ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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8、特訓

 恐竜たちが未来の世界に転送される期限が迫っていた。

 明日の朝には、3体とも未来の世界に送られることになる。

 

 恐竜はこの現代には生きられない。3体にとっても未来のきちんとした保護施設に引き取られるのがベストだった。

 ドラえもんは3体を転送するために、未来の世界に住むドラミに連絡を入れた。

 

 タイムテレビの画面にドラミの姿が映し出された。

 

「ドラミ、もうすぐ期限だけど、話はついたの?」

「いま引き取ってくれる企業が競合してるところみたい」

「民間企業が面倒を見るのかい?」

「時空への影響はないと判断されたみたいね」

 

 未来の世界では、異なる時代の生物をやり取りする際に、時空への影響が綿密に精査される。

 大きな影響がある場合はしばらく国の管理下に置かれるが、そうでないものは民間企業が引き取ることができる。

 

 未来の世界には色々な動物園や絶滅動物保護施設があるが、キュー、ミュー、ピースケを巡っては海外の企業も競合に名乗りを上げていた。

 3体はその施設に引き取られて、おそらくは施設が保有するテーマパークの見世物になっていくものと思われた。

 

「じゃあ、転送の時間になったらまた連絡するよ」

「ところでお兄ちゃん、のび太さんの世話はちゃんとやっているの?」

「問題ないよ。タイムスケジュールはすべて順守しているし」

「スケジュールどおりってだけでお手伝いロボットは務まらないのよ。のび太さんの将来のことをしっかり考えてあげないと」

「でも下手に干渉することは許されてないんだぜ。僕にはどうすることもできないよ」

 

 未来人がこの時代に干渉できる権限は限られていた。

 使用できる道具から、話してもいい情報まで、多岐にわたり禁則事項が設けられていた。

 ドラえもんはのび太の面倒を見るにあたって、そうした禁則事項がすべてプログラムされていた。

 

「それなりに権限は認められているんだから、ちゃんと面倒を見てあげてね。国家プロジェクトとはいえ、のび太さんの人生のかかったことでもあるんだから」

「色々考えてみるよ」

 

 ドラえもんはロボットであるが、その人工知能は人間並みに学習することができるようになっていた。

 プログラムされた内容以上のことを知ることもできる。

 のび太を管理する仕事を請け負っているが、アドリブのさしはさむ余地はそれなりにあった。

 

 ◇◇◇

 

 のび太はキューと向かい合っていた。

 ジャイアンの呼び出しに付き合ったあと、キューが体調不良を訴えたので、のび太はキューを連れて家に戻っていた。

 

 今頃、河川敷ではピースケもミューも自由に動き回っていることだろう。

 2体はそのまま野生の世界に還って行っても、そのまま生きていくことができるぐらい元気だった。

 

 しかし、キューは極端に人を恐れるところがあった。

 ジャイアンたちともうまく関われず、優しい心を持っているしずかとの対面もできず、逃げ隠れるばかりだった。

 

 そんなキューものび太にだけは心を許しているようで、のび太の前だけでは明るい表情を見せた。

 

「もう具合は良くなったのかい?」

「キュー」

 

 キューは嬉しそうに応えた。体調不良は精神的なものからくるものだったようである。

 こうして家に戻って来ると、キューはいつもの元気を取り戻した。

 

 ただし、どれだけ元気があっても、劣等種としての運命は変わらない。

 キューはミューと違い、素早く動き回ることもできないし、滑空することもできなかった。

 

 臆病な性格でもあった。

 のび太の机の高さ程度にも怯えるほどだった。

 

「ほら、大丈夫。たったこれだけの高さしかないんだ。落っこちたって怪我もしないよ」

「キューキュー」

 

 のび太が慰めても、キューは机の先のほうには出ていけなかった。

 仕方なくのび太はキューを抱えて、椅子の上に乗せてやった。

 椅子の上ならば、キューも飛び降りることができた。

 

 しかし、華麗な着地ではなく、毎回のようにバランスを崩しながらの不安定なものだった。

 これでは、野生の世界を生き抜くことはできない。

 

 のび太は時計を確認した。

 午後4時。

 

 明日には未来の世界に転送されてしまう。

 もっとも、未来の施設に保護されれば、おそらくはきちんと食事も用意してもらえるし、専門家の医療の恩恵も受けることができる。

 生きていくだけなら、問題ない環境は提供してもらえる。

 

 しかし、キューにただ面倒を見てもらうばかりの人生を与えていいのだろうか。

 のび太はキューの将来のことを心配していた。

 

「キュー……?」

「キューのことは言えないな。僕も君と同じだから。臆病で何もできない。勉強もさっぱり」

 

 のび太はキューのことを自分と重ねていた。

 キューが力強く飛び立つことができないように、のび太もあらゆる分野で結果を出すことができなかった。

 何もかも嫌になって逃げだすことも少なくなかった。

 

 しかし、キューと出会ってから、のび太の意識も変化した。

 何とかキューに模範を示したいと思うようになった。

 

 のび太は立ち上がると、保護施設の中にいるドラえもんを呼んだ。

 

「ドラえもん」

「んー? どうしたんだい、のび太君」

 

 ドラえもんはタイムテレビで未来の世界とやり取りをしていた。

 

「キューが未来に帰って行くのって明日の何時かわかる?」

「予定では明日の11時29分ということになってるけど」

「明日の11時か……よし!」

 

 のび太は時間を確認すると、表情を引き締めた。

 

「キュー。特訓をしよう」

「キュー?」

「明日の11時までにキューはこの机から飛び立てるようになること、僕は竹馬に乗れるようになってみせる」

 

 のび太はそのようにキューに提案した。

 

「おいで、竹馬を教えてあげる」

 

 のび太はキューを連れて、庭の倉庫の前にやってきた。

 倉庫の中には竹馬が雑に収納されていた。

 去年、学校の運動会で竹馬メドレーが催された。今年も同様のものが開かれる予定になっていた。

 

 しかし、のび太はクラスで唯一竹馬を乗ることができず、運動会の時には笛を吹いてクラスメイトを誘導する役をすることになった。

 

 一応練習はした。

 父親がのび太のために竹馬を作ってくれたので、何度も竹馬にチャレンジした。

 しかし、何度も転んでいるうちに自暴自棄になり、竹馬を投げ出した。

 

 竹馬は倉庫に収納され、以降乗り手が現れることなく封印されていた。

 久方ぶりに、その竹馬の封印が解かれた。

 

 のび太は竹馬を見て、苦い過去がよみがえってきた。

 クラスメイトにバカにされ笑われ、しずかには同情され、手を貸してもらったりもした。

 

 クラスメイトに笑われるのはみじめだった。

 しずかの協力を受ければ受けるほどに、さらにみじめさを感じるばかりだった。

 だから、のび太は逃げ出した。

 そのとき逃げ出しても、生きていられる時代だった。

 

 しかし、キューは違う。

 未来の世界に保護されなければ、一人で生きられなければならない身だ。

 

 だから、のび太はキューに一人で生きる勇気を見せたかった。

 

「見てろよ、キュー」

 

 のび太は竹馬に足を乗り上げた。

 2歩、3歩と進むことはできたが、やがてバランスを崩して転倒。

 去年と同じ感覚。その後、クラスメイトからの笑い声が浴びせられたのを今でも覚えていた。その笑い声がフラッシュバックされた。

 

「キュー!」

 

 しかし、いま近くにいるのは、キューだけだった。キューは心配そうに駆け寄ってきた。

 

「心配ないさ、ただのかすり傷だ。もう一度やるから見てろ」

 

 のび太は立ち上がり、再度チャレンジした。

 しかし、結果は同じ。再び、のび太は崩れ落ちた。受け身を取ることもできず、地面に叩きつけられた。

 

「う……」

「キュー!」

「大丈夫……必ず乗れるようになってみるさ。だから、キューも……あきらめるな」

「……」

「もう一度だ」

 

 のび太は何度倒れても立ち上がり、竹馬に挑戦した。

 何度もみっともない転げ方をした。かっこよさのかけらはどこにもなかった。

 あまりに不毛な挑戦のように思われた。竹馬にまったく適性のない者が無駄な努力をしているようなどうしようもなさがにじみ出ていた。

 しかし、のび太は何度も立ち上がり続けた。

 

 何度転んでも立ち上がるのび太を見ていたキューはしだいに、その表情を勇ましいものに変えた。

 

「キュー!」

 

 キューは全力で走り出した。

 そして、力強く跳躍。目的地は塀の上だったが、まったく高さが足りず、そのまま壁に激突して跳ね返された。

 それでも、キューは立ち上がって再チャレンジした。

 のび太も何度も立ち上がった。

 

 ドラえもんは二人の様子を二階の窓から見守っていた。

 

 ◇◇◇

 

 その夜、今日ジャイアンらの力を借りて何かを捜索していた男たちが同じ河川敷にやってきていた。

 

「おい、それは本当か?」

「ああ、さっき連絡が入った。明日の11時29分にバンビーのDNAを持つウイングラプターが手に入りそうだってよ」

「なんだよ、だったら何のためにおれたちは探し回ってたんだ。で、報酬はちゃんと受け取れるのか?」

「それが、新しい任務を与えて来た。転送されたウイングラプターを差し替えるために妨害しろってよ」

「差し替える?」

「ああ、妨害アンテナを18か所に設置しろとさ。ほら、お前はあっちのポイントだ」

 

 男の一人が何本かアンテナをもう一人に渡した。

 

「これを設置するだけでいいのか?」

「ああ、ただし、明日の11時29分までの約10数時間、このアンテナを妨害されないように見張っておく必要があるらしいんだ」

「今から11時まで? くそ、徹夜の仕事かよ。深夜手当ては出るんだろうな?」

「つべこべ言わずやれ。ほら」

「くそ、おれの人生、こき使われてばかりだ」

 

 男たちは夜の間、河川敷のあちこちにアンテナを仕掛けた。

 

「ピピピピ、おかしな電波を察知しました。ジュドの転送を妨害したジャミングに酷似しています」

 

 ダウジングプログラムが何かを感知したので、リルルは河川敷の近くに来ていた。

 

「この近くね」

「この場所からおかしな電波が出ています」

「どうやら、この地球ではいま不思議なことが起こっているみたいね。いったい何が起きているのかしら。メカトピアと連絡を取りたいけど、通信が回復する目途が立たないし」

 

 リルルは周囲を警戒しながら、電波を放っている発生源にやってきた。

 見つからないように、ほとんどの部分が地面に埋められていて、アンテナの先端がわずかに地面から出ているだけだった。

 

「これが電波の発生源ね。これほど広く時空に干渉している波動は初めてだわ。いくつかのダークマターにも干渉しているみたい」

 

 通常の受信機では受信できない電波が用いられていた。かなり高い技術力だと思われた。

 リルルは地球の技術を多く分析していたが、このレベルの技術力を持つ国家はなかった。

 こんな島国の僻地に、地球で最も優れた技術が集約されていた。

 

「サンプルにいただいていくわ」

 

 リルルはスッと、そのアンテナを地面から引き抜いて持ち帰った。

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