「次!右!」
「ちょっ…早っ…って、んなっ!?」
遥か空から降り注ぐ、巨大な杭
悪魔すらもを滅ぼす魔剣、ダインスレイブが、二機を目掛けて次々と落ちてくる。
右へ左へと振り回されながら、声にならならない悲鳴をあげながら必死に避け続けるカゲト
鉄血のオルフェンズの最終決戦再現ミッションを謳っていることだけはある。
大量のグレイズ軍団の大挙、そして降り注ぐダインスレイブ、最後に出てくるエース機、これらを全て無補給で乗り切る必要があるのだ。
流石はハードミッション、カゲトは一人で挑まなかったことに安心するとともに、よく本編の三日月達はこれをいけたものだな、と畏怖すらを感じる。
最も、今カゲトが驚愕しているのはそれよりも、目の前の機体であるが……
「そこっ!」
カゲトに迫りつつあったダインスレイブの杭、それに上空から砲撃が浴びさせられると、僅かに軌道が逸れ、カゲトのシャドウグレイズの真横へと轟音をあげ突き刺さり、クレーターが出来る。
「高高度からの迎撃…んなのアリかよ!?」
上空ではWR形態にて駆け巡るデルタシャリヤー
器用な動きでダインスレイブの雨の中を駆けると、時折カゲトの方へと落下するものを変形して攻撃、軌道を反らすと直ぐ様変形し、次々と避けていく。
「カゲトくん、大丈夫か?」
「あ、いえ、自分は全然…
あ、次はd4です」
せめて、サポートはしようと、ダインスレイブの予想落下地点を割り出しているも、危険度が高いものは全て予め上空で迎撃されるため、カゲトは最低限の攻撃を避けるだけで済んでいた。
「よし!これで、最後か」
最後に一撃のダインスレイブが降り注ぐと、さっきまでの地獄のような地響きがようやく落ち着き、あたりが静寂に包まれる。
(ほんと、この人何者だよ…
まぁ、お陰でヌルゲーだったけども)
その常識はずれの強さにドン引きしながらも、一人では到底クリア出来なかったミッションを簡単に進められたことには感謝しきれない。
いつもソロプレイのカゲトには刺激が強すぎる体験だったが
「あ、えと、助かりました
…てか、自分要りませんでしたねこれ」
「いや、カゲトくんの適切なサポートがあってこそだよ
あの数の落下予測なんて良く出来るな…
俺は計算苦手だから、感覚でしかいけないから、結構助かったよ」
カゲトは自虐的に笑うも、あくまでもカゲトの助けあってこそだと、フォローしてくれる。
「いやでも、自分なんかいなくても……」
「そんなことないさ、カゲトくんは凄いよ」
何処までも卑屈になってしまうのはカゲトの悪い癖だ
そんなカゲトに気負うことなくフォローするその様が人間性の差をまじまじとカゲトに叩き付けている。
「…っ!?カゲトくん!」
ふと、空を見上げると、何かに気付き、デルタシャリヤーは直ぐ様変形し、カゲトの側へ急ぐ
「え、なっ!?」
突然、叫ぶと同時にシャドウグレイズを蹴り飛ばすデルタシャリヤー
いきなりの出来事に驚愕するカゲト、その瞬間、轟音が響き、辺りを閃光が包み込む。
「レギンレイズジュリア!?いや、まだダインスレイブが…?」
もう敵が来たのか、それとも攻撃パターンを見誤ったのか、その可能性を考えるも、目の前の光景がそれを否定する。
こんなの本来のミッションではあり得ない。
響く衝撃、やがて"空が割れる"
「まさか…これは…」
この光景をカゲトは一度見たことがある。
そう、あの理不尽なアンダーグラウンド…
「裏GBN…だと!?」
意味不明な数字の羅列、空に浮かぶ、ぐちゃぐちゃなグラフィックのオブジェクト、それは紛れもなく以前苦労して足を踏み入れた裏GBNそのものであった
「どうなってる…?デルタシャリヤーは!?」
さっき、カゲトを蹴り飛ばしたデルタシャリヤーの姿を探すも見当たらない。
さっきまでカゲト達がいた場所は真っ黒な空間に包まれており、なんの反応も見当たらない。
「…俺を庇って、消えた…?のか?
なにがどうなってる…!?なんで裏GBNに…」
今までGBNのミッションを一緒に受けていたはずだ、それが何故かあの裏GBNに来ているのか、いや…
「裏GBNが、こっちに来た…?」
マップや座標を確認するも、自分がいる位置は変わってない。
しかし、空に広がるのは紛れなもなく裏GBNそのもの
空や先程カゲトがいた位置が、裏GBNに侵食されている。
「ハル、例のカードのプログラムは?」
以前、裏GBNに行った時はあのオルタナティブカードのプログラムを使った、ならば何かしらの原因でそれが作動したのか、そう思ったが…
『作動形跡、なし
…いや、同じ反応を確認』
「同じ反応…?」
ハルの返答は想定外のものだった
『はい、カゲト様のオルタナティブカードは作動していません、しかし、フィールド上に一致率82%のプログラムログを確認しました』
「…ってことは!?」
上空から降り注ぐ巨大なビーム
とっさにシールドを構えるも、その衝撃がずっしりと襲いかかる。
『データベース照合なし、アンノウンMS反応、確認』
「まさか、こういうことかよ…」
割れた空から降り立つ一つの機影
巨大な翼を広げ、その二つの眼で泥にまみれるシャドウグレイズを見下す。
「…天使」
思わず口からそんな言葉が出てくる。
翼はためかせ、空に浮かぶその姿はまさに天使…
「否!我が漆黒の翼は闇を切り裂き!光を飲み込む、そう、堕天使の翼!
我こそは堕天せし翼を纏う、魔王なり!」
「……は?」
カゲトの呟きに答えるかのように響く少女の声
その飛んでもない台詞に思わずすっとんきょうな声が溢れる。
「えーと、日本語でok?」
「汝こそは、魔眼の力に見いられし者か、やはり預言者の信託通りか…」
全く理解できてないカゲトとは裏腹に、空に浮かぶ声の主は、その機体の羽を広げ、銃口をカゲトへと向ける。
「え、ちょっ…待っ…」
問答無用、とばかりにその機体は展開したライフルをカゲトのシャドウグレイズに目掛け放つ。
「危なっ…!
待ってくれ!あんたがその、魔王、なのか?
どうして俺を…」
間一髪でビームを避け、岩影へと身を隠すと、センサーを展開させつつ、魔王と名乗るそれへと、通信を開く。
「左様!我こそが漆黒の魔王…!
貴殿が、魔眼の使い手である以上、この出会いは必然…!
さぁ、我に膝まづき、その力を我に献上するが良いぞ」
「…………?
えー、魔眼…?力…?
ってことは、オルタナティブカード目当てか…!」
「……!
左様、なれば、話は早いだろう?」
ようやく理解が届き、納得し、一人相づちを打つも、同時に飛んでも面倒くさい事態になったことを理解する。
「あぁ、そうですか、とそう簡単に渡す訳にはいかんだろ…!」
あれほど求めていた、魔王なる人物との遭遇、それ自体は叶ったが、事態はカゲトが想定する中でも最悪の部類だ。
裏GBNで会ったあの二人組の男のようにオルタナティブカードを奪いにくる、魔王が噂通りの強敵ならば、それは出来れば避けたかった。
しかし、向こうからこうも無理やり介入し、敵意むき出しである以上、それはもう叶わない相談だろう。
「やるしか、ないのか…」
逃がしてはくれないだろう。
当たり前のように、操作が効かなくなった帰還ボタンのウィンドウを消す
それに、あの空の様子から見て、ここが裏GBN扱いならば、敗北は何がなんでも避けないとならない。
操縦スロットを今一度握り締めると、空を見上げる。
「さぁ!奏でようぞ、貴様の鎮魂歌<レクイエム>を…!」
ブースターを吹かし飛び出した瞬間、さっきまで隠れていた岩が粉々に粉砕される。
「ハル!あの機体は…!」
『解析結果を表示、フリーダムベースのオリジナル改造機と判断、詳細データ不明の為、予測結果を提示』
ちゃっかりと、スキャンしていた魔王の機体の解析データがサブディスプレイに表示させる。
深紅と漆黒に包まれたアシンメトリーにカスタムされたフリーダム、羽もベースよりも大型化されており、所々にジャスティスの意匠すらも見受けられる。
「成る程、なら、ワンチャン…!」
こちらのビーム耐性は十分、相手には見るからにビーム兵器しか搭載していないように見受けられる。
それならば、相性差でなんとかなる。
しかし、それは逆にでも言えることであり、こちらもほとんどの武装が実弾、フェイズシフト相手では分が悪いようにも見える。
『ロックオンされました、砲撃、来ます』
「それは受ける!手数で攻めるぞ!」
ショルダーシールドを正面に構え、ビーム砲撃を弾きながら、ホバーで地面を疾走しながら、空に舞うフリーダムの真下へと急ぐ。
「ええい!ちょこまかと、小賢しい…!」
ホバーで巻き上げた砂により、微妙に照準がずれ、苛立ちを覚える魔王。
「弾道補正…マイナス2…当たれ…!」
肩部のガトリングを展開し、フリーダムへと放つも、意図も容易くその攻撃は弾かれる。
「ククク、そのような攻撃、無駄ぞ!」
「なら、これなら…!」
ガトリングを打ちながら展開したレールガンをフリーダムへと向け、引き金を引く。
鈍い音の発射音とともに、爆発音が響く
ガトリングはあくまでも牽制、油断させて、発射に時間のかかるレールガンを確実に当てる為、であったが…
「なっ…!?命中はした筈だぞ!?」
煙の向こうから出てきたのは無傷のフリーダム
いくらフェイズシフト装甲とはいえ、フルチャージのレールガンを叩き込めば、少しはダメージが入る…筈だったが、フリーダムは依然として無傷、魔王は嗤いながら、唖然とするカゲトを見下ろし続ける。
「その程度か?ならば!次は我の番だ…!」
その言葉とともに幾つもの光が舞い、フリーダムのビームがシャドウグレイズへと迫る
「その角度から…!?どうなってる…!」
構えていたレールガンがビームに貫かれ、爆発する。
幸いにもその衝撃に紛れ、残りの攻撃の直撃は免れたが、しかし、カゲトは読みが外れたことに焦りを覚える。
「今の攻撃、ドラグーンか…?
あの機体、ストフリじゃなくてフリーダムだよな、クソ!なにが…」
背部の翼は改造されてはいるが、ドラグーン搭載のストライクフリーダムのものではなく、フリーダムのもの
あの攻撃はフリーダムのハイマットフルバーストによるものではない、確認は出来なかったが、明らかに機体外からの砲撃であった。
「さぁ!舞い踊れ!」
「チィッ…このままじゃジリ貧…か…!」
次々と放たれるビームの嵐、なんとか避けたり、防御を試みるも、その圧倒的な攻撃の前に、少しずつ耐久値が削られていく。
「ハル、謎の攻撃の解析は!?」
『依然、不明です』
あの攻撃の原理を解析しなければ、活路はない。
そう思いハルに任せていた解析を聞くも、帰ってきたのはそんな意味のない問答
「…いや、ってことは恐らく、オルタナティブカードの関連か!」
しかし、GBNの大概のプログラムは解析できるように作ったハルが匙を投げるということは、異端なその力を使っているとも推測される。
『…了解しました、探査アルゴリズムにカゲト様のカード情報をアップロード』
「急げよ……っと、危なっ!」
少しディスプレイに目を離した隙に、ビームが肩部装甲を掠め、装甲を吹き飛ばす。
「ほぅ、余所見とは、随分と余裕ではないか、然れば…!」
そんなカゲトの態度が気にくわなかったのか、魔王は謎の砲撃を止めると、手にしたライフルを構える。
「序曲プレリュードは終わりだ、この我が直接手を下そうぞ!切り裂け!聖剣、バルムンク!」
フリーダムが、手にしていたライフルが音をたて姿を変え、巨大な大剣へと変わる。
上空からブースターを吹かし、地面を這い回っていたシャドウグレイズへと狙いを定め、急降下するフリーダム
「この…!」
直ぐ様、マウントしていたアックスを抜き、大剣の攻撃を受け止めようとする。
「なっ…!?」
しかし、アックスは意図も容易く、根元から真っ二つにと、切断される。
「愚かな、無意味と知れ…!」
「クソ……」
ここまでか、そう諦めかけるも、カゲトらしくない衝動が、まだだと、その腕を動かす。
「だとしても…!なぁ…!」
折れたアックスを投げ捨て、拳を握り締める。
それと同時に腕部のシールドが回転し、裏に隠されていた杭が姿を表す
「なに…!?」
流石にこれは読めなかったのか、余裕で剣を振り下ろした魔王に隙が出来る。
「フッ…アンタ流でいくならばな…!
行くぞ…!貫け!魔剣!ダインスレイブ!!」
悪魔殺しの魔杭が、轟音を立て、シールド裏から放たれる
それは、先ほどまで降り注いでいたようなもの比べれば小さく、貧弱に見える、しかし、近距離で相手の腹に穴を開けるのには十分だ
電磁加速した小型の杭がフリーダムの腹へを貫こうと、伸びる
その決定的な一撃は確かに、相手を……
「っ…!ディメンション・シフト…!」
「なっ…!?」
そう、確かにシャドウグレイズのダインスレイブは敵機を捉えた
しかし、カゲトの目に映っているのは、左腕負傷した黒い"ジャスティス"であった
「我に、この手を使われるとは、少し見誤っていたようだな」
機体に衝撃が走ると、ダインスレイブを放った左腕が切り裂かれる
振り替えると、そこには無傷で剣を構えるフリーダムの姿が
「どうなってる…?
いや、そういうことか…!」
単純な話だ、始めから、"二機を同時に操っていた"それだけのことだ。
擬似オールレンジもそれで説明がつく
流石に細かい仕組みまでは分からないが、もう一機で援護射撃や、自身の盾にすることで、あの戦闘スタイルを実現させたのだろう。
剣先を払うと、シャドウグレイズの頭にへと向けるフリーダム。
「…流石は噂の魔王、ってか」
小手先の技は通用しない、その圧倒的な力の前には為す術もない、自分では敵わないと、いつものように自虐的に笑うしかないカゲト
「…そうとも!我の力は何人たりとも寄せ付けぬ究極にして、最強!
究極の闇の力の前に、膝まずくが良い!」
そんなカゲトの言葉が気に召したのか、意気揚々と、見せつけるように、翼を広げながら仰々しく大剣を掲げるフリーダム
「……?あ、えーと、成る程
カッケェな…クソ…」
会話に一瞬テンポが遅れるも、言わんとしてることは理解できる。
悔しいが、実力では敵わない上に、あれ程に我を出して、自由気ままに振る舞う術は、カゲトには到底出来ない。
その力が、その振る舞いが、カゲトにとっては自分とは真逆でカッコよく見えたのだ。
「……!そ、そうか!
まぁ、我の力に牽かれるのはこの世の術、そうなるのも無理がないな、うむ!」
心なしか、弾んだ声でそう言いつつ、魔王は二機のフリーダムとジャスティスを同時に操作しつつ、傷ついたジャスティス下がらせる。
「我の手をここまで煩わせたその心意気は褒めて遣わそう、されど、ここまでだ」
結局はどうやっても、強者には勝てない
自分だっていける、そんなのは幻想に過ぎなかったのか
「…いや、まだだ」
いつもならば、とうに諦めているであろう。
しかし、何かが、カゲトを突き動かす。
こんな感情は始めてだ
ピコン、とサブディスプレイに表示されるハルの解析データ、思わずニヤリと微笑む、それに気付いてか、魔王も嬉々として武器を構える
「…ほぅ、そうでなくては
まだ我を楽しませてくれるか!
どうやら終演の時間にはまだ暫し早いようだ…」
『カゲト様、お待たせしました』
「遅いぞ、だが、よくやった…!」
片腕がもげ、全身ボロボロのシャドウグレイズがカメラアイを輝かせ、フリーダムを見据える。
そうだ、真っ正面から倒さなくとも、カゲトにはカゲトなり戦い方がある。
「さぁ、行くぞ…第二ラウンド…いや…この場合は…」
釣られるようにニヤリと微笑む二人
「「第二楽章の開演だ…!」」
釣られるかのように、そう二人は叫びながら、火花を散らすのであった……