《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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この作品は、拙作の『ラウンドテーブル』『バッドガールズ・ダークサイド』『転生魔女さんの日常』と同じ世界観を共有しています。
勿論単体でも楽しめますので、ぜひ最後まで読んで行ってください!!


魔王「なぜか娘が出来たんやが?」

 わては、アテル。魔王をしとるもんや。

 

 魔王してるとか、なに言っとんねん、と思うかもしれんが、そこはそう言うもんやと思ってな。

 わての仕事は、要するに弱い者いじめやねん。

 

 まあ、つまらん仕事やで。わてを産み出したお母んの命令で、世界を滅ぼすんや。

 言うて、仕事は仕事や。尊敬するお母んの頼みやし、仕方あらへん。

 

 魔王言うても、わてが特別やあらへん。お母んに産み出された魔王は、他にもおるんや。

 それぞれが別々の世界に派遣されて、お母んの命令に従って滅ぼしたり統治したりするねんな。

 

 ぶっちゃけた話、わてら魔王は強いねん。そう言う風にデザインされとる。

 神たるお母んの力借りれば、一つの世界をまるまる滅ぼすなんてわけないんや。

 

 せやから、お母んに聞いてみたんよ。何でなんぼにもならへん仕事をするんやって。

 

「アテル、我が子よ。どうしてそんなことを聞くの?」

 

 だってほな、無意味やん。一つの世界に、大勢の部下を派遣して人間どもを苦しませて、何になるん? 

 蟻を踏みつぶすんのと変わらんやろ、楽しいかもしれんが、幼稚やで。

 少なくとも、お母んとダチの女神さんに与えられた知恵のあるもんがすることやないやん。

 

「お前に与える部下たちは、血に飢えた者達だ。

 私は、邪悪の女神。悪を司る者。戦って、敵を殺したい、踏みにじりたい、犯して辱めたい、それら全てを許容する者。

 それらは、我が盟友が与える平和な世界では、満たせない欲求だ。

 その捌け口を与えることも、我が権能の一部なのだ」

 

 ……まあ、そりゃあ分かるで? 

 わての部下たちは、そりゃあもう、イカレてるもん。大衆の中からそう言う連中が、どうしても出てきてしまうのは。

 せやけど、そう言った連中さえも、お母んは慈悲深く赦しを与える。

 わてには真似できへん、寛容さと慈愛や。

 

 誰が産まれた時から抱えた性癖やら性質やらを、ただそれだけで責めることが出来るんや? 

 誰かが妬ましい、好きだ独占したい、殺したい、憎らしい、そんな感情を誰が否定できる? 

 そりゃあ、行動に移したら、法によって処罰されるやろうが、そないなもんを抱えて死ぬまで生きるなんて酷やないか。

 

 そんな感情を、他の誰でもないお母んは赦してくれる。

 それどころか、そのストレスの捌け口を提供してくれる。

 

 そして、そんな連中の被害に遭った者達を慰め、癒してくれる。

 

 マッチポンプ、とか言うんやないで。

 加害者と被害者、どちらが先かって話や無いんやから。

 

 無論、この話の加害者の方も、何もタダですべての暴虐を許されたわけやないんや。

 

 ここで出てくるのが、わての世界を滅ぼすって“事業”や。

 なんや知らんけど、お母んたち神々の基準で、不必要な世界ってのが出てくるらしいんよ。

 お母んはそれを滅ぼす、まあ悪役を引き受けてるんや。邪悪の女神やし、適任やったんやろ。

 

 まあそれで出てくるのが、わてら魔王なんよ。

 お母んは神やから、実体が無いねん。わてらはその代行者として、産み出されるわけやな。

 

 そんで、部下としてさっきの加害者どもを与えられるんや。

 この加害者ども、わての部下として与えられた時点で、それ以外の全てを剥奪される。

 何が言いたいかと言うと、死ねんのや。各々の寿命が尽きるまで。

 その世界で死んだら、次の世界でまた復活して戦わされる。

 

 一種の地獄やねん。そりゃ、殺してるんやから、殺されもするわ。

 殺して、殺される。その円環を、被害者たちには対外的に“罰を与えている”って説明してるんやな。

 あいつら、マトモやあらへんから、そうするしかないんや。

 

 ややマトモだけど、悪意ある普通の犯罪者はお母んの管轄や無いんよ。

 

 そう言うわけで、お母んは信仰の対象として需要がある。

 むしろ、神々の中でもトップクラスや。

 

 誰だって、生きてれば被害者にもなるし、加害者にもなりうる。

 被害者は加害者に罰を与えてくれる神であるし、加害者もそれを苦にしていたら慰めてくれる。

 せやから、偉大な女神なんよ。お母んは。基本弱者の味方やし。

 

 だけどな? 

 たまーに、それだけではお母んの行動が説明できん時があるんよ。

 わてはお母ん思いの優秀な息子やから、気づいたんやけどな? 

 

「あら、わかっちゃった?」

 

 お母んは慈悲深くて、寛容で、弱者の味方や。

 元人間出身の女神だけあって、人間どもにも理解がある。人気がある。

 邪悪の女神、という肩書やけど、その事業に邪は無い。

 

 ────だが。

 

「だって、楽しいのよ」

 

 お母んの性格そのものが、邪悪や無いと言うわけやないんや。

 

「我が息子アテルよ、悪とはなんだ?」

 

 そら、お母んのことやろ? 

 お母んは邪悪の女神、邪悪を司る者、悪そのもの。

 

「そうだ、私は邪悪の女神。

 だが、結局のところ、悪とは主観的な問題なのだ。

 例えば肉食動物が、草食動物を喰らうことは、悪なのか? 

 自然界において、誰もそんなこと気にしない。

 猫がネズミをいたぶり、カラスが獲物を弄ぶ。それは悪か?」

 

 まあ、見ていて気持ちいいもんやないかもな。

 

「悪とは所詮、人間の主観なのだ。

 だからこそ、私は元人間なのだよ」

 

 そう、だからお母んは、悪そのもの。

 他者から、悪だと認識される、永遠の悪役(ヴィラン)

 

「人間と言う生き物は、正義という言葉が大好きだ。

 だが、正義によって齎された秩序は、いずれ閉塞に行き付く。

 その結果、社会には上下関係や貧富の差などから、他者を貶めるようになる。

 そして一種の完成した社会秩序の打破を行う者は、一般的に悪とされる」

 

 だが、とお母んは一旦を置いてこう言った。

 

「稀に、純粋な正義によって改革を起こす者も現れる。

 その結果がどうあれ、正しい行いによってそれがなされる場合もある」

 

 まあ、あるかもなぁ。

 せやけどそう言う連中って、だいたい後先考えてないから後から悲惨な結果になるんよなぁ。

 

「私は邪悪の女神だ。故に、主観的な正義からは逃れられない。

 どうしても、焦がれてしまうのだよ、混じりっ気のない、美しい正義に」

 

 お母んの言いたいことは、分かる。

 わては魔王としてデザインされ、悪の王として君臨しとる。

 せやから、立場とか仕事とか一切合切を無視して、わての前に立った勇者は最大限の礼を以て迎え撃つ。

 

 その瞬間だけ、勇者が、英雄が、わてだけを見てくる。

 それがたまらなく、高揚する。わてはお母んに、そういう風に産み出された。

 

 それはまるで、創作物のような、邪悪な魔王を討つ勇者の最終決戦のような、完成された一種の様式美。

 或いは、英雄譚に憧れる少年少女のような気分。

 きっとお母んは、その情景を見るのが最高に愉しいんやろうな。

 

「だから私は、お前を派遣した世界に試練を課す。

 我が息子たるお前を打ち破る者が居たのなら、その世界を滅ぼすのを取りやめることにしている」

 

 人間に試練を課すのは、女神の性質みたいなもんや。

 世界を滅ぼすのは仕事やけど、その試練は慈悲でもある。

 どうせ全部滅ぼす予定なんやから、多少生き残れる確率があるだけ慈悲深いやろ。

 まあ尤も、全体でお母んの試練を乗り越えた割合は3%程度らしいけど。

 

 少なくともわては、わてを倒せる勇者に遭遇したことは無い。

 せやかて、無茶やもん。わて、半神半龍の魔王って種族やし、まず戦いにならへん。

 

 ……でもな、お母んの言うとおり美しいやん。

 どんな想いやろうと、本気の本気でまず勝てへんだろう相手に挑み死力を尽くして打倒する。

 なんて美しく、尊い瞬間だろうか。

 

 想像しただけで待ち焦がれる。

 なんや、新しいゲームソフトの発売日にワクワクする子供みたいやないか。

 

 早うわてに挑んでくるメッチャカッコエエ勇者来んかなぁ。

 

 

 

 

 はいドッカーン、と。

 

 まあそう簡単に来るわけあらへんよな。

 わては今しがたぶっ壊した世界だったものを見下ろしそう思ったわ。

 

 そもそも期待なんてしとったら、わてらの勝率97%なんて数字でんもんな!! 

 人間はクソザコやから人間なんや。頭ワルワルで何も学ばんから、こうして滅ぼしてるんやないか! 

 

 あー、アホらし。そないなこと、わてが一番わかっとったことやないか。

 でもな、どうしても心の片隅にほんの少し、期待を捨てられへんのや。

 

 わては魔王。邪悪の女神の化身にして代行者。

 産まれた時から悪と定められて生きてきた。

 今も億単位で人間ぶっ殺したしな。この役割を嫌だと思ったことはあらへん。

 

 だが、だからこそ、自分が決して成れないものに恋い焦がれるんや。

 

 そう思ってるうちに、次の仕事が決まったようやな。

 次の人類は多少骨があるとええんやけど。

 

 まあ、次の世界の資料を読む限り、土台無理な話しやな。

 

 そこでふと、ひらめいた。

 

 居らんのなら、作ればいいやん! 

 わて、天才か! 

 まあ自分の知能を疑ったことはないんやけど。

 

 んじゃ、最初に新しい赴任先の人類に挨拶しといて、原住民で素質のある奴を探すしようか。

 

 ほな、ちょうどええところに転がっとる汚いガキがおるやんけ! 

 

 オラッ催眠! 

 恐怖に震えてるこのガキをこのまま我が新居にご招待や。

 

 おっと、今いかがわしい想像したヤツおるやろ? 

 生憎わてら魔王は生殖機能がないんや。究極生命体がセックス不要なのと一緒や。

 

 そうして、新しい我が家にこのガキを連れてくると、部下たちに指示を出して終いや。

 

 恐ろしい魔王に連れ去られ、配下の魔族たちに弄ばれ、十分育ったら催眠を解いて嘲笑う。

 どや? わてなら屈辱過ぎて生きてられへんわ。

 

 そんなこんなで、一か月ほどでガキを仕上げて来たわての配下の四天王が、謁見の間に連れてきたんよ。

 

 さあ、お楽しみの時間や!! 

 洗脳され、わての軍勢の配下として教育されてきたガキが正気に返り、己の価値観を取り戻す時やで!! 

 

 オラッ催眠解除! 

 

 

 …………アレ? 

 自分、なんでわてに跪いたままなん? 

 

 催眠、解けたやんけ? 

 

 え、魔王様に一生付いてく? 

 え、頑張ってこの世界を滅ぼします? 

 

 

 …………え、なんでなん? 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 戦乱の絶えない世界、ルートシア。

 政治、経済、宗教、紛争の理由が絶えない世界に、かの者は舞い降りた。

 

 

『世界名、ルートシアの人類よ。

 お初に御目に掛かる。我は、大いなる御方に遣わされ、この世界にやってきた者。

 我が名を畏れよ、我は魔王。魔王一族序列七位、“悪路王”アテルなり』

 

 その言葉に、戦いに明け暮れるこの世界の人々は顔を上げた。

 晴れていた青天は、渦巻く暗雲によって閉ざされ、雷の轟音を伴って、空中に投影された巨大なる竜の頭を持つヒト型。

 

 

──其は、魔王なり。

 

 

────“悪路王”

序列七位、魔王アテル

droL kraD ────

 

 

『昼夜問わず、戦いに明け暮れる愚かな人類よ。

 この我が、お前たちに永遠の安息と平穏を与えよう。

 その身を引き裂き、血と言う血を大地に滴らせ、苦悶と嘆きの後に力無く息絶えることによって、誰にも脅かされることのない永遠の平穏を約束しよう』

 

『これは、大いなる我が母たる神の決定である。

 これに異を唱える者は、刃を磨き、叡智を蓄え、死力を尽くして我に挑むがいい。

 お前たち人類には、十年の時間をやろう。それまでに、誰もが我に届かなかったならば────』

 

 魔王の手が、振るわれる。

 天空から稲光が降り注ぎ、この世界では信仰の対象になるほどの巨木に直撃した。

 

『お前たちが世界樹と称するその残骸が、この世界の末路となろう』

 

 雷によって真っ二つに引き裂かれた巨木の姿が、二つの国を超えても人々の目に焼き付けられた。

 

『楽しみにしているぞ。精々、足掻くことだ』

 

 魔王が挨拶を終えると暗雲が晴れ、先ほどの光景が嘘のように晴天に戻った。

 しかし、この世界の人類にとっては、まぎれもない事実だと世界樹の残骸が物語っていた。

 

 

 

 魔王の降臨から、ひと月。

 

 度重なる戦乱で荒廃しつつあるこの世界の秩序は乱れていた。

 世界の破滅を予感した人々が、略奪を始めたのだ。

 

 尤も、それは元々この世界では珍しい光景では無かった。

 

 ただその少女にとって、自分の番がやって来たと言うだけの話だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 

 雨に濡れた服が重く、不快だった。

 彼女は脇目も振らずにただ泥道を走っていた。

 

「おい、ガキが逃げたぞ!!」

「お前たちが遊びすぎなんだよ!!」

「ぎゃははは、あのガキも母親と同じように犯してから殺そうぜ!!」

 

 おおよそ、少女が学んできたモラルとは掛け離れた行いをする集団が、彼女を追い立てようとしていた。

 

 魔王が現れようがそうでなかろうが、同じことだ。

 食うに困った農民か、傭兵崩れが盗賊に化けることなど。

 

「はぁ、はぁ──ひうッ」

 

 やがて泥道に足を取られて、少女は泥に倒れ伏す。

 

「ぎゃははは、手間かけさせるんじゃねぇよ!!」

 

 盗賊たちが、少女に魔の手を伸ばす。

 

「……た、助け、誰か」

 

 もはや涙も、雨と紛れて区別が付かない。

 少女は襲われた村の住人たちと同じように、嬲られ、弄ばれ、殺される。

 

 何の変哲もない、どこにでもある、珍しくも無い、語られることも無い悲劇だった。

 かの者が、目を付けなければ。

 

 

 雷雨の稲光に、その場の全員の視界が一瞬奪われる。

 

「良い、邪悪だ。お前たちの所業、我が母は赦すだろう」

 

 視界が戻ると、泥道の先から歩み寄ってくる人影があった。

 

「誰だ、てめ……ぇ……」

 

 盗賊たちは、その姿を認めて絶句する。

 彼らも、いや人類の誰もが知っている顔だった。

 

「故に、我が母はお前たちを召すと仰せだ」

 

 三メートルはある人類から見れば巨体を上質なローブで覆う、龍の顔を持つ存在。

 彼こそが、魔王。魔王アテル。

 

「ッ──!?」

 

 もはや端役になど、台詞は用意されていなかった。

 盗賊たちは一斉に胴体と首が泣き別れ、血飛沫が泥に混ざり合い、倒れ伏した。

 

「あ、あ、ああッ」

 

 恐怖と混乱で怯え、泥の上にへたり込む少女。

 泥と血で汚れ、それを気にするだけの余裕は彼女にはなかった。

 

 そして、少女は悲鳴を上げた。絶叫だった。

 それを見て、煩わし気に魔王は魔法を操る。

 

 恐怖を奪い、心を奪う、催眠の魔法だ。

 彼女は、彼女のまま、奪われた心から魔王に服従する。

 

「私の全てを差し上げます、魔王様」

「では、そうしてもらおうか」

 

 魔王がローブを翻すと、稲光が世界を照らす。

 白に染められた世界が戻ると、そこには盗賊どもの死体しか残されていなかった。

 

 

 

「ホームホーム」

「はッ、ここに。魔王様」

 魔王の居城、そこに少女を連れ帰った魔王が、己の腹心を呼ぶ。

 

 現れたのは、人形のような無表情な女だった。

 ただの人間ではない。人造人間、魔導ゴーレム、ホムンクルス、呼び方は様々だが、性能は折り紙付きだ。

 

「この娘を、我に相応しい勇者に育て上げよ」

「魔王様の御心のままに」

 

 人造の女は少女の手を取り、魔王城の奥へと誘われる。

 

 汚れた衣服を脱がされ、風呂に入れられ洗われる。

 清潔な衣服を与えられ、栄養価のある食事を与えられる。

 

 そしてこの世界の水準からかけ離れたレベルの教育と、戦闘訓練を与える。

 戦いの師、対戦相手の質、武器防具もより取り見取り。魔王の配下と好きなだけ殺し合える。

 

 体調も生活リズムも徹底的に管理され、少女は約ひと月で最低限の出来にはなった。

 

 謁見の間、少女は魔王にお披露目されることになった。

 

「魔王様、恐れながら長期間の精神支配は精神的成長に悪影響を及ぼし、何よりも我が主上の定めたコンプライアンスに違反します」

 

 人造の女が、機械的に淡々と魔王に具申する。

 

「ふむ、よかろう」

 

 退屈そうに、玉座の頬杖を突く魔王が指を振るう。

 それだけで少女に掛っていた魔法は消え去った。

 

「娘よ、何か言いたいことはあるか?」

 

 魔王の魔法から解放された少女は、少々呆けていたがすぐに顔を引き締めた。

 

「はい、お父様(・・・)。あなた様の期待に応えられるように、この世界の人類を皆殺しにします」

 

 その少女の言葉に、魔王はずるりと頬杖から頭がずり落ちた。

 

 

 

 

 




仕事中にふと、思いついて仕事の合間にスマホで書いた短編です。
評判が良かったら気分で続きを更新する予定です。

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