アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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予習問題『中学生編①』

「ねぇ優子」

 

Fクラスとの試召戦争前日。優子と一緒に帰ってい た愛子が突然そんな事を言い出した

 

「ん?」

 

「優子はさ…佳史くんのどこに惚れたの?」

 

「全部」

 

臆面なく即答する優子に少しポカンとする愛子

 

「……ゴメン。言い方が悪かったね。どうして佳史 くんの事が好きになったの?」

 

「どうしたのよ唐突に…」

 

本当に唐突である

 

「いやさ…Aクラスに入ったばっかりの時は正直優 子の事近寄りにくい人だな~って思ってたんだ」

 

「バッサリね」

 

「あはは…でも、初日の放課後に優子、代表と一緒 に教室飛び出して佳史くんに(代表は坂本くんだけ ど)会いに行ってたでしょ?」

 

「まぁね。…結局何故か佳史だけ帰ってて会えなか ったけど」

 

佳史が実はそれを見越して先に帰っていたのは秘密 である

 

「で?何でなの?ねぇねぇ」

 

目をキラッキラさせて優子に詰め寄る愛子…お年頃 ですね

 

「ちょ…何か目が怖いわよ?

 

…まぁ、そうね…しっかり話せばちょっと長くなる けど…」

 

――――――

 

キーンコーンカーンコーン

 

「秀吉~帰るわよ~」 「待ってよ、お姉ちゃん!」

 

いつものように姉弟一緒に帰ろうと秀吉のクラスに 迎えに来る優子

 

姉弟仲は良く、姉は成績優秀、弟は演劇部のホープ と言う事と、二人とも容姿がいいので、少しばかり 有名であった

 

「…秀吉、可愛いよな」 「ああ。男なのが勿体無いぜ」

 

………

 

「お、お姉ちゃん…?」

 

「どうして…」

 

「え?」

 

「どうしてアンタばっかりモテるのよー!!」

 

「ちょっと待ってよ!その関節はそっちには曲がら な…!!」

 

…ここら辺は、変わってなかったりする

 

―――――

 

「それにしてもさぁ…」

 

「ん?」

 

「アンタ…雑賀くんって見たことある?」

 

「雑賀くん…?ああ、あのいつも寝てる転校生の? 」

 

雑賀佳史

 

先月―5月に家庭の事情で引っ越して来た転校生

 

だが、馴染めないのか、いつも寝ている。というか 寝ている以外の仕草を見た事がない

 

それが秀吉の中での佳史の印象だった

 

「…確かに無いね。でもどうしたの急に?」

 

「いやね、うちのクラスの子達が『イケメン転校生 !』って騒いでたからどんな人なのかな~って気に なったのよ」

 

「う~ん…僕は寝てる所しか見たことないからなん とも言えないけど…」

 

「え?お昼休みは?アンタなら顔と目を見たら大体 の人となりはわかるでしょ?」

 

秀吉は演劇部のホープであり、本人も演劇に入れ込 んでいて、また演劇が大好きなのである

 

その成果…というか副産物的なもので、嘘やごまか しなどが秀吉には一切通じない

 

その為、少し話しただけで大体の人物像なども見破 ってしまう

 

「本当に寝てる所しか見たことないんだよ。ご飯食 べてる所も見たこと無い」

 

「…本当に生きてるの?」

 

「多分…きっと…恐らく…」

 

秀吉の言葉に力は無かった

 

「(まぁいいか。明日自分で話しかければいいだけ よね)」

 

その時はまだ、変な転校生と言う認識だった

 

――――――

 

「こんにちは~。秀吉居る?」

 

「ん?木下姉か?」

 

「あら?坂本くん、秀吉は?」

 

「木下なら便所だ」

 

坂本雄二。入学当初、イジメられそうになっていた 秀吉を助けて、以来関わりを持つようになった

 

…始めの方は優子は若干ビビっていたが

 

「で?秀吉に何か用でもあったのか?」

 

「今回は別にないわ。雑賀くんってどこの席?」

 

優子の口から男子の名前が出た事に少し驚く雄二

 

この姉、優等生の仮面を被っているせいか、少し取 っつきにくいところがある

 

本人もそんなに積極的に異性と関わろうとしないの で、これは本当に珍しい出来事だった

 

「坂本くん?」

 

「あ、ああ。雑賀ならあの窓際の一番後ろだ」

 

「そう。ありがと」

 

礼を言って佳史の席に近づこうとする優子

 

「しかし驚いたな……木下姉が異性に興味を持つと は」

 

「その言い方誤解されるから止めて!?」

 

そしてツッコミを忘れないのも優子クオリティ

 

そして佳史の前まで行き

 

「雑賀くん、起きてる?」

 

「ん…?」

 

声に反応してゆっくりとした動作で体を起こす佳史

 

いかにも上の空と言う様子だが、目はしっかりとし ていた

 

「……何か用か?」

 

「い、いや…用ってほどじゃ無いけど」

 

「そうか」

 

会話終了

 

そしてまた佳史は睡眠体制に戻ろうとする

 

「ちょ!せっかく話しかけたんだからもうちょっと 話してくれてもいいじゃない!」

 

「うるせー…とにかく眠いんだ。寝かせろ」

 

「雑賀くんお昼は食べないの?………雑賀くん?アレ ?」

 

「…………zzz」

 

「………」

 

ブチッ

 

「ふぅ…あれ?雄二?どうしたの?」

 

「あれ」

 

「え?…ってお姉ちゃん!?何で怒ってるの!?」

 

「実は…かくかくしかじかで…」

 

「雑賀くんは多分疲れてるだけだから!だから抑え て!」

 

「離しなさい秀吉!コイツには本気で一発叩き込ん でやるのよ!」

 

「落ち着いてーっ!」

 

「…平和だな」

 

一人、我関せずを通していた雄二は、お茶を飲んで まったりしていた

 

――――――

 

「全く…何なのよあの転校生!」

 

優子は買い物を頼まれた途中、愚痴をこぼしていた

 

「せっかく話しかけてあげたのに適当にあしらわれ るし…話をしようって言ったら寝だすし…」

 

そして角を曲がった時だった

 

「―――ありがとうございました」

 

あの失礼な転校生を見つけてしまったのは

 

「いえいえ。唯ちゃんは元気いっぱいだからこっち も楽しいのよ。佳史くんこそ毎日お迎え大変ね?」

 

「いえ。たった一人の妹ですから…」

 

「(妹?)」

 

確かに、佳史の背中に小さい女の子が背負われてい た

 

「(アイツ妹いたんだ…)」

 

角に隠れて様子を見る優子。誰かが通りかかればア ウトな絵である

 

「(それに…アイツ、あんな表情もできるんだ…) 」

 

その時の佳史の顔は、学校での不機嫌そうなもので は無く、優しい兄の表情だった

 

そして、恐らく保育園の先生であろう人が園内に戻 っていった後…

 

「…いつまで見てる気だ?木下」

 

急に元の不機嫌そうな表情に戻る佳史

 

「(バレた!?いや、きっと秀吉が…)」 「いつまでそんな角に隠れてんだって言っている。 木下姉」 逃げ場は無かった

 

「い、いつから気付いてたの?」

 

おとなしく姿を現していつ気付いたのか尋ねる

 

「お前が俺と先生の会話を見ていた所らへん」

 

「(結局始めからかーい)それでその子は…」

 

「ああ。妹だ」

 

さっきは距離があったのでよく見えなかったのだが 、近くで見ると可愛らしい顔をしている

 

優子がほっぺたをつつくと「んぅ…」と身じろぎし て佳史に抱き付く唯

 

「可愛いぃ…」

 

「木下。顔。顔がヤバくなってる」

 

「はっ!?」

 

「俺が言うのもなんだが変な奴だな、お前」

 

「そ、そんな事ないわよ?」

 

「何故疑問形なんだろうな?」

 

「うぅ…」

 

とにかく佳史のペースに巻き込まれたため、いじり 続けられる

 

「まぁいい…じゃあな」

 

「えっ?」

 

急に会話終了どころかサヨナラのお知らせが下り、 ちょっとテンパる優子

 

「え?ちょっと、何で急に?」

 

「いや、ここ俺ん家だから」

 

「へ?」

 

確かに表札には『雑賀』と書いてある

 

雑賀と言う名字自体珍しいのでまず間違いないだろ う

 

そもそも嘘をつく理由もないのだが

 

「今日は確か肉が安かったな…よし、肉じゃがでい いだろ…」

 

「あれ?アンタも今から買い物なの?どうせなら一 緒に行かない?」

 

佳史の呟きが偶々聞こえて、どうせなら、と一緒に 行こうと誘う

 

「…別にいいが…俺と居ても楽しくないだろ?」

 

「一人よりマシよ」

 

―――――

 

「玉ねぎ、人参…こんなもんだろ」

 

慣れた手つきで食材をカートに入れていく佳史

 

「あ、アンタ慣れてるわね」

 

「二年もやってたら自然にうまく成ってた」

 

「(いいなぁ…)」

 

未だにレパートリーがほとんど無い優子は密かに涙 した

 

「……そうだ。木下。お前ハンバーグ作れるか?」

 

「へ?作れるけど…何で?」

 

あまりに突然の話題変換。流石の優子も戸惑ってし まった

 

「いや…唯が前から『ハンバーグが食べたい』って 言うんだが…俺は和食以外作れなくてな」

 

「へ~…ってアンタ料理できたの!?」

 

「…悪いか」

 

かなり驚く優子に非難の視線を送る佳史

 

「いや…以外だっただけよ」

 

「ふーん…」

 

じとー…

 

プイッ

 

「…まぁいいや。で?どうなんだ?」

 

「作れるわよ?というか大体のものならできるわ」

 

「なら今度レシピ教えてくれないか?」

 

「別にいいけど?と言うか今日作ってあげるわよ。 ウチも今日は両親仕事でいないし。お肉安い日だし 。秀吉もつくけどね(って何言ってんのよアタシは !これじゃまるでつ、付き合ってるみたいじゃない !)」

 

優子は自分で自分のした事に心の中でツッコんでい た

 

そういえば、自分から男子に関わろうとしたのも初 めてだったし、今だっていつもの自分なら素通りし ていたはずだ

 

「そうか?なら頼む。じゃあ

 

・・・ 三人分頼むな」

 

「三人分?だから秀吉も来るわよ?」

 

「だから三人分だろ?お前と唯と木下とで」

 

「アンタはどうするのよ?」

 

「野暮用でな…多分11時くらいまで帰れない」

 

「ちょっと待って。ならアンタそれまで妹ちゃんの 事どうするつもりだったの!?」

 

「晩飯作っておくから家にいてくれ、って言ってあ るから大丈夫だ」

 

「アンタこんな小さい子一人にするつもり!?何か あったらどうするのよ!」

 

「大丈夫だ。そろそろ三年目だからな」

 

佳史の言葉に目を丸くする優子

 

「ちょっと待って。アンタ…両親は?」

 

そう聞いた瞬間、佳史の目が鋭くなり…

 

「…さぁ?どっかでくたばってくれてりゃベストだ な」

 

「!?アンタねぇ…親は大切にしなさいって言われ なかったの!?」

 

「…知らねぇな。あんな奴らがどうなろうと俺と唯 には関係ない」

 

それに、と一拍おいて

 

「これは俺達の問題だし、もう決着はついてる。あ んまり人の領域に土足で入ってくるもんじゃねぇぞ ?」

 

じゃあ頼むな、としっかりくぎを差してからレジへ と向かう佳史

 

「(…一体何があったらあんな目ができるのよ…) 」

 

親の話をしている時の佳史の目は、一切の光を灯し ていなかった

 

――――――

 

side YUKO

 

「ただいま~…」

 

「あ、おかえり…って何も買って来なかったの?」

 

とたとたと小走りで玄関まで迎えに来る秀吉。…全 く、男に見られたいならちょっとは男らしくすれば いいのに

 

「それなら大丈夫よ。今から雑賀くんの家に行くか ら」

 

「雑賀くんの?お姉ちゃん、雑賀くんと仲良しだっ たっけ?」

 

「アイツに頼まれたのよ。アイツの妹で唯ちゃんっ ていうらしいんだけど、その子がハンバーグ好きみ たいでね。俺は作れないからレシピ教えてくれって 言われたからちょうどいいかな~ってね」

 

少し言い訳みたいになっちゃったけど大丈夫よね?

 

「へ~…つまり自分から家に行って作ってあげるっ て言ったんだ」

 

「何でそれを!?」

 

「あ、当たってたんだ」

 

「あっ」

 

しまった!これじゃ自分で言いましたって言うのと 同じじゃない!

 

「で、レシピを教えてくれって言われただけなのに 、わざわざ家に行って作ってあげる、って言っちゃ ったんだ」

 

そう言ってニヤニヤする秀吉…なんかムカつく

 

「なによ。文句あるの」

 

「べっつに~?お姉ちゃんにも春が来たのかな~っ て思っただけだけど?」

 

「違うわよ!唯ちゃんがかわいそうだなって思った だけよ!」

 

そ、そんな別にアイツの家がどんなのかな~とか思 ってないし!あの時のアイツの顔がかっこよかった なんて思ってないんだから!

 

「へぇ~」

 

「もう!早く行くわよ!」

 

「なんかお姉ちゃん、彼氏の家に行く彼女みたいだ ね」

 

「秀吉ぃぃ!」

 

「ちょっ!照れ隠しで関節技は勘弁…~!!!」

 

――――――

 

ピンポ~ン

 

途中で寝ちゃった秀吉を引きずって雑賀くんの家に 到着

 

…関節技?何のことかしら?

 

「………はい!雑賀です!」

 

インターホンから元気のいい声が聞こえてくる

 

流石にアイツもこういう所は徹底してるわね

 

「雑賀くんの友達の木下です」

 

「あ、おにいちゃんのいってたひと?ちょっとまっ てて!」

 

そしてバタバタと家の中から音がした後…

 

ガチャ

 

「どうぞ!いらっしゃーい!…あれ?おんなのひと ?」

 

「ふふ、お邪魔します。アタシは優子でこっちは弟 で秀吉っていうのよ」

 

「ゆうこおねえちゃん…?ゆうねぇでいい?」

 

「いいわよ。あ、コイツは秀吉でいいわ」

 

「わかった!」

 

その後、秀吉が起きて、アタシはゆうねぇなのに、 ひでよしって呼ばれたのと、「なんでひでよしはお とこのこなのにおんなのこみたいなしゃべりかたな の?」って聞かれて凄く落ち込んでいた

 

…さっきの件はこれで許してあげよう

 

――――――

 

「ごちそうさまでした!」

 

「美味しかった?唯ちゃん」

 

あの後、唯ちゃん、と呼ぶくらいにはアタシ達は仲 良くなった

 

「うん!おにいちゃんのりょうりといっしょくらい !」

 

…今更だけど、アイツ本当に料理できたのね

 

「そういえば雑賀くんはどうしたの?家にいないみ たいだけど」

 

あっ!バカ!

 

秀吉がそう言うと、唯ちゃんは悲しそうに俯いて

 

「…おにいちゃんはおしごとしてる」

 

「お仕事?」

 

バイトの事?でも中学生はバイトできないはずじゃ …

 

「うん。『としなんてごまかせばなんとかなる』っ ていってた」

 

「普通は無理だよ…」

 

バカねアイツは

 

「唯ちゃん、今アイツがどこいるかわかる?」

 

早く連れ戻して来ないと、バレたら大変な事になる し

 

「わかんない…でもよるのときは『おねえさんにお さけをそそいだりするしごとだよ』って言ってた… どうしたのゆうねぇ?なんかかおがこわいよ?」

 

「ナンデモナイワヨユイチャン。キニシナイデ…」

 

「お姉ちゃん、カタコトになってる」

 

「おひるのときは『ケーキをつくったり、ジュース をつくってあげるしごと』だって」

 

つまり昼間のバイトの時はファミレスか喫茶店…こ こら辺だと駅前のラ・ペディスしかないわね

 

後夜は…

 

「ホストよね…」

 

「話を聞いた限りじゃそれだけしかないね」

 

アイツは本当にバカなの!?中学生がホストなんて 出来るわけがないじゃない!

 

「ねぇ唯ちゃん、なんでアイツはそんな事までして 働いてるの?」

 

「……わたしとおにいちゃんには、おとうさんとお かあさんがいないからっていってた」

 

「「!!」」

 

「わたしはまだあかちゃんだったからしらないの。 おにいちゃんにきいたらそれだけおしえてくれた」

 

そう言って泣きそうになる唯ちゃん

 

…まさかアイツにそんな過去があったなんて…

 

「でも、ちょっとまえからいつもよりおにいちゃん がかえってくるのおそくなったから…きっとまたお しごとふやしたんだ…」

 

「大丈夫よ唯ちゃん…」

 

そんな唯ちゃんを放っておけなくて、抱き上げる

 

「寂しくなったらまたアタシ達に連絡しなさい。い つでも来てあげるわ。アタシも秀吉もね」

 

「………うん!」

 

そして、唯ちゃんはまた、向日葵みたいに元気に笑 った

 

そして、唯ちゃんを寝かしつけて、後少しで11時 になろうと言う時に…

 

「…秀吉。アンタ先に帰りなさい。アタシはもうち ょっと唯ちゃんと一緒にいるわ」

 

「…わかったよ」

 

何かを感じたのか、秀吉は特に何も言って来なかっ た

 

…そう。唯ちゃんと一緒にいるって言うのは建て前

 

本当は、アイツに言いたい事があったから

 

…多分、いや絶対アタシは本気で怒る。そんな所を 秀吉には…大切な弟には見られたくなかった

 

そして11時を越えてしばらくした頃…

 

「…唯?まだ起きてんのか?」

 

バカが帰って来た

 

「早く寝ないと明日起きられねぇぞ…木下?」

 

「お疲れ様。バイトしてたんだって?」

 

「…唯か」

 

「えぇ。そうよ。アンタ何考えてるの?年齢偽って まで中学生がバイトなんかしていいと思ってんの! ?」

 

「…おいおい、お前優等生だったんじゃねぇのか? 仮面剥がれて「誤魔化さないで!」

 

いつもならすぐに取り繕うけど、この時のアタシそ んな事がどうでもよくなるくらい心が荒れていた

 

「こんな事はあんまり言いたくないけど、アンタ達 の両親が居なくなったのも聞いたわ。でも最悪でも アンタが成人して唯ちゃんを養っていくまでくらい はどうにかなるくらい…お金は残してくれてるんで しょ!?」

 

亡くなった人に対して失礼だけど、病死にしろ事故 死にしろ、保険は下りる

 

バイトなんてしなくても、高校卒業までくらいは…

 

「はぁ?お前何か勘違いしてねぇか?」

 

「…え?」

 

「多分奴らはまだ死んでねぇぞ?」

 

「…奴ら?」

 

「俺と唯の親」

 

…え?どういう事?だったら何で唯ちゃんと二人で 暮らしてるの?というか何で佳史が働かなくちゃ…

 

そこまで考えて、ようやくアタシは一つの答えを導 き出した

 

「…まさか、蒸発?」

 

「へぇ…流石に気付くか」

 

皮肉気に雑賀くんが嘲笑う

 

「ご名答。あのクソ野郎共は蒸発しやがったんだよ 。ご丁寧に親権を遠縁の奴に押し付けてからな」

 

「そんな事って…」

 

確かに雑賀くんは話していると周りの子達より大人 びている感じがあったけど…

 

まさかそんな重い理由があったなんて…

 

「…でも、それならその遠縁の親戚の所に…」

 

「行ったさ。ほんの少しの希望しか無かったが俺達 にはそれしか無かったからな。一度唯を知り合いに 預けてからなけなしの金を使ってその親戚の所まで 行った。そんで、その親戚の所まで行って…何言わ れたと思う?」

 

「……わからないわよ」

 

わかるはずがない。アタシはそんな経験したことな いし、まして親が蒸発するなんて考えた事無かった から

 

「……ま、普通はそうなるわな 『何で俺が勘当された兄貴の子供なんかの面倒みな きゃならないんだよ。あのな、もう俺達は戸籍以外 につながりなんか無いし、親権なんか拒否すりゃ問 題ないの。要するに俺とお前等は他人。わかった? わかったらさっさと帰ってくんない?今から俺友達 と飲みに行くから』だとよ。一字一句こぼさず覚え てる」

 

「そんな…」

 

「それでもその時の俺は諦められなくてな、必死に なってついていったら、奴は笑って俺の事を『知ら ない子供』って言って足蹴にしやがったよ」

 

もう言葉も出なかった。悪くても両親が亡くなった と言うレベルだと思っていた

 

「しかもそのまんまほっぽりだされたもんだからな …こっちに帰ってくるまで五ヵ月かかった。5月に 転校って微妙なタイミングになったのもそれが理由 だ」

 

「……もういい」

 

「唯は幸い、そいつに預かってもらってたし、保育 園にすら入れない年だったから何も知らねえし、教 えるつもりもない」

 

「もういいから!」

 

「…だから、俺は唯とあのバカ以外、信じない」

 

バカ…だったら、なんでアンタは泣きそうになって んのよ…

 

――――――

 

side KEIJI

 

「オイ雑賀」

 

「………あ?」

 

コイツは確か…坂本、だったか?木下達と仲が良い 奴だったはずだ

 

「お前木下姉弟と何かあったのか?姉は何か上の空 だし、弟は爺口調になってやがるし」

 

…姉の方は十中八九昨日の件だろうが、弟が爺口調 ?そっちは本当に知らねぇぞ

 

「…さぁ?知らねぇな」

 

「そうか。木下が昨日姉弟揃ってお前の家に行った と言ってたから何か知ってると思ったんだがな」

 

「…悪いな。妹の事を頼んだだけで俺はそこにいな かったからな」

 

そう言って俺は再び寝る体制に戻った

 

…坂本、か。あいつ…何となく俺に似ているな

 

―――――

 

side YUKO

 

「悪いな。あいつ相当手強いぜ」

 

「むう…雄二でも無理じゃったか…」

 

「何度か揺さぶりはかけたんだが…全く反応しなく てな。隙が全く無かった」

 

坂本くんでも無理…どうすれば雑賀くんの仮面を外 せるのか…

 

「というか秀吉、アンタいつまでその口調続けるつ もり?」

 

「む?駄目かの?」

 

「「いや…なんか気持ち悪い」」

 

坂本くんとハモったのはこれが始めてかもしれない

 

「なんと!?」

 

「だって…ねぇ?」

 

「ああ…」

 

「はっきり言って欲しいのじゃ!」

 

言えたら苦労しないわよ

 

「さて、ああいうタイプは動揺を顔に出さねーし、 ボロも滅多に出さねー。間違いなく一番本音を聞き 出しにくい人種だ」

 

「「ふむふむ」」

 

「そういう奴の心を解くには…とにかく話しかけろ ! 見敵必話!サーチアンドトーク!会話あるのみだ! 」

 

…いつになく坂本くんが熱い。むしろ暑苦しい

 

「しかし雄二よ。ワシらはともかく、姉上は何度も 話しかけておるがあまり効果がないぞ?」

 

「大丈夫だ。あいつはどことなく昔の俺に似ている 。俺はこの方法である奴と親しくならせられた」

 

…だったら

 

「よし!秀吉!ガンガン行くわよ!」

 

――――――

 

「そんな感じでひたすら話しかけてたら、いつの間 にか友達になってて、気付いたら好きになってたっ てところかな?」

 

「へ~…(聞いてた感じだと一目惚れみたいな気が するケドね)」

 

「(まだ言って無い事もあるけど…これはあまり軽 々しく口にするべきじゃないわよね…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくし!」

 

「どうしたんだい佳史くん?風邪かい?」

 

「大丈夫ッスよ店長。それよか手ェ動かして下さい 。客が捌ききれません」

 

「半分以上、君のせいだけどね…」

 

 

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