ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)   作:朝陽晴空

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 4月29日でエヴァの二次創作を初めて1周年記念を迎えます。
 1ヶ月ぐらい非公開状態で作品を書いていました。
 現在多忙でオリジナルの短編を製作する時間が無いので、編集作品となりました。
 初作品『エヴァンゲリオン~アイのチカラ~』とテーマは同じなので、1周年記念とさせて下さい。
 余裕が出来ましたら、短編も続けます。


【1周年記念作品】ユイの意志、シンジの決意

<研究機関ゲヒルン日本支部 ロビー>

 

 特務機関ネルフの前身であるゲヒルンは、セカンドインパクト後に人類が生き残る方法を模索する研究機関であった。

 南極大陸の融解による水位上昇、地軸が傾いた事による気候変動、人類同士の戦争による環境汚染。

 その問題を解決するために世界中の研究者がゲヒルンには集まっていた。

 シンジの母親である碇ユイ博士、アスカの母親である惣流・キョウコ・ラングレー博士もゲヒルンに集まった研究者だった。

 2人は自分の子供を連れて、重要な実験が行われる日本支部へとやって来ていた。

 同じ実験に参加する者同士、ユイとキョウコはロビーで顔を合わせるとすぐに親しくなった。

 

「ユイさんの息子さん、5歳なんですか?」

 

 ユイの足元に隠れるように立っているシンジを見たキョウコはそう尋ねた。

 

「はい、キョウコさんの娘さんも?」

 

 そう答えたユイは、キョウコの後ろで腕組みをして退屈そうな顔で立っているアスカを見て尋ね返した。

 

「ええ、そうなんです。アスカと言います」

「可愛らしいお嬢さんですね」

 

 キョウコが笑顔でユイに答えると、ユイはアスカに微笑みかけた。

 褒められたアスカは照れて顔を赤くしながらもツンと澄ました顔で強がっている。

 ユイは相変わらず自分の身体に隠れている息子のシンジに声を掛ける。

 

「ほら、シンジったら私の後ろに隠れてないで前に出なさい、何を照れているのかしら」

 

 そんな情けないシンジの姿を見て、アスカはシンジをさえないヤツだと思った。

 アスカのシンジに対する第一印象は良いとは言えなかったが、シンジから発せられた言葉がアスカのシンジへの評価を逆転させた。

 

「だって、髪の色がとってもきれいな子なんだもん……」

 

 アスカは金色の髪をした母親のキョウコと違い、赤みを帯びた茶色い髪の色をしていた。

 母娘で一緒に居ると、母親のキョウコの金髪が先に褒められる。

 側に美しい金髪のキョウコが居るのに、アスカの髪の方を真っ先に褒めたのは、シンジが初めてだった。

 ドイツの幼稚園に居る時はコンプレックスだった髪の色を、純真な瞳で褒めてくれたシンジに、アスカの胸はキュンとなった。

 

「アスカちゃん、シンジと仲良くしてあげてね」

 

 ユイに声を掛けられたアスカは胸を張って任せろと言った態度でうなずいた。

 

「シンジ、審美眼に優れたアンタをアタシのお婿さんにしてあげる!」

「ありがとう」

 

 アスカはシンジに人差し指を突き付けてそう言い放った。

 シンジには審美眼もお婿さんの意味も分からなかったが、家族相手でもお礼を言うのは大切だと教育を受けていたシンジは、アスカのプロポーズを笑顔で快諾した形となった。

 

「あらあら、アスカちゃんのお婿さんが決まったのなら、私も実験前に思い残す事が1つ無くなったわ」

「それは私もですよ、キョウコさん。シンジ、お嫁さんのアスカちゃんを守ってあげられるくらいに強い男の子になるのよ」

 

 笑顔のキョウコの言葉にユイも笑顔で答えると、ユイはシンジの頭を優しくなでた。

 

 

 

<研究機関ゲヒルン日本支部 実験場>

 

 使徒の父である第1使徒アダムは、南極で暴走しセカンドインパクトを起こして自滅し、第2使徒リリスはロンギヌスの槍とカシウスの槍によって封印する事に成功した。

 死海文書により予告された第3使徒の襲来は10年後。

 まず人類は使徒を倒す事よりも、生き延びる研究を優先したのだった。

 数年前、使徒に対抗する兵器として最初に作られたエヴァは、第1使徒アダムのコピーである零号機だった。

 14歳の葛城ミサトをゼロ・チルドレンとする起動実験は成功したが、使徒と戦う兵器としては心細いものだった。

 そこで持ち上がったのが第2使徒リリスのコピーである新しいエヴァの建造・量産計画。

 この計画の成功をもって、研究機関ゲヒルンは特務機関ネルフへと移行する。

 今までのように使徒の攻撃から逃げ延びる目的の消極的な研究機関では無く、積極的に使徒を殲滅する組織へと生まれ変わるのだ。

 研究所のキール所長やネルフの支部長達も立ち会う、重要な実験だった。

 

「どうしたゲンドウ? そわそわと動き回って、いつも冷静な君らしくもない。ただの起動実験だろう?」

 

 白衣を着て落ち着かない様子で実験場を見渡せる広間を歩き回るゲンドウに、同じく白衣を着た大柄の白人男性が声を掛けた。

 この男性はアスカの父親であるヤーコブ・ラングレーだった。

 生まれはアメリカであるが、ドイツ人の血を受け継いでいる。

 熊のような体格のヤーコブはゲヒルンの所員達から、テディ・ベアとあだ名をつけられていた。

 本人もそのあだ名を気に入っていて、娘のアスカにテディ・ベアをプレゼントした。

 

「ヤーコブ、君は今回の実験は危険なものだと感じていないのか?」

 

 ゲンドウが神経質に眼鏡を頻繁にいじりながら真剣な表情で問い掛けると、ヤーコブは大声を上げて笑った。

 

「零号機の起動実験は何度も成功していた、被験者の彼女は今や戦略自衛隊に入隊して戦場で奮戦しているそうじゃないか。以前より健康体で身体能力も向上したらしいとも聞いたぞ」

 

 ヤーコブに元気付けられても、ゲンドウの心の中の不安は消えなかった。

 零号機の被験者、葛城ミサトは零号機とのシンクロに成功したが、年齢の上昇に伴いシンクロ率は低下して行き、16歳になる頃には零号機の起動が出来なくなった。

 零号機に乗れなくなったミサトは戦略自衛隊へと出向し、使徒襲来の少し前にネルフに呼び戻されるまで海外の戦場への任務に赴いていた。

 焦りを感じたキール所長は京都大学で形而上生物学を教えていた冬月コウゾウ教授にも協力を求めた。

 そして提唱されたのがアダムでは無くリリスをベースとした初号機と弐号機の建造だった。

 

「君の息子にも、俺の娘にも、人類の輝かしい歴史の瞬間を見せられるんだ。今日は素晴らしい日になるぞ!」

 

 ヤーコブは期待に満ちた明るい表情で実験の準備が行われている実験場を眺めた。

 

「パパ!」

 

 遠くからシンジの手を引いて駆け寄って来たのはアスカだった。

 アスカはパッとシンジの手を離すと、ヤーコブに飛び付いた。

 

「アスカ! 一緒にここでママの活躍を見ようじゃないか!」

「うん! それでパパにサプライズのお知らせがあるの!」

「何かな?」

 

 父親のヤーコブに尋ねられたアスカは、唖然として立っているシンジを指差した。

 

「彼はシンジ、アタシのプロポーズを受けてくれたダーリンよ!」

「ほう、シンジがアスカを貰ってくれるのか」

 

 ヤーコブが大きな手をシンジに向かって差し出すと、怯えたシンジはゲンドウの陰に隠れた。

 

「おとうさん……」

「おっと、ゲンドウのジュニアなら俺も安心だ、ハハハ……」

 

 自分の陰に隠れるシンジを見て、ゲンドウはため息をついた。

 ユイに似て可愛い息子だからとシンジを甘やかしすぎたのかもしれない。

 ゲンドウは膝の上にシンジを乗せて、ピアノを弾かせた事もある。

 そのうち空手の道場にでも通わせるか、自分ではシンジを厳しく育てる事は出来ないとゲンドウは考えていた。

 

「ゲンドウ君、ヤーコブ君。今回の実験が成功すれば、我々は使徒を殲滅させる手段を持つ事になる」

 

 杖を床に突きながらゆっくりとゲンドウ達に近づいて来たのはキールだった。

 キールの後からぞろぞろとついて来たのは、コウゾウとネルフの支部長となる者達だった。

 

「冬月先生、本当にこの起動実験は安全なのですか?」

「碇、君が不安になる気持ちは理解できる。だが、初号機と弐号機はリリスをベースにしている。零号機とは違うのだよ」

 

 ゲンドウの質問に対して、コウゾウはそう答えた。

 ユイとゲンドウはコウゾウの研究室に所属していた。

 セカンドインパクトの後、師であるコウゾウと共にゲヒルンに入所した。

 ゲンドウはユイと同じくコウゾウの事を信頼していたが、恩師の言葉を聞いても胸騒ぎは収まらなかった。

 

「シンジ、ここに居たのね」

「ユイさん、ママ!」

 

 プラグスーツに着替えたユイとキョウコが姿を現すと、アスカはまたシンジの手を引いて、ゲンドウやキール達から少し離れて2人の元へと駆け寄った。

 シンジとアスカは宇宙服のようなものを着た母親達を見て不思議そうな顔になる。

 

「ママ、その変なお洋服はどうしたの?」

「ママとユイさんはね、これからあの大きなロボットに乗るのよ」

 

 キョウコはそう言って、実験場にある初号機と弐号機の方を指差した。

 

「凄い!ギムナジウムに行ったら、みんなに自慢できるわ!」

「アスカちゃん、エヴァの事はみんなにはナイショなのよ」

「えーっ、つまんない!」

 

 日本人とのクオーターで、髪の色も身長も同じドイツの幼稚園児に負けていると思っているアスカは不満そうに口を尖らせた。

 キョウコとアスカの話を聞いて、ユイはキョウコがアスカをエリートコースに進ませるつもりなのかと思った。

 卒業率が7割で、常に優等生で居なければならない厳しい競争の道を歩む事になるアスカに、少しでも普通の女の子らしい面も持って欲しいと、ユイはお節介を焼きたくなった。

 

「シンジ、これをアスカちゃんに渡しなさい」

 

 ユイはそう言ってシンジに透明な袋でラッピングされた赤いリボンを渡した。

 オシャレをしてみようと自分用に買ったものだが、恥ずかしさもあって、開封できずにユイが持ち歩いていたものだ。

 本当は自分が身に着けた姿をゲンドウに見てもらおうと思っていたが、アスカにプレゼントする事に決めた。

 

「どうして? おかあさんが渡せば良いと思うよ」

「シンジから渡してあげた方がアスカちゃんは喜ぶわよ。お似合いだって言うのよ」

 

 母親のユイに押し切られる形で、シンジはアスカに向かって赤いリボンを差し出した。

 

「シンジ、それってアタシへのプレゼント?」

「うん、アスカにお似合いだと思って」

 

 シンジの言葉を聞いたアスカは不思議そうな顔をしたが、実はユイからのプレゼントだと理解した。

 それでもアスカはその事を指摘せずに、喜んで自分の髪に赤いリボンを付けた。

 

「どう?」

「アスカちゃん、もっと可愛くなった」

 

 シンジが素直に言ったその感想の方が、アスカの胸にもっと響くものだった。

 自分の髪には赤が似合うんだと学んだアスカは、インターフェイス・ヘッドセットの色も赤を選ぶ事になる。

 

「あなた、今夜の夕食はかぼちゃのいとこ煮とお味噌汁でいいですか?」

「実験の日まで家事をしなくていい」

 

 いつもと変わらない笑顔で話しかけて来るユイに、ゲンドウはそう答えた。

 

「それならゲンドウ、実験が終わったら6人で外食でもどうだ?」

「良いですね」

 

 横から口を挟んで来たヤーコブの提案に、ユイは穏やかに微笑んでそう答えた。

 実験の準備が完了し、遠ざかって小さくなって行くユイの背中に、ゲンドウは何度も心の中で『行くな!』と声を掛けた。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 それから10年の時が過ぎ、ネルフ本部では使徒迎撃の準備が進められていた。

 司令室で2人きりになったコウゾウは、ゲンドウに尋ねた。

 

「久しぶりのシンジ君との対面だな。碇、お前は私の事を恨んでいるか?」

「いいえ、先生を恨んでもユイは私の側には帰って来てはくれません。ユイは私が実験に反対するから先生にも口止めをお願いしたのは分かっています」

 

 コウゾウの問い掛けに、司令席に座ったゲンドウは肘をついて腕を組んだまま微動だにせずに答えた。

 ユイとキョウコが自らの意思で初号機と弐号機のコアになろうとしていた事を、コウゾウは知っていた。

 コピー元がアダムでもリリスでも、エヴァは魂を喰わなければ動かない点は同じ、コウゾウは嘘を付いたのだ。

 キール所長やネルフの支部長達がエヴァの完成を喜ぶ中で、残されたゲンドウ達は深い心の傷を負った。

 エントリープラグにいたユイがL.C.L.に溶けて消えてしまった姿を目の当たりにしたシンジは、記憶の蓋と心を閉じてしまった。

 自分ではシンジを育てられないと判断したゲンドウは伯父夫婦にシンジを押し付けてしまった。

 アスカの父親のヤーコブは薬物中毒に陥ってしまい、娘のアスカの事も分からなくなり、他の女性をキョウコだと思い込みストーカー行為に及んだ挙句に獄中で死んだ。

 リョウジから真実を知らされるまで、アスカは父親が他の女性と浮気したものだと考え、憎んでいた時期もあったようだ。

 今のアスカは自分でボロボロにしてしまったテディベアの縫いぐるみを直して、その縫いぐるみを通して父親に語り掛けている。

 そしてリョウジにも話していない、シンジから貰った赤いリボンの秘密。

 アスカはネルフ本部からの招集命令を受け、シンジとの再会を心の支えにしてエヴァのパイロットとしての訓練に励むのだった。

 

 

 

<第三新東京市 共同墓地>

 

 第三新東京市の郊外、富士山を一望できる丘に、大きな墓地が存在した。

 セカンドインパクト関係で命を落とした、遺体の無い墓地だった。

 2000年9月15日のインド・パキスタン紛争をきっかけに世界に戦争が広まり、東京も同年の9月20日に核爆弾が投下され、多くの犠牲者を出した。

 武力を背景にした他国への強硬外交をするための、某国の大統領の凶行だった。

 日本への見せしめとして壊滅させられた東京の復興を政府は断念、第二、第三新東京市が建てられる事になった。

 ユイとキョウコが研究機関ゲヒルンで消失した日。

 その日はユイとキョウコの命日となっていた。

 ミサトの運転する車で、助手席にゲンドウが座り、後部座席にはシンジとアスカとレイが並んで座って居た。

 後ろからはリョウジやネルフSPの警護の車が続いた。

 ミサトは最強のボディーガードではあるが、念には念を入れての警備体制だった。

 シンジはゲンドウと仲違いしてから数年振りの、ドイツ支部に居たアスカにとっては初めての、レイにとっては毎年ゲンドウと2人きりで訪れていた墓参りだった。

 楽しいお出掛けという訳でも無く、車内に居たミサト達は一言も言葉を発さずに硬い表情となっていた。

 墓地に到着すると、ミサト達4人だけが無数の墓標が建てられた墓地の敷地内へと足を踏み入れた。

 墓標のほとんどに供え物はされておらず、無縁仏のようになっている。

 IKARI YUIと刻まれた墓標の前でゲンドウ達は立ち止まった。

 隣にはアスカの母親のキョウコの墓標もあった。

 

 (お母さん、魂だけだった私に身体を与えてくれてありがとう)

 

 シンジやアスカに聞かれるわけにはいかない心の声で、レイはユイに向かってお礼を言った。

 

「父さんは、どうして母さんのお墓をここに建てたの? まだ死んだわけじゃないのに」

 

 意を決したシンジがゲンドウに尋ねると、アスカは驚いた顔をした。

 ゲンドウとレイは、遂にその質問をされる時が来たと驚きもせずに落ち着いた表情をしていた。

 

「私がこの場所にユイの墓標を立てたのは、私の心の中でユイが生きている限り、ユイは死なないと願いを込めたからだ。『富士山』は古来より『不死山』と呼ばれているからな。人が本当の意味での死を迎えるのは、誰からの記憶からも消えた時だと思っている」

 

 ゲンドウの言葉に不思議そうな顔をする漢字の不得意なアスカに、ミサトは携帯電話で漢字変換して意味を教えた。

 

「そんな話で僕の追及を誤魔化せるとでも思ったの? エヴァのコアは誰かを閉じ込めるための『魂の檻』なんでしょう?」

「シンジ君……!」

 

 真剣な表情でゲンドウを見つめるシンジの言葉にミサトは息を飲んだ。

 今までシンジはゲンドウが母親のユイを危険な人体実験で殺したと思い込んでいて、それが仲違いの原因でもあった。

 

「お前も、ついにその事を知ってしまったか」

「零号機とシンクロした時、不思議なイメージが僕の心の中に流れ込んで来て、その世界に居た誰かに教えてもらったんだ。自分は14年間、ずっとコアの中に閉じ込められているって。影しか見えなかったけど、多分髪の長い女の子だった」

(あの子は寂しさに耐え続けているのね……本当に悪いのは私の方なのに)

 

 ゲンドウの問い掛けに答えたシンジの言葉を聞いて、ミサトは胸を痛めた。

 『あの子』が自分の前では見せない素振りを、シンジの前では見せたのかもしれない。

 シンジにはそう言う人たらしの才能があるとミサトは思っていた。

 

「ちょっと待って、それじゃあママは消えて居なくなったんじゃなくて、弐号機のコアに閉じ込められているって事?」

 

 やっと話について行く事が出来たアスカがゲンドウとシンジの話に口を挟んだ。

 ゲンドウが沈黙して否定しないと言う事は、肯定したも同じだとアスカは考えた。

 

「それならママを弐号機から出してよ! シンジだって、ママにハグしたりして貰いたいでしょう!?」

「アスカ、残念だけどそれは無理なのよ」

「魂だけでは人の形には戻る事は出来ない」

 

 ミサトとゲンドウは冷たくアスカにその事実を告げた。

 ゲンドウはレイの方にほんの少しだけ視線を向けた。

 

「ならアタシのクローンでも作って、そこにママの魂を入れれば良いじゃない。ネルフの技術力なら出来そうなものだけど?」

「アスカ、無茶な事を言うのは止めなさい」

 

 ミサトはそう言って、暴れるアスカの身体を肩を掴んで押えた。

 ゲンドウが重々しく口を開いて語り出した。

 

「ユイと君の母親であるキョウコ博士は、エヴァを使徒と戦うための決戦兵器として完成させるために、自らの意思でコアとなった。2人の意志を尊重するためにも、私は使徒と戦う決意をユイ達に誓うために私は毎年この場所に来ている」

「そうだったんだ、僕は父さんを誤解してた。ピアノも教えてくれてありがとう」

 

 ゲンドウの話を聞いて、父への憎しみは完全に誤解だったと分ったシンジは笑顔でお礼を言った。

 シンジを自分の膝の上に乗せてピアノを弾いていたのは、ユイが生きていた頃、シンジがとても幼かった頃の話だ。

 その記憶まで取り戻したとは、ゲンドウも驚いた。

 

「でも母さんの顔を思い出す事が出来ないんだ。父さん、母さんの写真とか無いの?」

「ユイと会うのは全てが終わってからだ。決意が鈍らないように、私はユイの記録を捨てた。シンジ、お前もユイの期待に応えられるほど強くなれ」

 

 シンジに尋ねられたゲンドウはそう答えた。

 その答えの半分は真実だったが、シンジにユイの姿を確認されては困ると言う事情もあった。

 レイの身体はユイのクローン体をベースにしている。

 ほんの少し他者の細胞も混ぜているが、成長するにつれて若い頃のユイの姿に似て来てしまった。

 レイがシンジに恋心を抱いている状態で、もしシンジが自分とレイは血の繋がった兄妹ではないかと思い込んでしまうのは、とてもマズい事になる。

 他者の細胞が混じっている事で、遺伝子的に問題は無いとリツコが説得しても、シンジはレイを意識してしまうに違いない。

 シンジはゲンドウの理由の説明に寂しさを覚えながらも、納得はしたようだった。

 耳を澄まして聞いていたアスカは、ゲンドウに向かって質問を浴びせた。

 

「それじゃあ、使徒を倒してエヴァが要らなくなれば、ママは帰って来れるかもしれないと言う事ですね!」

 

 目を輝かせて尋ねるアスカに、ゲンドウはまたしても沈黙を貫いた。

 使徒が居なくなっても、そう簡単にエヴァからキョウコをサルベージ出来る訳ではないが、アスカから希望を奪うのも忍びないと思った。

 

「よおし、張り切って使徒を倒すわよ、シンジ!」

「う、うん」

 

 アスカに軽くヘッドロックを決められたシンジは戸惑いながらそう答えた。

 

「そう言えば、どうしてミサトさんはここに? 父さんの警護ですか?」

「まあ、それもあるけど、あたしの未熟さのせいで沢山の人が命を落とした。その人達に謝るために、ここに来ているのよ」

「ミサトさん、戦略自衛隊に居た頃は世界各地の戦場に居たそうですからね……」

 

 シンジは勝手にミサトが戦場で奪った命、守れなかった命の供養をしているのだと思っていたが、ミサトの心の中の真実は違っていた。

 ミサトはもっと多くの人数の人間に向かって謝っていたのだ。

 

(……みんな、本当にごめんなさい。あたしも役目を終えたらしっかりと罰を受けるから)

 

 ミサトは声には出さずに、無数に立ち並ぶ墓標へと向かって、謝り続けるのだった。




この短編は『新世紀エヴァンゲリオン for Chilren』の一部を抜粋、編集したものです。
https://syosetu.org/novel/260681/
特に第15話・第14話・第12話に背景となる説明文があります。

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