外に飛び出した俺の視界に入ってきたのは一面の原野だった。
「なんだこれ……」
日本で暮らしてきた俺にとってあまりにも馴染みのない光景にそれ以上足を踏み出すのを躊躇ってしまう。それと言うのも目の前に広がる自然にはビルや工場、アスファルトの道路はおろか鉄塔の一本も見当たらないからだ。
丘陵地帯と呼べばいいのだろうか、人間の手の加わっていない自然の丘には所々に木々が繁っており、それ以外の大半は足首まで草が広がるいわゆる牧草地と呼ばれるような光景だった。
その証拠と言えるのか、少し離れた場所には5頭の茶色の牛が草を食んでる。野生の牛なのか日本で飼育されてる牛よりも引き締まったその身体に見え、周りに人影はなかった。
また少し見渡した程度では見つからなかったが、リスやウサギなどの小動物がいるのは間違いないだろうし、恐らくそれを狙うキツネやオオカミなんかも潜んでいるに違いない。
他にもオレンジ色の胸毛のモズのような鳥が地面を啄んでいたり、逆に大きく翼を広げて飛んでいるのはハシボソガラスの仲間だろうか、兎にも角にも自然豊かな様子が如実に見て取れた。
俺を追って外へと出てきたユウヤもあまりに予想外な光景に呆然としていた。
「なあカズ、ここ何処?」
「そうだなぁ八王子とかじゃないか?意外と自然がのこってるって聞くし。行ったことねぇけど」
「残ってるどころか自然しかねぇよ。交番どこだよ」
「まあ、あれだな。多分日本じゃねーわコレ」
「だよなぁ。山も海もぜんっぜん見当たんねぇ」
「つーか、どっかに町とか見つけねぇと野垂れ死ぬんじゃね?」
「洒落になってなくてやべぇ。お、ユウヤ、あそこあそこ!」
「お、マジで建物じゃん!さすがカズ頼りになるわ。街ってよりは大分こじんまりしてっけど」
「そこはこう暖かいおもてなしとかそういうの期待してこうぜ。しかし、まぁ結構距離あるな」
「だな。んーーバイクなら20分ってとこか?」
「あーー。マジで俺のZ250どこ行ったんだよ。凹むわ」
「ほら、沈んでないでとっとと行こうぜ。」
「ひゃぁんっ!てめぇ、俺が女の体になったからって気軽に尻とか撫ぜてくんじゃねぇ!しばくぞコラ」
「おーコワ、やっべー犯されーるー」
「まてこら!逃げんじゃねぇ」
"ユウヤのレベルがダウンしました"
不吉なメッセージが空から聞こえて来る。ユウヤが反応しないのは、ユウヤには聞こえてないんだろうか。もしそうなら、なるべく早くユウヤに伝えた方がいい。頭ではわかっているのに、もう少し後で落ち着いたらと、俺は問題を先送りにした。
ユウヤに嫌われたくない。今からかわれたばかりのにそんな事を自然と思う。自分でもよくわからないが自分が変わってしまっているような気がする。
足元には3本の白いガーベラが咲き始めていた。