「みーつーたーゾ!」
響いたのは甲高い少女の声
突如、轟音とともに赤い巨体が墜ちてくる
地面を揺らし、そのモノアイを輝かせ、その真っ赤な機体、ハイゴックはゆっくりとギロリとモノアイをミヤへと向ける
「クソ!なにがどうなって…」
ミヤに伸ばしかけていた腕を引っ込ませ、そそくさとハイゴックから逃れるべく、カゲトは物陰へと飛び込む
ミヤに一緒にこないかと、提案され、その答えに応えようとした瞬間にこれだ、まさか上から真っ赤なハイゴックが降ってくるなんて事態、予想できまい。
ようやく落ち着かせた頭で、再びもといた方を見ると、正体不明のハイゴックとミヤは睨みあったまま、動こうとはしない
「ともかく、尋常じゃないことばかり起きてるのは確かだ、ならば……」
さっきまでは彼女に迫られてまともに考えられなかったが、こう見返すとなかなかにヤバい状況だ。
なにがなんだか、あのミヤという少女の話も、提案も、まだ整理出来てないが、しかし、今のカゲトにはどうすることもできまい、ならば、今カゲトに出来ることをやるのみ
コソコソと、身近な岩影に身を隠すと、コンソールを呼び出し、いざというときの為の準備を始める…
「…はぁ、折角楽しんでいたのに台無しじゃない、全く、彼の躾がなってないんじゃない?」
「うっさい!
やっと見つけたゾ!ナインの代わりにナルがぶっ潰してやるんだからな!」
土煙を払いながら、落ちてきた真っ赤なハイゴックの操縦者の少女、ナルはモニター越しに相も変わらず余裕寂々な表情のミヤを睨み付け、威嚇するかのように歯を立てる。
一方、ミヤは折角の勧誘を邪魔されたことに気を悪くしたのか、静かに、ナルを見つめながら、その手を空へと掲げる
「全く、これだから貴女のようなガキは嫌いなのよ」
先ほどまでとは一転、その冷たい声とともにミヤの体が紫の不気味な光に包まれると、表れるのはミヤの機体
先ほど、メッサー達を一瞬にして撃破した圧倒的な力
紫のバイザーに黒いアーマー、大鎌を構えるその異形の機体こそ…
「オルタナティブ…
なんど見ても気に入らない!」
「あら、そう、それは残念」
オルタナティブ、そう呼ばれたミヤの黒いガンダムが大鎌を構え、一瞬にしてハイゴッグとの距離を詰める。
「んな!?
このー!」
鈍い音を立て吹き飛ばされるも、見かけによらず防御の高いハイゴッグにはかすり傷程度、尻餅を付きながらもすぐにブースターを吹かして態勢を直し、迫ってきたオルタナティブめがけ、ハイメガ砲を放つ。
「その機体、ナインのお手製かしらね?
どうりで硬い訳、なら、これはどうかしら?」
鎌をまるでポールのように見立て、クルリと踊るように上空へと逃れると、腰から抜いたヒートダガーをハイゴッグへ投降する。
赤熱した真っ赤なダガーをその持ち前の真っ赤な装甲で弾き返しながらも、ハイゴッグは上空に向け砲撃を続けるも、その攻撃はオルタナティブに掠りもしない。
「なんで当たんないんだよ!
あー!もう!ふっとべー!」
やたらめったに攻撃を続けるも、オルタナティブはまるでそれを嘲笑うかのように、余裕にそれを避け、自分からは攻め入れようとはしないでいる。
そんな態度に痺れを切らし、ナルは背部にマウントされていたミサイルポットからミサイルを一気に放ち、勝負を決めようと一転抗戦を試みる。
「そうバカの一つ覚えにやたらめったらばら蒔いてもね」
「んなっ!?バカって言ったな!」
ムキになり、モニター越しにミヤを睨み付ける
「さて、あなたの首を土産にして…」
そんなナルとは対照的にただ、淡々と、まるでピアノを爪弾くかのように手を動かすと、オルタナティブは飛び上がり、ブースターに火を灯す。
腹部のレーザー機銃で器用にミサイルを撃ち落とし、その爆煙に紛れ、一気にハイゴッグへと迫り来るオルタナティブ
両者の距離が一瞬にして詰められ、オルタナティブの凶悪なツインアイがギラリとハイゴッグを睨み付ける。
「んぎゃ!?このー!」
咄嗟にクローで、目の前のオルタナティブを貫こうと、構えるも、一歩遅い。
「んなっ!?」
宙を舞うのはハイゴッグの片腕
振り下ろした大鎌から手を放すと、オルタナティブはその腕に装備されたガントレットからビームサーベルを発振させ、咄嗟のことにあわてふためいているナルのハイゴッグへと、止めをさそうと……
「…俺の事忘れてるなよ!」
そこに降り注ぐのはミサイルの雨
オルタナティブが見上げると、そこにはカゲトのシャドウグレイズが銃口を向けながら降り立つ。
『命中弾ゼロ、戦力バランスに変化なし』
「わざと外したんだよ!
よくわからんが、あの赤いハイゴッグも、ミヤも落とさせるわけにはいかんだろ」
片手でコンソールを弄りながら、いつもの無機質な合成音に文句を言いつつ、作業を続けるカゲト
やはり、このスタイルでなければ本気は出せない。
ミヤとナルが何かしらの因縁か、時間をかけて戦ってくれたお陰で、その隙にハルのアクセスプログラムを裏GBN仕様へと書き直したのだ。
ここから戦うにしろ、逃げるにしろ、カゲト一人だけでは本来の力が発揮できない状態なのは不利だ、だからこそせめていつも同じ環境へと持ってきたのだ。
「あらお兄さん、意外ね
私の誘いに乗ったんじゃなかったのかしら?」
「……それは、その、ゆっくりと考えをだな
って、ともかく、これは一体!?」
流石にこの状況でホイホイ着いていくほど、カゲトとてチョロくはない、しかし、ミヤに牽かれるのも事実であり、迷いながらも、取りあえず仲裁の体を取ってはいるカゲトだが、いまだに状況は飲み込めないでいる。
「んもー!良いところだったのに邪魔するなゾ!
ここからナルがカッコ良く一発逆転でドカーンするつもりだったのにー!」
ガツン、とカゲトの機体に衝撃が走る。
何かと思えば腕を振り上げてるのはまさかの助けた方のハズのハイゴッグ
「えっ?ちょ…折角助けたのに随分な物言い…」
残った片腕を上げプンプンと怒るかのように腕を振り回し、ゴンゴンとカゲトのシャドウグレイズを殴るナルのハイゴッグ、カゲトからしては窮地を助けたつもりだというのに、ひどいものだ。
「…はぁ、全く、興がそがれたわ
折角、久方ぶり楽しい遊びだったのに、台無しよ」
そんな二人を見てか、つまらなそうに構えてたビームサーベルを仕舞いこむと、地面に突き刺さった大鎌を回収するオルタナティブ
その手が触れると大鎌は0と1の数字に分解され、消え去る
「あ!このー!逃げる気か!ひきょーだぞ!」
そんなオルタナティブに気づいてか、カゲトのグレイズをぽかぽか殴るを止めると、ハイゴッグはオルタナティブに向け、威嚇するかのように爪を広げる
「特別に逃がしてあげるっていうのに、ひどい言い様、帰ったらご主人様にしっかりと躾て貰いうことね」
先程までの興味は消え失せたのか、淡々とナルに向けそう述べながら、その目の前に立つカゲトのグレイズへと視線を移す。
「へぇ、成る程、カードを回収出来たのはそういう仕組みな訳ね
偶然か必然か、全く、お兄さんも大したものね♪」
「…? それはどうも
で、色々と質問があるんだが…」
そう告げるも、回答が来ることは期待できまい。
やはり、この電子世界において情報というのは何よりの武器となりうる。
それを全く有してないカゲトではどうすることも出来ない。
「んー、そうね、それはまたいづれ…
そうそう!私の提案の答えも、まだまだ待ってるから、その時は一緒に楽しみましょうね♪」
その手を振り上げると巻き起こるのは嵐、いや圧倒的なデータの奔流というのが正しいか、その嵐は一瞬にして目の前のもの全てを飲み込み…
「っ…消えた…?」
目を開けると、ミヤの姿は何処にもなく、先ほどまでのことがまるで嘘のようであった
「フフーンだ!ナルに恐れをなして逃げたって無駄なんだからな!」
しかし、となりで甲高く叫ぶ少女の声がそれが事実だと示す
どういうテンションなのか、いなくなったミヤに向け、叫び続けるナル
「はぁ、一体なにがなんだか…」
あいもかわらず理解が追い付かないカゲト、取りあえずグレイズから降り、解除されたバトルフィールドへ、降り立つ
ふと、辺りを見回すと、そこは一見いつも変わらぬ風景が広がるが、ここはいつものそれは全く違う魔境だと言うことを今一度実感する
「…あ、そうだ、それで、えーと…」
「…………」
思い出したかのように振り向くと、そこにはしかめっ面で地面に座り込む赤髪の少女が
ナルに逃げられたことがよほど気に食わないのか、ブツブツ言いながら未だにナルが居た所を見つめている。
「あ、と、アンタは…」
「ナルだゾ!絶対忘れるなゾ」
仕方なさげに立ち上がると、カゲトに一瞥も暮れずにここから立ち去ろうとするナル
「ちょちょ待ってくれよ!
一体あの子、ミヤは一体なんなんだよ…」
ナルと名乗った少女を急いで引き留めようとするも、カゲトの期待は空しく、その姿は何処にもない。
「んなっ!アイツ!礼もなしかよ」
わざわざ危険を負いながらも、助けてあげたはずなのに何一つ説明せずに消えたナルに腹が立つも、むしゃくしゃしたところでどうにもならない、とひとまず落ち着く。
「はぁ、折角裏GBNに来れたというのに、一体何がなんなんだよ…」
謎の少女ミヤとオルタナティブ、そしてそれを追うナルというアホっ子、彼女らのことがきになり、折角来れた念願の裏GBNの解析どころではない。
斯くして、カゲトの裏GBNでの最初の1日が終わりを告げた。
この出会いがもたらすのは災厄か、それとも……
「…ったく、勝手に突っ走りやがって」
何処から撮っていたのか、ミヤとナル、そしてカゲトの戦闘映像を見つめながら、コートの男はため息をつきながら、ナルの独断に悪態をつく。
もっとも、それを促すようなことをしたのも彼ではあるが。
「相変わらず苦労しているようだな、ナイン」
そんな暗い男、ナインと対照的に、響く男の声。
青い軍服風のジャケットを着こなす爽やかな印象を持つ彼は、ナインの人を寄せ付けないような、その雰囲気をものともせずに、ナインの隣の椅子へと腰かける
「…ユウキか、英雄様がこんな俺になんの用だ?」
「おいおい、他人行儀はよせよ、えーと、今はナインって呼ばれてるんだっけか」
ユウキ
それはかつて世界を救った英雄の名
しかし、当人はそんな大それた称号を嫌ってか、自傷気に笑うと、ずけずけと、ナインの隣に座り、開いてたディスプレイを覗き込む。
「あの子、例の魔女、それと…確か彼がお前の言っていたのか」
そこに映っているのは、先程までのミヤとナル、そしてカゲトの戦闘
最も、今回は彼女の気まぐれか、戦闘と言えるほどの事態にはならなかったが、それよりもこの場所に彼女が現れた、という事実が重大なのだ。
「全く、しぶとい奴だ
折角、貴様が倒したと思えば、こんな事態となるとはな」
「俺があの時、確実にやれていれば……」
そこに映る魔女を見つめながら、手を震わせるユウキ
もし、あの時"オルタナティブ"を完全に消滅させていれば…
そんな後悔が後にたたない
「そう、なんでも背負い過ぎるのは貴様の悪い癖だ
それに、やつのことだどう足掻いたところで、こうなるのは避けられないだろうさ」
そんな、ユウキを気を遣ってか、軽く小突きながらそう言うと、話を変えようと、ディスプレイを切り替える。
「それで、貴様がわざわざ来たのは奴の次のターゲットについてだろう」
「あ、あぁ、そうだったな…」
少しきょとんとしながらも、用事を思い出し、ユウキはジャケットからデータチップを取り出す。
「オルタナティブカードの所有者の情報を俺の知り合いが掴んだんだ、それでお前にも教えようと思ってな」
ユウキから受け取ったチップを端末にセットし、表示された情報を見るや否や、ナインはしかめっ面を浮かべる
「なっ!?よりにもよって……」
「あぁ、No4のカードユーザーは"魔王"だ」