アオハル単位が足りません!〜卒業したくば青春しなさい!〜 作:夜野千夜
ポスターを貼り出して二週間が過ぎた。……のだが。
「だぁれも来ねぇ……」
机に顔を伏せいかにも意気消沈といった様子で湊が呟いた。
「こんなに誰も来ないなんてー……」
美乃も珍しく元気がない。そんな幼馴染み二人の様子を見ていた夕湖は、パックのいちご牛乳を音をたてて飲みながら、アオハル委員会のメンバーで貼ったポスターに視線を落とした。
「ポスター自体は悪くないのにね」
「ねー……。何がダメなんだろー?」
「あと一人なのになぁ……」
「落ち込んでいるところ悪いが、さらに悲報だ」
そんな三人のもとに和茶が現れた。
「あら、岬くん。自分から話しかけてくるなんて珍しいじゃん。いつもは湊の安い挑発に乗んなきゃこっちに加わらないのに」
「用事があるんだ、仕方ないだろう」
「お茶ちゃん、悲報ってー?」
「先程園村先生とすれ違った時、校長からの言伝を預かってな。『今月までにもう一人集められないと、卒業に必要なアオハル単位を出すことはできない』とのことだ」
「えぇー!?そんなぁー!?」
「まじかよ……。こりゃ今まで以上に本腰入れて探さないとだな」
「ずいぶん焦らせるようなことすんだね、校長先生も。ま、それも仕方ないか」
和茶からの伝言に、部外者の夕湖もまた肩をすくめた。普段はそんな様子を見せないが、これでも幼馴染みを案じているのだろう。
「どうする、白江」
「まずは情報共有だな。他のやつらにも伝えとこう。それから……どうしたもんかね……」
「みなちゃーん、わたし卒業できないのー……?」
「それは絶対避けたいところだけどな……。今んとこ打つ手がないのも事実なんだよなぁ……」
美乃と湊と和茶の三人は揃ってため息を吐いた。
「あたしが参加できるくらい余裕があれば良かったんだけどね」
「何か理由でもあるのか?」
「まぁね。あたしが入りたい大学、今の偏差値じゃ難しそうでさ。勉強頑張らないといけないわけ」
「気にしないでゆこちゃーん。その気持ちが嬉しいからー」
「……?どうした白江、難しい顔をしているが」
「難しい顔選手権日本代表岬和茶選手には言われたくねぇ〜」
「どういう意味だそれは……」
和茶は付き合いきれないと言わんばかりに三人のもとから離れた。
「……なぁ、夕湖。無理しなくても良いんだぞ」
「何の話?あたしはただ将来良い仕事に就きたいだけですけど?」
「……それなら良いけどな」
「二人ともー、なにヒソヒソ話してるのー?」
「これからどうするか改めて話してただけだよ。気にするな」
湊は乱雑に美乃の頭を撫でた。まるで何かごまかすかのように。
「今日はみんな集まれないかー」
放課後。アオハル委員会のグループに今日集まれるかメッセージを送ったが、今日は過半数が用事があるとのことで集まるのはよそうという話になった。
「俺としてはさっさとこれからの方針決めたいんだけどな」
「わたしもー。早くアオハル委員会のメンバー集めたいねー」
「あと一人なんだがなぁ」
そんな世間話をしながら歩いていると。前からボロボロの少年が歩いてきた。
「……あれ不良校で有名な鎖田高校の制服だな。目合わせるなよ、美乃」
「う、うんー」
二人がボロボロの少年とすれ違う時、少年は
「ちっ、鹿目の野郎……」
と呟いた。
「鹿目、ね……」
「みなちゃん知ってるのー?」
「まぁな。青桜の番長って有名な一年だよ」
「番長……かっこいねー。会ってみたいなー」
「やめとけ、不良だぞ?何されるかわからねぇし、近づくのはやめとけよ」
「でも、良い子かもしれないよー?わたしは一つのイメージだけでその人を決めつけたくないなー」
「番長って呼ばれてるやつが良い子な可能性あんのかね……。お、コンビニ発見。俺寄ってくけど美乃はどうする?」
「わたしは外で待ってるよー。特に買う物もないからー」
湊がコンビニに入っていったため、美乃は外で待つことにした。待っている間にスマホでも見ようとした時。
「……?」
美乃の耳は、人の声のようなものを拾った。しかし近くに人はいない。気のせいかと思いつつも、その声が気になった美乃はコンビニのすぐ横の路地裏を覗き込んだ。
「!!」
そこには青桜高校の制服を着た少年が、ボロボロな姿で横たわっていた。
「おーい、美乃ー?」
「!み、みなちゃん、大変だよー!」
ちょうど湊が戻ってきたため、湊の腕を引いてその少年のもとに駆け寄った。
「大丈夫ー!?」
美乃が軽く肩を叩くと、わずかに反応があった。どうやら意識はあるようだ。
「病院連れて行かないとー!」
「いや病院連れて行くよりうちに連れてった方が早い。俺が体支えて行くから、美乃は手当できる物買ってきてくれるか?」
「わ、わかったー!」
二人は一度別れて家で合流することにした。
「う……」
美乃と湊が懸命に看病していると、少年は目を覚ました。ゆっくりと体を起こし、少年はきょろきょろと辺りを見回した。
「あ、起きたんだねー!良かったー」
「どっか痛むところは?……って、体中痛むに決まってるよな。いくら手当てしたとは言え、あくまでも応急的なものだし」
「あの……ここは?」
「ここはわたしたちの家だよー。きみが倒れてたから連れてきたのー」
「そう……なんスね。すんません、ありがとうございます」
「気にするな。後輩が倒れてたら助けんのが先輩の役目だしな」
「先輩……?……あ!お、同じ制服ッスね!すんません、先輩とは知らなかったッス」
「そんな謝らなくて良いよー。元気になってくれて良かったー」
「ところで、お前なんであんなところで倒れてたんだ?」
「……オレの目つきが気に入らないって、因縁ふっかけられて。それで相手してたら油断してたと言うか……」
湊はそれも仕方ないな、と心の中でうなずいていた。少年の目つきは良い方ではない。ましてや先程すれ違った鎖田高校の生徒などが彼を見たら、突っかかれても仕方はない。
「何はともあれ、起きて良かった。このまま起きないかと思ったしな」
「うんうん、良かった良かったー」
「本当、助かったッス。あ、そうだ先輩方の名前聞いても良いッスか?」
「俺は白江湊」
「わたしは白江美乃だよー」
「オレは
「もちろんだよー」
飛翠が部屋から出たのを見ると、湊はため息を吐いた。
「まさかあいつが鹿目だったか……。うちの番長だっていう」
「でも話した感じ良い子そうだったねー」
「まぁ、そうだな。自分から喧嘩売ってるわけでもなさそうだし。少しはイメージ変わったよ」
「センパイ、ばあちゃ……祖母が近くまで迎えに来てくれるみたいなんで、近くに何か目立つ建物とかあったら教えてほしいんスけど」
「あー、いいよいいよ。俺が送ってくって伝えてくれ。美乃もそれで良いな?」
「うんー」
「申し訳ないッス……。あ、ばあちゃん。来なくて良いってさ。センパイが送ってくれるって。……うん、うん。じゃあ、また」
飛翠はスマホをしまった。
「そんじゃ、そろそろ行くか?あんまり鹿目のばあさん待たせても悪いし」
「あ、はい。センパイ方、お世話になりました!」
「二人とも気をつけてねー」
二人に手を振り、手当てに使った道具を片付けていた美乃は
「あ、鹿目くん委員会に誘ってみれば良かったなー」
と気づいたが、まあ仕方ないと切り替えることにした。