ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)   作:朝陽晴空

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土日も休まず仕事をしている中で、スマホでコツコツと精一杯の式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念短編を書きました。
楽しんで頂けたら幸いです。


ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)

「アスカ、閉じこもってゲームばかりして居ないでさ、せめて外の空気を吸おうよ」

「余計なお世話! アンタはアタシになんか構ってないで、ケンケンの仕事を手伝ったり、綾波タイプと仲良くやってれば良いのよ!」

 

 第三村に来てからしばらく経った頃。

 失意のどん底から立ち直ったシンジは、アタシの私生活に干渉し始めた。

 全くうざったいことこの上ない。

 でもそれもヴィレのヴンダーが次にこの第三村に寄港する日までの辛抱だ。

 ミサトからはいよいよネルフに最終決戦を挑む日が迫っていると聞いている。

 

 

 

 ネルフの碇ゲンドウはフォースインパクトを起こす準備を着々と進めているらしい。

 別にアタシは世界が滅亡するかどうかなんて気にならない。

 エヴァに乗るために作られた式波・アスカ・ラングレーのクローン。

 課せられた使命は、使徒の殲滅。

 そのためだけに、アタシはこの世に生を受けた。

 

 「委員長も、アスカと話をしたがっているよ」 

 

 ヒカリか……シンジの口からその名前を聞くと、アタシの心の中に波紋が広がる。

 14年前、日本の学校で出来た友達。

 短い間だったけど、アタシは彼女とリリンらしい生活を送れた。

 クローンであるアタシには、人間の世界に溶け込んで生きるために、オリジナルの式波・アスカ・ラングレーの記憶が植え付けられている。

 使徒の侵食を受けた事で、封印されていた記憶のトリガーが外れた。

 それまで自分はオリジナルの人間だと信じて疑わなかったのだから、笑える話だ。

 

 

 

 アタシが誕生する前には100体のクローンが実験台として作られ、失敗作として廃棄されたようだ。

 なぜ、参号機に乗って使徒の侵食を受けたアタシが廃棄されなかったのか。

 それは、アタシが奇跡的に使徒の力を制御することが出来たからだ。

 左眼に使徒のコアを封じることで。

 でも使徒に侵食を受けた影響はアタシの身体に残った。

 アタシはリリンのように食べ物の味を感じる事も、眠る事も出来なくなった。

 ヒカリや……他のリリンと同じ気持ちを分かち合えない。

 アタシはリリンでは無くなってしまった。

 その事がアタシを第三村から遠ざけている大きな原因だ。

 体温もリリンだった時よりも高くなり、暑くて服なんて着ていられない。

 

「アスカ、せめてまともな服を着た方が良いよ」

 

 シンジは使徒に侵食されたとは言ってもリリンもどき。

 体温も人間とたいして変わらない。

 アイツは飯を食わないと生きてはいられない。

 たがらアタシは無理矢理アイツにレーションを食わせてやった。

 ケンケンはアタシにアレコレ口出ししないからこの家も居心地がよかったけど、また家出してやろうかしら。

 

「碇君」

 

 初期ロットの綾波タイプがやって来た。

 シンジはチラリとアタシを見ると、彼女と一緒に家を出て行った。

 アイツが休みを貰った日はいつもそうだ。

 二人して何をコソコソとして居るんだか。

 別に仲間外れにされて拗ねているわけじゃない。

 あの二人がどうなろうと……アタシには関係の無い事だし。

 返ってうるさいのが居なくなって精々するわ。

 

 

 

 そんな生活がまたしばらく続いた後。

 のらりくらりとシンジの追及をかわしていたんだけど、そうも言ってられない日がやって来た。

 

「アスカ、今日こそ一緒に来てもらうよ」

「嫌よ」

「今日じゃないとダメなんだ!」

 

 いつになく強引なシンジ。

 アタシに対してこんな強気な顔が出来るようになったのか。

 

「ほらアスカ、この服に着替えなよ」

 

 ケンケンから渡されたのは、リボンとフリルの付いた少女趣味の様なドレス。

 もちろんアタシの知らない服のはずだけど……。

 昔、どこかで見た覚えがある気がするのはデジャヴ?

 

 

 

 アタシはクローンして産み出されて、白衣を来た人間達に観察されるモルモットの様な生活を送っていた。

 さらにエヴァのパイロットになる為の訓練を課せられた。

 それ以外にまだアタシの思い出していない記憶があると言うの?

 アタシは頭にモヤがかかった気持ちになりながらも、渡された服に着替えた。

 

 

 

 外では第壱中学校の制服を着た綾波タイプが待っていた。

 第三村に来た時はプラグスーツを着ていたコイツも、今ではすっかり村に馴染んでいるように見える。

 アタシ達四人は連れ立って第三村の中心にある鈴原医院へと向かう。

 そこでヒカリ達がアタシの事を待っているようだ。

 わざわざアタシに何の用事があると言うのか。

 今日でなければならない理由は何なのよ?

 

 

 

 いつも第三村の中心に姿を見せないアタシを、人々は物珍しい顔で見ていた。

 ましてやいつもラフな格好で外に出ているアタシは、今は可愛い服を着ている。

 さらに注目を集めることになり、まとわりつく様な多数の視線が不快で堪らない。

 

「ねえ、もっと早く歩きなさいよ」

 

 アタシは先頭を歩くシンジをせっついた。

 鈴原医院に近づくにつれて、シンジと綾波タイプの知り合いに声をかけられることが多くなる。

 その度にシンジは足を止めて話をするから、なかなか先に進めないのだ。

 

「ゴメン、今日は急いでいるんだ。トウジの家に行かないと」

「そう言えば、鈴原医院は臨時休業だったわね」

 

 そう言ってアタシに向けられた中年の女性の目には生暖かい物が感じられた。

 他人から同情を受けるのが嫌なアタシは怒り心頭に発する。

 

「やっぱりアタシ、帰る!」

「ここまで来ておいて、何を言ってるんだよ!」

 

 振り返ろうとしたアタシの腕をシンジが思い切りつかむ。

 

「来てくれないか、パーティの主役なんだからさ」

「アタシの何を祝おうって言うのよ!?」

 

 ケンケンに尋ね返したけど、アタシはパーティの内容の見当がついた。

 自分にとって嬉しくない日を祝ってもらっても、みじめな気分になるだけ。

 余計なお世話だ。

 

「綾波がアスカの誕生日を知っていたんだよ」

「エヴァやネルフに関するデータは全てインプットされている。あなたのプロフィールも」

 

 なんて余計なことをしてくれたのよ!

 アタシは綾波タイプを思い切りにらみつけた。

 

「碇君が、あなたの詳しいことを知りたいと言うから、生年月日から身体的データまで全て教えた」

「身長は僕の方がまだ低いみたいだね」

 

 シンジは顔を赤らめながらも、ごまかし笑いを浮かべてそう言った。

 コイツめ、アタシの身長以外のサイズも知っているな!

 

 

 

「さあ、トウジの家に到着だ」

 

 ケンケンのその言葉でアタシはハッとなる。

 シンジと綾波タイプを追及して居る間に鈴原の家に着いてしまったようだ。

 アタシは観念して家の敷居をまたいだ。

 しばらくの間、恥辱の時間を耐え忍べばいい。

 

「あら碇君、アスカを連れて来てくれたの?」

「久しぶりやな、式波」

 

 鈴原の家の玄関土間で、すっかりオシドリ夫婦の見本となったヒカリと鈴原が笑顔でアタシを出迎える。

 ヒカリの背負っている赤ん坊が、綾波タイプを見て声を上げる。

 ずいぶんと懐いているみたいだ。

 

「ふふ、碇君と綾波さんが作った服、着ているみたいね」

 

 ヒカリがアタシの着ているリボン付きのフリルの服を見て笑みを浮かべる。

 アタシの着ている服、シンジ達が作ったのか。

 

「第三村にはアパレルショップなんてないからね。可愛いお洋服を手作りしてあげようって、碇君のアイディアよ。私も少しお手伝いしたわ」

 

 そう言って少し得意気な顔になるヒカリ。

 全くどいつもこいつもお節介だ。

 鈴原とヒカリが住んでいる、六畳一間の和室は、色とりどりの三角の紙が吊り下げられ、綺麗に飾り付けられていた。

 

『式波・アスカ・ラングレー大尉誕生日おめでとう!』

 なんて垂れ幕がされていないだけでもマシか。

 

「さあ、お姫様はこの席に座って座って」

 

 そのヒカリの言葉を聞いて、アタシの頭にコネメガネの顔が浮かぶ。

 アイツは今、ヴィレの戦艦ヴンダーに乗っているが、もし第三村に居たら先頭に立ってこのイベントを主導するに違いない。

 アタシの為に用意された座布団に腰を下ろすと、はす向かいの席にすでに座っているメガネを掛けたオッサンがに気が付いた。

 多分ヒカリかトウジの父親辺りだろう。

 

「お前さんは、娘から食べ物の味が全く感じられないと聞いたが、本当か?」

 

 突然座っていたオッサンに話しかけられた。

 言葉の内容から察するに、彼はヒカリの父親だとアタシは確信した。

 不快な質問だけれども、無視をするわけにもいかない。

 

「ええ、何も食べなくても生きていけるし、眠る必要もないわ」

「それは難儀だな」

 

 ヒカリの父親はそう答えたきり、黙って固い表情になった。

 安っぽい同情心から、あれこれ言われることが無くてアタシは一安心した。

 テーブルの上を見ると、アタシの席にだけ料理が無い。

 他の席に置いてある料理もみそ汁のような質素な物だ。

 

「アスカ、お待たせ」

 

 シンジと綾波タイプが、二人掛かりで持つようにな大きなプレートに乗せて台所から持って来たのは、何段重ねにもなった豪華なバースデーケーキだった。

 白いクリームのケーキに映える真っ赤なイチゴや様々な果物が乗せられ、ロウソクが15本立てられた豪華絢爛な物。

 第三村の食糧事情を考えれば、作れるはずがない。

 それも味覚の欠如してしまったアタシの為に、多いなる無駄遣いだ。

 

「アスカ、驚いた? でも、このケーキは実際には食べられないんだ」

「見た目だけでも楽しんで貰おうと、碇の提案で作ったのよ」

 

 アタシが怒りの声を上げる前に、シンジとヒカリが種明かしをしてなだめた。

 

「心がポカポカした?」

 

 純真な瞳でアタシに尋ねる綾波タイプ。

 シンジに同じ事を聞かれたら、アタシは否定的な答えをぶつけてしまっていただろう。

 

「……悪くは無いわ」

 

 アタシが渋々言葉を絞り出すと、綾波タイプの表情が明るくなり、それはシンジやヒカリにも伝染していく。

 別にアタシが嬉しいわけではない。

 12月4日は、アタシの『オリジナル』の誕生日であって、アタシ達クローンの製造された日ではない。

 シンジ達のお祝いムードとは違い、赤の他人のパーティに参加しているような違和感を覚えて、アタシとは温度差があった。

 

 

 

 ……だけど次の瞬間、フラッシュバックのようにアタシの頭の中にイメージが流れ込んで来た。

 アタシの前のテーブルにケーキが置いてあり、向かい合わせに優しい笑顔を浮かべた金髪の大人の女性が座っている。

 

『お誕生日おめでとう、アスカ』

 

 その言葉を聞いて、アタシはその女性が自分の母親だと分かった。

 

(アタシにも、誕生日を祝ってくれる人が居たんだ……)

 

 そう思うと、自然とアタシの目から涙がこぼれた。

 

「アスカ、どうしたの?」

 

 おめでたい席で突然涙を流したアタシを見て、シンジ達に困惑の表情が広がる。

 アタシはみんなを不安にさせないように笑顔を作って答える。

 

「小さい頃……ママに誕生日をお祝いしてもらった事を思い出したの」

 

 これはクローンとして作られたアタシ自身の記憶では無い。

『オリジナル』から植え付けられた偽物のイメージだ。

 でも、アタシが胸に感じているこの温かい気持ちは本物。

 

「アスカ、良かったわね」

 

 アタシがクローンとは知らないヒカリは純粋に喜びの言葉を掛けてくれた。

 

「シンジ、アンタがママに抱っこされて泣いていた事も思い出したわ」

「えっ!?」

 

 皮肉めいた笑いを浮かべてアタシがそう言うと、シンジは恥ずかしがるよりも、驚いた様子だった。

 あの時シンジとその両親が冬のドイツに居た理由は分からない。

 ママがずっと仕事で忙しかったから、アタシは外で一人遊びをしていたと思う。

 だから両親と一緒に居たシンジを羨ましい視線で見ていた。

 もちろん、これは移植された記憶だけど、今のアタシには自分自身の事の様に感じられる。

 

「そんなところを見られて居たんだ、恥ずかしいな」

 

 アタシがクローンである事は、綾波タイプと三人の間での暗黙の了解だ。

 だからヒカリや鈴原達には内緒にしている。

 

「でもどうしてアタシの誕生日をお祝いしてくれるの?」

「式波はエヴァに乗って、使徒からワシらを守ってもらった。ワシらにとって命の恩人や!」

「私にとってアスカは大切なお友達よ」

 

 てっきり働きもしない鼻つまみの厄介者だと、第三村の人たちから印象を受けていると考えていたのに。

 アタシが学校に通って居たのは短い間だったけれど、二人がそう思ってくれていたんだと知るとアタシは嬉しかった。

 もっと早く積極的に第三村に顔を出しておけばよかったかな。

 アタシは参号機に乗って使徒に呑み込まれる前にミサトと電話で話していた頃の懐かしい感覚を思い出していた。

 もうシンジへの14年間の恨みも忘れてやるか。

 

「アスカ、本当は食べられるケーキを作ってあげたかったけど……」

「見た目だけでも楽しませてもらったから充分よ」

 

 申し訳なさそうに謝るシンジにアタシはそう答えた。

 第三村の食糧事情では、イチゴ一粒も手に入れるのも無理な話だ。

 生きる為に田植えなどもしているみたいだけど、食べ物はクレイディトからの配給に頼っている。

 いつしか鈴原が陽気な唄を歌い始め、ケンケンが合いの手を打つ。

 スイーツの一つも出て来なかったけど、アタシ達には笑顔があふれていた。

 

 

 

「アスカ……今日はどうだった? たいした事はしてあげられなかったけれど……」

「胸がポカポカした?」

 

 ケンケンの家への帰り道、シンジと綾波タイプにそう尋ねられた。

 

「悪くはなかったわ。でもこんなに大げさなパーティはしなくていい。プレゼントもいらない。……その代わり来年もアタシの側に居てくれる?」

「もちろん」

 

 アタシの口から自然に出た言葉にシンジは快諾した。

 しかし次の瞬間、アタシを大きな後悔が襲った。

 綾波タイプはネルフで定期的にメンテナンスを受けなければ生きられないことに気が付いたのだ。

 アタシはなんて残酷な言葉を彼女に告げてしまったんだ。

 

「うん、約束する」

 

 綾波タイプは自分の命数は知っているはずなのに、笑顔で答えてくれた。

 アンタ、いつの間に他人に気遣いが出来るまでに成長したのよ。

 きっとシンジやヒカリ達の影響ね。

 来年も誕生日を迎えられるように。

 アタシにネルフと戦う目的が1つ増えた。

 

 

 

 それからしばらくして……シンジは『ネオ・ジェネシス』を起こして、エヴァの無い世界にした。

 クローンであるアタシが存在しないはずの世界線。

 でもシンジは101体目のクローンであるアタシが新しい式波・アスカ・ラングレーとして生きる事を望んだ。

 

「ハッピーバースデー、ママ」

 

 あれからアタシはシンジと結婚して家庭を持った。

 アタシの目の前に置かれているのは、シンジ特製のバースデーケーキ。

 市販品では代用出来ない理由があるのだ。

 

「どうしてママのケーキにはイチゴがたくさん乗っているの?」

 

 アタシの誕生日ケーキを覆い尽くすのは、101粒のイチゴ。

 このイチゴは、誕生日を祝ってもらえなかった100人のクローンとアタシの分だ。

 毎年このたくさんの数のイチゴを手に入れることが出来るのは、イチゴ農家となる決意をしてくれたシンジのお陰。

 

「ママはね、赤い色が大好きなのよ」

「そっか、だからケーキも赤いんだね」

 

 愛娘に本当の理由は話せない。

 今年も101人分の誕生日を迎える事が出来た。

 誕生日おめでとう、とびきり美味しいイチゴのプレゼントよ。

 イチゴの旬は12月から1月の間なの。

 アンタ達(アタシのクローン達)は今もアタシの心の中で生きている。




シンジ「加持さん、すみません。僕はスイカじゃなくてイチゴを育てます」
リョウジ「謝る事はないさ、君の好きにすれば良い」
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