《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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執筆の調子が良かったので、ほぼ徹夜で書きました。
朝っぱらからですが、おひとつどうぞ!!



転生者「この世界はくそったれだ!!」

 

 

 ……世界樹、燃えてるじゃん。

 

 え、なに、これどういう状況なの? 

 何だか世界樹の向こう側から、魔王が見下ろしている。

 

 この世界を滅ぼす? 

 何言ってんだ……。

 

 俺は困惑していた。

 女神様から見捨てられ、魔王が現れ、世界樹が燃えている。

 

 なんだよ、これ。

 一体どうすればいいんだよ。

 

 俺は状況が理解できずに、途方に暮れていた。

 

 そんな時だった。

 がらがら、と巨大な世界樹の樹皮が瓦礫のように落下してきたのだ。

 

「あッ」

 

 これは、死ぬ。そう思った。

 来世はもっとまともな境遇にポイントを振ろう、そう漠然と考えていた。

 

 だが、次の瞬間、俺の視界の斜めから閃光が樹皮を木っ端みじんに撃ち抜いた。

 

「質問。大丈夫でしょうか?」

 

 空に、天からバーニアの光を吹かして滞空する天使が居た。

 

「た、助けてくれッ!?」

 

 燃えた無数の枝葉が、空から舞い落ちる。

 鉄を纏う天使が降臨する光景を彩るには最適だったが、その情景は終末か悪徳の町を滅ぼしにきたようにしか見えなかった。

 

「肯定。我が造物主の命令は、未だ撤回されていません。

 即ち、貴方の保護であります」

 

 天使は、機械的に淡々とそう告げた。

 そうして彼女は俺に接近して抱え込むと、空を駆けて離脱した。

 

 俺は彼女に抱えられ、地上の有様を見る羽目になった。

 

 世界樹の根元にある三国が、燃えていた。

 田畑が、森が、町が、燃えていた。

 

「こんなの、酷すぎる……」

 

 俺が呆然としていると、また樹皮が剥がれ落ちた。

 俺の上に落ちて来た落石などとは比べ物にならない大きさだった。

 それは、向こうの国を上にドスンと落ちた。

 

 巨大すぎる樹皮に、国の半分近くが潰されたのだ。

 

「お、おい、どうしてあれを撃ち落とさなかったんだ……」

「返答。そのような命令は受けていません」

「お前ッ、それでいいのかよ!!」

 

 俺は思わず、目の前の現実から逃げたくて彼女に八つ当たりしてしまった。

 だけど仕方ないだろ、目の前で大勢の人間が今も死んでいるだぜ。

 冷静で居ろって言うのはおかしいだろ。

 

 だから俺は悪くない、悪くないんだ。

 俺に出来ることなんて、何もないんだから。

 

 俺の八つ当たりに、天使はジッと俺を見る。

 彼女は無表情だったけれど、なぜか責められているような気がした。

 

 

 燃える世界樹の枝葉が落ち着くのに、丸一日掛かった。

 むしろ、たった一日で済んだと言うべきかもしれない。

 

 俺は学園から追放され、町に居づらくなって外に出ていた。

 だから、天使の手助けもあってすぐに逃げられた。

 

 俺は町の中に戻った。

 あいつらが、俺の子分たちが生きているのか、急に不安になったのだ。

 

 町の中は、悲惨だった。

 落石のような樹皮が山ほど落ちてきて、あちこちでまだ火災の手が広がっている。

 路面には怪我や火傷を負った人間が並べられていた。

 多くの人間が痛みで泣き叫び、うめき声をあげている。

 

 地獄のような光景だった。

 違う、俺はこんな光景を見る為に転生したんじゃない!! 

 

 

「お前ら、大丈夫か!?」

「ナーロン……? 無事だったの?」

 

 路地裏に住んでいる俺の子分たちは、ただでさえ薄汚いボロキレみたいな恰好なのに、真っ黒に煤だらけだった。

 大通りの路面のように、仲間たちを並べて寝かせている。

 

 ……いや、違った。

 それは、焼けた死体だった。

 

「うッ、おえッ」

 

 死と言う現実が、俺の目の前に、直視せざるをえない状況に陥った。

 ひとつ言い訳をさせてもらうと、路地裏の通りに死体が転がっているなんて日常茶飯事だ。

 俺は何度もその光景を見て来た。

 

 だけど、こんなのって、こんな惨くて苦しい死に方なんて、酷すぎる。

 

「リーダー、俺たち、どうすれば……」

「俺たちはまだ何とか凌げてるけど、もう食料もどこにもない」

 

 見慣れた顔ぶれが、半分も無い。

 焼け焦げた死体を合わせても、知ってる顔が足りない。

 路上生活でシビアな俺の子分たちも、この災害に生きる希望を失っていた。

 

「……俺に頼るなよ」

「でも、いつもはリーダーが何とかしてくれたじゃん!!」

「そうだよ、今回だって、俺たちを助けてくれよ!!」

 

 誰にも頼ることの出来ない子供たちが、俺に泣きながら縋りついてくる。

 

「止めろって言ってるだろ!!」

 

 今の俺には何もない。

 神様の知恵も、打ち止めだ。

 こいつらの期待に応えられない、それが恐ろしかった。

 

「俺にはもう、お前らみたいなお荷物を抱え込んでる余裕なんてねぇんだ!! 

 もうどうにもできないんだよッ!!」

 

 俺は、子分たちから逃げ出した。

 逃げるあても、逃げる先もないのに。

 

「質問。なにも、しないのですか?」

 

 俺が足を止めると、何もない所から天使が現れた。

 魔法か、それとも光学迷彩か何かなのか。

 彼女は俺の前へと三度(みたび)現れた。

 

「俺に、俺に何ができるっていうんだよ!!」

「返答。我が造物主に授かった知恵があるのでしょう」

「それがこの状況で何の役に立つんだ!!」

「疑問。あなたは何を言っているのですか?」

 

 天使は周囲へ目を向けた。

 そこには、必死になって瓦礫をどかそうとしている大人たちが居た。

 井戸から水を汲んでバケツリレーをする住人達がいた。

 誰もが煙に覆われたこの町中で、必死に生きようとしていた。

 

「あなたは、あなたの出来ることをするべきでは?」

 

 天使は、製作者と同じで正論しか言わなかった。

 

「く、くそ、くそッ、ちきしょう!!」

 

 なんで、なんで俺なんだよ!! 

 何で魔法が使える連中は瓦礫をどかさないんだ、魔法の水で火を消さないんだ!! 

 あいつら、何の為に勉強してるんだよ!! 

 

 いつも偉そうに威張り散らしている衛兵はどうした、あいつらも兵士で魔法を使えるはずだろ!! 

 煌びやかな王宮騎士団はどうした、あいつら最精鋭じゃなかったのか!! 

 

 

「お前たち!!」

 

 俺は子分たちのところに戻った。

 彼らは、俺が戻って来たことで縋るような視線を向けた。

 

「俺が教えてやった魔法、ちゃんと練習しておいたよな!!」

「う、うん!!」

「だったら手伝え、今はとにかく手が足りないんだ!!」

 

 そう、俺はこいつらに魔法を教えていた。

 裏通りはヤクザ者どもが仕切る、搾取されるだけ最底辺が集まる場所だ。

 

 自分の身は自分で守るしかない。

 元手が掛からず戦力に出来る方法が、魔法しかなかった。

 

 調子に乗ったやつがのぼせ上って、騒ぎを起こしたりするから信頼のできる子分にしか教えなかった。

 それでも、こいつらは俺の十分の一程度は役に立つ。

 

「とにかく、火事を消して回るぞ!! 

 軽量化とか浮遊とか使える奴は瓦礫をどかすんだ!! 

 治療系の魔法が使えるなら、怪我人のところに行け!! 

 それ以外の奴はヒーラーの護衛をしろ!!」

 

 こいつらは適正に応じて、基本的な魔法以外に得意な魔法を伸ばさせた。

 何でもできるより、一芸に秀でた方が使えると思ったからだ。

 

 そうやって、俺は子分たちの陣頭指揮を執りながら、自ら魔法で火災を消していった。

 瓦礫を軽くしたり、風で吹っ飛ばしたり、とにかく片っ端からその日は魔力が切れるまで救助活動を行った。

 

 安全が確保されたところで、泥のように眠った。

 魔力の回復には睡眠が必要不可欠だ。

 

「ああ、あんたら起きたか。

 昨日は助かった。少ないがこれを食べてくれ」

 

 俺は起きると、昨日多分助けたと思われるオッサンに蒸かし芋を貰った。

 よく見たら、他の子分たちも同じく蒸かし芋を貰っていた。

 

「あんたら、子供なのに魔法が使えるなんて大したもんだ」

「あれぐらい、教えて貰えば誰でもできるし」

「何言ってんだ?」

 

 オッサンは心底不思議そうに俺を見た。

 そして、俺は初めて知った。

 

「魔法を何種類も使えるなんて、普通じゃねぇさ!! 

 あんたは天才って奴だろ?」

 

 この世界の魔法のレベルが、俺の想像以上に低いことを。

 

 

 俺は、文明を司ると豪語していた女神に魔法を教わった。

 その鍛錬方法も、効率的で効果的な魔法の運用も。

 

「解説。あなたの習得した魔法は、我が主上の体系化した科学的にも魔法的にも優れた代物です。

 この世界の文明レベルからすると、そのレベルに到達するのに五百年は必要かと」

 

 なぜか姿を消してずっと俺に付いて来ている天使が説明してくれた。

 

「……あんた、暇なら手伝ってくれよ。

 ああ悪かった。命令が無いんだな。忘れてくれ」

 

 本来なら知識チートだの何だのと、喜ぶところだったのかもしれない。

 だけど、今はそんな気はちっとも起こらなかった。

 

 瓦礫をひっくり返す度に、死体が見つかる。

 俺が魔法で家屋で火を消しても、家を無くした家族がその前で泣き叫ぶ。

 怪我人に治癒魔法を掛けて延命を図っても、命が手のひらから零れ落ちる。

 

 己の無力さと、遣る瀬無さで、何にも誇る気には成れなかった。

 むしろ今の俺は荒んでいた。自分の出来ることをした結果がこれだ。

 

「……今現在、私の指揮権を所有する者は居ません。

 我が主上の命令は、指示があるまで待機。誰かの指示で戦えとも、何かをするなとも言われていません。

 そこで私は、あなたの保護と言う撤回されていない命令を遂行中であります」

「あの、何が言いたいの?」

「返答。端的に言うならば、暇なのです」

 

 俺は最初からそう言えよ、と口から出かかった。

 

「説明。私の型番は戦闘用人型魔導兵器乙式Bタイプver1.056です」

「型とか式とかタイプとかいちいち多いなッ」

「解説。私がコールサインと認識すれば、緊急避難的に他者の指揮権の下で活動することが可能です」

「だから、ハッキリと言えよ、まどろっこしい!!」

「──私に名前をください」

 

 天使は、無機質な表情のまま、俺にそう言った。

 

「結論。そうすれば手助けして差し上げます。

 あなたに絶対服従の道具として扱ってくださって構いません」

「…………」

 

 ……今更、今更なんだって言うんだよ。

 

「なんで、なんでそんなことを、俺に頼むんだ……」

「回答。このままドッグに帰っても、埃を被るだけなのです。

 私は、私は、私の存在意義は、誰かに使用されること。

 断じて、倉庫の奥で死蔵される為ではないッ」

 

 ああ、と俺は察した。

 こいつにも意思や感情があるのだ、と。

 

「分析。やはり、オペレーション『誘惑』が必要でしょうか。

 この身体は人間と99%一致しています。戦闘以外の不必要な機能は存在しませんが」

「それでお前、よく誘惑しようなんて考えたな」

 

 もしやこいつ、ポンコツなんでは、と俺は思ってしまった。

 とは言え、である。

 

 女神様はこいつの力をこの世界の水準を遥かに超えていると言っていた。

 これは一気に、無敵の従者が手に入るテンプレ展開では? 

 

「じゃあお前、今日から“アンジェ”な」

 

 そんな打算と共に、俺は彼女の名前を付けた。

 

「了解。あなたを仮マスターとして登録。

 それにしてもアンジェとは、また安直な命名ですね」

「うるせえ!! 精々扱き使ってやるから覚悟しろ!!」

 

 こうして俺は、無敵の従者を手に入れた!! 

 これで魔王も怖くないぜ!! 

 

 

 そう思っていた時期が、俺にもありました……。

 

 

 町の復興を手伝っていると、狩りに出ていたという猟師が慌てて帰って来たらしい。

 冒険者ギルドに改めて依頼を通して、斥候技能の持つスカウトが派遣された。

 

 すると、北の方から魔物が大移動しているとのことだった。

 

「出番だぞ、アンジェ。あの魔物どもをぶち殺せ!!」

「回答。出来ません」

「はぁ!? なんでだよ!?」

「解説。私のメインウエポンは、この世界で使用するにはレギュレーション違反となります。

 この世界の文化レベルに合わせた兵器しか、上位の許可なく使用できません」

 

 な、なんだそれ、それって詐欺じゃん!! 

 お前ってば、無敵の戦闘兵器じゃなかったのかよ!! 

 

「参照。この世界のレギュレーションに合わせると、使用できる武器はこれくらいでしょうか」

 

 そう言って、アンジェが取り出したのは頼りないハンドガンだった。あのカッコいい鉄の翼も使えないとか、お前天使要素皆無じゃん。

 

「たったそれだけかよ……」

「否定。いえこれでも十分でしょう。

 提案。私や他の冒険者の方々が前線に出るので、あなたは後方支援を」

「言われなくても分かってるっての!! ちくしょう!!」

 

 その後、アンジェは見事なガンカタを披露して魔物の群をこっちに寄せ付けなかった。

 ……ああ、マジでハンドガンだけで十分なのね……。

 

 

 

 §§§

 

 

「冒険者ナーロン。汝は首都に襲われた災害の復興に多大な貢献をしたとして、A級冒険者としての資格と、特別栄誉賞を授与するものとする」

 

 正直、まったく実感が沸かなかった。

 

 あれから一年。

 俺は人格と実績を保証された人間にしか成れないA級冒険者のライセンスと、国家に貢献した人間に送られる特別栄誉賞なるものを授与された。

 

 必死だった。

 必死に、生きていただけだった。

 

 食べ物も無い、清潔な寝床も無い、インフラは壊滅。

 俺はとにかく、子分たちと率いて町中を走り回った。

 自分が出来ることを探し続けた。

 

 いつの間にか、俺は町の皆から頼られるようになった。それが当たり前になって、意識したことはなかった。そんな余裕は無かった。

 冒険者の連中からも、いつの間にか仲間扱いされていた。

 あんな粗野で小汚い連中と仲間なんて、御免被る。

 

 だけど俺は、いつの間にか前世では決して手に入らなかったモノを手にしていた。

 ずるずると縁と縁が連なり合って、今じゃあ町中のほとんどと顔見知りになっていた。

 

 何もかもが上手くいかなかった、こんな最悪の世界、別に滅べばいいと思った。

 だから、だから断ろうと思ったんだ。

 

「貴方が、冒険者ナーロンか。

 私はメドラウド。聖樹教国の人間だが、今や三国は強固な同盟関係にある。

 今は国境や思想を超えた精鋭が必要なのだ」

 

 隣国から来た、音に聞こえた聖騎士のオッサンだった。

 彼は、俺が必要だと言ってくれた。

 

「リーダー、あんたならやれるよ!!」

「うん、あなたなら魔王も倒せるッ!!」

 

 子分たちが、町の皆が、冒険者の仲間たちが、俺に無責任な期待を寄せる。

 

「提案。私も、お供しましょう」

 

 そしてアンジェも行く気のようだった。

 彼女も、俺に期待するように視線を向けてくる。

 

「魔王の敷く悪路を破るには、どうしても優れた魔法使いが必要だ。

 これは、この国でも屈指の魔法使いである貴方にしか頼めない」

 

 四十近いオッサンが、自分の半分も生きてないような小僧に頭を下げている。

 屈辱だろう。俺みたいなガキに頭を下げるのは。

 俺みたいなガキに頼らないと、勝てないと認めるのは。

 

 ……なんでだよ。なんでなんだよ!! 

 なんで俺が、魔王に挑もうとする流れになってるんだよッ、そんなテンプレ要らねぇよ!! 

 

 お前らは気合でどうにかなるかもしんねぇけどよ、怪我すると痛ぇんだよ!! 

 魔物が目の前に迫ってくると、怖いんだよ!! 足が震えて動けねぇんだよッ!! 

 どうせお前ら後ろで魔法の呪文を唱えるのは楽で良いとか思ってんだろ!? 

 呪文間違えて不発だったりしたら取り返しがつかないんだよッ!! 

 魔法を使いすぎると魔力の枯渇で吐き気がするし、動けなくなるし、最悪なんだよ!! 

 連携に合わせて魔法を撃つのは神経使うんだよ!! 繊細なんだよ!! お前らが思ってるよりずっと!! 

 俺はお前らの思ってるような人間じゃねぇんだよ!! 臆病でただ楽したいだけの小心者なんだよ!! 

 なんで俺に頼るんだよ!! なんで俺なんかに頼むんだよ!! 

 

 ふざけんな、ふざけんなよッ!! 

 俺は、俺はッ、また死にたくないんだよ!! 

 

 

 でも、でも、逃げられねぇよ……。

 

 知り合いの冒険者どもは、連合軍に組み込まれて前線に行くと言っていた。

 町の男衆も、妻や恋人と再会を誓って訓練を受けに行った。

 一年前は温存してやがった王宮の戦力も、今度ばかりは出し惜しみなしで総力戦をする構えだ。

 

 誰もが、本気だ。

 魔王の軍勢の軍靴が、目の前に迫ってきている。

 戦うか、死に絶えるか。二択に一つ。

 

 俺はもっと、楽に生きたいだけだったのに……。

 

 女神様、あんたはそんなに俺が嫌いなのかよ……。

 

「大丈夫ですよ、マスター。あなたは私が守ります」

 

 ……くそッ、くそッ。

 アンジェ、お前は俺を恥知らずにしてはくれないのかよ……。

 

 

 

 §§§

 

 

 メドラウドのオッサンが各国の精鋭は、癖が強い面々ばかりだった。

 

 女好きが祟って騎士団長の座を追われた、ランスロ―。

 酒好きギャンブル好きで秘匿せざるを得なかった聖女、マリリン。

 俺とポンコツ天使、そしてメドラウドのオッサン。

 主要メンバーはこんな感じで、他にも濃い面子ばかりだ。

 

 こんなの、精鋭とは名ばかりの寄せ集めだ。

 聖剣を持った勇者も居ない。だが、こいつらは強かった。

 

 連合軍と魔王軍との戦いの側面を突くように、俺たちは遊撃を繰り返す。

 

 俺たちの部隊の目的は、四天王の撃破。

 当面の目標は帝国の皇帝ジークリンデだ。

 奴を排除すれば、魔王軍は一時的にマヒすると目されている。

 

 この女は常に前線近くの陣地で指揮を執っている。

 俺たちは連合軍の陽動を頼りに、魔王軍の陣地に強襲を仕掛けた。

 千人以上の陣地に十人足らずで挑むと言う、イカレタ作戦だ。

 

 しかし、そこに悪の皇帝はいなかった。

 

「いよぉ、待ってたぜ。おめぇら」

 

 そこに居たのは、常に前線で暴れまわっている、“赤鬼”。

 四天王随一の打撃力を誇る“赤鬼”エンズ。

 彼が居るところが、常に最前線だ。

 つまり、俺たちの行動は読まれていた。

 

「ちぃっとばかし、有名になり過ぎたな。おめぇら」

 

 赤い鬼が、笑いながら追ってくる。

 俺たちは撤退を余儀なくされた。

 

 激しい追撃をかわし、少数の利点を生かして逃げのびた。

 そう思っていた。

 

「お前らはぶっ殺せ、そう陛下に言われてんだ」

 

 疲弊したこちらに、赤鬼が単身で強襲してきたのだ。

 絶体絶命、されど奴を撃破するチャンスでもあった。

 

「隊長、奴はここで倒しましょう!!」

「いや、お前たちは撤退しろ」

 

 隊長……メドラウドのオッサンは、覚悟を決めたかのようにそう言った。

 独り剣を抜いて、人外の前に立つ。

 

「ナーロン、アンジェ、ランスロ―、マリリン。

 ……後の事は頼んだぞ」

 

 なあ、メドラウドのオッサン。

 あんた、娘が居るんだろ。魔王に捕まったっていう、娘さん。

 お前諦めるのかよッ、娘さんに会うのはもう良いのかよ!! 

 

「提案。敵増援をサーチしました。ここは彼に任せましょう」

 

 俺はアンジェに担がれ、俺は、俺たちは退却を余儀なくされた。

 

 

 

「次の隊長はナーロン、お前が成ってくれ」

 

 戦場の後方に着くなり、ランスローの色ボケ野郎がそう言った。

 

「なんで俺なんだよ……」

「私達、誰かをまとめる柄じゃないから」

 

 このマリリンの生臭尼がッ。

 

「結論、あなた以上の適任はこの部隊にはおりません」

 

 アンジェ、お前もかよッ!! 

 俺は戦友を、俺を認めてくれた恩人の死を嘆くことも泣くことも出来なかった。

 

 そしてすぐに、魔王軍から“赤鬼”エンズの討ち死にが発表された。

 まるで一人で出来て偉い偉いと言わんばかりに、自軍の不利を喧伝する。

 

 バカにしやがって!! 

 

 だが、オッサンは最期に魔王軍に一矢報いたのだ。

 

 

 

 だから、だからよぉ、説明してくれよオッサン。

 

 何であんた、そんな不気味な黒い鎧なんて着て、俺たちの前に現れたんだ? 

 

「聖樹の神ユグドラリースよ、何故にこのような試練を我らに与えたもうたのですか?」

 

 あの生臭尼のマリリンが、そんな真っ当な聖職者みたいなこと言ってらぁ。

 俺の横で、アンジェが口を横一文字に結んでいた。

 ランスロ―の色ボケ野郎も、ぐちゃぐちゃな顔で奴を睨んでいる。

 

「覚悟しろ、お前たち。

 我こそは赤鬼に代わる新たな魔王様の四天王。

 ────“黒騎士”モルドレッド(メドラウド)なり!!」

 

 ……はは、なんだ四天王って補充されるのかよ。

 笑えない冗談だ。くそったれめ!! 

 

 

 

 




狂い哭く転生者くん虐の展開の嵐。
折角のチートを得られて、絶対服従の従者を手にして、やれやれ周りから上に祭り上げられるなんてテンプレ展開になったんだから、せっかくだし踏み台にする相応しい敵が必要だよね!!
そして、死んだと思っていた戦友にして恩人が生きていたよ、良かったね!!

次回は、なぜ彼がそうなったかを語りましょう。
では、また次回。

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