「予定通り……つーか予定通りすぎて何か逆に怖いんだが」
「お前の策だ。見抜ける奴の方が少ないだろう」
「確かにね。上級生の力を借りるなんて普通考えないよ……」
放課後。一日目の戦争がFクラスが各階渡り廊下を制圧し、守りきったところで終わった後、いつものFクラスメンバー+αは教室でミーティングを行っていた。
いつかのように『何時以降は戦争に関わる行為の禁止』などという協定は存在しないので、気兼ねなくミーティングをしているのだ。まぁ、防諜のためにムッツリーニと将に見張りと警戒をしてもらってはいるのだが。
「そ、そうね! 流石私のおっ「今はそんなことはどうでも良い。それより、次の手だ」……あぅぅ」
「はいはいよしよし……」
優子が以前のような絡みをしようと頑張ったものの、佳史は堂々とそれらをスルーする。さめざめと泣き出す優子を、秀吉が何とか慰めようとするのだった。
「次の手? とは言っても、戦争は休戦しちゃったよ?」
何時も通り、難しい話は理解できない明久が首を傾げる。
「明久、何も戦争中だけが勝負じゃねぇんだ。前に根本の奴が使った手も……卑怯だが、策の一つなんだ。そしてそういう手は往々にして勝敗を左右する」
「……? ま、まぁ、そうだよね! その通りだ!」
「あまり見栄は張らない方がいいぞ?」
「何を言っているのさ雄二! 僕は全部理解して……」
「……本音は?」
「ごめんなさい。全っ然わかりません」
冷や汗を流しながら目線をフラフラさせている明久に雄二と佳史が追い撃ちをかけると、明久はあっさり陥落する。その様子を他のメンバーは苦笑いしながら見ているのだった。
「だろうな。……そろそろ行くぞ。早くしないと帰られちまうからな」
「えっと、どこに行くの?」
「いいから、着いてこい。ここにいるメンツが着いてきた方が信憑性が高くなるからな」
佳史達は、そのまま教室を出ていくのだった。
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「……何の用だ? つまらない話なら叩き出すぞ?」
「まぁ、そう言うな。お前“ら”にしても悪い話じゃねぇ」
そして、場所は変わってBクラス。放課後になってそう間があいていないせいか、それなりに多くのBクラス生徒が残っている中、佳史が根本との交渉テーブルについていた。
もちろん、根本の機嫌は最悪である。とてもではないが交渉に応じようというような雰囲気は微塵もない。むしろ根本が交渉の席についただけでも奇跡のようなものなのだ。
根本からすれば、自分に下る以外に認めないという意思を示すという考えもあったのだろうが。
「それで? 用件はなんだ。もう勝ち目がないから降参します~、ってことなら設備だけは勘弁してやらないこともないが?」
「そいつは魅力的だな。どうやら図に乗った姑息な猿は現実が見えていないらしい。いや、本当に尊敬するよ。その気色悪いくらいのプライドの高さだけはな」
嫌味たっぷりに挑発をした根本だったが、湧き出すように出てくる佳史の皮肉に顔を真っ赤にして屈辱に耐える。挑発をする相手があまりにも悪かった。
「分をわきまえろよ、変態。お前らで無事なのはお前の親衛隊とBクラス中間層のメンツ、そしてD クラス数名のみ。対するこちらはFクラス8割とAクラス数名。そして三年生が数名だ。加えて、渡り廊下は全階俺達が制圧している。この状況下でどうやって逆転出来るんだ?」
「………………」
「ましてや、清水達Dクラスは明久と雄二しか狙っていない。だからお前の策にも従わない。前途多難だな」
佳史の言葉に、唇を噛んで耐える根本。
……そう。実際全て佳史の言う通りだったのだ。清水達は自分の旗下にあるはずなのに言うことを聞かず、更に精鋭部隊はほぼ全滅。残るは今まで
「……そこで、だ。今、Bクラスが敗北を認めるなら『和解』で済ましてやってもいい」
佳史がそう言った瞬間、教室がどよめく。
現在圧倒的有利な状況にあるFクラスがそんなことを申し出て来たのだ。それは驚かないはずがない。みすみすBクラスの設備を見逃すと言っているようなものなのだから。
だが、それでも根本は不快感を隠さない。
「断る。お前らに頭を下げるなんざありえない」
『なっ!? おい根本!!』
『せっかく申し出てくれたのに……』
「うるさい! 代表は俺だ! お前らは俺に従っていればいいんだ!」
わめき散らす根本を見て、教室の空気は限りなく冷めていく。もともと求心力がなかったのが、今、完全に失われたのだ。
「……そうか。交渉は決裂。ならもう話すことは何もないな」
そう言い残すと、佳史達は早々に引き上げていく。
後に残ったのは、根本への厳しい視線だけだった。
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「クラスの和か、プライドか。その二択で根本はプライドをとった。これでBクラスは終わりだな」
「本当にえげつないなお前……」
悪い笑みを浮かべる佳史に、雄二はため息で答える。回りのメンバーもそんな雄二にうんうんと頷いていた。
正直、あの提案は受け入れられようが断られようがFクラスの勝ちだったのである。和解になれば後はDクラスに集中でき、断られたところでわずかに残っていた団結を無くしたBクラスなど凪ぎ払えばいいからだ。
「ま、これで後はお前らの問題だけだ」
「って言われてもなぁ……」
「清水を懐柔するも良し。処刑するも良し。俺なら迷わず処刑だが……」
「「おいこらドS」」
「誰がドSだ、誰が。……ま、お膳立てはしてやったんだ。後はお前ら次第だぞ」
苦い顔をする明久と雄二に、佳史はわずかに微笑む。
「そうだな……一丁やってみるか」
「いつまでも佳史に頼りっぱなしなのもアレだしね」
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「……なぁ佳史」
寮への帰り道。将が唐突に佳史に話しかける。
「なんだ?」
「まだ優子のこと許してやらないのか?」
「…………」
将の問いに、佳史が黙りこむ。その様子を見た将は苦笑いしながら頬を掻くのだった。
「こんなこと言うのは柄じゃねぇってわかってるけどよ。お前もう本当は怒ってねぇだろ? だけど仲直りのきっかけがなくて仲直りできない、ってところか」
「…………」
「図星か」
「うるさい」
ニヤニヤと嫌らしい笑い方で見てくる将から目を逸らす。その行為のせいで図星なのは丸分かりなのだが。
「まぁ、早めに仲直りしてやれよ? 優子はお前のこと大好きなんだから、普通に許してくれるさ」
「……おう」
その後、マシンガンの如く放たれる八つ当たりという名の佳史の毒舌に、将は心をズタボロにされながら帰って行くのだった。
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「くそっ!! どいつもこいつもあんな口八丁に騙されやがって!!」
一方、根本は佳史達やクラスメイトへの苛立ちを隠せずにあった。
「雑賀と坂本……あいつらさえいなければ……!」
そう。全てはあの二人のせいだ。根本はそう、恨みの方向を確定させる。
佳史がいなければ、あんな戦争の方式になることはなかった。雄二がいなければ、そもそもFクラスが戦争を仕掛けてくることなどなかった。
「(バカ共がつけあがりやがって……! それで苦労すんのは俺達上位クラスなんだ! バカはバカらしく分をわきまえろよ!)」
そんなことを考えながら歩いていると、不意に誰かが目の前に立ちはだかる。
「……あ? 邪魔だオッサン」
「どうやら、坂本雄二と雑賀佳史、吉井明久に恨みがあるみたいだな」
「それがどうした。つーか何でオッサンがウチの生徒の名前知ってんだよ」
「フフフ……彼らに復讐するというのなら、力を貸してやろう」
そう言って男は深めに被っていた野球帽を取る。見覚えのあるその顔に根本は一瞬目を丸くするが……。
「断る」
「ほぅ……」
「今更誰かの手を借りるなんてできるかよ。あいつらを地獄に叩き落とすのはこの俺だ。俺なんだ!」
そう言うと、根本は男の横を通り過ぎて行く。しばらく男は立ち尽くしていたが……
「そうか。しかし、私は君を利用させてもらうよ。まずは……計画を台無しにしてくれた、雑賀佳史、貴様からだ……!」
昏く、嘲った。