「クカカカカ!
我に挑むその勇気は認めよう!
しかし!この魔王の漆黒の翼は何人たりとも落とせはしないと知るが良いぞ!」
『カゲト様、機体の耐久値がイエローを突破、これ以上の戦闘は危険です』
「あークソ!こうなりゃやけだ!
行くぞ魔王とやら!」
「ほぅ、面白い!来るが良い…!」
10話 交錯する魂
状況は圧倒的にカゲトの不利、片腕はもげ、ガトリングとレールガンは失い、近接武装もなくなった。
しかし、カゲトはまだ諦めてはいなかった。
「まだだ…!ハル!撹乱幕展開!例の仕込みは任せた!」
『了解しました、』
ハルの操作で残っていた最後の撹乱幕を放つ。
ある程度の動作は予めプログラムしておいて自動化させておいた故の芸当だ。
スロットを握りながら、片手で拡張キーボードを叩く
限界を越えたマルチタスク、今にも脳が破裂しそうになりながらも、レーダーに映る魔王のフリーダムを見つめる。
「これくらい、奴の二機同時操作に比べれば、容易いもの…!」
「今更、策を講じようとも、我の力の前では無意味と知れ!」
撹乱幕にビームが弾かれるも、それを切り払うかのように、その手に持つ大剣、バルムンクを振るうと、シャドウグレイズへと迫るフリーダム
『カゲト様』
「あぁ…!」
近接武器はなくし、シールドは腕ごともがれた、今のシャドウグレイズには近接攻撃を防ぐ術はない。
しかし、カゲトはマップに表示されたいくつものマーカーをチラリと横目に入れると、ニヤリと笑いながら、スロットルを押し込む
「ほぅ、我を誘い出したのもこの為であったか
破れし屍の置き土産を使うとは!」
地面に転がっていたのは、先程のミッションで倒したグレイズの残骸、その手に持っていたアックスを奪い取ると、フリーダムの一撃を受け止める。
「されど!所詮は無駄な足掻き…!」
「あぁ、確かにお世辞にも良い武器じゃないがな…」
先程、自身のもので受け止めた時は一瞬で真っ二つに折られてしまったのが、記憶に新しい。
自前のものでそうならば、モブ機体の使う武器など、意図も容易く…
『構築完了、転換します』
「よくやった…!そっちがその気ならば、こっちだってな…!来い…!」
「なにっ…!?まさか…!」
アックスがソードに切断された、その瞬間、手にしていたのは、傷一つないアックス
そのままブースターを最大まで吹かし、フリーダムを押し返す。
「再生しだと!?否!我のディメンションシフトを模倣したか!」
「流石に、本人には一瞬でタネが割れるか…!」
フリーダムの横に転がっていたグレイズの残骸の手に転がる、ついさっき折られたアックス
魔王のフリーダムが同時操作しているジャスティスと、位置の入れ換えを行ったさっきの技、それを限定的に再現したのだ。
あの技がオルタナティブカードを用いての物だと分かれば、こちらとて、その手段は有している。
ならば、後はログから相手のプログラムを解析し、コピペするだけの話だ
「…とはいえ、武器だけの限定だが、お陰で予備はいくらでも落ちてるんでな!」
手にしたアックスをフリーダムに投降すると、直ぐ様手には新たなものが握られる。
今、二人が戦っている場所は、デルタシャリヤーが一人でグレイズ軍団を殲滅した戦場だ
彼が、効率良くコックピットや頭部だけを潰して殲滅してくれたお陰で、武器はほぼ無傷のまま残されいるのが功を奏した。
「えぇい!雑兵ごときに…!」
腰部レールガンで投げ込まれたアックスを破壊すると、大剣をライフルに変形させ、翼からバラエーナを展開する
「なれば!その全てを無に帰すのみ!
さぁ!刮目せよ!エターナルフォースストーム!!」
「エ、エターナルフォース…?って、ハイマットフルバーストかよ…!」
その全ての砲口を開き、一気に放つ
大袈裟な名前だが、いわゆる一斉射撃だ
いい加減魔王の事が分かってきたのか、その攻撃の正式名を呟きながら、急いで射線から逃れようと…
『カゲト様、これは…』
「チィッ、やっぱそうするか…」
フリーダムから放たれた光陣が次々と爆発を起こす
カゲトは避けようとするも、その攻撃の意図に気付き、足を止め、フリーダムを見つめる。
逆に動けば巻き添えを食らうだろう。
「愚かにも、我の力を利用したその蛮勇は称賛に値する、されど!こうなればどうしようもなかろう?」
「どんだけの火力だよ…マジで全部潰しやがった!」
あの一撃だけで、マップに残っていたグレイズの残骸はその武器ごと、火だるまに包まれた。
言うのは簡単だが、あの一瞬で全ての残骸を把握し、それを有言実行するだけの火力を叩き込むのは至難の技だ
魔王はそれを意図も容易くやってのけた。
二機分の火力はあるとはいえ、これは流石に想定外だ
『調子に乗って喋るからですよ』
「どうせバレるんだし、良いだろ!
それに、本命は……」
ここまではカゲトの想定通りではある。
流石にまさか、一撃でものの見事に地上に転がる全ての残骸を破壊してみせるとは思ってはなかったが、遅かれ破壊されるものと見てそこまでは期待はしてなかった。
「さぁ!真なる魔王の力を見せてやろう…
ディメンションシフト!」
「っ…!早い…!」
フリーダムの姿が消える。
次の瞬間、真後ろから放たれるバラエーナ
咄嗟に身を翻し、回避を試みるも、魔王の方が早い
「この…!」
『メインブースター破損』
致命傷は避けたものの、黒煙をあげるバックパックユニット
ハルから告げられる被害報告を聞き流しつつ、直ぐ様反転し、ライフルを放つ
「遅い!その程度では我が神速の翼は捉えられん…!」
虚空を捉えるライフルの弾
カゲトのでっち上げた複製と違い、魔王はカードの力を完全に使いこなし、自由自在にその姿を移動させる。
「クソ…さっきまで手を抜いてた…ってか、全く、ズルい奴だ…
…いや、まてよ」
最初からこの技を使えば、カゲトの抵抗など虚しく、一瞬で魔王が勝っていただろう。
しかし、何故か魔王はそれをしなかった、カゲトはてっきり魔王が手を抜いていたの思っていたが、もしくは…
「……ともかく、やるしかない!」
再び上空へと佇み、銃口を広げるフリーダムを視界に収め、脚部のサブスラスターを吹かし、加速していく。
武装と片腕を失ったことで機体が軽くなったのが幸いして、この程度の出力でもなんとかなる、あとは、魔王に"とっておき"を喰らわせるだけだ。
「まぁ、それが出来りゃ苦労しないんだがな!」
「さぁ!散るがよい!」
次々と迫りくるビームの嵐、今の極限状態で何処まで耐えられるか
それに、魔王の攻撃はフリーダムの砲撃だけではなく……
「来たっ…!」
真横から放たれるビーム
そう、魔王が同時操作しているジャスティスだ。
この変則的なオールレンジ攻撃相手ではなす術も…
『カゲト様!』
警告音とともに迫るビーム、今の耐久値ではその一撃ですら、耐えられない。
「いや、計算通りだ!」
しかし、カゲトは魔王を睨みながら微笑む。
「なんと…!?」
その一撃がグレイズの胴を貫き、爆炎に変える。
しかし、魔王はその僅かな一瞬を見逃さなかった。
片腕のもがれた"通常のグレイズ"が貫かれる一瞬を
「さっきのお返しだ…!」
「またしてもか…!何処に!?」
魔王がフリーダムとジャスティスの位置を入れ換え、ダメージを代替えしたように、カゲトは意趣返しとばかりに、グレイズ同士でそれをやってのけた。
しかし、地上の残骸は全て破壊したはず、ならばさっきの機体は一体…?
魔王はふと、あの一瞬を思い出す、撃破されたグレイズ、武器を一切持たず、何故か片腕のかけたそれを…
「上か…!!」
「ご名答!」
その魔王の介入により半ばバグった空、その先の彼方、宇宙空間からカゲトの声が響く。
「アンタが、無理矢理介入したお陰で、宇宙エリアの存在が分かりにくくなってたんでな、そして…これが本物の…!」
「悪魔殺しの魔剣<ダインスレイブ>…!」
先程、囮にしたグレイズからもぎ取っていた巨大なユニットを片腕に無理やり装備させる。
それは、先程盾に仕込んでいたような小型のものではなく、本物
ミッションにて、カゲト達を狙い撃っていたその巨大な杭が装填され、ギラリと鈍い光を放つ。
『警告、不明なドライバの装備を確認、戦闘システムに深刻な影響の可能性、直ちに使用の停止を提言…』
バチバチと火花を散らしつつ、その巨大な、ダイススレイブ発射装置が展開する。
響く警告音を無視しながら、火器管制のプログラムに強引にNPD用のシステムを導入させ、衝撃で歪んだ頭部カバーを強制排除し、カメラアイを露出させる。
「構うな!どうせ一撃だけだ!ぶっ放せ!」
ボロボロの機体が軋みをあげる。
今にも崩れ落ちそうなその機体はそれでも、意地で地上のフリーダムへと照準を合わせる
「されど!そのような一撃なぞ…!」
そうとも、当たらなければなんの問題もない
先程のようにジャスティスとの位置入れ替えを行えば、フリーダムが撃破されることもない
「そうかもな…
だか、知ってるか?魔剣ってのは血を啜らない限り、鞘には戻らないってな…!」
ニヤリと笑いトリガーに指をかけるくカゲト
「っ…!無意味だ!ディメンションシフ…」
これで、再び安全圏にいるジャスティスと入れ換えてば問題ない
そう思い、得意の座標入れ換えを…
「なっ…!?」
しかし、魔王の目に映ったのは、安全圏の風景ではなく、何故か宇宙に居るはずのシャドウグレイズが目の前で今まさにダインスレイブ放とうとする姿
「俺のパチモンプログラムじゃ、認識コードを誤魔化して、同じ機体同士の移動が限界、だか、アンタの力なら、他の機体だってな…!」
そう、確かに魔王の機体移動は成功した。
しかし、その移動の際にカゲトが仕込んだプログラムにより、ジャスティスの位置と、フリーダムの反応を偽造させたカゲトのシャドウグレイズの位置を入れ換えたのだ。
それは即ち、本来安全圏であるジャスティスを避難させておいたフリーダムの背後に……
「喰らいやがれ!!」
「この…!させるかぁ…!」
地面に落ちながら、限界までチャージされたダインスレイブを放とうとするカゲト、しかし魔王とて、黙って食らうつもりはない、この一瞬でカゲトのシャドウグレイズを撃破すれば…
バラエーナでは間に合わない、取り回しのよいライフルを咄嗟に真後ろのグレイズへと……
「なっ…!?誰だ!?」
突如、響く轟音、カゲトのものではない、遥か遠くからの反応
その存在に魔王は気づくも、反応するより早くそのビームの一撃にライフルが貫かれる。
「今だ!喰らいやがれぇ!!」
その隙は余りにも致命的、爆音とともに、グレイズからダインスレイブが放たれる
「まさか!?この我が…!!」
その一撃が貫くのは、悪魔ではなく、"魔王"
今度こそ、確かにフリーダムの胴体を食い破ったその一撃は深々と突き刺さり、やがてその身は炎に包まれる。
その様をみてカゲトは満足げに口を歪ますと同時に、発射の負荷に耐えきれなかったシャドウグレイズも、バラバラに吹き飛ぶのであった
「……なんとか、勝てたみたいだな」
ステージの遥か彼方の小高い山、そこで排熱の煙の漂うロングライフルを格納するデルタシャリヤー
その機体の主、"ユウキ"は満足げに微笑む。
腕に着けたデバイスからコール音が響くと、少しバツの悪い顔をしつつ、通信を開く
「……あぁ、例の反応はなし、二人とも無事だ
えっ?あ、介入?してないって、わざわざデルタシャリアーで来たし…えっ?あれはそのー、流れ弾が…」
通信の向こうの質問が都合が悪かったのか、モゴモゴと口ごもりつつ、言い訳を述べるも、観念してか、首を項垂れつつ、正直に口を開く
「一発だけ、な…でも!グリッターの力は使ってないから…
あぁ、悪かったって、始末書は書くよ」
そう言いつつ、デルタシャリアーを変形すると、静かに飛び立つ
「それじゃあナイン、例の場所でな」
やや強引に通信を閉じると、ため息をつきつつ、スロットを押し込みフィールドを後にする。
(カゲトくん、頑張れよ、君ならばきっと…)
「……勝った…のか…?」
四肢のほとんどが吹き飛び地面に転がるシャドウグレイズ、そのコックピットでカゲトは今一度、目の前を見渡しワナワナと震える。
その先には確かに撃破された魔王のフリーダム、流石に至近距離からのダインスレイブを食らえばどんな機体だって一撃だ。
『おめでとうございます』
「よっしゃぁぁ!」
柄にない大声を上げ、勝利を噛み締めるカゲト
本当にギリギリの戦いだった、普通に考えて勝てる確率など皆無だっただろう。
しかし、カゲトはやり遂げた。
いつもなら、ガラじゃないと、早々に諦めリタイアしていたようなその強敵を倒すことを。
「これで、ついに魔王を…!
…と、そう言えばあの一撃!」
あの時は目の前のことに精一杯で気づかなかったが、あの一撃がフリーダムの反撃を妨害してくれなければ、負けていたかもしれない、そして、あんな見えない所からの狙撃をやってのける程の実力者はカゲトは一人しか知らない
「……あの人か、結局、誰なんだ…」
また助けられた、なのに名乗りもせず、消えていくとは、まるでヒーローのようだ
「ともかく!これが俺の実力!
フフフッ…これで、俺の目標が……あれ?」
興奮気味に笑いながら、ふと、本来の目的を思い出す。
あのAなる人物に、魔王がオルタナティブカードに関係してると聞いて、それを探しに…
「……倒す必要なくね?
てか、こうなったら絶対、話聞くとか無理じゃん!」
そうだ、本来の目標はあくまでも接触、魔王を倒す、などという目標ではなかった
それどころか、真っ向から倒してしまった以上、魔王からオルタナティブカードの情報を収集することも絶望的……
「えっ?俺の苦労は一体……」
『お疲れ様です』
ガックシと頭を項垂れるカゲト、これでは振り出し所が無駄に手間を取っただけだ。
「んっ?あれ、そういえば、何か忘れてるような……」
ふと、何か嫌な予感がする
重大ななにかを見落としているような……
『上空、ロックオンされました』
「…あ」
その瞬間だった、上空から降りてきたジャスティスの一撃がシャドウグレイズを貫くのは