターの落ちこぼれなのだろう。もし、ジュラ紀にキューが生まれていたら、生まれてまもなく命を失ってしまっていたかもしれなかった。

 偶然、21世紀の日本に生まれたからこそ生き永らえた身。

 

 自然界に反する生存者。

 のび太は自分もそうだと思っていた。

 この時代の力を借りることができなければ、自分は生きることができなかった。

 父親、母親に助けられ、多くの人に助けられ、こうして小学5年生を迎えていた。

 

 のび太はその恩恵をキューにも授けてやりたかった。

 だから、のび太はうんざりするようなことはせず、真剣にキューと向き合い続けた。

 

「こうやって」

 

 のび太は羽ばたく様子を見せた。

 

「そうそう。こうだ、こう」

 

 キー坊はカプセルの上に乗って実際に羽ばたいた。ミューのように飛ぶことはできなかったが、キー坊は華麗に床に着地した。

 

「僕がついてる。だから心配するな」

「キュー……」

 

 キューはのび太を信頼したのか恐る恐る前に出て来た。

 しかし、床が視界に入ってくると、体を震わせた。踏み込み切れない様子だった。

 

 すでにミューはのび太の部屋を飛び回り、机から床へ。床から机の上へと自在に動き回っていた。キー坊と追いかけっこをしても、いい勝負になっていた。

 ピースケもドラえもんと一緒に床の上を移動することができた。

 

 あとはキューだけだった。

 のび太はキューが勇気を持つまでジッと待った。

 

 やがて、キューが決断の時を迎えた。

 

「キュー!」

 

 キューは思い切ってカプセル台から身を乗り出した。

 

 しかし……。

 

 羽ばたくたびに体の軸がぶれた。右と左の羽ばたく力に差があるためか、まったく滑空できる感じなく、そのまま落下に入った。

 のび太はさっとキューを抱きかかえて保護した。

 

「おっとっと、危なかったな。でも偉いよ、勇気を持って飛び立てたんだから」

「キュー」

 

 のび太はキューの勇気をほめたたえた。キューはそれに嬉しそうに応えた。

 

 ◇◇◇

 

 ピースケ、キュー、ミューは産まれて初めて、21世紀の東京の町に出た。

 どの恐竜も見ることがなかった人間文明社会だった。

 

 ミューもピースケもその文明社会を積極的に順応しようとした。

 色々な刺激に嬉しそうに反応した。

 

 しかし、キューはすべてにおびえた。

 町ゆく人々、自転車の走行、自動車。いずれも通過するたびに、キューは体をすくめた。

 

「大丈夫。誰も襲ってきたりしないよ」

「キュー……」

「ゆっくりでいいから行こう」

 

 のび太はキューに合わせてゆっくりと前に進んだ。

 

 ◇◇◇

 

 ジャイアンツの球場――河川敷にはジャイアンツのメンバーが勢ぞろいしていた。

 ジャイアン、スネ夫、しずか、今日はリルルも復帰しており、出木杉の姿もあった。

 そして、ジャイアンの家で飼われることになったペコもいまやすっかりジャイアンツの一員になっていた。

 

 ジャイアンは二人の男性と話をしていた。

 

「いやー、ありがとう。本当に助かるよ」

 

 男性はジャイアンに礼を言った。

 

「お安いご用です。任せてください」

 

 ジャイアンは偶然ここで探し物をしているという男性2人と出会い、それに協力すると申し出た。

 ジャイアンの統率力により、ジャイアンツのメンバーが全員集まり、こうして捜索活動を進めることになった。

 

「これぐらいの岩なんだけど。地質学のサンプルなんだ。一刻も早く見つけ出したいんだ。君たちの力に期待しているよ」

「任されよう」

 

 ジャイアンはこうして仕事を引き受けた。

 のび太らが河川敷にやってきたころには、すでに捜索が始まっていた。

 

 ジャイアンがのび太に気づくと、大きな声をあげた。

 

「コラ、遅いぞ。すぐ来いと言っただろ」

「ごめん、ちょっと用事ができちゃって」

 

 のび太は階段を駆け下りた。

 

「いまこれぐらいの岩を探している。このあたりのどこかにあるんだ。というわけで、手分けして探せ」

「岩?」

「チーズ学のサンプルだ。いいな。あっちのほうを探せ」

「チーズ?」

 

 のび太は首を傾げた。

 

「ジャイアン、久しぶりだな」

 

 キー坊もジャイアンのもとにやってきた。

 

「キー坊。少しの間で大きくなったじゃないか」

「そうだろう。昨日からまた1センチ身長が伸びたんだ」

 

 キー坊は日々成長していた。

 

「いいか、キー坊。チーズ学のサンプルを探してるんだ。これぐらいの岩だ」

「チーズか。大好物だ。探すぞ」

 

 キー坊はそう言うと、草原にダイブした。続けて、すっかりこの時代に順応したミューが飛び込んでいった。

 

「おんや、今のはなんだ?」

「えーっと、昨日から飼い始めた恐竜なんだ」

「お前んちは色んなもんを飼うんだな。俺んちは犬一匹飼うのもかあちゃんがうるせーのに」

 

 ちょうど、ジャイアンの近くでペコが顔を出した。

 とても上品な犬だった。

 ペコは捨て犬だったが、まだ飼い主が見つかっていない。

 

「のび太さん、こんにちは」

 

 先ほどまでリルルと共に草原に入っていたしずかが挨拶にやってきた。

 しずかは学園のアイドルでもあるが、こうした重労働な作業にも積極的に参加する気質でもあった。すでに軍手は汚れていた。

 その後ろにはリルルがいて、リルルはのび太の後ろにいたキー坊とミューに気を受けていた。

 

 リルルはまた謎めいた生命体を感知したので、その詳細を調べようとした。

 しかし、再びアンノーン。キー坊に続き、ミューに対してもアンノーンという結果は実におかしな話だった。

 

 リルルはのび太の界隈に地球の恐るべき秘密が眠っていると狙いをつけていた。

 しかし、いまリルルはいくつかの機能に障害を受けていた。

 メカトピアとの交信も取れなくなり、任務に大きな支障をきたしていた。

 

 また、メカトピアと地球をつなぐワームホールもエネルギー嵐に見舞われ、メカトピアから追加のエージェントを送ることもできなくなっていた。

 いまこの時代に大きな変容が起きていた。

 

「キーちゃんもこんにちは」

 

 しずかはキー坊にも挨拶した。

 キー坊は跳ねて近くにやってきた。

 

「おー、しずかか。それと……」

 

 キー坊はしずかに続いて、その後ろのリルルに目を当てた時、その表情は激変した。

 

「悪魔! お前もいたのか!」

 

 キー坊はリルルを悪魔呼ばわりした。二人は犬猿の仲であり、その改善の兆しはまったく見えなかった。

 リルルはキー坊のその言葉遣いを見てにやりと笑った。

 

「これはご挨拶で、きのこのぼーや」

「僕はキー坊だ。きのこじゃないぞ!」

 

 キー坊は本格的に激昂した。

 

「それは失礼。まつたけにしといてあげるわ」

 

 リルルはそう言ってキー坊をからかった。

 

「もう二人とも仲良くしてよ。リルルも大人気ないわ」

「私、まだ小学5年生だもの」

 

 リルルもキー坊と和解する気はまったくなかった。

 

「のび太行くぞ。あんな悪魔と話してたら魂が奪われるぞ」

 

 キー坊はのび太の手を引っ張って、リルルから遠ざけた。

 ジャイアンツのメンバーも増えてくると、その関係性も複雑になってきた。




 前話にて、計算の間違いがありましたので、訂正させていただきます。

やまもと「けっ、馬鹿なキー坊だぜ。小学校の算数もできないとはな」
キー坊「僕のせいにするな。お前のミスだろ」

 26時間=(1日)+(2/24日)
     =1+(1÷12)
     ≒1.08……。

 この計算は東大数学並みの難易度があったようです。
 これがわかった人は今すぐ東大合格疑いなし!
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