アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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お久し振りです。

書き方こんなんだったっけ……←


閑話『血のバレンタインデー』

「諸君、今年もこの季節がやってきた」

 

周囲を暗幕で囲んだためか、室内で灯されている松明の火だけが光を放つ室内。そこには覆面付きのローブに身を包んだ怪しい者達がひしめき合っていた。

そこにいる者は皆一様に鈍器や凶器を手にしており、また雰囲気も剣呑である。国家権力に見付かればただでは済まない光景だが、悲しいかな、この場所に国家権力が入ってくることはまずありえない。

そうこうしている内に、教壇に立っている一際目立つローブの者が、教卓に木槌を降り下ろして注目を集めた。

 

「今年も、この悲劇が繰り返されようとしている。我々はその悲しみをなくし、全てを平和に治めようとする者達である。

一部の特権階級の者だけが利益を甘受する世界は許されるのか? 下々の者には幸せを感じる権利すら無いと言うのか?

ーー否。断じて否である! 我々は、れっきとした権利を有する者達である! 故に、ここに宣言しよう!」

 

木槌の男の演説により、その場は徐々にボルテージを上げていく。やがてざわめきは歓声に変わり、歓声は男を持ち上げる声援に変わる。

 

「リア充狩りだ! 今日と言う日に女子からチョコを貰うような非国民は一匹残らず血祭りに上げるぞごらぁ!!」

 

『『イエス・マイロード!!』』

 

二月十四日。通称バレンタインデー。

モテない男達による、血で血を洗う一日が、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お、佳史じゃねーか。珍しく遅いな?」

 

「あー……翔か。おはよう……」

 

文月学園の寮の一室。佳史と翔の部屋の共同スペース。そこには既に登校準備を終えている翔と、珍しく寝坊した様子の佳史がいた。

翔が佳史にコーヒーを入れれば、佳史は普段からは想像出来ないようなだらしなさで手を使わずにコーヒーを啜る。それでもまだぼんやりとしているのは低血圧のせいだろうか。

 

「いつもは俺より早いのにな、お前」

 

「普段は……あー、まぁ、邪な気配で飛び起きるからな……」

 

「なるほど」

 

普段は優子の襲来を察知し、窓から放り投げるのが日課になっている佳史が寝坊した理由は一つしかない。優子が今日に限って襲って来なかったのだ。正直なところ、あの佳史関連のことにならば物理法則くらい軽く凌駕する優子(変態)が来ないのは天変地異の前触れとしか考えられないのだが、翔はカレンダーを見たことである程度の事情は察知していた。

 

「まぁ、たまにはそんな日もあるだろ。俺先に行くからなー」

 

「おー……」

 

パタリと閉じるドアを横目に、佳史はコーヒーを啜る。横では翔が切り忘れたのだろう、小さなワンセグテレビがニュース番組を映し出していた。

寝坊したとはいえ、普段が早すぎるだけで余裕はかなりある。未だに覚めきっていない体をのそりと動かして立ち上がった瞬間、今しがた出ていったはずの翔が凄まじい勢いで戻ってきた。

全力で走ったのか髪は乱れ、かばんにはカッターやコンパスがいくつも突き刺さっている。制服も数ヶ所に切れ目が見える。

 

「佳史……今日は学校には行けないかも知れねぇぞ。外は地獄だ」

 

「……とりあえず、この三分間でお前に何があったんだ」

 

この上無く真剣な目を向ける翔に、佳史はぼんやりしながらもしっかりとつっこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『異端者許さぬ滅する絶やす……!!』

『ヤッチャウヨーヤッチャウヨー』

『くぁせふじこatdあ、やtebt16〇ヾ|―〇―ヾ……』

 

「なるほどねぇ……」

 

自室の窓から外を伺えば、バットやら木刀やらスタンガンやらを装備した怪しい覆面連中がいる。当然ながら、Fクラスのバカ共だ。

 

「大方、お前が佐藤からチョコ貰ったところを奴らに見られてやられかけたってところだろうな」

 

「その通りだよチクショー」

 

鈍い佳史でも、流石にカレンダーを見れば今日が何の日かは気付いたようである。

 

「んで、どうする? あれ突破しねぇと学校に行けねぇぞ?」

 

「なんでお前は今日に限って学校にこだわるんだよ」

 

「んなもん、後輩にチョコ渡されて告白されるイベントや先輩にチョコ渡されて告白されるイベントが俺を待ってるからに決まってんだろうが」

 

「欲望だだもれだな……。とりあえず佐藤に一言一句違わず伝えとくか」

 

「誠心誠意ごめんなさい」

 

躊躇いなく土下座を敢行する翔に溜め息を吐きながら、佳史はブレザーを羽織る。この十分ほどで用意を済ませた佳史は、普通に外に出ようとしていた。

 

「行くぞ翔。俺も今日は用事がある。家に引きこもってる訳にはいかねぇ」

 

「佳史……!」

 

「放課後は唯のところに顔出さなきゃいけないんだ。唯を悲しませるような真似は神が許してもこの俺が赦さん……!」

 

「お前本当にシスコンだよな……」

 

心の中で、今日はまだ見ていない優子に合掌する翔だった。

 

「んで、具体的にはどうすんだ?」

 

「奴らを撒くこと自体はそう難しくない。割と簡単な作業だ……が、それにはお前が俺に従ってもらう必要がある」

 

「おいおい、今更だろ。俺はお前に案はないか聞いてんだぜ?」

 

「そうか。ならお前は裏口から真っ直ぐ突っ切ってくれ。奴らに裏口まで張る頭があるとは思えないが、その先で見つかる可能性がある。お前がある程度進んだらわざと奴らに見付かって逃げ隠れてくれ。その後に電話を俺に寄越せば奴らを引き付けてやる。それの繰り返しだ」

 

「なるほどな、よし。乗った!」

 

言うが早いか、翔はダッシュで裏口まで駆けていく。しかしすぐに騒がしくなったところを見ると、速攻で見つかったようだ。

 

「アイツもバカだな……奴らが逃げやすい裏口を張らない訳がないだろうに。まぁ佐藤のためにはこれでいいだろ……どうせ義理としか言ってないだろうしな」

 

外の騒がしさを他所に、佳史は堂々と正面玄関から寮を出る。翔を追って行ったのか、そこには誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……はぁ……」

 

一方、翔はようやくFFF団の追跡から逃れて隠れることが出来たところだった。裏口を出た瞬間には追われる立場にあった彼だが、大分学校に近づいたのは根性だろうか。

そして当初の作戦通りに佳史に電話をかける。数コールの後、少し間をおいて、よく聞こえる声が聞こえてきた。

 

 

『ーーおかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所に居られるか、電源が入っておりません。しばらく経ってから再びおかけなおし下さいーー』

 

「騙したな佳史ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

『いたぞこっちだ!』

 

叫ぶが早いか、再び翔とFFF団との死を賭けた鬼ごっこがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「くぁ……」

 

「む、佳史ではないか。おはよう」

 

「おー……」

 

場所は変わって文月学園。翔を犠牲にして無事に登校した佳史は校門のところで秀吉と合流していた。

 

「なんじゃ、珍しく眠そうじゃの」

 

「珍しく優子が来なかったんでな。身の危険がなけりゃこんなもんだ。低血圧だし」

 

「そう言えばそうじゃったのう」

 

「そういや優子の奴はどうしたんだ? この後何が起きるか気が気でないんだけど」

 

「あー……姉上はのう……」

 

佳史の問いに答え辛そうにする秀吉。数拍置いたものの、佳史の視線に耐えられなくなったのか、小さく溜め息を吐いた。

 

「姉上は今日は休むそうじゃ」

 

「休む? あの優良健康変態娘が?」

 

怪訝そうな表情を隠さない佳史だったが、まずは教室に入ってからだと考えたのだろう。立て付けの悪い引き戸を開ける。

 

「だからあれは僕の姉さんで!」

 

『バスローブで出歩く巨乳でエロい姉とか羨ま……羨ましいんだよ!!』

 

「力強く言い切った!?」

 

『判決、死刑!!』

 

「いやぁぁぁぁ!?」

 

「おいお前ら! 明久殺れれば満足だろ! 俺は解放しろ!」

 

『うるせぇ異端者! 霧島さんからチョコ貰っておいて五体満足で帰れると思うなよ!?』

 

「俺何されるんだ!?」

 

『拷問してから、死刑!!』

 

「いやぁぁぁぁ!?」

 

中には地獄が広がっていた。

 

「どうしたのじゃ? 入らんのか?」

 

「あー、秀吉。一旦Aクラスに行くぞ。多分これ鉄人来るまで収まらないやつだ」

 

「中で何があったのじゃ!?」

 

そう言って慌てて去ろうとする佳史だが、それを見逃す明久と雄二ではなかった。

 

「おお佳史じゃねぇか! そんなとこで突っ立ってねぇで早く入って来いよ!」

 

「そうだよ佳史! ほら、姉さんからの伝言とプレゼントもあることだしさ!」

 

『雑賀ぁ……!!』

『貴様にも拷問が必要みたいだなぁ……!!』

『殺殺殺殺殺滅滅滅滅滅壊壊壊壊壊死死死死死』

『ヤッチャウヨーアトカタモナクヤッチャウヨー』

 

無言で走り出す。すると簀巻きの状態からどうやって抜け出したのか、明久と雄二も佳史に追走してきた。

 

「助かったぞ佳史」

「持つべきものは友達だね!」

 

「……おい、どうやってあのミノムシ状態から抜け出したんだ寄生虫共」

 

「ふっ。俺達を甘く見てもらっちゃ困る。縄抜けは基本中の基本、必須スキルだ」

「後はあの騒ぎで佳史に注意がいったからね。隙を突いたら簡単だよ」

 

「縄抜けが基本スキルってどうなんだよ……」

 

「んなこたぁ今はどうでもいいだろ」

「一緒にこの窮地から脱出しよう! あ、これ姉さんから。えっと……『直接渡せず申し訳ありません。この御詫びはホワイトデーに一晩を共にする時にしますので』だってさ」

 

『『雑賀を殺せぇぇぇぇぇぇ!!!』』

 

「お前わざとやってんだよなそうだよな!?」

 

「君が何を言っているのかワケガワカラナイヨ」

 

『脱走者諸とも殺るぞ!』

『灯油と磔台の準備もだ! ただ殺るだけなんざ生温い!』

 

「さぁ逃げるぞ!」

「「異議なし!」」

 

そうして鬼ごっこは佳史達諸とも鉄人に教育的指導を喰らわされるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅ……」

 

放課後、明久や雄二と共に須川を見せしめにしてから安全に学園を脱出し、無事に唯のバレンタインチョコ(木下母監修)を受け取った佳史は、寮の自室でゆったりとチョコをコーヒーと一緒に食べていた。

翔は自分の寝室で少し早めの就寝に入っている。どうやらFFF団との鬼ごっこが思いの外堪えたらしい。決して朝の佳史の行いにキレた翔を佳史が叩きのめしたからではない。

 

「おーい佳史ー」

 

「寮長?」

 

そんなところに、二寮の寮長である難波がやってくる。どうやら佳史を探していたようだが、それにしては顔が笑っている。

 

「お前に届け物だってよ。寮の前に置いてあるから取りに来いな」

 

「届け物っすか……」

 

「おう。邪魔になるから早めになー」

 

さっさと戻って行った寮長を横目に、佳史はとりあえずコーヒーを飲み干してから部屋を出る。

 

玄関のところまで出てみると、そこにはやたらと大きい包みが二つ置いてあった。宛先を確認してみると

 

『木下優子様より、雑賀佳史様宛』

『小暮葵様より、雑賀佳史様宛』

 

佳史はカートを持ってくると、二つの包みを静かに寮の裏に放置することにした。

 

 

 

 

 

翌日、文月学園の生徒二名が風邪を引き、休んだそうな。


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