ジャイアンが結成したジャイアンズは非公式の野球チームである。
もともとジャイアンの父親が少年野球クラブの指導者をしていたのだが、野球人口が減少するにつれて、クラブは消滅。
そのクラブを引き継いぐために、ジャイアンは「ジャイアンズ」を結成した。
ガキ大将の特権を活かして、メンバーを集めて、いまは何とか試合に出られるほどになった。
正式なチームではないものの、登録すれば軟式野球大会に出場することができる。
現在、同区内には4つのチームがあり、ペナントリーグ戦を戦っている。
チラノルズ
ジャイアンズ
ラビッツ
キャッツ
現在、この4チームがリーグ戦を戦っているが、ジャイアンズは単独最下位を進行中だった。
他のチームが生粋の野球少年なのに対し、ジャイアンズは寄せ集めメンバーであり、まともな戦力はジャイアンと出木杉しかいなかった。
以下はジャイアンズのオーダーである。
1番 金尾溜 センター
2番 骨川スネ夫 セカンド
3番、出木杉杉男、ショート
4番 剛田武 ピッチャー
5番 ドラえもん、キャッチャー
6番 山尾昇 ファースト
7番 亜井宇得男 サード
8番 夏季久家粉 レフト
9番 野比のび太 ライト
源しずか マネージャー、チアリーダー
リルル・アントワネット マネージャー、チアリーダー
首位打者で打率が6割台の出木杉と本塁打王で現在23本塁打のジャイアン以外は野球センスがなく、なかなか勝利を上げられずにいた。
メンバーが足りないということで、ドラえもんという猫がチームに参加するほどだった。
メンバーの実力は足りていないが、マネージャーはしずかがリルルを勧誘してくれたことで、その点だけ充実していた。
空き地にジャイアンズのメンバーが集められた。
「集まったな、諸君」
ジャイアンがメンバーの前に立った。
「我々、ジャイアンズの仕事は野球をするだけではない。諸君も知ってのとおり、いま東京では大変なことが起こっている。たくさんの人が謎の嵐で行方不明になったそうだ。東京でいったい何が起こっているのか、調査する必要があるわけである」
ジャイアンは力強く言った。
ジャイアンズはジャイアンの気まぐれで、これまでに色々なことをしてきたが、今回ジャイアンが目をつけたのは今朝生じた時空嵐だった。
「もしかしたら、他のところでも異変が起こっているかもしれない。これから手分けして探そうではないか。そして、あとでレポートを提出してもらう。諸君、しっかりと取り組むように。では、メンバー分けを発表する」
ジャイアンはそう言うと、次のようにメンバーを分けた。
チームA 学校の裏山あたりの調査
野比のび太
ドラえもん
金尾溜
リルル・アントワネット
チームB 東区の雑木林あたりの調査
剛田武
骨川スネ夫
源しずか
チームC 知性班
出木杉杉男
亜井宇得男
夏季久家粉
山尾昇
「では夕方にもう一度ここに集まるように。では、解散」
ジャイアンの気まぐれで分けられたチームはそれぞれの調査に向かった。
◇◇◇
ジャイアンは飼い犬であるムクを連れて行くことにした。
「犬は鼻が利く。きっと調査の役に立つぜ」
ジャイアンは庭で寝そべっていたムクを起こした。
「ムク、散歩だぞ」
ジャイアンがそう言うと、ムクは空を見上げた。
「雨なんて降らねえよ。やなやつだな」
ジャイアンはムクの世話をほとんどせず、ムクの世話はジャイ子が担当していたということもあって、ムクはあまりジャイアンとの散歩に慣れていなかった。
「ムクちゃん、こんにちは」
「わんわん」
ムクはジャイアンよりしずかに対してのほうが良く懐いているところがあった。
ムクを連れた3人は雑木林のあたりにやってきた。このあたりではかなり大規模な雑木林で、夏になるとカブトムシを取るために多くの子供たちでにぎわう。
雑木林にさしかかったとき、突然ムクが吠え始めた。
「ばうわうばうわう」
ムクは何かとんでもないものを察知したようで、吠える声も力強かった。
「どうしたの、ムクちゃん? わわっ」
ムクは力強くしずかの手を引っ張った。
「何か見つけたんだ。ついて行ってみようぜ」
3人はムクに導かれるがままに雑木林の奥へ奥へと進んでいった。十分に太陽の光が届かないところまで来たところで、ムクは立ち止まり、吠えた。
「あそこに何かいるみたいだよ」
スネ夫が目の先に何かを見つけた。寄ってみると、そこには一匹の犬がぐったりと倒れていた。
その犬は泥だらけになっていたが、かなり上品な白い毛皮を持つ犬だった。
「かなり立派な犬だよ。でも、こんな種類の犬は初めて見たよ」
「なんでえ、スネ夫。犬に詳しいのか?」
「一応ね。エカテリーナを買うときに、ペットのカタログが送られてきて、世界中の犬が載ってたんだ。これは間違いなく血統書付きの高級なやつだよ」
スネ夫はそう断言した。
「まだ息があるわ。助けてあげましょう」
しずかは倒れていた犬を優しく抱えた。
「なら、ムクを連れて行く獣医が近くにあるぜ。急ごう」
3人はとても珍しい犬を発見した。
◇◇◇
のび太はドラえもん、金尾、リルルとメンバーになっていた。学校の裏山に向かうことになった。
リルルはドラえもんに違和感を覚えていた。
リルルが高性能センサーを起動すると、次のデータが現れた。
「アンノーン、アンノーン。外面上はただの猫。いや、タヌキかもしれません。しかし得体の知れない何かを感じます」
「……私にもただの猫……あるいはタヌキにしか見えないわ。でも違うというの?」
「アンノーン。しかし、何か得体の知れないベールに包まれています。そのベールを突破できません」
「メカトピアのセンサーで探ることができないというの?」
リルルはドラえもんに話しかけた。
「こんにちは、かわいい猫ね。私はリルル・アントワネットよ」
「はじめまして、僕ドラえもんです」
ドラえもんはそのように挨拶した。
猫が言葉を紡いだのに、リルルは違和感を覚えることができなかった。しかし、センサーはしきりに反応した。
「危険、危険、危険。この青いタヌキはメカトピアの脅威になりうる」
「この猫が……そうは思えないけど、いいわ。監視対象のリストに加えましょう」
リルルはドラえもんを重要監視リストに加えた。
ドラえもんもリルルから違和感を覚えたので、首元についていた鈴に触れた。
「ロボットみたいだ。こんなロボット、21世紀に派遣されていたかな?」
ドラえもんは首を傾げた。一応、時空法の許可を得たいくつかの22世紀のロボットが21世紀に来ている。リルルもその一人なのかと考えた。
「それじゃあ、行きましょう」
リルルは普通の女の子を演じた。
4人が向かったのは学校の裏山だった。
この裏山はのび太にとって最大の憩いの場でもあった。
この裏山には、のび太の一番の親友であるキー坊が住んでいる。のび太は毎日のようにキー坊に会っていた。
そのキー坊が危険にさらされていた。
4人が裏山に向かうと、そのふもとにたくさんの車が止まっていた。車には、株式会社極悪開発というロゴがついていた。
「あら、ずいぶんと賑やかね」
「開発会社の車だ。極悪開発か。嫌な気分になるぜ」
金尾はそう言って、その車に嫌悪感を覚えた。
「どうして?」
ドラえもんが尋ねた。
「極悪開発は僕の父さんのライバルなんだよ。金尾開発はいつも極悪開発に仕事を取られてきたんだ」
「なるほど」
「それに極悪開発は自然破壊を厭わないんだ。僕の父さんは裏山には決して手をつけないようにしてる。大切な自然だからね。でも、極悪開発は賄賂を渡して政治家を懐柔して、あちこちを開発して回ってるんだよ。裏山を開発するなんて」
裏山は、多くの人にとって安らぎを与えてくれていた。金尾も昼休みになると、裏山を見上げてリラックスする習慣があったので、裏山の開発には否定的だった。
のび太にとってもキー坊の身が案じられた。
「キー坊、大丈夫だろうか?」
「キー坊? なにそれ?」
ドラえもんが尋ねた。
「僕の友達なんだけど」
「こんな山に住んでるのかい?」
「うん」
「のび太君の友達が? それなら、様子を見に行ってあげましょう」
リルルがそう提案したので、のび太はみんなをキー坊のもとに案内した。
すると……。
極悪開発の人たちがちょうどキー坊のいる場所のあたりで話をしていた。
「ここをホテルにすれば、ゴルフ場へのサクセスも良好です。自然豊かなゴルフのメッカとしてかなりいい観光地になりますよ」
「しかし、こんなうっそうとしていてはやぶ蚊も増えるだろうし、快適に過ごせないんじゃないかね?」
「安心してください。ほとんど切り倒して、殺虫剤を大量にばらまきますので」
彼らはちょうどキー坊のいるあたりを開発しようとしていた。
「おや、なんだね、君たち。ここは我々の敷地だよ。勝手に入ってもらっては困るよ」
4人に気づいた社長がのび太にそう忠告した。
「あ、あのこのあたりにホテルを建てるのですか?」
「ああ、興味あるかね? それはちょうどいい。完成した暁にはぜひ遊びに来てね。はい、特別に500円割引券を上げるよ。ぜひ、友達にも宣伝してあげてね」
社長は金づるだと考えて、のび太に割引券を渡した。
「さて、一旦会社に戻って計画書を作成するとしよう」
「楽しみでございますね」
会社の者たちは上機嫌で山を下って行った。
のび太はキー坊のもとにみんなを案内した。
「キー坊……」
のび太はキー坊の前に腰を下ろした。
「え、キー坊ってどれ?」
「この子だよ」
のび太が示したのはただの小さな若木だった。
「これ? 木じゃないか」
「うん、でも僕の命の恩人なんだよ」
のび太は木に感情移入していた。ある意味、それはのび太の大きな才能だった。
リルルはそんなのび太を不思議そうに見た。
「ふーん、木を友達にするなんて実にユニークだわ。こんにちは、キー坊君。男の子?」
「一応、そのつもりだけど」
リルルは一応、このキー坊も探った。
「アンノーン、アンノーン」
「また? ただの木じゃないってこと?」
「これはメカトピアより97000光年離れた場所にある植物性由来の成分です。しかし、得体の知れないベールに包まれています」
「植物性の植物がどうして地球に? 本当に不思議な世界だわ」
リルルは日本に来てから、次々と不思議な概念と出会った。
「ドラえもん、何とかキー坊を助けてあげられないだろうか?」
「うーん……」
「頼むよ。キー坊を見捨てることはできない」
のび太はただの木とは思えないほど強い気持ちで助けようとした。
ドラえもんはのび太にとって一番ためになる方法は何かを考えた結果、ある道具をポケットから取り出した。
「植物改造エキスⅢ」
ドラえもんは一本の注射を取り出した。
「それは?」
「植物の細胞に、あるDNAを注入して、擬人化させるんだ。これを使えば、キー坊は本当にのび太君の友達になるよ」
ドラえもんはそう説明して、キー坊の幹に改造エキスを注入した。