ドラえもん リピーターエディション   作:やまもとやま

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9、動き出した運命 後編

 改造エキスを与えられたキー坊はピクピクと体を動かすと、ガサガサと木の葉を揺らした。

 

「キー坊?」

 

 のび太が心配そうにそう尋ねると、言葉にならない言葉で返した。

 

「キー、キーキーキー」

 

 キー坊は言葉を上げながら、体を懸命に伸ばした。

 やがて、根は地面の上に現れ、その根は人の足の形に変形し、幹から伸びた小枝は人の手の形になり、頭の木の葉は人の形へと変化した。

 

 キー坊は生き物の形に変化すると、地面に着地してのび太を見上げた。

 

「キー坊」

「キー」

 

 キー坊はすぐにのび太を認識した。ずっと、蓄えていたのび太への愛情を解放するような勢いで、のび太の胸へと飛び込んだ。

 

「キーキー」

「キー坊、動けるようになったのかい? ドラえもん、これはどういうこと?」

「百聞は一見に如かず。その通りだよ。キー坊は人のDNAを得て、人のように動けるようになったんだ」

「へー、すごいや。キー坊、僕はのび太だよ、よろしくな」

「キーキー」

 

 キー坊はすぐにのび太に懐いた。

 しかし、ドラえもんは擬人化したキー坊を見て、ある心配事をしていた。

 

「うーん、見た限り、すごい知能の発達具合だ。せいぜい猫か犬程度の知能にとどまるはずなんだけどな」

 

 ドラえもんはキー坊の知能の高さを問題にした。キー坊は改造エキスの権限をはるかに越える変化を見せていた。

 のび太を認識し、飛び掛かったり、のび太の言葉をある程度理解したり、さらには驚異的な運動神経。

 キー坊は空中で二度の前方宙返りを決めるほどに運動能力が発達していた。普通の植物だと、ぎきちないロボットのような動きが関の山のはずだった。

 

 キー坊はすぐに他の者にも受け入れられた。

 

「なんだかよくわからないけど、僕は金尾溜だよ。よろしくな、キー坊」

「キーキー」

 

 キー坊は金尾に挨拶した後、リルルのもとにも向かった。

 

「キーキー」

「……」

 

 リルルはすぐに反応せずに、真顔でキー坊を見つめた。

 

「解析中……驚異的な遺伝子変化が生じている模様。それをカモフラージュする謎の力が働いています」

「ドラえもんというやつの力かしら? 一体何者だというの?」

 

 リルルは気になったが、スパイとしての任務を継続するため、怪しまれないように振舞った。

 

「まあ、可愛らしい子ね」

 

 リルルは笑顔でキー坊を抱え上げた。

 

「キーキーキー」

「ふふふ、将来が楽しみだけど、あいにく、あなたは大人になる前にいなくなる存在。残念だけど」

 

 リルルはそうつぶやくと、キー坊を地面に解放した。

 キー坊は再び、のび太のもとにやってくると、のび太の胸に飛び込んだ。

 

「良かったな、キー坊。でも、裏山がなくなるかもしれないのは残念だな……彼らもみなキー坊と同じ仲間なんだよな」

 

 のび太はそう言いながらあたりの木々を見渡した。

 キー坊は助かるが、この地の木はほとんどなくなってしまう。しかし、それを止める術はなかった。

 

 ◇◇◇

 

 今回のジャイアンズの活動によって、ジャイアンズに新たに2名のメンバーが加わることになった。

 ジャイアン、スネ夫、しずかによって助けられた犬は保護され、しばらく獣医院で入院することになった。

 

 ジャイアンは翌日、父親、ジャイ子と共に助けた犬が入院している病院を訪れた。

 昨日の今日だったが、捨て犬は急速に回復して、すでに目を覚ましていた。

 

 ジャイアンがやってくると、その捨て犬は可愛らしい目を向けて来た。きれいに体が洗われていて、より上品さが際立った。

 

「立派な犬だね」

 

 ジャイ子も開口一番、犬の上品さを認識した。

 

「おう、元気になったのか?」

「わん」

 

 その犬は犬だが、犬らしくない鳴き声で応えた。

 

「そうか、良かったな」

「こいつはどっかのお偉いさんの飼い犬かもしれねえな。うちのムクとはえらい違いだ」

 

 父親は腕を組んで、犬を見つめた。その上品さはジャイアン一家にはまったく見合っていなかった。

 

「先生、飼い主は見つかったんですか?」

 

 父親が尋ねた。

 

「それが、特に保健所にも警察にも迷子届けは出てないようでしてね。私も獣医になって20年以上になりますけど、こんな上品な犬は初めて見ました。こんな立派な犬の届け出が出てないのはどうも不自然に思ってるんですよ」

 

 獣医の話によると、この犬の迷子届けは出ていなかった。昨日の今日とはいえ、こんな立派な犬の飼い主がすぐに迷子届を出さないのはたしかに不自然だった。

 

「父ちゃん、もし、こいつの飼い主が現れなかったら、おれ、こいつを引き取ろうと思うんだ」

 

 ジャイアンは覚悟を決めたような顔で父親に言った。

 

「バカ野郎、うちにはムクがいるだろが、こんな犬を追加で飼う余裕なんてうちにはねえよ」

「父ちゃんには迷惑かけねえからさ。餌のお金だって、配達のバイトで稼ぐ」

「ドアホ、ムクの世話もろくにしねえくせに何思いあがってんだ」

 

 父親はジャイアンの頭を小突いた。

 たしかに、ジャイアンはムクの世話もろくにしていなかったし、店番も満足にせず、いつも母親に叱られていた。

 

 しかし、ジャイアンはどうしてもこの犬を引き取りたかった。

 ジャイアンが犬を見つめると、犬も見つめ返してきた。男の目だと思った。

 

 その犬は男の目をしていた。ガキ大将の本能が反応する立派な目だった。

 だから、ジャイアンは一目でこの犬に強い友情を感じた。

 

「父ちゃん、頼む。土日は配達の手伝いを絶対するから」

「ダメだ。それにこんな立派な犬なら飼い主が見つからなくても、お金持ちの里親が見つかる。そのほうが、犬にとってもいいに決まってる」

「ならせめて、次の親が決まるまででも」

 

 ジャイアンはしぶとく懇願した。その様子を見ていたジャイ子が介入した。

 

「お父さん、お願い。私からもお願いするわ。このままお別れするのは、なんだか可哀想な気もするの」

「……ジャイ子が言うならしょうがねえか」

 

 父親はジャイアンには厳しかったが、ジャイ子には弱かった。やはり娘に対して、父親は甘かった。

 

「先生、この子、しばらくうちで面倒見させてもらっていいですか?」

「そうしていただけると助かります。治療費の請求先に難儀してましたから。いや、うちも小さな病院ですから、ボランティアで働けるほど余裕がないもんで」

 

 獣医はそう言って喜んだ。

 

「タケシ、約束だぞ。土日は配達の手伝い。さぼったら承知しねえからな」

「任されよう」

 

 ジャイアンは胸を張った。

 こうして、その犬は剛田家で引き取ることになった。

 

「ところでお兄ちゃん、この子の名前は?」

「名前か。そうだな……えー……」

 

 ジャイアンはこの犬と出会った瞬間の様子を思い出した。あのとき、犬は憔悴していて、腹ペコの状態のように見えた。

 

「決めた。ペコだ!」

「ペコ? そんな名前でいいのか?」

 

 父親が尋ねて来た。

 

「間違いない。ペコだ。お前はペコ。そうだよな?」

 

 ジャイアンはその犬にそう問いかけた。犬は首をかしげたが、やがて快く返事した。

 

「見ろ、ペコもペコと言っている。ペコにしよう。ジャイ子は何か案があるか?」

「ううん、ペコでいいと思うよ。ペコ、よろしくね」

「わん」

 

 犬はペコと命名された。

 

「一応唯一の手掛かりがこれです。犬の首につけられていたものなんですが、どうも外国のものなんじゃないかと思うんですよね」

 

 獣医はペコの所持品であったとあるペンダントをジャイアンに渡した。

 

「うーん、これもなんか立派そうだな。ペコの宝物か?」

「わん」

「なら、お前が大切に持っとけ。ほれ」

 

 ジャイアンはペコの所持品であったペンダントをペコの首にかけた。

 

 ◇◇◇

 

 キー坊はのび太の部屋で暮らすようになった。

 キー坊は人の姿を得てからというもの、すさまじい勢いで知性を伸ばした。

 

 ある日の夜、家族団らんでテレビを見ていると、キー坊はテレビ画面に張り付くようにニュースを見るようになった。

 

「こらこら、キー坊。画面が見えないよ」

 

 父親は寝転がってそう言った。

 

「それにしても賢い子ね。ニュースがわかるのかしら」

 

 母親もキー坊を迎え入れることを歓迎していた。

 

「のび太君より頭いいかもしれないね」

「うるさいな。僕だってニュースぐらいわかるよ」

 

 のび太はドラえもんにそう返したが、いまやっているニュースはアマゾン熱帯雨林で続く密漁事件のことを報道していて、のび太はアマゾン熱帯雨林のこともわかっていなかった。

 

「約20平方キロメートルに渡る熱帯雨林が一夜にしてなくなり、目撃者の話では、木が空を飛んだということで、現地民の間で話題になっております」

 

 ニュースはアマゾン熱帯雨林で大規模な森林の消滅事件が起きたということを報じていた。

 山火事の形跡や、木が切り倒された痕跡はなく、そのまま木がひとりでに消え去ったという珍妙な事件だった。

 とはいえ、ブラジルの話であり、その反対にある日本には関係ない話だったので、誰も真剣に見ることはなかった。

 しかし、キー坊だけはそのニュースを興味深そうに見ていた。

 

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