のび太は夢を見ていた。
舞台は薄暗い森の中。のび太はさまようように森の中を進んでいた。
すると、目の前に大きな木が見えて来た。その木は青白い光を放ち、のび太に問いかけるように落ち葉をひらひらと落とした。
のび太は青白い光を放つ1枚の葉をその手に取った。
「我が息子の命が失われようとしている。少年よ、どうか我が息子を助けてくれないだろうか?」
「息子?」
「そう、息子を助けることができるのは少年だけ。どうか息子の命を……」
のび太は手に取った落ち葉を見つめた。先ほどの光は失われていて、ただの葉に還元していた。その後、目の前の大きな木が問いかけてくることはなかった。
その代わりに、大木の周囲にあった木が怪しく笑い始めた。
見ると、その木の幹には鋭い赤い目が輝いていた。
「ならん。やつを助けてはならん。新緑の巨人の封印は永遠でなければならぬのだ。やつが消え去れば、植物星は永遠の和平に包まれるのだ。決して螺透けてはならんぞ」
周囲の木はのび太にそのように警告してきた。
のび太は彼らの言っていることをいまいち理解できないまま、その場に立ち尽くしていた。
「おーい、のび太君。起きろー、朝だぞー」
夢の世界にドラえもんの声が響いた。
その声に導かれるように、のび太は夢の世界から現実へと引き戻されていった。
翌朝、のび太はドラえもんの声で目を覚ました。
「やっと起きたか。まったく毎朝世話が焼けるよ」
「うーん……なんの夢だったかな」
のび太は体を起こすと目をこすりながら、先ほど見ていた夢のことを回想した。いまいちうまく思い出すことができなかった。
「さあ、起きて、顔を洗って歯を磨いて」
「わかってるよ、うるさいドラえもんだよ」
ドラえもんが部屋にいることが当たり前のようになっていた。
昨日はドラえもんが部屋にいることに少しの違和感があったが、いまは昔から飼っている家猫として認識することができた。
階段を降りると、そこにはいつもの光景とは違う景色が広がっていた。
いつもなら、父親は椅子に腰かけて新聞を読んでいて、母親は朝ごはんの支度をしている。
しかし、食卓には誰もいなかった。
「あれ、ママは?」
「おう、のび太。こっちだ。いま大変なことが起こってるみたいなんだよ」
居間のほうから父親が呼んだ。
「大変なこと?」
「ああ、こっちへ来なさい」
言われて、のび太とドラえもんは居間に向かった。
居間ではテレビが映っていて、大音量でニュースを伝えていた。
父親と母親はテレビ画面に向かっていた。
「先ほどからお伝えしておりますように、東京湾で異常気象です。強い電気を帯びた嵐雲が停滞。漁師をはじめとして、約1000人以上の人が行方不明となっています。こちらが嵐雲を捉えた映像です」
ニュースキャスターは繰り返し同じニュースを続けていた。
のび太もテレビ画面を見た。
「ご覧ください。ものすごい嵐です。風速50m、雷も鳴りやまない模様。1分間に400以上の落雷が観測されています。100万棟異常が停電。近づくこともできません」
テレビ画面には、雷が光り輝き続ける異常な空模様が映し出された。
「わあ、なんだこれは。こんなの見たことがない」
のび太も初めて見る異常な光景に目を奪われた。
「ニュースでは、嵐が北上しているらしいんだ。このあたりにもやってくるかも」
「そうなったらどうなるの?」
「わからない。ともかく避難情報を注視しておく必要がある」
そのとき、父親のスマホが鳴った。
「会社からだ。ちょっとすまん」
父親は会社からの電話の対応のために居間を後にした。
「のび太、この調子だと学校も休みになるかもしれないわね」
「うん」
学校が休みになるのはうれしいが、今後異常な嵐がどうなっていくのか心配だった。
「この嵐は……」
ドラえもんは嵐の光景を身ながら、何かに気が付いた様子だった。
「のび太君、ちょっと来て」
「どうかしたの?」
のび太はドラえもんについて自分の部屋に戻った。
「さてと……タイムテレビ」
部屋に戻ると、ドラえもんはお腹についていたポケットの中をまさぐり、小さなテレビのようなものを取り出した。
不思議な光景だったが、のび太はそれから何の違和感も覚えなかった。
「タイムテレビ?」
「タイムテレビは過去や未来など異なる時間軸にある電波を受信することができるんだ」
「……よくわからないや」
「まあ、その原理を説明してたら話が長くなるから、過去や未来の人と通話ができるものだと思ってくれればいいよ。ただし、権限は限られるけどね」
ドラえもんはそう言うと、タイムテレビの電源を入れた。
「良かった、ドラミがオンラインだ」
ドラえもんはそう言うと、あるボタンを押した。
すると、テレビ画面に黄色い猫が映し出された。それはドラえもんによく似ていた。
「なにこれ、ドラえもんに似てるような」
「ドラミ。僕の妹だよ」
「ドラえもんに妹がいたんだ」
「はじめまして、あなたがのび太さんね。私はドラミ。よろしく」
「うん、よろしく」
のび太は特に違和感なく画面に映るドラミを受け入れることができた。
「ドラミ、ちょっと聞きたいことがあるんだ。この時代に時空嵐が発生する時間軸をちょっと調べてほしいんだ」
「え、時空嵐が発生したの?」
「たぶん、そうだと思う。ちょっと想定と違う時間軸に入ってるみたいなんだよ」
「わかった、ちょっと調べてみるわね」
二人は小難しいやり取りをしたので、のび太はよくわからないままやり取りを聞いていた。
ドラミの仕事は早く、1分ちょっとで画面に戻ってきた。
「えーっとね、一応6rck3乗が該当してるわ。いずれもブルーゾーン。特に問題ないということになってるけど、何か被害が出そうなの?」
ドラミは専門用語で説明したので、のび太にはよりちんぷんかんだった。
「すでに1000人以上が巻き込まれているそうなんだ。嵐が治まらないと正確な被害状況はわからないんだけど」
「1000人……そんな被害が出る時間軸はあったかしら。ちょっと時空警察に問い合わせてみるわ。少し時間がかかるかもしれないけど」
「できるだけ早く頼む」
「それじゃあ、また後で」
短いやり取りの後、タイムテレビの通信は切れた。
「ドラえもん、どういうことなんだい?」
「時空嵐。4次元空間に干渉する暴風のことなんだけど、偶発的に起こる確率は天文学的確率しかないんだ」
「それは大変なことになるの?」
「時空嵐は沈静化が早いとは言われてるけど……」
ドラえもんが言った通り、居間に戻って来ると、ニュースでは嵐が治まったと報道していた。
「先ほどの嵐ですが、気象庁によりますと完全に鎮静化したということです。しかし、引き続き警戒する必要があります。周辺地域の住民は避難情報に従って行動してください」
嵐は1時間ほど吹き荒れた後、沈静化した。しかし、それなりに被害者を出す大惨事となった。
この影響で東京都など7都道府県が学校の一斉休業を発表、JRも一斉運休を決め、のび太の父親も休みになった。
しかし、その後嵐が再び発生することはなかった。
学校が休みになったということで、さっそくのび太の家に電話を入れるものがあった。
「のび太、たけし君から電話よ」
「ジャイアン?」
のび太は電話の受話器を取った。
「もしもし」
「おう、のび太か。話は聞いたな。これは一大事である。ぜひ、我がジャイアンズ総出でこの謎の異常気象を調べる必要がある。ついては全員空き地に集合。急げ」
「え、あ、うん」
「ドラえもんも連れて来いよ」
「うん、わかった」
ジャイアンの命令は絶対。のび太は素直に了承するしかなかった。
「ドラえもん、ジャイアンの呼び出しだよ。外に出ても大丈夫かな?」
「もう嵐が再来することはないと思う」
のび太はドラえもんを連れて空き地に急いだ。空は何事もなかったかのように快晴だった。東京湾周辺以外には、何事もない日常が広がっていた。