俺とユウヤの不器用なカンケイ   作:黒猫なな

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宿屋へと歩くふたり

 その後、自分を取り戻すまで時計の針が一回りするぐらいの時間がかかった。

 その間なんとなく事情を察した女性店員さんにアレコレと着せ替え人形させられていた。自分たちの他にお客がいなかったのだから事情が伝わっているのも当然といえば当然だ。

 お似合いですよ、とかきっと彼も喜んでくれますよ、といった無責任で軽くそして暖かな言葉に大分助けられた気がする。

当初の予定よりも随分とたくさんの服を買い込んでしまったが、ユウヤの財布と一緒に軽くなった俺の心に免じて許してくれるだろう。

 

 店員さんと一緒に店の外に出ると、ベンチに座って落ち込んでいたユウヤが顔をあげた。

「わりぃカズ……オレ……」

「おい、ユウヤ。おめえなんて顔してんだよ。そんなに俺のおっぱいが揉みたくて仕方なかったのか?あぁん??」

「カズ」

 

 ユウヤがどこか安堵したような表情を浮かべる。そうだ、泣きそうな顔なんかよりそっちの方がよっぽどいい。その為なら俺は

「ま、どーてーくんにはちぃぃっとバカし刺激が強すぎたのかもしんねぇな。ほら 持てよバカユウヤ。こんなか弱い女の子に荷物持たせてんじゃねぇよ」

 店員さんから服の入ったいくつもの紙袋を受け取ると全部ユウヤへと押し付ける。

 

「うおっ、てめぇどんだけ買い漁りやがったんだ」

「感謝しろよ。ちゃ~んとおまえの為だけに着飾ってやっから」

「はいはい、有り難くて涙が出ますねっと」

 軽々と荷物を持ち上げるユウヤの逞しい二の腕。

「おーし、わかったらとっとと宿屋探すぞ。飯が美味くて部屋がきれいなトコな」

「くっそ、てめぇ足元見やがって」

 とは言いつつ既にナイスな宿屋は店員さんの手によって確保済みだ。これがどーてークンとは違う、出来る男の細やかな気遣いという奴よ。ふはははははは。

 

 

 夕暮れの中、店員さんに教えて貰ったとおり歩いて行くと、そこにあったのは予想を超えて高級そうな宿屋だった。宿屋というかもはや迎賓館。

赤煉瓦造りの三階建てで玄関の前にはきちっと制服を着こなしたベルボーイがお出迎えに立っている。俺たちこんなトコに入っちゃっていいの?感が半端ない。

 

 だがしかし、ユウヤくんお気に入りの高級ファッションに身を包んだ俺は傍目から見れば恭しく歓迎されるレベルの清楚なお嬢様。

内心の戸惑いを他所にベルボーイに仰々しく出迎えられて迎賓館の中へと案内して貰う。

 迎賓館の中は温かみのあるランプの優しい光で煌々と照らされ、沈み込むような絨毯が敷かれていた。

 

「ようこそお越しくださいました。旦那様、お嬢様」

 ロビーの光景に思わず息を止めて足を止めると、初老の老眼鏡紳士が近寄って出迎えてくれる。

「街の散策でお疲れでしょう。どうぞまずはこちらのラウンジでお寛ぎください」

「は、はい」

 案内してくれる老紳士の後ろをギクシャクと続いていく。絨毯の感触がふわふわして足元が不安になりそう。

 

 案内されたラウンジにはアンティーク調のテーブルにレースが編み込まれたテーブルクロス。まるで異世界に迷い込んだような優雅さに緊張が高まる。さり気なく椅子を引かれて座るなんてまるで本物のお嬢様みたいだ。

「えーっと、あははは」

 いつも軽口ばっか叩きあってるのにこんな時だけなに喋ったらいいのかわからなくなる。盗み見るようにユウヤの表情を見ると優しい瞳と視線が絡み合って、気恥ずかしくなった俺はすぐに視線を逸してしまう。

 

「その……あの、さ……」

 ユウヤがつぶやく。

「……うん」

 なんの意味もない会話の応酬。それでもユウヤと二人きりの空間は居心地がよくて。でも、いくつもの不安がポツポツと泡のように浮かんでは弾けていく。

 

「お待たせいたしました。こちらダージリンのファーストフラッシュにアマレッティとなります」

 老紳士のゆったりとした声。テーブルに置かれたダージリンから漂う優しい香り。

喋ろうとした事を伝えられていない、そんなユウヤの戸惑いが伝わってくる。誠実で優しいひと。

 

 俺はテーブルに置かれた焼き菓子を摘むとそのまま一口。さくり、と思っていたより軽い口当たりで香ばしいアーモンドの香りが口の中に広がっていく。甘くなくフルーティな香りの紅茶と良くマッチして心に少しだけ余裕が出来る。

「お、ユウヤ。この菓子めっちゃ美味いぞ」

 口調は明るく、笑顔で。無邪気に摘んだアマレッティをユウヤの口元へと運んでやる。

 

「お…おい、カズ」

 困ったような、喜んでいるようなそんな顔をしたユウヤが俺の手から逃れようと身体を反らす。

「なんだよ、食ってみろよ」

 はしたなく身体を乗り出した俺がユウヤの唇に焼き菓子を押し付ける。ユウヤの口がアマレッティを啄んだ瞬間、指先と唇が軽く触れ合う。

「美味いな」

 男らしく咀嚼して飲み込んだユウヤ。

 

 野暮なメッセージはならなかった。

 

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