《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」 作:やーなん
アンズ様のいたずらがリアルにまで及んだ件について。普通にショックでした。
ハーメルンに投稿するからには、ここでしかできないことをやりたいと思った結果でした。後悔はしてないですが、不快に思ったのなら申し訳ありません。
それに私の書きたいことや作風と合わないなら、それは仕方のないことです。
あれに懲りず、今回ここに来てくれた皆様のために、頑張って面白いと思う作品を書き続けるだけです。
では、本編どうぞ。
「お母ん、さっきの話は本当なんか?」
「ああ、そうだ」
わての前に、ヒト型の黒い靄が現れる。
お母んの化身や。わては溜息を吐いた。
わてはあの運命の女神が去ると、玉座に深く背を預けてお母んに尋ねたんや。
「あの“門”の先には、我ら神域の住人でさえ歯牙にも掛けない御方がいらっしゃる。
より正確には、“聖域”に住まう三柱は三位一体。三柱で一つの神。あの娘の特技は、三分の一にしか過ぎないのだ」
「あれで、三分の一」
三分の一でしかないのに、お母んやメアリース様を上回っとるのか、あの小娘は。
「元人間であるお前には、神々の王が大の人間嫌いだと言うのは絶望的な事実かもしれんな」
「なら、なぜ一思いに滅ぼさんのです?」
「かの御方は、以前こう言っていた」
『冬場の木の根元にある落ち葉とか石の下を覗いてみたことが有るかい?
テントウムシがうじゃうじゃと、身を寄せ合っているんだ。
見るのも触るのも踏みつぶすのもおぞましい、僕にとって人間とはそう言う存在さ』
「故に、かの御方の逆鱗に触れなければ、あの方は何もしない。
こいつは将来自分の逆鱗に触れる、とかの御方は分かるはずなのに、そうするまで何もしない。
我が盟友は言った。神とはシステムであると。
あの御方でさえ、例外ではない。結果的に、かの御方は
「そこに善悪は存在しない、と」
「善も悪も、所詮は人間の主観でしかない。
もし正義の神とやらが居るのなら、それは我が盟友のことだ」
お母んはちょっと皮肉気に笑ってそう言った。
まあ、正義の概念は所詮人間の“文化”や。それを司る者がいるとしたら、それはメアリース様なんやろうな。
「お前たちの失望を買うと思われるから黙っていた、それは否定はしない。
だがそれ以上に、あの御方を知ることで犠牲もあった」
「犠牲……?」
「いや、忘れろ。失言だった」
お母んは、珍しく愚痴を言っていた。
だからこそ、その失言が漏れてしもうたんやろうな。
「……我が母よ、かの神が人間嫌いなら、“人間”の概念そのものであるメアリース様はなぜ無事なのですか?」
「それが、この世は本当によく出来ている、と思ったことの一つだよ」
一言で説明するのは難しい、とお母んは言った。
「私と、我が盟友、そしてかの三神は人間だった頃、知り合い同士だったのだ。
我々五人は同じ世界の同じ時代を生きていた」
「……そないな偶然あるんですか?」
「これを偶然だと、言えると思うか?」
「…………」
わては答えられなかった。
「そもそも私は最初から、それこそ人間として産まれる以前から神域の存在だ。
神域の神々は、火の神なら火の神の席、水の神なら水の神の席が存在する。
ある時、彼らに自意識が目覚めるのだ。そして自らが神であると自覚する。
自然そのものの自然神然り、我々のような人間出身然り、な」
つまり、一冊の本に例えるのなら。
お母んは最初のページを捲った時は既に神やけど、途中で人間のお母んが出てきて、自分が神だと自覚する。それは最後のページまでってことか。
そんなことを、わてはお母んに言った。
「概ねそのような認識で構わない。
そもそもが我々は時間や因果律を超越している。その認識で十分だ」
細かく考えると面倒やというのは分かったわ。
「昔、と言っても我々にも気が遠くなるほどの昔だ。
我らの神域は群雄割拠などではなく、強大な自然神達の取り仕切る場所だった。
私も当時は肩身が狭かったことを覚えている」
「まさか、お母んが?」
大兄に神域の領主と例えられるまでの強大な神たるお母んが、肩身の狭い時代があったって?
そんなん知らんかったわ。
「人は天災には勝てない。だから私も連中の使い走りに甘んじていた。
だが、連中は恐れていたのだ。未だ目覚めを待っている、神々の王たる“全知全能”の席に座する者が現れるのを」
「それが、“あの御方”か」
「ああ、人間だった頃の異名から、“暴君”と誰もが呼ぶようになった」
「神々の王が、暴君とは」
「当然、自然神の連中は我慢ならなかった。
たかが
彼らは戦いを挑んだよ。……まあ、結果は言うまでもないだろうがな」
ヒトは天災に勝てない。だが、存在してしまったのだ。
天災すらものともしない、人の身で神の如き人間が。
お母んの態度から、そもそも戦いにならなかったんやろうなぁ。
ギリシャ神話然り、北欧神話然り、クトゥルフ神話然り、最高神は全知全能であることが多い。その席に、人間が想像したから人間が着いたってところやろうか。
「それ以来、“暴君”は神域に関わらなくなった。
まるで硬直した神域の体制を一変させる為に現れたかのようだったよ」
きっとお母んの言葉は正しいんやろう。
“暴君”は恐らく、不要な神を排除する役割があるはずや。
普通に考えれば、その答えに生き付く。
「ああそうだ、あの娘を嫌わないでやってくれ。
あの御方が癇癪を起すたびに、あの娘が宥めてこの世全てを救っている。
元々そう言う役割なのだろうが、あれも好きでああなったわけではない」
そう言われたかって、無理やろ。
それより、あの生意気な女神にこの世は度々救われとるとか、情けなくて知りたくなかったわ。
「と言うか、この間我が盟友が粗相をしてぶっ殺されかけた。
あの娘が止めてくれなかったら、我が管理下の世界に多大なシステム障害が発生し機能不全に陥っただろう。
復旧までの時間は、恐らく数万年は掛かったはずだ。
その影響は、単純な死者で数えれば京や垓単位まで見積れる。
我が盟友は人間だった頃“あの御方”と魔導の同門で、弟子の弟子に当たる。だからとても厳しい」
お母んの溜息が漏れた。そりゃあ、ビビるわ。
他の神には干渉しないくせに、知り合いだから、おうこら何してんじゃわれツラかせや、みたいに言ってくるってわけやろ?
そりゃあ、自分が大事にしてた世界も消すわ。そりゃあ、お母んも我が子を殺すわけやで。
それが最善やった。それは理解した。
せやけど、わては納得いってないで。
「我が子よ」
「なんでしょう、お母ん」
「お前まで、犠牲になる必要は無いのだ」
お母んはわての頭を撫でて、消え去った。
……そういう、ことかいな。
なんや……わてが、
自分の頭の良さが嫌になるわ。
「……四天王を召集しろ」
§§§
玉座の間に、急遽として集められた魔王の四天王。
かの者の呼びかけに、応じて馳せ参じた。
“赤鬼”エンズ。
“従軍神官”バンブス。
“魔将”ハイボール。
“魔人総司令”ジークリンデ。
そして、勇者スズ。
「何故、スズ。お前まで来た」
その一言で、四天王は察した。
今日の魔王様はとてつもなく不機嫌だ、と。
「私はジークの側付きですから」
「……まあいい」
魔王はすぐに視線を四天王に向けた。
「我はこの仕事に価値を見出せなくなった。
いや、違うな、我は我が母にこの世がいかに下らないかを教えられた」
魔王の目が細められた。
それだけで、重圧が籠るような圧迫感に彼らは襲われた。
「手早く、終わらせろ」
「お言葉ですが、それは我らが主上の望みでしょうか」
バンブスが異を唱えようとした直後だった。
彼の体が、不可視の力で入り口のドアを突き破ってぶっ飛ばされた。
痛々しいほどの沈黙が舞い降りた。
この場の人間二人は恐怖で震えた。
「返事はどうした?」
御意に、と残った四天王三人は頭を下げた。
「バンブスさん、大丈夫ですか!!」
「ええまあ、この程度なら」
スズが治癒魔法でバンブスを治療するが、彼は割とピンピンしていた。
退出を許された四人は、すぐに彼の無事を確認すべく駆け寄った。
「オヤジがこの程度でくたばるわけないだろ」
四天王ハイボールが安堵交じりにそう言った。
彼はバンブスの養子で、父と同じデーモン種だ。
父親と違って若武者といった風体の若者である。
「なんでぇ、魔王様はあんな不機嫌なんだ?」
エンズが腕を組んで首を傾げる。
彼の記憶にも、魔王が催促するような真似は初めてだった。
「さて、魔王様の御心など我らには推し量れぬこと。
ですがあのような魔王様は初めてだ。あの方に最初に四天王として仕えている私でさえも」
バンブスはハンカチで額の血を拭い、割れた眼鏡を魔法で直し、燕尾服の埃を払ってそう言った。
「ホームホームにチクろうぜ。
部下に暴力とかコンプラ違反だろ、多分」
「それには及びません、我が息子よ。
私は魔王様がまだ情緒の不安定な頃より仕えた者。昔はこれくらい日常茶飯事でした。
お前を引き取った時と同じようなものです」
バンブスにそう言われ、ハイボールはバツが悪そうに視線を逸らした。
「それより、手早くやれとは。
行軍の計画を早めねばならないだろう。あの視線でせっつかれてはたまらない」
ジークリンデが額の汗を袖で拭った。
ただの人間に過ぎない彼女は、生きた心地がしなかった。
「スズ、しばらくは侵攻計画の見直しを行います。
それまでは彼女の仕事も減ります。貴女はそれまで魔王様を宥めておいてくれますか」
「バンブス殿、それは」
「分かりました」
今の魔王の相手をするのは危険だと感じたジークリンデだったが、スズはすぐに首肯した。
「今の魔王様は独りにさせておけません。そう、感じました」
「ええ、感性を信じます。任せましたよ」
「ううむ、今の魔王様に近づけるのはお前だけやろなぁ」
バンブスも、エンズも、スズを見てそう判断した。
彼女も頷いてすぐに玉座の間へと引き返す。
壊れたドアを跨いで、先ほどと同じ位置まで戻った。
魔王は目を瞑って頬杖をついて瞑想しているかのように沈黙していた。
「魔王様、お加減が優れないのですか?」
スズは彼に尋ねた。
だが、魔王は答えない。
「なにか我らが不愉快になることをしてしまったのですか?」
「……違う」
魔王は少し鬱陶しそうに答えた。
というか、スズが心配していたのはバンブスたち四天王の会話など、すぐそこのこの部屋にいた魔王には丸聞こえだろうことだった。
いや、敢えてバンブスは彼に聞こえるように言ったのだ。彼もまた、魔王の扱いを心得ていた。
「お前は……」
魔王は片目を開け、一度言いかけてから口を閉じる。
しかし、すぐに彼はこう言った。
「お前は、運命が憎いと思わないのか?
残酷なこの世に産まれたことを、恨めしいとは思わないのか?」
「魔王様」
スズは、首を傾げた。心底不思議そうに。
「以前に申し上げました。私は何も恨んではいない、と」
「そういうことを言っているのではない」
だが、魔王は頭を振った。
「お前の住む世界を取り壊すと決めたメアリース様を憎くはないのか。
お前の知人友人、両親まで奪った連中を赦す我が母を恨みたくはないのか?」
「終わったことです。もう終わったことですよ」
スズにとって、この世界が滅びるのも、悪に走るしかなかった愚者たちも、等しくどうでもいいことだった。
「お前は思わないのか、この世界に、この世に、価値など無い、と。
お前も、この世界の住人も、結局は無意味に生まれて、無価値に過ごし、無為に滅び絶えるのだと。
全ては神の都合に振り回されるだけの、虚しいだけの命だと」
「魔王様」
スズはもう一度、彼を呼んだ。
先ほどとは違って、強い口調で。
「私は魔王様に出会えた。師匠やバンブスさん達に出会えた。
そしてジークとも出会えました。学校には友達も居ます。
クラスメイトたちは精一杯生きようとして、それすらも出来ない人たちばかりでした。
誰もが、足掻いています。それを無価値だと、虚しいだけだなんて言わないで」
「虫けらが生き足掻くのは当然のことだ」
「ええ、そうです。私たちは当然のことをしているだけです。
死ぬ瞬間まで、その当たり前のことを」
スズは思った。なんて傲慢なことを言っているのだろう、と。
自分はあの時死にかけた時から、今の今まで、全てを与えられて生きてきた。
それを当たり前という、傲岸不遜。そして厚顔無恥。
この瞬間、魔王が激高してもしかたのない物言いだった。
だが、言わねばならなかった。
「今の私は、全て与えられた物で出来ています。
ではその全てが偽りで、そこにある素晴らしさが嘘なのですか?
いったい何が、魔王様の御心をざわつかせるのですか?」
スズは顔を上げ、魔王をまっすぐ見た。
「もし魔王様がこの世を無価値と仰るのなら、私が証明いたします。
一人、十人、百人、千人、一万人と、大いなる二柱の身元へ送りましょう。
そうして消え逝く者たちを見て、誰もが諦めるなら魔王様の仰る通り、この世は無価値でしょう。
ですが必ずや、魔王様の下へと辿り着く者が現れる」
気だるげだった魔王が、顔を起こした。
スズの言葉を吟味するように、その視線を真っ向から受けた。
「私は、そう信じています」
スズが己に与えられた魔剣を掲げた。
魔剣が彼女の覚悟に応じるように、妖しく輝く。
時と場合が異なれば、この場の二人は決戦前に魔王と問答し対峙する勇者という光景そのものだった。
「……そうだ、我はこれを求めていたのだ」
「魔王様?」
「スズよ、この世には強さの上限が存在する。そう思わぬか?」
「え、はあ、そうなんですか?」
「ああ。我こそがその上限、我こそが最強なのだ」
魔王は灼熱にも思えるため息を吐いた。
「価値とは、自ら見出すものであったな」
そうして、彼は玉座から
「ならば、
「え?」
スズは一瞬、何を言われたのか分からなかった。
ただ頭で理解するよりも先に、涙が溢れていた。
「我は、お前の成長こそを望もう。
であらばこの世界、その為の贄としよう」
魔王は言った。
この世界全ては、この少女一人に劣ると。
少女は言った。
この世界の価値を、証明してみせる、と。
それ、即ち。
「我が娘よ、この世界の価値を示せ。
それを踏み潰し、お前の価値を高めるのだ」
「は、はいッ、皆殺しにします、この世界の全員をぶち殺しますッ!!」
彼女がこの世界の大地を、血に染めるという事だった。
「よう言うた、それでこそ我が弟子じゃ」
「これで一先ず一安心ですね」
「冷や冷やさせやがって」
「これは、私の仕事も大変になるな」
こっそり玉座の間をのぞき見していた四天王たちは、その様子を見てホッと息を吐いたのだった。
そして、この日から一年後。
魔王四天王“魔人総司令”ジークリンデは国内を平定し、歯向かう属国とレジスタンスを粛清。
彼女の指揮する戦闘には、“魔勇者”と称され恐れられるようになったスズが常に参加していた。
その頃になって、ようやく世界樹の下にある三国が中心になって連合軍を結成。
魔王の手先となった帝国軍と、国際連合軍が激突も秒読みとなっていた。
「王よ、私の我儘を許していただき感謝の言葉もありません」
「気にする必要はない。そのくらいしか、できないのだからな」
聖樹教国、その王宮の奥で聖騎士メドラウドと国王が相対していた。
王は若くメドラウド卿よりも若い。国王になったとき、その手腕を疑問視されていたが、一年前の魔王の災禍を何とか乗り切った彼の有能さを疑うものはいなくなった。
もはや、そんな余裕もないというのも事実だが。
「必ずや、各国の勇士を集め、魔王と戦える精鋭を揃えて見せましょう」
「頼む、今の状況で、各国の勇者は総動員されている。
在野の人間など、と誰もが侮るだろうが、貴殿が指揮してくれるなら扱いも変わるはずだ」
王の言葉に、メドラウド卿は頭を下げた。
ここ一年、彼は傷の療養に努め、つい先日まで過酷なリハビリを続けていた。
彼はもはや、聖剣も無く全盛期から比べ物にならないほど体は衰えていた。
だがそれでも、娘を取り戻したい一心で、彼は戦場に舞い戻ろうとしていた。
「では、もう行かせて貰います」
聖騎士、勇者という肩書を捨て、ただ一人の男として、彼は王宮を後にする。
その背は、聖騎士たちを束ねる王から見ても、他の誰にも劣らぬものだった。
「どうか、生きて帰ってきてくれ。兄さん」
王は数少ない肉親の旅立ちとその無事を、祈ることしかできなかった。
まさか彼と同じ自分の腹違いの妹が、最悪の敵となって立ち塞がろうとしていると知るのは、そう遠くない未来だった。
そして、娘を攫われた彼に、更なる過酷な運命が待っていることなどと。
「おっと、これは。サイコロを振るまでもないことでしたね」
まだこの時は、運命の女神ぐらいしか、知る由の無いことだった。
魔王様、ついに勇者に攻略される。
次回からは時間も経過しており、誰だお前ってくらいダダ甘になることでしょう。
わざわざ今回も含めて、神々の話や世界観について説明しましたが、それは後の展開に関わります。
メタなお話が萎えるという方も理解できますが、私は我が道しか行きません。
あと、このまま順調に行けば二十話までには完結できそうです。
そして、この小説が早くも十万UVを突破。
お礼に特別編とか書いたほうが良いのかしら。
とりあえず、毎回アンケートするのもあれなので、今回の反応を見て決めます。
それではまた、次回!!
次回は、見捨てられた彼の視点となります。