探し物はなかなか見つからなかった。
「疲れた……おい、どこにもねえぞ。どうするんだよ?」
男たちは目の色を変えて、河原の草むらをかき分けていたため、大きな疲労を感じていた。
「まずいな。このまま発見できねえと、おれたちマジで消されちまうかもしれねえ」
少し賢明そうな男も汗をぬぐいながら、静かに流れる川を見つめた。
「やっぱこんな仕事に手を出すんじゃなかった。やってられねえ」
「おい、あきらめるな。うまくいけば100万ドルなんだぞ」
「どこ探しても見つからねえ。当たりのないくじみてえなもんだ。もうおれはやる気出ねえ」
男は躍起になっていた。
賢明なほうもここまで発見できないとなると、さすがに焦りを感じざるを得なかった。
焦っても賢明だった。
男は見つからない理由を探し始めた。
「もしかしたら、誰かが持っていっちまったのかもな、ここまで探して見つからないんじゃその可能性も考えないといけねえ」
「誰が持ってくんだ? このプロジェクトを知ってるやつなんてたかが知れてるだろ。それともタイムパトロールか?」
「タイムパトロールがかぎつけてるんなら、とっくにおれたちは逮捕されてんだろ。他にこの時代に入り込んだならず者がいるのかもしれねえ」
「そいつに先を越されたってか。なら、そいつを見つけ出さないといけねえな。しかしどうやってだ?」
「こうなりゃ禁を犯すしかねえな」
男はそう言うと、懐から小さいタブレットを取り出した。
「おい、タイムテレビを使う気か? タイムパトロールにばれるぜ?」
「四の五の言っていられる状況じゃねえんだ」
「おれは刑務所になんて入りたくねえぜ」
「落ち着け。時流電波を探知されねえタイミングが必ず訪れる。その隙を狙うんだ。最近、時空間は不安定だ。必ずタイミングが訪れるさ」
男は未来の道具を使うタイミングを図った。
しかし、いま使用するにはリスクがあったため、その時が来るまで待つことにした。
「ともかくガキどもを解散させるか」
男はタブレットを懐に収めると、ジャイアンのもとに向かった。
ジャイアンらは男たちと違って、そこまで懸命に探していたわけではなかった。
みな談笑しながらの作業だった。
ジャイアンはペコとキー坊と先ほど知り合ったピースケとミューを加えて、ボール遊びに講じていた。
ピースケとミューはすぐにこの環境に慣れた。
ピースケはサッカーボールを何度もヘディングできるようになり、ミューも手でひっぱたいて強いボールを飛ばすことができるようになった。
「たいしたもんだな」
しかし、キューだけはこの環境に慣れることができず、草むらの中で隠れているばかりだった。
のび太はそんなキューにずっと付き添っていた。猫じゃらしで遊ぶのがキューの限界だった。
個体差は明確だった。
キューはこのままでは一人で生きていくことはできない。
恐竜の世界のことはのび太もわからなかったが、少なくとも人間の社会とは違う。
のび太はキューの将来を案じていた。
男はひとまずジャイアンに礼を言った。
「悪かったね、長い間手伝わせてしまって。これはささやかだけどお礼だよ」
「ありがとうございます」
ジャイアンは缶ジュースが入った袋を受け取った。
「結局、探し物は見つからなかったんですか?」
「うん、まあしょうがないね。あきらめるよ」
男たちはひとまず捜索を打ち切った。
◇◇◇
捜索後、ジャイアンらはあてもなくなったので、それぞれ河原で時を過ごした。
ジャイアンは引き続き、ボール遊びを続けた。
スネ夫は一人川の近くにたたずんで、ずっと水面を見つめていた。
「やっぱり錯覚だったのかな……」
少し前のことだ。いまとなってはただの錯覚だったと考えれば納得できること。しかし、まだもやもやしたところがあった。
スネ夫はこの川で恐竜を目撃していた。もちろん、それは錯覚だったの一言で終わるようなことではあるのだが、あまりに脳裏に焼き付いていたので、スネ夫はどこか本当のことだとも考えていた。
「だよな。恐竜なんているわけないもんな」
スネ夫がそう言っていると、ちょうどキー坊が蹴ったボールがスネ夫の近くまで跳ねて来た。
ミューは羽ばたいて滑空するように、そのボールを取りに来た。
「ミューミュー」
「やあ、ミューか。いいよな、恐竜は。悩み事もなくて」
「ミュー?」
「僕は恐竜を見たんじゃないかと今でも思ってるんだ。そう、君と同じ恐竜だよ」
「ミュー」
「あれ?」
スネ夫は首を傾げた。
「君は恐竜。僕が見たのも恐竜? あれ? なんで恐竜を見たぐらいで僕は驚いてるんだろ」
スネ夫はミューを見ていて、矛盾めいた気分になった。
そうなると、スネ夫の悩みも消え去った。
「ミュー」
ミューはスネ夫に向けて山なりのボールを渡した。スネ夫はそれを手で受け取った。
「いや、僕はおかしくなっていたみたいだ。恐竜を見たぐらいで驚いちゃってほんとにおかしな僕だよな。よーし、今から思いっきり蹴り上げるからうまくキャッチしろよ」
「ミュー」
スネ夫は悩みを振り切って、ボールを蹴り上げた。ちょうど、そのころ、スネ夫の背後の水面に謎の波紋が広がっていた。
◇◇◇
ジャイアンたちがボール遊びをしている間、しずかは遠くからその様子を見ていた。
しずかはみなが楽しそうにしている様子を見ることで笑顔になるタイプだった。
しかし、その中にのび太とキューの姿がなかったので、しずかは二人の姿を探すように目を動かした。
「のび太君を探しているの?」
そのとき、しずかの隣でリルルがつぶやいた。
「え?」
しずかは隣に立って風を受けていたリルルを見上げた。
リルルはとりとめもない存在で、積極的に輪に入るタイプでもなく、かと言ってのび太のような引っ込み思案というような性質でもなかった。
孤高の存在であり、誰からも距離を取っていた。
いまは偶然しずかの隣にいた。
「あなた、のび太君のことが好きなんでしょ?」
リルルは唐突かつストレートに尋ねた。
「え、な、なに急に。そ、そういうわけじゃないわよ」
「図星だったときの人間の反応そのままね。そんなことじゃ、外交官なんてとても務まらないわね」
しずかは小学5年生の段階で、外交官になるという夢を持っている。
リルルは適性のなさを指摘した。
「もうからかわないでよ」
「人間の女は強い男に守ってもらいたいという性質を持っているとリサーチしていたけど、あなたは実に興味深い例外。強い男には興味ない。弱い男にしか」
リルルは淡々と言った。さらに続けた。
「言い換えれば、あなたが本能的に抱えている支配欲求の裏返しよ。自分より弱いものを支配していたいという恐ろしい一面。あなたはこの国の外交官よりも戦争の司令官のほうが適性があるわね」
リルルはしずかの性質をそう分析した。
しずかは反論する代わりに、リルルの視線の先を追いかけた。
「リルルも不思議な子よね。これまで出会ってきたどんな人とも違ってる」
「ふーん。ちょっと興味あるわ。しずかは私をどんな人だと考えているの?」
「作られた感情を植え付けられたような人形……ごめんなさい、悪いつもりではなくて」
しずかは残酷な物言いをしてしまったことに気づいてすぐに謝罪した。
「作られた感情……」
「ごめんなさい、いまのは忘れて」
「忘れないわ。あなたもいずれ真実を知る日が来ると思うけれど、その時あなたがどんな行動を取るか……楽しみに待っているわ」
リルルはそう言うと、口持ちを緩めた。
その顔は人間を超越した表情のように見えた。