P,S. 龍が如く維新超おもしれぇ←
「(……ここか)」
皐月町の端、その中でも人気のない場所にある廃校。その門の前に数人のガラの悪い男が立っているのを見つけた佳史は、直感的にそこに犯人がいると気付いた。
残念ながら、ここまで鉄人達の気配は感じられなかった。それ故に佳史は少し離れた場所で待機していたのだが、やはり懸念がある。
優子は、女子なのだ。
「(あまりチンタラはできないか……)」
佳史は、ここに来るまでに拾っていた角材を強く握った。
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「オイ明久! 見付かったか!?」
「ダメだったよ……さっきから電話もかけてるけど通じないし」
「……目撃者もほとんどいない」
「ムッツリーニもか……クソ、あいつどこに行きやがったんだ!?」
一方、雄二達は佳史の捜索に行き詰まっていた。
皐月町までは文月学園の近くの商店街の人達の証言でたどり着いたのだが、皐月町は主に住宅地の集まりである。コンビニや小中学校はあっても、店やたまり場はほとんどないのだ。
佳史を目撃した人もいないわけではないのだろうが、確実に家に帰ったりしてしまっているだろう。そんな訳で、証言がほとんど得られていないのだ。
「坂本!」
「風祭……何か掴めたか?」
「いや、こっちもダメだ。あいつ、どうやらパニクってるらしい。同じ道を何回も行ったり来たりしてたみたいだ」
「佳史も冷静じゃなかったってことか……クソ!」
頭に血が上りかけたのを、どうしようとオロオロしている明久とムッツリーニを見て無理矢理落ち着ける雄二。
後、残っている頼みの綱は鉄人とそれについていった秀吉だが……いくら鉄人とは言え、流石にこの短時間で場所を特定するのは無理だろう。
正に八方塞がり。そんな言葉が全員の頭によぎった時だった。
「あら? 将くん。こんな所でどうしたの?」
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「なんだお前は……ガッ!?」
「な、よっちゃん!? テメェボガッ!?」
見張りをしていた男……恐らく同い年くらいの不良をのし、佳史は素早く廃校に侵入する。
佳史はその勢いのまま、廃校の更に奥にある講堂を目指していた。
テンプレと言えばテンプレだが、実は講堂に陣取るのは理にかなってもいるのだ。中にほとんど遮蔽物がなく、侵入者がいればすぐに気付ける構造。更に今回みたいな場合は人質を使われればチェックメイト。これ以上に守りやすい地形もなかなかない。
そんな訳で、佳史は講堂を目指していたのだ。
「(……人が少ない? 誘拐なんざする奴だから自分の身は守ろうと必死になると思っていたが……。俺が考えすぎるのを期待してんのか?)」
そんなことを考えながらも、佳史は周りを警戒しながら講堂へ急ぐ。
そしてたどり着いた講堂の扉は、やはり半開きで放置されていた。
「(当たりか)」
そして佳史は音をたてないように注意を払いながら講堂の扉を開く。この廃校の講堂はどうやら二重扉になっていたらしく、中にもうひとつ扉があった。
「(……よし)」
意を決した佳史がもうひとつの扉を勢いよく開く。そしてその先には……がらんどうの講堂が広がっていた。
「……は?」
思わずそんな気の抜けた声を出してしまう佳史。
ただの不良のたまり場だったのか? と考え直しながら講堂の中に入っていくが、佳史が講堂の中心あたりに踏み入れた時、突然扉が蹴り倒され、そこから数人の不良が入ってきた。
「お前が雑賀って奴か?」
不良のリーダー格なのであろう、一際ゴツい男が佳史にそう聞いた。
「そうだが……なんだ? 」
「いやなに、雑賀って奴じゃなけりゃ小遣いだけ貰ったら見逃してやろうと思っただけだ」
何故自分の名前を知っているのかなどという無駄な質問はしない。どうせ誘拐犯から聞かされたのだろう。そんなことより佳史の内心を苦しめているのは優子が自分のせいで巻き込まれたということだった。
実は、佳史は普段の言動ほど優子を嫌ってはいない。むしろ佳史は嫌いな者は徹底して無視する。佳史は優子を大事な幼なじみとして見ているのだ。……時々鬱陶しいとは思ったりするが。
今回の件は、単に優子が佳史の友達を勝手に犯人と決めつけたために起きた軽いケンカだった。優子が明久達に謝れば許そうと考えていたが、それがなかったために怒っていただけだったのだ。
「何故俺を狙って優子を拐った?」
だから、佳史は優子を巻き込んだという点は許せない。誘拐犯も、自分も。
「ああ、それはね……単に呼び出しただけでは君が来ないと思ったからだよ」
そんな時、不良達の後ろから妙に聞き覚えのある声が聞こえた。
「呼び出しても来ないのがわかっていて呼び出すバカはいないだろう? だから、確実に来てくれる方法を選んだまでだ」
「……竹原」
そこから姿を現したのは、前文月学園教頭の竹原だった。
「お前……刑務所に入っていたんじゃないのか」
「ある方のご好意で出してもらってね」
芝居がかった仕種で肩を竦める竹原に、佳史は青筋を立てるが、すぐにそれを隠す。
「……お前はもう俺達とは関係ないはずだ」
「関係ない……か。ははははは!」
突然、竹原が笑い出す。しばらく笑い続けていたが、笑い終えると、今度は目を血走らせて佳史を睨んだ。
「そんなわけないだろうが!! 貴様のせいで俺の人生は無茶苦茶にされたんだ!! 文月学園を乗っ取って莫大な資産を手に入れ、試験召喚システムを売り飛ばした後引退して優雅な生活を送るという俺の完璧な計画を壊しやがって!!」
それは完全な逆恨みだった。その計画が完全な犯罪であることを棚に上げ、自身の正当性を謳う様は狂っているとしか言いようがない。
「だから復讐してやるんだよぉ!! カハハハハ! 無様に殴り殺されろやぁぁ!!」
狂笑する竹原を無機質な目で見据えながら、佳史はゆっくりと口を開く。
「……一つ、聞いておく」
「あん?」
「優子はどこだ。手は出してないだろうな」
それを聞いた竹原は、さらに嘲笑う。
「カハハ! この状況で他人の心配かよ! 安心しな、あれは今回のコイツらへの報酬だ! まだ手は出させてねぇよ。まだここの二階で寝てんじゃねぇか? ま、もっともじきにお前の後を追わせてやるよ! 木下だけでなく坂本や吉井もなぁ!!」
「そうか……」
それを聞いた佳史は、角材を握り、顔の近くに持ってきて、その柄の尻に反対の手を添え腰を落とす。
「……それを聞いて、安心した」
「やれ!!」
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「ば、バカな……」
十分後、その場に立っていたのは佳史と竹原だけだった。
不良達は地に伏せており、ピクリとも動かない。どうやら気絶しているようだ。
「店長に習った剣術がこんな所で役に立つとはな……さて、後はお前だけだ」
「く、くそっ! 」
往生際悪く逃げようとした竹原だったが、佳史がそれを許すはずもなく、竹原を殴って気絶させる。
そして佳史はすぐに二階へ上ると放送室のような場所で寝かされていた優子を見つけたのだった。
「……ったく、人が必死に探してたってのに、呑気に寝てやがるよ」
穏やかな寝息をたてている優子を見て、佳史は心底安堵したようにため息を吐くと、その場にある椅子に座る。
そして、ふと講堂が映る窓に目を向けると、いつのまにかフラフラと立ち上がっていた竹原が何かの液体を入り口の周りにぶちまけていた。
「まさか……!?」
嫌な予感を感じた佳史は、慌てて一階へと降りていく。
「竹原! やめろ!」
「ヒヒヒ……死ね、死ね……! 俺の邪魔をする奴は全員死んでしまえ……!」
虚ろな目をした竹原は懐からジッポを取り出すと点火する。
そして自分に向かって走ってくる佳史に目を向けると、狂った笑みを浮かべながら、その手を離した。