ハジメは土下座した。なぜ土下座しているのかと言うと、カツアゲ集団におばあさんと子供が絡まれていたからだ。まあ自業自得な部分もある、というか勝手に割り込んで勝手に土下座しているのだからおばあさんと孫の方もカツアゲ集団の方も若干扱いに困っているようにも見える。
しかしというかなんというか、それで丸く収まるはずもなくカツアゲ集団はハジメに暴行を始めた。まあ気持ちもわからなくはない。ハジメはあまり良く知らないが、元々この騒動の発端はハジメの後ろにいる子供だ。
彼がなんのために外出していたとかはさておき、彼はおばあさんに買ってもらったたこ焼きを手に歩いていた。たこ焼きって歩きながら食べるものだったか?しかもよりによってソースたこ焼きを。……とにかく彼は歩いていた。そして前からやってきていたカツアゲ集団に気が付かずに正面衝突してベットリとソースを服につけてしまったのだ。いやどんだけたこ焼きに目を奪われてんだよ。あるきスマホならぬあるきたこ焼きという新たな言葉を作る必要があるか?いやそもそもお前ら避けろよ。ソースたっぷりのたこ焼き持って子供が歩いてきたらどうなるかだいたい予想つくだろ。馬鹿なのか?いや馬鹿だろ。
オホン。まあその話はいいとして、とにかく彼らがおばあさんにクリーニング台を請求するのはそこまで道理が通っていない話ではない。しかもその服割と高いのだ。クリーニングに出すにせよお金がかかる。しかしおばあさんは震える孫を庇うだけで話が進展しない。クリーニング代がほしいだけなのに何故か命でも取られると思っているのかとばかりに謝り倒すだけだ。謝って済むなら警察はいらんのである。更にイライラし始めたところに意味のわからん土下座した男が割り込んできたのだから若干彼らもパニック気味なのではなかろうか。
しかしハジメも引くつもりはない。というかもう引くに引けないといったほうが正しいか。ハジメの気力が尽きるのが先かカツアゲ集団のいたたまれなさと呆れ度合いがカンストするのが先か。今ここに世界一しょうもない根比べが勝手に開催されたのだ。
……そう思った矢先だった。
「……おい。」
声が響いた。もうそれはそれは凄まじい威圧感の声が。例えるなら蛙目線の蛇、うさぎ目線の狼、間違えて子供を襲って親象に睨みつけられているライオンの気分といったところか。
「「「こ、この声は……」」」
ビビった。それはもう盛大に。あしがガックガクしているではないか。カツアゲ集団は一挙一動無駄に全く同じ動きをしながらその声の主を探す。右、左、上、そして後。つまりハジメの正面を。
そこには、ヤンキーがいた。
「「「せ、生徒会長?!」」」
しかも生徒会の会長らしい。
……マジで?
語彙力なさすぎ?いや、そう表現するのが一番しっくりくる感じの人がいたのだからそう言うしかないだろ(?)。
とりあえず見た目を説明しよう。着ているのは紺のセーラー服。獲物でも見つけたように釣り上がる鋭い目、不機嫌そうに曲がった口、そしてなんか怒りのあまりなのかどうかはわからないが蛇みたいにうねうねしてるのが数本あるのをおいておけば腰まで届く美しい黒髪。そして口には棒付きキャンディーを咥えている。
彼女が口を開く
「テメーら。何してんだ。アァ?」
それはもう世にも恐ろしいひっくいドスの利いた声で。彼女はズカズカとたこ焼きソースが服についた彼に詰め寄ると、身長差があるため下からその顔をギロリと睨みつける。上目遣い?バカ野郎。木の上にいる獲物を狙うときの目だよあれは。
「い、いやその……」
タコヤキ君はアワアワと事情を説明する。ケータイのバイブかと言いたくなるほどにガクガクと高速で震えている。
「フンフン。タコヤキでお気に入りの服汚されて、で金を要求したらそこのやつが割り込んできて土下座始めたと。ふ〜ん。」
ギランッ!!彼女の目が猛禽類のように輝いた。ついでに飴も噛み砕かれる。南無。
「で。なんでそいつはボロポロになって倒れてるわけ?」
ご尤も。カツアゲ集団の顔が絶望に染まった。
かの乙女怒れる断罪者あああ~。判決うぅう〜地獄うぅう行きいいいいい。
「……ふざけとんのかテメエらあああああああ!!!」
ちゅどーん。
雷が落ちた。
「「「ひいいいいいいっ!!!」」」
いつの間にか正座していたカツアゲ集団の顔を順々に覗き込みながら彼女は怒鳴る。
「たまたま学校に用があったから近くを通ったらこれか。ええ?金のことはまあいい。だがな、人様に手ぇ上げていいと思ってんのか!ァア!?しかも受験を控えた三年生が!!」
「「「め、滅相もないです!」」」
一通り言いたいことを言ったのか彼女はため息をつくとともに腕を組み、もう一度声を張り上げる。
「一日一回!?」
「「「奉仕活動!」」」
「声が小さいっ!!人様に迷惑をかけるのは!!?」
「「「三流チンピラ!!!」」」
「もっと出せやあっ!!!ケンカを鍛えるのは??!!!」
「「「自分を磨k「違うだろおおおお!!!」ヒイッ!?」」」
違うの?!と心のなかで叫ぶハジメ。ケンカに鍛えるもクソもあるのだろうか、という疑問はこの際おいておこう。
「いつか大切な人ができたとき!その人を守れるようになるためだろ?!」
「「「姉御!一生ついていきます!」」」
熱い。決意と想いが熱い。あと物理的に地面が熱い。
「私についてくる前にやることがあるだろ!」
「「「すんませんっしたアアア!!!!」」」
だあんっ!地面に頭を打ち付ける3人。もう空気に飲まれに飲まれたハジメは反応できない。すると彼女がハジメに手を差し出した。掴まれ、ということだろう。
「いったた……。ありがとうございます……。」
「あ?いや、今回は全部こっちに非があるからな。礼はいい。それより怪我は……してるな。」
ハジメの怪我の具合を見てもうそれは悲痛な顔をする。少女はハジメから若干距離を取ると、
唐突に世にも美しい最敬礼を繰り出した。きれいに腰から曲がったそれは素晴らしいの一言に尽きる。
「え、え?」
「頼む!このバカどものことは黙っておいてくれないか?!」
訳がわからずぽかんとするハジメ。随分と間抜けな顔だww。
「コイツらも悪いやつじゃないんだ。根はただの馬鹿なんだ!それに受験も控えててここで暴行事件があったとなればただじゃ済まされない。医療費なら払う!できることならなんだってする!許してほしいとは言わない!だから頼むっ!」
「姉御!俺たちが悪いんです!」
「そうですよ!な!?責任なら俺らが取るから!」
「えっええ……?」
罪のなすりつけ合いではなく罪の取り合い。俺が私がわたくしが、と互いに一歩も譲らない。ついにはハジメが間に入ってまぁまぁと諌めるというなんだかよくわからないことになっている。
「そんなひどい怪我じゃなかったですし、たしかによくわからない謎の存在でしたし……。まあ、もういいですよ。」
このまま解散しよう。そう言おうとしたハジメだったがそうは問屋が卸さない。彼女らは「それじゃあ気がすまない!」と結局押し切られ、とあるアニメイベント帰りだったハジメの荷物持ちをすることとなった。
「あ、そういえば君、名前は?」
ヤンキー少女が振返りながら聞く。そういえばなんか色々……ほんとに色々あって忘れていたがこの人初対面であった。ということを今更ながら気がついたハジメはとりあえず自分の名前を名乗る。
「南雲、ハジメです。」
「ふーん。ハジメ……ハジメね。」
しばらくブツブツと呟いていたヤンキー少女が不意にバッと顔を上げると、ハジメに向けてサムズアップをする。
「ハジメ。君の根性気に入ったぜ。これからも大切にしな。」
褒められなれていないハジメはボケっと間抜けな顔をしたあと、アワアワと挙動不審になるが、ヤンキー少女はそんなハジメを見て、軽快にハハッと笑うと、空いている手で自分の胸に手を当てた。
「私は隣町の学校でアタマ張ってる
八重樫雫っていう。よろしく。」
こうしてハジメは最高にかっこいいヤンキーと友達になった。彼らがどんな物語を描くのか……
せーの、しらね!
あ、ちなみにこのあと、彼女が可愛いもの大好きだということが判明した。