ラスト・ナンバー 101人目のアタシ『最高に美味しいイチゴのケーキのプレゼント!』(2022年式波・アスカ・ラングレーの誕生日記念LAS短編)   作:朝陽晴空

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 旧劇場版のあの赤い世界で、シンジがアスカに告白する話です。
 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』をベースとしています。


2022年1月1日記念LAS短編『ファースト・レディ』

「知らない空だ……」

 

 目を覚ましたシンジの目に飛び込んで来たのは、見た事も無い紫色に染まった満面の星空だった。

 後頭部に感じるザラザラとした感触から、自分は砂の上に横たわっているのだと分った。

 握り締めた白い砂が指の間から零れ落ちる。

 打ち寄せる波の音以外何も物音は聞こえない。

 

「母さん……さようなら。僕は自分の幸せを見つけてみるよ」

 

 シンジは虚空に向かってそう呟いた。

 こうして再び生きる気力を取り戻せたのは、初号機に宿っていた母親の願いを聞いたからだ。

 自分の力不足のせいで、守るべきものを全て失ってしまったと絶望の淵に沈んでいたシンジは、母親の「幸せになるチャンスはまだ残って居る」と言う言葉に救われたのだった。

 身体を起こして辺りを見回すと、首や腕が千切れた白いエヴァ量産の成れの果てが直立しているのが見えた。

 遠くにはオレンジ色の海に沈みかけたビルの残骸がある事から、シンジは先程まで体験した出来事が全くの夢だったのではないと自覚した。

 

「あれは……アスカ?」

 

 シンジはオレンジ色の海に木の葉のように漂う、赤いプラグスーツを着たアスカの姿を見つけた。

 どうしてアスカがあそこに居るのかは分からない。

 しかしシンジはこれが母親の言っていた幸せになるチャンスなのだと思った。

 このままアスカが波にさらわれるのを見ているわけにはいかない。

 今度こそ手遅れになる前にアスカを助けなければ。

 泳ぐのが苦手だとは言ってられない。

 シンジは不格好な犬かきでアスカに向かって進んだ。

 幸運だったのは、LCLの液体は普通の海水より密度が高く、シンジは大きな浮力を得る事が出来た事だ。

 シンジは体力の続く限り、アスカを追いかけた。

 波間に漂うアスカとの距離が近づくにつれ、力が湧いて来る。

 自分は心の底からアスカを求めているのだと、シンジは自覚するのだった。

 

「アスカっ!」

 

 シンジが肩を抱いてアスカに呼び掛けると、アスカは薄っすらと目を開いた。

 アスカに息がある事を知ったシンジは喜び勇んで岸へと向かおうとした。

 しかしシンジは泳ぎが得意では無かった。

 人を抱いて泳ぐなど、前に進めるかどうか怪しいものだった。

 

「まったく世話が焼けるわね。大人しくアタシにつかまってなさい!」

 

 今度はアスカが岸に向かって頑張って泳ぐ番だった。

 シンジと言うお荷物を抱えながらだから、面倒な事この上ない。

 しかし自分を助けようとしたシンジを放り出すわけにはいかず。

 泳いでいる間、アスカは必死でシンジの事を気に掛ける余裕は無かった。

 シンジはそんなアスカの顔をずっと見つめていた。

 輝きを取り戻したアスカの瞳を見ていると、胸が熱くなるのをシンジは感じた。

 白い砂浜にたどり着いた後、アスカは四つん這いで息を荒くしていた。

 

「アンタ、気持ち悪いのよ」

 

 腰を下ろした体勢のシンジを睨みつけたアスカが呟くと、シンジは困惑した表情になった。

 また自分はアスカを傷つけてしまったのかとシンジは後退りをした。

 

「ずっーとニヤニヤしながらアタシの顔を見てるからよ!」

「ごめん、アスカが無事だったのが嬉しくて……」

「無事!? あんな目に遭わされたってのに!?」

 

 シンジの言葉を聞いたアスカは口を尖らせてシンジに詰め寄った。

 エヴァ量産機の攻撃を受けてぐちゃぐちゃになった弐号機が無事だとは言い難い。

 

「……まあアタシを助けに泳いで来たんだから、アンタにしては頑張った方ね」

 

 そう言ってアスカは表情を緩めると、シンジはホッと胸を撫で下ろした。

 好意的な笑顔を向けて来るアスカを見て、シンジは今、良い雰囲気なのでは?と思った。

 

「……アスカ」

 

 アスカに自分の気持ちを伝えるタイミングは今しかないとシンジは表情を引き締めた。

 

「何よ?」

 

 怪訝な顔でアスカは表情を変えたシンジを見つめた。

 

「僕の最初で最後の女性になって下さい!」

「はぁっ!? な、何を突然言い出すのよ!?」

 

 シンジが勇気を出してそう言うと、アスカは顔を真っ赤にして腕をブンブンと振った。

 玉砕覚悟の告白は、門前払いとはならなかったようだ。

 

「人の愛し方とか分からない僕だけど……アスカが好きって気持ちは本物だから」

「アタシがアンタの最後の女性になるかどうかは怪しいもんね」

「そんな事無い、アスカを一生大事にするよ!」

「まあ、アタシたち二人の他に誰も居ないなら浮気のしようもないか……」

 

 アスカは廃墟となった辺りを見回してそう呟いた。

 この世界の片隅に居るのは自分たち二人だけかもしれない。

 それでも僅かな可能性を探って、二人は手を繋いで白い砂浜を歩き始めた。

 瓦礫の山となった第三新東京市を離れれば、無事な建物もあるかもしれないと考えたのだ。

 

「もし他に誰も居なかったら、シンジが王様ね。アタシはファースト・レディか、それも悪くないわね」

 

 当ての無い旅路だが、二人の表情は明るかった。

 

 

 

 

 

 

「……何かヘンな夢見た」

 

 アスカはそう言ってベッドから体を起こした。

 きっと変な夢を見たのは昨日シンジと一緒に観た『新世紀エヴァンゲリオン』と言うアニメのせいだとアスカは思った。

 夢の中だとはいえ、シンジに告白されたアスカの胸はドキドキしていた。

 今までアスカはシンジの事を隣に住んでいる腐れ縁の幼馴染としか思っていなかった。

 そんなアスカの意識を変えたのは、転校生としてやって来た綾波レイだった。

 レイと親しくするシンジの姿を見る度にアスカの胸はチクリと痛むようになった。

 シンジはレイの事をどう思っているのだろう。

 アタシはシンジの最初の女になれるのだろうか……。

 

 「ヤバっ、もうこんな時間!?」

 

 そんな事を考えていたアスカは目覚まし時計を見て焦った。

 あの寝坊助シンジを遅刻しないように起こすのは自分の役目だ。 

 アスカは大急ぎで着替えるのだった。

 

 

 




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