ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編) 作:朝陽晴空
特別な事情で、自分の誕生日に無関心だったアスカの心が動かされた超短編です。
※シン・ヱヴァンゲリヲンの式波アスカの正体のネタバレを含みます。
「アタシの誕生日パーティーをするって!?」
第三村のケンスケの家の中で携帯ゲーム機ワンダースワンでグンペイをプレイしていたアスカは、シンジに声を掛けられてもグンペイのパズルモードをクリアーするのに夢中になっていた。
「そう、アスカの誕生日は12月4日。さあ、みんなも待っているからトウジと委員長の家へ行こう」
「何を勝手にアタシの知らないところで決めているのよ! アタシが参号機に乗って使徒に取り込まれた時も、司令の殲滅命令に逆らって、アタシを助けようとしてさ!シンジの独断行為のせいでニア・サードインパクトが起きたのよ。……そりゃあ、アタシとしては嬉しかったけどさ」
アスカは最後にボソッとそう呟いた。
ワンダースワンの画面はGAMEOVERと表示されたまま固まっていた。
「アタシが参号機に乗ったせいで、ニア・サードインパクトが起きた。その犠牲になった第三村の人たちに誕生日を祝ってもらうなんておかしな話よ。いえ、この第三村に居る事でさえ重罪に値するわ」
「別にアスカが悪いわけじゃないよ。アスカが参号機に乗らなければきっと他の誰かが乗っていたよ」
「じゃあ、アタシ以外のヤツが参号機に乗っても、シンジは殲滅せずにパイロットを助ける事を優先した?」
「それは……分からないよ」
「だったらアタシのせいじゃないの」
もはや自分を責めているのか、顔を赤くしてのろけているのか分からない。
顔を赤くしたアスカはワンダースワンをベッドに放り投げてシンジと向き合った。
「それに……何でクローン体のアタシの誕生日を祝う必要があるのよ。12月4日は、オリジナルのアイツの誕生日なんでしょう?」
「僕にとって、アスカはアスカだよ。もちろん、僕の知っていた惣流・アスカ・ラングレーと別人だとは分かっている。僕たちは毎年あたり前のように誕生日を迎えられるけど、それでも誕生日をお祝いする意味があると思うんだ」
栄養状態や医療が発達して平均寿命が大幅に伸びた現代、大昔のように無事に成長した事を祝う意味は薄れた。
もっともクレイディトの封印柱に守られた狭い空間でしか生きられず、食べるのにも困る苦しい生活を送っている現在となってはそうとも言えないが。
「僕は、アスカがこの世に生まれて来てくれた事だけでも嬉しいと思っている」
「試験管ベイビーのアタシでも?」
「こうして心を持って話したり出来るし、普通の人間と変わらないじゃないか」
「肉体的に歳を取らないアタシたちを見て、化け物だと思うヤツも居るわよ」
「でも、ケンスケは違うじゃないか。トウジたちもきっと受け入れてくれるよ」
化け物だと思っている相手を自分の家には住まわせない、それはアスカにも分かっていた。
「そして、こうして誕生日をお祝いすれば、来年も誕生日を迎えるために頑張ろうって気持ちにはなれないかな? これから僕たちは、父さんたちに命懸けの戦いを挑むんだからさ」
シンジのその言葉をアスカは否定しなかった。
今は穏やかな時を過ごして居るが、次にヴィレの旗艦ヴンダーが第三村に寄港した時、自分たちは最終決戦の場へと旅立つのだ。
「それに……アスカの誕生日って特別な日だから、僕はこうしてアスカに自分の素直な気持ちを伝える事が出来たんだと思う」
14年振りの再会の後、色々な事があってアスカとシンジは第三村に漂着した訳だが、二人の間にはどことなくぎこちない空気があった。
アスカは罪悪感からか、いつも固くて暗い表情で、笑顔を見せる事はなかった。
シンジもそんなアスカを見て、傷つけたくない、嫌われたくないと、当たり障りのない話しかしてこなかった。
「僕がトウジたちと一緒にアスカの誕生日パーティーしたいと思ったのは、アスカが第三村の人たちと話をする機会を作りたかったんだ」
「アタシは別に……独りでも構わない。どうせこの村から出て行くんだし、余計なお節介よ」
「だけど……帰って来れる可能性だってある。決戦に行く前に、委員長と話しておきたいとアスカは思わないの?」
シンジに言われたアスカは即座に否定できずに、グッと言葉に詰まった。
誰だって一人はちょっと寂しい。
だからシンジとケンスケだけでも話し相手が居てくれる事は嬉しかった。
本当に孤独を好むのならば、物を食べる必要の無いアスカはずっと一人で隠れていても良いのだ。
「分かったわよ、アタシの負け。行けばいいんでしょ?」
アスカが不貞腐れた顔でそう言うと、シンジは困った顔でアスカを諭した。
「アスカ、誕生日をお祝いしてもらうんだから、そんな拗ねた顔をしてちゃダメだよ」
「分かったわよ、【笑顔のあたしが最高!】って事ね!」
そう言ってアスカが笑顔になると、シンジも安堵の笑みを浮かべた。
シンジとアスカは手を取り合って、トウジとケンスケ、ヒカリと父親のブンザエモンと娘のツバメ、アヤナミレイと第三村の婦人たちが待つ家へと向かうのだった。
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