「ヒィッ…許してくれ!本当に何も知らないんだ!」
荒れ果てた荒野のバトルフィールド、そこに広がっているのはバトルの痕跡…いや、それはもはや一方的ななぶり殺し、地面に転がっている機体の操縦者は良い年の男だと言うのに、目の前に立つ、圧倒的なソレへと、情けなくも頭を下げる
「……そうか」
そう、つまらなそうに声を出す男、ナインは自身の駆る機体、純白のジンクスの剣をゆっくりと下ろす。
その真下には四肢と頭を切り飛ばされ、全身を切り刻まれ、無惨な姿と成り果てた男の機体が横たわっている。
最早それが元がなんだったのかは定かではない、ザクなのか、グフなのか、ジオン系の機体であるのには違いがないが、徹底的に力をもがれたそれがどのMSなのかすら分からない程にボロボロだ。
「お、俺は教団に金で雇われただけなんだ!
オルタナティブだとか、エルダイバー殺しなんて関わってねぇ!ただ表で狩りをしてただけだって!」
物騒な単語が並ぶなか、一瞬怪訝な表情をするも、すぐにナインは品定めをするかのように、その死んだような不気味な目で目の前をじっと見る
つられるように純白のジンクスのバイザーから光を漏らしながらゆっくりと立ち上がる
「分かった、もう貴様には用はない」
手にしていたGNブレイドをマウントへと、格納すると、男の機体の残骸から背を向ける
「じゃ、じゃあ俺は……」
見えない相手に下げていた頭をそそくさと挙げ、男は手早くここから、裏GBNからログアウトしようとコンソールを操作して……
「だが、貴様は排除する」
「なっ!?約束が……」
その一瞬、僅かに残っていた男の機体の、敢えて残されいたコックピット部に大穴が開き、風前の灯だったHPが0と帰す。
「お、俺のアクセス権が……」
がっくりと項垂れながら、男はあれだけ望んでいたログアウトを果たす
最も、この場所に表れることは二度とないだろうが…
「これで三回、アレに関わったことを後悔するんだな」
残骸を貫いた大型のGNファングが、ジンクスの腰へと帰ると、唸りをあげジンクスはフワリと、太陽炉搭載機独特の浮遊感を感じさせながらゆっくりと飛び去っていく
「全部ハズレ、やはり本丸を狙う他ないか」
コンソール横のリストの最後の名前にバツ印をつけ、タメ息混じりにリストをデリートするナイン、その大量の対象者を倒したのに関わらず、ナインの機体には傷1つついてはいない。
「あーもう!やっぱナルの言うとおり最初からぶっ飛ばした方が良かったじゃん!
ナインはいっつも、回りくどいことばっかでつまんなんし!」
そんな、神妙な顔をするナインとは裏腹に、いつの間に彼の後ろで大声で騒ぐ少女、ナルはポカポカとナインの頭を叩きながら愚痴を溢す
「そう簡単に言うな、こちらにも色々と準備がな…」
軽くナルの八つ当たりをいなしながら、次の計画の資料を開き、黙々とデータ整理を始めるナイン。
「むー!」
構ってくれないことに腹を立てたのか、よりいっそう激しい打撃がナインに襲うこととなるも、いつものことと慣れているのか、変わらず資料へと目を移す
「だったら、ナルが直接ぶっ飛ばしてやるんだから!
ターゲット、この前のあの人でしょー?
あのクソ女ことだから絶対来るに間違いない!」
ドヤ、と自信げな顔を浮かべながら、ナインから勝手に拝借した資料に示されている男の写真をバシッと叩く
「……ハァ、勝手にしろ」
そう、言い終わる間もなく、ナル姿は消え去っていた
ヒラリと、地面に落ちた資料、そこにあったのはカゲトの名とNo9との表記が……
「ここは…街?」
ゲートをくぐり抜けた先、そこは少し荒れてはいるも、GBNでもよく見るような街のマップだった。
無法地帯…というからにはバイクに乗ったモヒカンが暴れたり、死兆星が輝くような世紀末世界を想像していたが、案外普通そうな町並みでどうも拍子抜けである。
「まぁ、ここも比較的治安良い所だしね
それに、ここが幾ら無法地帯でも、抗えぬルールと、暗黙の了解ってのがあるものよ」
「ルール?暗黙の了解?」
またもやカゲトの知り得ぬ情報を前に思わず目を光らせる
この謎多き裏GBNを解析するためにも、どんな些細な情報とて、今のカゲトにとっては宝だ。
「そう、まずは絶対的なルール、
ここで三回バトルに負けた者はアクセス権を失う」
「アクセス権を…!?
ってことは三回負けで出入り禁止…厳しいな…」
普段ならGBNでコンテニュー前提の無茶プレイをしてるカゲトには痛い話だ
GBNでは何度負けようと、ゲーム内のペナルティは多少はあるも、流石にそれで立ち入り禁止とは酷な話だ
それにもし、あの時自爆してたらどうなっていたのやら
そう考えると肝が冷える
折角ここに来たというのに、BANに近づく所だったのか
そもそもカゲトは純粋なガンプラバトルが下手である以上軽率な真似は出来ないと、肝に命じざるを得ない
「まぁ、そんなものよ、
でもPvPだとかも、基本的に同意なしokだけども、自分が負けるリスクもあるから一部を除いてバトルする人はあんまりいないしね」
「…なんか、思ったり荒れてないんだな」
てっきり、表を歩こうものならどこからともなく銃弾が降り注ぐような混沌を想定していたカゲトからすればありがたいのか、拍子抜けなのか、よく分からないが、どっちにしろ想像とは大きく乖離していた
先ほどの突然のバトルが希なケースだと知って、安心したが、それならなおのこと、あれは不運だったことになる
「まぁ、ここの最大の利点は何をしても咎められないこと、そしてログが漏れることがないこと…かしら
自力で入ってきたお兄さんにはわかるでしょう?
ダークウェブってのはそういうものよ…」
「…………」
そういうもの、敢えて彼女は口にしなかったが、易々と察しがつく
誰もがログイン出来る世界的に有名なGBN、そこから誰にもバレない自由な空間に行けるとしたら、いくらでも悪いことは思い付く
ブレイクデカールなんかは勿論、違法なデータやプログラム、例えばガンプラじゃなくて"人"に影響与えるクスリだとかだって…
「どう?怖くなってきたかしら?
今なら全てを忘れて帰ることも可能だけども…」
「全然…と言ったら流石に嘘だが、目に見えぬ恐怖よりも、今目の前にある好奇心の方が優先だ」
目に見えぬ恐怖を気にしては何も出来まい、ここに足を踏み入れた以上こうなることなど薄々承知の上だ
それに、だからこそ燃えるってのもある。
「へぇ、臆病なんだが、気が据わってるのやら…
っと、またまた逸れちゃったわね、そうそう暗黙の了解の話しだったわね
ここには手を出してはいけない存在がある…
そう、アリーナのトップランカーよ」
「アリーナ?
…というと、やはり賭けバトルの?」
そんな噂を以前聞いた気がする。
表のGBNでは通常では禁止されてるガンプラバトルでの賭けが行われていると…
「えぇ、その通り
通称裏アリーナと呼ばれる賭けバトル、日々莫大な金…と言ってもビットコインだけども、もの凄い額が影響しているわ
その中のトップ10となると、様々な富豪やら企業やらの思惑が跋扈する…
一攫千金を夢見て下手に挑もうものなら、そいつらに……」
「…ようやく無法地帯っぽくなってきたな」
流石は裏GBNだ、かつて思い描いてようなカオスに恐怖と同時にワクワクもするカゲト
こんな世界をずっと求めていた
「さて、と、こんなものかしら?」
ひととおり話し終えて満足したのか、その場に止まりクルリとカゲトの方へ振り向くミヤ
「あとはお兄さんの目で確かめると良いわ
そう、この世界を楽しみ尽くしましょうとも…!」
「あ、あぁ…」
やや大袈裟気味にそう語られると、思わずたじろいでしまうカゲト
もとよりそのつもりではあるが、突然の出来事に流石に頭が追い付いてきてない様子でもある
「それじゃあそろそろ私は行こうかしら
フフッ…本当にありがとね、お兄さん♪」
「んっ?いや、礼を言うのはこっちだ……」
同じようなミヤの笑顔、しかし何か、カゲトの心を凍り付かせるような冷たいものを感じた気がした
気のせいなのか、それとも…
「あぁそうだ!最後に一つ、このオルタナティブカードって一体…?」
懐から取り出したのは例の真っ黒なカード
そもそもここにこれた原因、そして男達が襲ってきたのもこのカードのせいだった
No.9が刻まれたこのカードにどんな意味があるのか、ミヤならば知ってるのではないか、思い最後にその話題を切り出す
「フフッ…そうね…それはとーっても……」
「っ…!?」
ニコリと笑うミヤ、まただ、またどこか冷たいものを感じる
思わずじりっとたじろぐカゲト、一体このカードがなんだというのか
「フフッ、そうね…それは"私達"の断片、世界を書き換える鍵…とでも言えば良いかしら」
何が面白いのか、ミヤは微笑みながらその手を開くと、そこにはカゲトの持っているものとよく似た黒いカードが浮かび上がる。
そこに刻まれた数字は"8"
その8の黒いカードをクルクルと指先で回しながらゆっくりと、ミヤはとことこと、カゲトのそばに歩いてくる。
「ねぇ、もっとこのカードのこと、それに"私"のことも知りたい?」
そっと近づくと、カゲトに指を沿わせ耳元でそう告げる
「うぇ?、ぇ、あ、その…」
心臓がバクバクいって、まともに思考な纏まらないカゲト
捻り出した声は最早意味不明だが、こんなにも近づかれは無理もない
「ねぇ、私と一緒に来ない?
楽しいコトがたくさんあるわよ♪」
その艶やかな声の甘美な囁きに、どうすれば良いかと必死に頭を回そうとするも、彼女の感触がその思考を邪魔する。
この時ばかりは、バージョンアップしたGBNの感覚機能を恨んでしまいたい。
「ねぇ、お兄さんは今の世界に満足してる?
このままで楽しい?劇的な刺激が欲しくない?
この世界ならばお兄さんの思うがままよ♪」
その囁きはあまりにも魅力的だった
彼女の言葉はカゲトの心に深く突き刺さる。
自分は影のように暗い人生を歩んできた、そこには何もなかった。
劇的な変化も、悲劇的な出来事すらも、何もない、ただ、無意味に時間を消費し続けるのみの人生。
なにかを変えられるかもと、非日常を求め裏GBNに来てもそれは変わることはなかった。
「俺でも変われるのか…?」
「えぇ、勿論」
彼女はそう言い手を差し伸べる
その手は何よりもカゲトが求めていたものでもある、だからその手を…