アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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閑話『俺と優子と如月グランドパーク④』

「まずいな…」

 

「まさかアイツらが来てたなんてね…」

 

「…せっかくここまで持って来たのじゃ。ワシは何 としてもこれを成功させるのじゃ…!」

 

「大丈夫だぞお前ら。あのハンバーグは俺と警備員 で叩き出したからな」

 

「難波センパイ…」

 

「……雄二は霧島の所に行ってやれ。こっちは俺達 がやる」

 

「悪いなムッツリーニ」

 

――――――

 

「ああ…本当に嫌だ…」

 

「の割には案外素直に着替えたんだな」

 

隣で仲人役のバイト…と言う名目で雄二に協力した らしい将がニヤニヤしながら歩いている

 

「…あのハンバーグ共を返り討ちにしちまったから な。嫌だ嫌だって言っておいて代わりも用意しない 無責任な事だけはしたくない」

 

「なるほど。お前らしいわ」

 

特に茶化さずにカラカラ笑う将。コイツのこういう 所は素直にありがたい

 

『それではいよいよ本日のメインイベント、ウェデ ィング体験です!皆様、新郎(役)の入場を拍手で お出迎え下さい!』

 

「ほら、出番だぞ」

 

「…わーってるよ」

 

パチパチパチパチ…

 

『キャー!凄いカッコいい!』

 

『モデルみたいよね!』

 

『服も黒いし…執事とか似合いそう!』

 

将に押し出されてステージに出ると同時に、割れん ばかりの拍手と黄色い声が響きわたる

 

…正直鬱陶しい

 

「(面倒な事にならなきゃいいがな…)」

 

というかこのセット…ガチじゃねぇか。こんなんに 金使うならもっと宣伝に力入れればいいのに

 

『それでは新郎のプロフィールを…』

 

「!?」

 

オイ!それは色々な意味で洒落にならん!下手すり ゃ変な噂も…!

 

『…体験版だし、ぶっちゃけ面倒くせーので省略し まーす♪』

 

…助かったのに、何か腑に落ちない

 

『それでは皆さまお待ちかね!いよいよ新婦の入場 です!』

 

寮長の宣言の直後、照明が消え、スポットライトが 入場口を照らし、スモークが足元に立ちこめる。B GMも音量が上がった気がする

 

…男女の差が激しすぎないか?

 

『本日の主役、木下優子さんです!』

 

アナウンスと共に、霧島に手を引かれて入場してき た

 

…恐らく、この時俺は柄にもなく優子に見とれてい たのだろう

 

「…どう?佳史…変、じゃ…ない?」

 

「…お前が大丈夫だと思ってればそうなんだろうよ 」

 

つい突き放すような口調になってしまう。

 

…でも、ダメだ。雰囲気に呑まれるな。あの時決め ただろう…俺自身の幸せは捨てると。自分の事を考 えるのは唯が独り立ちした後だと

 

心を落ち着かせて優子に向き直る…よし、大丈夫だ 。いつも通り…何も感じない

 

そうして、早く終わらせようとした時だった

 

『ねぇ…確かにあの子もキレイだけど…』

 

『うん…ちょっと釣り合ってないよね…』

 

『言っちゃ悪いけど…大人と子供の結婚ごっこみて るみたい』

 

友達同士で来たのであろう、三人組の女子達が呟い た言葉は、会場が静かであった事も相まって、ひど く大きく聞こえた

 

ガシャァ

 

『『貴様らぁぁぁああ!!!!』』

 

『秀吉!落ち着け!今お前が暴れても体験は終わる ぞ!』

 

突然椅子が蹴られたような大きな音と共に秀吉が立 ち上がるが、寮長に抑えられている

 

普段の大人しい姿とは180°違う秀吉の姿に、同じよ うに叫んだ明久は勿論、立ち上がっていた愛子や玉 野、グロッキーになっていたにも関わらず立った佐 藤も呆気に取られていた

 

『貴様らに姉上の何がわかる!!姉上が何を思って 佳史といるのか知っておるのか!?何のために唯ち ゃんを引き取ると言ったのか知っておるのか!?佳 史と親しいと言うだけで姉上が何をされたか知って おるのか!?姉上が、何故…ここまで佳史を想って おるか…貴様らは知っておるのか!!!』

 

涙混じりに叫ぶ秀吉。その勢いに会場は別の意味で 静かになっていた

 

『お願いじゃ…これ以上姉上に辛い目をさせんでく れ…!』

 

そのままその場に崩れ落ちる

 

そして明久と雄二が前に出てきて…

 

『失礼を承知で言わせてもらう…邪魔だ。さっさと 出て行ってくれ』

 

『人の気持ちも分かろうとしないあなた達にこんな ところにいる権利なんてありませんよ』

 

雄二はともかく、明久には珍しくかなり直接相手を 非難している

 

…一番非難されるべきなのは、自分の事なのに、こ こまで冷静になれる俺なのにな

 

「……!優子!?」

 

『…は!?優子!?どこに行った!?』

 

あの短い間に音もなく優子は姿を消していた

 

そこには、幸せの象徴であるはずのブーケがポツリ と置かれていた

 

「くっ…!あのバカ共がいなけりゃ大丈夫だと思っ て油断した…!」

 

「今はそんなのいいよ!早く木下さんを探さないと !」

 

「そんなに遠くには行ってないはずです!姫路さん はホールの南側、美紀は東、愛子は北を探して下さ い!」

 

『男共もだ!風祭はレストラン側!寮長は水族館北 側、ムッツリーニは南側!明久と俺と野口は外回り !秀吉はホールの中!佳史は遊園地を探せ!』

 

そう言われ、俺達とスタッフは散開した

 

…そして俺の手には、無意識にブーケが握られてい た

 

――――――

 

「………」

 

ピトッ

 

「ひゃっ!?」

 

「こんな所で何やってんだ?」

 

缶コーヒーを後ろから頬に当てると、情けない声を 出して優子がこっちに振り向いた

 

「佳史…」

 

「みんな心配してたぞ?特に霧島と愛子がな」

 

「………」返事はない。想像以上にこたえたみたいだ な

 

「………アタシ、佳史の側にいてもいいのかな?」

 

隣に座っているから、顔はよく見えないが、なんと なく表情はわかる

 

「…さぁな」

 

「………」

 

「俺に誰が俺の側に居なきゃいけないとか、俺が誰 かの側に居なきゃいけないとか、知らねぇし、知り たくもない。けどな…最後に決めるのは自分自身だ ろ?」

 

「…!」

 

「俺が唯を守ると決めたように、結局最後の最後で 決めるのは自分だ。そこに誰かの意志があるはずな い」

 

だから…

 

「人を想うのは、そいつの自由じゃねぇのか?」

 

優子の手を取り、持っていたブーケを握らせる

 

「………あ……」

 

「…想う相手が必ずしも応えてくれるとは限らねぇ がな」

 

そう言って元来た道を歩き出す

 

「さっさと着替えて帰るぞ。面倒な事はごめんだか らな」

 

「………佳史!」

 

「ん?」

 

振り返った瞬間だった

 

―チュ

 

ほんの一瞬。ほんの一瞬ではあったが、確かに俺と 優子の唇が重なった

 

「―だったら、アンタが落ちるまで想い続けるだけ よ」

 

そう言ってはにかむ優子の表情は、今までで一番綺 麗だった

 

――――――

 

「……雄二」

 

「どうした?」

 

「……本当は優子の居場所、わかってたよね」

 

「…まぁな。少しくらいは手助けしてやらないと、 進展すらなさそうだったからな」

 

「……やっぱり雄二は優しい」

 

「ただ単に放っておけないだけだ。昔の俺みたいで な…」

 

「……素直じゃない」

 

「うるせぇよ」

 

「……でも、そんな雄二だから。私は好きになった 」

 

「…………俺もだよ」

 

「………え?」

 

「ほら、帰るぞ。今日はうちに泊まるんだろう?」

 

「………うん!」

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