ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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3、キー坊

 放課後、のび太はしずかの居残り授業をきっちり1時間30分受けた。

 

「それじゃあね、のび太さん。明日はちゃんと宿題してこないとダメだからね。じゃないとまた居残り授業よ」

「う、うん。明日は必ず」

「じゃあ、また明日ね。気を付けて帰るのよ」

 

 校門でしずかと別れると、時刻は5時になった。空は夕焼けに染まっていて、遠くの空は徐々に暗くなっていた。

 早く帰るべきだったが、のび太にはまだやらなければならないことがあった。

 

 のび太は速足で学校の裏山に向かった。

 ここ最近、のび太には日課にしていることがあった。

 

 のび太は宿題をよく忘れるが、これだけは絶対に欠かさなかった。

 

 のび太は駆け足で裏山の中腹にやってきた。

 

 息を乱しながらやってきた先には、小さな木が一本立っていた。

 その木は周りの木からは独立していて、まるで周囲の木から仲間外れになったかのようだった。

 よく見ると、他の木とは趣が違っている。

 暗くなってくると、その違いは明白だった。

 

 その木はうっすらと新緑の輝きを放っていた。

 

「やあおまたせ、キー坊。遅くなってごめんよ」

 

 のび太はそう言って目の前の木に声をかけた。

 すると、その木は答えるように、枝の葉をゆらした。風が吹いたわけでもないのに、まるで人の言葉がわかるようだった。

 

 のび太は1か月ほど前にキー坊と出会った。

 のび太が一人裏山で景色を眺めていたときのことだった。

 そのときは、母親に叱られて心が落ち込んでいた。

 

 そんなとき、のび太は不思議ないい匂いを覚えた。

 なんだろうと思い向かってみると、そこには不思議な木が一本立っていた。

 

「君の匂いかな……」

 

 のび太は木の隣に腰を下ろした。間違いなく、その匂いはこの木から発せられたものだった。

 その匂いはのび太の心に安らぎをもたらしてくれた。

 なぜかわからないが、落ち込んでいた心が元気になった。

 

「なんだか元気になったみたいだ。ありがとう」

 

 のび太は礼を言った。

 

 それからのび太はその木にキー坊という名前をつけた。なんとなく心に浮かんできた名前だった。

 

 その後、キー坊は破滅の危機にさらされた。

 

 台風が東京を直撃した。

 その日、学校は休みだったので、のび太は暴風が吹き荒れる様子を二階の窓から見ていた。

 

「キー坊が心配だな」

 

 のび太はキー坊のことが気になって、ついには台風が吹き荒れる中、裏山を目指した。

 すさまじい風と雨。のび太は何度も風にあおられて転倒した。それでも、裏山に向かう足を止めなかった。

 

 命をかけてのび太は裏山にやってきた。

 裏山ではあちこちで土砂崩れが起きていて本当に危険な状態だった。

 のび太がキー坊のもとに向かうと、キー坊は風にあおられて今にも根が地面からめくり取られようとしていた。

 

「キー坊。待ってろ、いま助けるからな」

 

 のび太はキー坊のもとにやってくると、キー坊を風から守るように覆うと、すぐにキー坊の地面を手で固めた。泥だらけになりながらも、のび太は必死にキー坊を守った。

 

「大丈夫。天気予報によると、もう1時間も経てば風も雨も収まってくる。あと1時間頑張るだけだからな」

 

 のび太は雨風が治まるまでキー坊の盾になるつもりだった。

 雨に打たれ、風にあおられ、体の体温は一瞬で奪われた。過酷な環境だったが、のび太はキー坊の盾としての仕事を怠らなかった。

 

「もう少し、大丈夫。ほら、少しずつ風が治まってきただろ……もう大丈夫だ……」

 

 風は治まってきた。しかし、のび太の体力は限界に達しようとしていた。

 先ほどまで強い気持ちで意識を保っていたのび太だったが、やがて意識を失ってしまった。

 

 それから、のび太は不思議な夢を見た。

 そこは不気味な森の中だった。

 のび太は森の中をさまよい続けていた。

 

 その森は不思議な力に満たされており、木々はその不思議な力の影響で植物を超越した力を持つようになっていた。

 森の奥に到達すると、そこには立派な大木が一本立っていた。

 その大木には目と口があり、とても知的な顔つきだった。

 

「ほう、人間がこの地にやってくるとはどういうことか……」

 

 その木は言葉を紡いだ。

 

「人間は破壊の子。欲望にとりつかれ、破壊に目覚めた悪魔。そんな悪魔がどうしてこの地に入って来れたのか……」

 

 のび太はよくわからなかったので、首を横に振った。

 

「少し君のことを調べさせてもらってもいいかな?」

 

 のび太がうなずくと、木からは緑色に輝く弦が伸びて、のび太の手足を捉えた。

 木は目を閉じると、のび太から色々なことを感じ取った。

 

「なるほど、おぬしはただの人間ではない……慈しみを忘れなかった数少ない人間。そうか……緑の化身を継承したあの子を助けたのか……それで……」

 

 木はそう言うと、のび太を弦から解放した。

 

「君はその子にキー坊と名付けたのか。少年よ、聞きなさい。あの子はあまりに強大な力を持ちすぎてしまった。それは緑の失われた星に次々と芽吹きをもたらした。だが、そのせいで、植物星は人間たちに目をつけられてしまったのだ」

 

 木は次々と言葉をもたらしたが、夢うつつののび太にはよく理解できなかった。

 

「そこで、私はキー坊を地球へと送り、封印しようと考えた。永久に緑の化身の力を解放しないようにとな。しかし、君はあの子の力を目覚めさせてしまった……いや、あの子にとってはそれでよかったのかもしれない。封印され眠り続けているままでは、あの子は何も知ることなくこの世を去ることになる」

 

 木は最後にこう言った。

 

「優しい心を持った少年よ。どうか、キー坊に君が持つその慈しみを教えてやってほしい。あの子が正しい力を手に入れるために。頼んだよ、少年……」

 

 その言葉を最後に、のび太の意識は暗転。

 気が付くと、のび太は裏山に転がっていた。

 台風は過ぎ去り、雲の間からは日の光が差し込んでいた。

 体はなんともなかった。

 

 のび太はキー坊が助けてくれたのだと思った。

 

 それから、のび太は毎日欠かさず、裏山のキー坊に会いに行くようになった。

 のび太は何度かキー坊に声をかけた。キー坊は言葉を紡ぐことこそできなかったが、のび太の言葉を理解しているように思えた。

 

「暗くなったな、そろそろ帰らなきゃ。じゃあな、キー坊。また明日も来るよ」

 

 のび太がそう言うと、キー坊は少し寂しそうに気を揺らした。

 

 ◇◇◇

 

 のび太はすっかり暗くなった帰路を急いだ。

 

「またママに怒られそうだな……」

 

 のび太はそんなことを思いながら、より急ぎ足になった。

 しかし、そんなのび太を呼び止める者があった。

 

「ちょっとちょっと、そこの少年、お待ちなさい」

「え?」

 

 のび太は声をかけられて立ち止まった。

 見ると、そこには怪しい顔つきの誰かがいた。

 その者はメガネとフード付きのコートでおおわれていて、素顔を見ることができなかった。

 謎の人は水晶玉に手を当てていた。どうやら占い師の類と思われた。

 

「少年のことを占って差し上げよう」

「すみません。僕、急いでいるのです」

「なーに、時間は取らせません。少しの間だけです。さあ、そこに座って」

「は、はあ」

 

 のび太は仕方ないので少しだけ付き合うことにした。

 

「私は未来を見通すことができる力を持っています。この水晶はあなたの未来を映し出します。今から、あなたの近未来に訪れる重大なものを映し出しましょう」

 

 占い師はうさんくさいことを言うと、水晶玉を撫でるように手を動かした。

 

「ほっほ、少しずつ浮かんできましたよ。これはなんでしょうか? 狸でしょうか? 実に面白い姿をしていますな」

 

 水晶玉に浮かび上がってきたものは、その占い師が言うように、狸だった。しかし、青い体をしていて二足歩行。狸のようで、狸ではない不思議な生き物だった。いや、生き物と言えるのかもわからない。

 

「あなたは出会うでしょう、この狸に。そして、あなたの未来は大きく変わり始める。しかし、その未来、すべてはあなたの決断しだい。光にもなり、闇にもなる。あなたの決断がこの世界のすべて。歴史のすべてを変えることになるでしょう」

「はあ……」

 

 のび太は半信半疑に聞いていた。

 

「またどこかでお会いできる日を楽しみにしていますぞ。そうですね……例えば夢の中なんかでお会いするかもしれませんねえ。ほーほっほっほっほ……」

 

 占い師はそう言うと、水晶玉を消滅させて、立ち上がった。

 

 次の瞬間。その占い師は鳥に変化し、そのまま、上空へと昇って行った。

 

「な、なんだ?」

 

 のび太は驚いた様子で、鳥が飛んで行ったほうに目を向けた。

 

「これは夢なのかな……」

 

 のび太はそのように思うことにした。 

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