ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)   作:朝陽晴空

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 アスカがシンジ達と同居を始めてから数ヵ月。ある日を境にアスカは明るかった笑顔を失ってしまった。ゲンドウ暗殺計画に巻き込まれたアスカの目の前に、もう1人のシンジが姿を現した。
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アスカ・スマイル! ~消えたシンジの願い~(ハッピーエンド)のリメイクです。
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アスカ、また笑ってよ! 3月23日記念LAS短編

 来日したアスカが葛城家でミサトとシンジとの同居生活を始めて3ヶ月が経った。

 最初はシンジとの同居生活に不平不満を漏らしていたばかりだったアスカも、時々楽しんでいるような表情を見せるようになった。

 

「ねえシンジ、チェロを弾いてよ」

「えっ、僕まだ宿題が終わってないんだけど」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

 

 アスカがヒカリに頼まれて、ヒカリの姉のコダマの知人男性とのデートに行ってしまった日。

 ひとりぼっちで家に居る事に暇を持て余したシンジは、チェロをベッドの下から引っ張り出して弾いていた。

 ミサトと同居する事になった時、先生から送られて来たシンジの荷物の中にチェロが入っていた。

 今までシンジは家事やアスカのお守りに追われてチェロを弾く気が起きなかった。

 久しぶりにチェロを弾いたシンジは、思わず時間を忘れて夢中になってしまった。

 その時、予定より早く帰って来たアスカにチェロを弾いている姿を見られてしまったのだ。

 

「なかなかやるじゃない」

 

 アスカに素直に拍手されて、初めてアスカに褒められたシンジは照れくさい気持ちになった。

 それからと言うもの、アスカはミサトが居ない時にシンジにチェロの演奏をせがむようになった。

 

「分かったよ、じゃあ少しだけ」

「やった!」

 

 アスカはシンジの正面の椅子に座って、シンジのチェロの演奏を聴く。

 シンジはアスカに見つめられながらチェロの演奏をするのは照れくさかったが、自分を見つめるアスカの笑顔を長く見ていたくて、少しだけと言ったのに長くチェロを弾いてしまうのだった。

 このチェロの演奏会が、シンジとアスカにとっての楽しみの1つだった。

 それなのに……。

 

 

 

 ある日を境に、シンジはアスカの様子がおかしくなった事に気が付いた。

 まず笑顔を見せなくなり、いつも何か考え込むような硬い表情をしている。

 チェロの演奏会もパッタリと途絶え、部屋に閉じこもる事も多くなった。

 

「アスカ」

「な、何か用?」

「別に用は無いけど、何か悩み事でもあるの?」

「大丈夫よ、放って置いて」

 

 シンジは自分がアスカに嫌われてしまったのではないかと思ったが、アスカは怒っていると言うより、何かに怯えているような様子だった。

 

「ミサトさん、最近、アスカの様子がおかしいと思いませんか?」

「そうね、でも下手に疑っている様子を見せると、アスカとの溝はさらに深まってしまうかもしれない。だから諜報部に尾行させるわけにもいかないのよ」

 

 ミサトもシンジと同じくアスカの態度に変化を感じていた。

 今のアスカはやっと2人と打ち解けて笑顔を見せ始めた、14歳の少女の姿では無い。

 当初ミサトは自分がリョウジとよりを戻してしまったので、アスカが自分に対して怒っているのではないかと思っていたが、シンジの言う通り、秘密がバレやしないかと怯えている感じだ。

 アスカはリョウジにも近寄らなくなったのだとミサトは聞いていた。

 

「もしかしてアスカは、危険な相手と恋愛関係になっているのかもしれないわ。例えば、妻子の居る男性とか」

「そんな!」

 

 アスカがリョウジに憧れのようなものを抱いているのはシンジは知っていた。

 でもリョウジがミサトと復縁すれば、アスカは自分の事を見てくれるかもしれないと淡い期待を持っていたシンジはショックを受けた。

 ツンツンとしていたアスカが自分に笑顔を見せてくれるようになって、シンジは嬉しかった。

 またチェロを弾く事が無くなって、シンジの気分は落ち込んだ。

 

 

 

 放課後、シンジはアスカがどんな男性と付き合っているのか気になって、アスカの後を尾行する事にした。

 やっとアスカが毎日シンジを下校時に誘って一緒に帰るようになったのに、最近になってアスカは逃げるように1人で下校するようになっていた。

 アスカは尾行をかなり警戒している様子で、シンジは遠く離れた場所からしかアスカを追いかける事が出来ず、シンジはアスカを見失ってしまった。

 しかしシンジが偶然に入ったカフェで、アスカを再び見つける事が出来たのはラッキーだった。

 アスカは1人でコーヒーを飲んで、誰かを待っている様子だった。

 すると、アスカの向かいの席に座ったのは、スーツを着た外国人の男性だった。

 

「アスカが、加持さん以外の男性と付き合っているかもしれないって言うミサトさんの話は当たっていたんだ……」

 

 しかしまだアスカが脅迫されている可能性も捨てきれない。

 シンジはしばらくアスカと外国人男性の話す様子を見守った。

 会話の内容は聞こえなかったが、アスカは時々笑みを浮かべていて、楽しそうに見えた。

 だがそのアスカの笑みは、シンジの好きな太陽のようなアスカの笑顔ではなく、狂気を感じさせる歪んだ笑顔に見えた。

 

「いや、きっと僕はあの外国人の男に嫉妬して自分の心が汚れてしまっているから、アスカの笑顔も曇って見えるんだ」

 

 シンジは自分のせいだと言い聞かせた。

 アスカが外国人の男性と密会を繰り返しているのは分かったが、シンジはアスカの恋路を邪魔する自分が浅ましい人間だと思い、ミサトに告げ口する事を止めた。

 

 

 

 しかしシンジはアスカの事ばかり気にしてはいられなかった、なぜなら自分にも大きな悩み事が出来てしまったからだ。

 次第に近づいて来る母親ユイの命日。

 5年前、母親ユイの墓参りで父ゲンドウと言い争いをして逃げ出してしまってから、サードチルドレンとして第三新東京市のネルフに呼び寄せられるまでシンジはゲンドウと顔を合わせる事はなかったのだ。

 ネルフに来てからゲンドウとまた話す事が出来たので、久しぶりに2人で母親の墓参りに行く事になったのだ。

 シンジはゲンドウに5年前に言ってしまった事を謝りたかった。

 今までシンジを引き取っていた『先生』も、母親のユイはゲンドウが殺したのだと世間の噂通りの事を話していた。

 そしてシンジもいつの間にかそうだと思い込み、ゲンドウを人殺しだと罵った。

 あれは実験の予期しない事故だったと話すゲンドウの言い分に耳を貸そうとはしなかった。

 でもシンジは自分の心を守るために今まで蓋をしていた記憶を思い出し、母親のユイは自分から望んで実験に臨み、事故に遭ったのが真実だと確信した。

 シンジは母親が死んだ時、涙を流して激しく嗚咽するゲンドウの姿を見ていた事も思い出した。

 やっぱり父さんは母さんを愛していた、だから殺そうとするはずがない、一方的に父さんを悪者扱いするような事を言って悪かったとシンジはゲンドウに話すつもりだった。

 

 

 

その一方で、シンジとゲンドウの墓参りの日が近づくにつれて、アスカは緊張感を増していた。

 その日は、アスカが自分の母親の復讐を実行する絶好のチャンスだと考えていたからだ。

 ある日ネルフのドイツ支部からやって来た旧知の男性に、アスカの母親の死の原因となった実験は、ゲンドウの野望によるものだと聞かされた。

 当初はバカな話だと聞き流していたアスカだが、ゲンドウが自分の妻と再会するためにエヴァを利用したと聞かされると、アスカの心に黒い炎が燃え上がった。

 アスカとその男はゲンドウを暗殺するための計画を練った。

 普段から多数のSPに守られているゲンドウだが、年に一度だけ、人払いをする時がある。

 それはユイの命日に墓参りをする時だった。

 今までその時のゲンドウに近づく事が出来たのはシンジだけ。

 他の人間は墓地に立ち入る事すら許されない。

 しかしアスカの母親のキョウコの遺言で、キョウコの墓はユイの墓の隣に建立された。

 これはアスカにとってはとても都合の良い事だった。

 自分の母親の墓参りだと言う名目で墓地に入れば、丸腰のゲンドウに接近する事が出来る。

 アスカ達が立てた計画では、アスカは偶然ゲンドウが墓参りに行く日に、自分も母親の墓参りに行く事を思い立ち、墓参りの品に紛れて小型の拳銃を持ち込んで墓地へと入り、ゲンドウを撃つと言った少々短絡的なものだった。

 冷静に考えてみると成功確率の低い計画だったが、黒幕はゲンドウを排除しようとするゼーレの人間が絡んでいた。

 ゲンドウでなければ人類補完計画は実行できないと主張する者と、ゲンドウは人類補完計画にとって危険分子であるから排除する者で、ゼーレは意見が割れていた。

 そのゼーレの人物は、自分の息のかかった者が直接ゲンドウを暗殺すれば、自分の元にも捜査の手が及び都合が悪い。

 そこでセカンドチルドレンであるアスカに白羽の矢を立てた。

 ゲンドウの暗殺に失敗しても、アスカが母親の復讐をするためと言う動機で行ったと決着を付ければ、自分は無関係を装う事が出来る。

 母親の復讐に目が曇っていたアスカは、自分が利用されている事に気が付かない。

 

「ねえ、アタシがママの敵を討ったら、ママは喜んでくれる? アタシを褒めてくれる?」

 

 自分の部屋でサルのぬいぐるみに話し掛けるアスカの顔は、狂気の笑みで歪んでいた。

 アスカは弐号機のパレットガンで使徒を撃った事はあるが、拳銃で人の命を奪った事など無い。

 身体が震えるほどの恐怖は燃え上がる復讐心がかき消してくれた、むしろ興奮するような狂喜がアスカの胸に湧きあがって来る。

 しかしアスカにとって気がかりなのはシンジだった。

 母親の敵であるゲンドウの息子なのに、アスカはどうしてもシンジの事を憎めなかった。

 アスカは日本に来てから、様々なワガママを言ったが、1つとして通ったことが無い。

 ミサトだってアスカの姉だと言いながら、ネルフの上官としての任務を優先する。

 リョウジもアスカが甘えても相手にしてくれないし、ミサトに対するほど本気になってくれない。

 文句を言いながらも、ありのままの自分を受け入れてくれたのはシンジなのだと、アスカは気付いていた。

 シンジの気持ちを試すような事をしても、シンジは自分を見捨てるようなことはしない。

 だから、シンジの目の前で父親のゲンドウを撃ってしまう事は避けたかった。

 ゲンドウを庇ったシンジが撃たれてしまう可能性もあった。

 アスカに暗殺計画を持ち掛けた男は、シンジの生死も問わないと話していた。

 この事がキール議長の耳に入れば、その男は粛清されてしまうだろう。

 しかしその男はキール議長がもしエヴァ量産機の数が足らなくなった時に、どのように人類補完計画を強行しようとしていたかまでは知らなかった。

 アスカはさりげなく説得して、シンジをゲンドウと一緒に墓参りに行かせないように仕向けようと決意した。

 

「シンジ、今度の日曜日に司令と一緒にお墓参りに行くんでしょう?」

「うん、僕もこの機会に父さんに悪い事を言ってしまった事を謝ってみようと思うんだ」

 

 前向きなシンジの言葉に、アスカは面喰ってしまうと同時に困ってしまった。

 シンジは父親のゲンドウを苦手としていて、アスカにも愚痴を零していた。

 アスカは何とかシンジに墓参り行きを思い止まらせようと説得にかかる。

 

「あんな司令みたいな人間と話したって無駄よ、アンタが傷付くだけだから絶対止めておきなさい!」

 

 アスカが強くそう言うと、シンジは怒ったような顔で言い返した。

 

「言っている事がおかしいよ、父さんから逃げずに向き合うようにずっと励ましてくれたのはアスカじゃないか」

「そ、そうだった? まあせいぜい頑張りなさい」

 

 アスカはとぼけるような顔をして誤魔化した。

 これ以上強引に説得しようとすると、シンジにアスカの計画を気付かれてしまうかもしれない。

 シンジの墓参り行きを止められなかったアスカは自分の部屋に戻ると深いため息をついた。

 しかしゲンドウがガードを遠ざけるめったにない襲撃のチャンスなのだから、止めるわけにはいかない。

 こんな暗い気持ちを抱えながら、また復讐のチャンスを待ち続けながら生きていけないとアスカは思うのだった。

 

 

 

 いよいよシンジがゲンドウと墓参りに行く運命の日を迎えた。

 制服を着たシンジは少し緊張した表情で、家を出て行った。

 ミサトはリョウジとリツコと共に友人の結婚式に招かれているようで、これで家に居るのはアスカ1人となった。

 シンジとミサトを玄関で見送ったアスカは、ゲンドウ襲撃の準備をするために自分の部屋へと戻った。

 まずアスカは机の引き出しの中に隠していた3Dプリンターを起動し、小型拳銃のデータを入力した。

 この3Dプリンターとデータは、アスカに暗殺計画を持ち掛けた男から渡されたものだ。

 次にアスカはミサトの部屋にある酒瓶を叩き割って大量のガラス片を手に入れると、それを3Dプリンターに投入する。

 ミサトの部屋の証拠隠滅なんてしなかった、どうせ自分はゲンドウを撃った後に捕まって、この家に帰って来る事は無いとアスカは分かっていた。

 3Dプリンターで銃が製造されている間に、アスカは墓参りに行くための服に着替える。

 自分が着ていた部屋着は、ミサトの酒瓶を割った時に返り血のように中の酒を浴びて濡れてしまっていた。

 着替え終わったアスカは自分の姿を鏡に映してみる。

 この前親友のヒカリと一緒に選んで買った新しい服のはずなのに、色あせて見えた。

 その理由は分かっている、着ている自分自身がすさんだ雰囲気に包まれているからだ。

 アスカは改めて日本で暮らしていた自分の部屋をぐるりと見回す。

 母親からもらったサルのぬいぐるみ、お気に入りの黄色いワンピース、壱中の文化祭でシンジ達の『地球防衛バンド』と一緒に撮った記念写真が目に入る。

 それらの煌びやかな思い出が、アスカの復讐殺人と言う行為を止めようとする。

 しかし、アスカには迷っている時間は残されていなかった。

 ゲンドウが墓参りを終えれば襲撃のタイミングを逃してしまう。

 墓地の周囲を固めている警備の人間の一部は、計画の協力者になっていると男は話していた。

 

「さよなら」

 

 3Dプリンターから出力されたガラス製の拳銃を持ったアスカは、別れの言葉をつぶやいて自分の部屋を出た。

 

「間に合って良かった。アスカ、その拳銃を捨てるんだ」

 

 声を掛けられたアスカは驚いて息を飲んだ。

 葛城家の居間には外に出掛けたはずのシンジが立っていたのだ。

 

「シンジ、アンタは司令の所に行ったんじゃないの?」

「僕はこの世界の人間じゃない。アスカが父さんを撃ってしまった未来の平行世界から来たんだ」

 

 アスカの質問に対して、プラグスーツを着たシンジは真剣な表情で答えた。

 確かにシンジは学生服を着て墓参りへと向かったはずだとアスカは気が付いた。

 

「未来から来たシンジだろうが、邪魔しないで! アタシはママの敵を討たなければならないのよ!」

 

 アスカはそう言って拳銃をシンジに向けるが、シンジは全く動じなかった。

 

「確かに僕やアスカの母さんが死んだのは、エヴァの実験のせいだ。でも、父さんは母さんの事を愛していた。殺そうとなんて考えていたとは思えない。不幸な事故だったんだよ」

「それならアンタは、アタシからママを奪ったのは碇司令じゃないって言うの!?」

 

 逆上して目を血走らせたアスカは、握っていた拳銃を強く握り締めた。

 強く握ったせいで薄いガラスの部分が割れて、アスカは指を切った。

 

「アスカっ!」

 

 シンジは顔色を変えて、リビングに置いてあった救急箱を取り出してアスカの指に包帯を巻く。

 力強く手をシンジに掴まれたアスカは、抵抗する事を止めた。

 

「アスカのお母さんが亡くなった事に、父さんにも責任が全く無いとはいえない。でもアスカがしようとしているのは、僕から父さんを奪う事。アスカが憎んでいた、僕の父さんと同じ事をしようとしているんだよ」

「あっ……」

 

 シンジに指摘されて、アスカは全身から身体の力が抜けた。

 自分が何をしようとしていたのか、冷静になって気が付いたのだ。

 復讐を果たしても、シンジに恨まれ続けてしまうかもしれない。

 そんなのは絶対に嫌だ。

 

「教えて、アンタの居た未来の世界では、アタシはどうなったの?」

「結局父さんを殺す事は出来なかったけど、拳銃で人を撃ってしまったショックでアスカはおかしくなっていって、最後にはアスカのお母さんと同じように首を……」

「そう、止めてくれてありがとう、シンジ」

 

 目から涙を流したアスカはシンジに抱き付こうとしたが、シンジの身体をすり抜けてしまった。

 

「アンタ、身体が透けて……」

「存在する可能性の無くなった世界の僕は消えるんだ。アスカが考えを変えてくれたお陰だよ、ありがとう」

「そんな、お礼を言うのはアタシの方よ!」

 

 アスカの目の前でプラグスーツを着たシンジの姿は消えた。

 しかし、シンジが指に包帯を巻いてくれたと言う事実は残っていた。

 

「済まなかったな、アスカ。俺の怠慢のせいで、危険な男が近づいていたのを察知できなかった」

 

 アスカが助けを求めてリョウジに電話すると、リョウジは結婚式場を抜け出して家へと駆け付けた。

 アスカにゲンドウの暗殺計画を唆した男達の一味はリョウジが何とかすると話した。

 その点でアスカは安心する事が出来たが、問題はこの家で起きた事件の後始末だ。

 家族である2人、特にシンジにはアスカがどす黒い感情を抱いていた事を知られたくない。

 その事もリョウジに相談すると、リョウジはアスカに作戦を提案した。

 

 

 

 その日の夕方、墓参りを終えて家に帰って来たシンジは驚いた。

 アスカがキッチンに立って、夕食を作っていたのだ。

 

「シンジ、おかえり。司令とのお墓参りはどうだったの?」

「うん、少しだけど父さんと話す事が出来たんだよ」

「そう、良かったじゃない」

 

 シンジの答えを聞いたアスカは笑顔を浮かべた。

 それは久しぶりに見る明るい笑顔だとシンジは感じた。

 

「アスカ、その指はどうしたの?」

「包丁で指をちょっと切っちゃってね。はぁ、慣れない事はするもんじゃないわ」

 

 アスカがそう答えると、シンジは疑いもせずに納得した様子だった。

 

「それにしても、アスカが料理をするなんて、ビックリしたよ」

「アタシが暇潰しに料理をする事に文句あるの?」

「ううん、そんな事無いよ」

 

 最近のアスカは思い詰めた顔をしていてシンジは心配していたのだ。

 悩み事が解決したのだろうか、アスカの笑顔はまぶしいほどだった。

 アスカが笑顔を取り戻した理由をこの世界のシンジは何も知らない。

 だけど、アスカはその方が良いと思った。

 自分はこの家で、今まで通り楽しく生きて行く。

 

「さあシンジ、出来たわよ。このアスカ様が作ったんだから、ありがたく思いなさい!」

 

 夕食後にはお礼にと、久しぶりにシンジのチェロの演奏会が開かれた。

 次の日の朝、リョウジと朝帰りをしたミサトは、リョウジがアスカに話した通りに、自分の部屋の酒瓶が数本消えていた事に疑問を持たなかった。




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