傲慢少女は黒幕でありたい   作:スーラリリィ

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ミィレ

 

 「止めよう、という訳ではないみたいだったから、そこはまだ救いかな……」

 

 一人黄昏れるように彼女は項垂れた。何者かも分からぬ誰か。実力、後ろ盾も全てが不明。

 予想出来るのは、王座争いに明け暮れる王族、敵国のどれか、はたまた権力とは無縁の『組合』か──、

 

 「……はぁ」

 

 『非常に意外なことに、世界はこの私でも上手くいかないことばかりなのですよ』──ある小説の、これまたある一節を思い出し、ルアートはため息をついた。

 

 「…………嫌になるね、本当に」

 

 露呈はなかった。あり得るはずもない。故に彼女は欠片も警戒していなかった。

 だから、あの何もかもが不明の存在を見つけたときも冷静でいられた。だが、あの存在が語ったのはまるで己が何をしようとしているのかを全て知り尽くしたかのような言葉。まるでルアートを煽っているように本のセリフに被せて宣言してきたことも、頭痛の種にしか成り得ない。

 そうして一通り思考を巡らせると、月を見上げながら呟く。思い返すのは、この度の会遇で不明の存在が示唆した台詞──それの出所となった本。

 

 「『王女の旅路』、か」

 

 嫌な本であった。本当に嫌な本であった。

 

 題材が酷い。登場人物が酷い。なにより、題名が最悪だ。

 

 主人公の性格はどうしても好きになれなかった。間違った道を迷い無く突き進む姿を、否応なしに己と重ねてしまう。結局彼女は何も得られなかった。いや、強いて言えば()()()()()()()()は、得られた物はあったかも知れない。

 

 そして、今脳裏に浮かぶのは、本当にこれで正しいのか、間違っていないのかと言う疑問。

 

 「……だけど、ボクにはこれしかないんだよ」

 

 やがて出た結論は。やはり、かの物語の主人公と変わらぬ、『これしかない』と言う事実だけであった。

 

 

 

 ◆◇

 

 

 「ふわぁ……」

 

 彼女は目を開ける振りをする。なにせ、昨夜一人でこっそりどこかへ出掛けていた、なんて噂が立てばそれだけで致命傷だからだ。

 

 かといってこの欠伸が嘘か、と問われればそれも違う。

 

 (……眠いです)

 

 もう一度眠気が彼女を襲うが、しかし耐える。今日はしなければならない事がたくさんたくさんあるのだから。

 

 「──起きたかしら?」

 

 「ええ、ばっちりです」

 

 そうして意気込んでいたところへ現れたのは、青髪の少女、ミィレ。彼女は角から顔だけ覗かせ、詰まらなそうに「ふぅん」と呟くと、そのまま顔を引っ込める。

 

 「今日の当番は貴女だからね、頼んだわよ」

 

 「……む、そうでした。了解です」

 

 そのまま同室のミィレが去るのを待つと、彼女は少し緊張していた自分に気が付く。顔が硬い。もしかしたら声に出ていたかもしれない。眠気はいつの間にか飛んでいた。

 

 それもそうだろう。彼女が今日やらなければならないこと、その中で一番危険な物。それを思い浮かべ、彼女は強く拳を握った。

 

 

 (──ミィレ、残念ですが死んで貰います)

 

 

 ミィレの殺害──それが今日の一大目標なのだから。

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