《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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女神メアリースの文明レベルの基準。

100:私達人類が想像しうる限りの完全無欠の楽園。実現不可能な最終目標。或いは究極のディストピア。

95:科学も魔法も文化も極め切った世界。私達人類の想像する空想科学が完全に実現しているレベル。

50:全ての国家の軍隊が銃器を兵士に行き渡らせている。おおよそ我々の現代日本みたい感じの生活レベル。

35:本作の世界の文明レベル。ナーロッパ。

0:洞窟暮らしの人類。石器時代にも入っていない動物同然。

他の動物と比べて人間の優位性は飛び道具であり、その象徴である銃器の存在が一つの明確な基準として存在している感じです。



黒騎士「将来の展望は・・・」

 

 

「我が配下、四天王“黒騎士”モルドレッドよ。

 お前にこの鎧を貸し与えよう」

 

 玉座の間に呼び出されたメドラウドに、魔王は用件を伝えた。

 彼の目の前に、不気味なデザインの鎧が用意されていた。

 

「こちらは筋力サポーター機能が搭載されており、装着するだけで常人の数倍の身体能力を発揮することが可能です。

 あなたの実力を考慮すれば、並みの勇者には引けを取らないかと」

 

 ホームホームがその鎧を彼に着させながら、その機能を説明する。

 

「それを付けていれば、お前の全盛期にも劣るまい」

「こちらの兜には多機能バイザーが搭載されておりまして、望遠鏡機能や赤外線、成分分析にカメラ及び動画撮影も可能でありその他機能も充実、今なら鎧とセットで──」

「通販か。それくらいにしておけ」

「はい」

 

 魔王に窘められ、ホームホームは頭を下げた。

 

「このような装備を貸し与えて下さり、感謝の言葉もありません」

「構わない、格安のレンタル料だったからな」

「デザインが不評で在庫も沢山あります。

 在庫処分も兼ねていくら使い潰しても構いません」

「……」

 

 メドラウドはそれ言う必要があったのだろうか、と思わずにはいられなかった。

 微妙な気分になった彼だったが、そんな彼に魔王は勅命を与えた。

 

「いきなり、この世界の人間と戦うのも気が引けよう。

 まずは帝都の治安維持を命ずる。お前の娘も、お前が近くに居るのなら安心もできよう」

「有難く存じます」

 

 メドラウドはもう一度頭を下げた。

 

「……魔王様、一つ訊ねてもよろしいでしょうか」

「なんでも言うがいい」

「魔王様は何故に、神の尖兵として働いておられるのですか」

 

 メドラウドが帝国に連れて来られて数日。

 彼の待遇は元は敵国の人間相手とは信じられないほど良かった。

 

 そして世界を滅ぼす邪悪たる魔王は、彼と彼の娘に気を遣っている。

 彼の中で、そのその人物像がちぐはぐに見えたのだ。

 

「──仕事だからだ」

 

 魔王の答えは単純だった。

 肘を突いて、頬に手を当て、退屈そうに見えるような態度だった。

 

「世界を滅ぼす。その業務の為に、我は我が神たる母に産み出された。

 お前たちがそのようにあれ、とメアリース様に創造されたのと同じである」

「……ですが、よろしいのでしょうか。

 私は神に、疑問を持ってしまった。そんな人間を、魔王様は懐に迎え入れて本当によろしいのですか?」

「不満ならば、裏切ればよい。我が母は、その悪逆を赦す」

 

 兜の中で、ぽかんとしているだろうメドラウドに、魔王は淡々と告げた。

 

「無論、お前の娘を盾にすることなどせんよ。

 お前はお前で、お前の娘はお前の娘だ。むしろ、その方が面白いかもしれぬな。

 気が向いたらやってみせよ。この演目も、退屈がまぎれると言うモノだ」

 

 そこには余裕や慢心以前に、超越者の神にも近い俯瞰した視点があった。

 事実、魔王は神の化身。その代行。一般な人間からすれば、肉を持った神に近い存在なのだ。

 

「……何を呆けている。お前にはその自由が与えられているはずだ。

 人間にはその意思ひとつで、いかなる選択肢も可能とする。

 尤も、自由には責任が伴うことを前提にしているがな」

「自由すらも、神が与えたモノである、と」

「当然だ。自由を求めるから“人間”なのだよ」

 

 メドラウドはその言葉に口を噤んだ。

 自由、という言葉はいつだって血によって彩られてきた。

 神はそれを保証し、与えた。信じられないことだ。

 

「私には、ユグドラリース様……メアリース様がよく分からない」

「ふむ、ホームホーム、席を外せ」

「はい、わかりました」

 

 彼女は魔王の命じるままに、退出した。

 それを確認すると、魔王は指を鳴らした。空間を遮断し、内部は隔絶された。

 そして水差しが置かれている小さなテーブルにワインボトルとグラスを二つ置いた。

 

「飲め。この世界では味わえない美酒だ」

「……かたじけない」

 

 目上の相手に酒を勧められては、彼も断ることは出来なかった。

 彼が中身の入ったワイングラスを受け取り、呷った。

 

「芳醇だ……草原を駆ける風のように爽やかで、大地の祝福に満ちているかのようだ」

「これはメアリース様に奉納されるその世界最高の逸品だ。

 これのボトル一本でお前の娘の治療費を賄える最高級の品だぞ」

「……」

 

 それを聞いて、メドラウドは顔を顰めた。

 たかが酒一本が娘の命と等価なのか、と。

 

「私はメアリース様が苦手だ」

 

 いや、と魔王はその美酒を安酒のように味わうことなく喉に流し込んだ。

 

「正直に言おう、キライだ」

「……」

 

 その言葉は、メドラウドにとっては意外でも何でもなかった。

 

「私がこの仕事をする以前、まだ我が神たる母の慈愛を受ける以前、私はお前と同じただの人間だった」

「それは……」

 

 その魔王の独白は、メドラウドに驚愕を与えた。

 

「私が人間だった頃、我が故郷たる世界は私が生まれる前からとある奇病に悩まされていた。

 人体の一部が結晶化し、臓器を傷つけ最終的に死に至ると言う病だ」

 

 その時点で、彼には原因が想像できたが、そこで話を遮るほど空気が読めないわけではなかった。

 

「その奇病は動植物にも発生し、狂暴化や魔物化を引き起こした。

 だが同時に、その結晶は魔力の高密度の結晶体として、燃料から魔法の触媒と多種多様の用途で使用できた。

 ある時、私が所属していた国家が、結晶狩りとして、その奇病の発症者を連行して行った。

 ……私の、息子もだ」

「息子、ですか」

 

 メドラウドにとって、魔王がかつては人の親だったというのは今の彼を見て想像が難しいことだった。

 

「名目上は、奇病の隔離だ。その奇病は年々、世界中に蔓延し人を殺していった。

 だが最も高密度で高純度の結晶は、──人間から採取される。

 結晶の病に侵された魔物を狩ることを生業にしていた当時の私は、すぐにお国の思惑に気づいたよ。

 限界まで病を進行させ、人体から結晶を採取することだとな」

「治療法は、無かったのですか?」

「さて、な」

 

 魔王は肩を竦めた。

 グラスにワインをたっぷり注ぎ、作法も何もなく一気飲みした。

 

「私は、息子を取り戻しに行ったよ。

 その過程で私は、貴族を殺した、将軍を殺した、王族を殺した。

 そして私は息子を取り戻した」

 

 魔王は、虚空から結晶体を取り出した。

 それが彼の“息子”だった。

 

「最終的に、私は追っ手に殺された。

 死の暗黒に沈む私は、何者かに抱き留められた。それは我が母だった。

 我が母は言った。この世界が恨めしくないか、と。自分たちの全てを奪ったこの世界を滅ぼしたくはないか、と」

 

 その時を思い返すかのように、魔王は目を閉じた。

 

「そうして、それの世界を滅ぼすのが今の私の最初の仕事になった」

 

 魔王が、指を鳴らした。

 玉座の間の中心の空間が歪んだ。

 そこから雨のように、床に無数の結晶体が落ちて来た。

 この全てが、元は人間だったかと思うと、メドラウドは背筋がゾッとするほかなかった。

 

「後から、メアリース様に聞いた。

 我が故郷は統一国家によって運営されていた。ただそれは文化の発展の停滞を招いていたとして、メアリース様が滅びを決定したのだと。

 だからその世界の人類を試すべく、結晶化の病を人類に齎したのだ、と」

 

 その答えは予想できていただけに、メドラウドには複雑な心境だった。

 彼もまた、自分と同じだった。その事実に。

 

「だが故郷の人類は、同胞を資源としか見なかった。

 病の根絶を諦めた。一部の人間だけが裕福な暮らしをして、残りは切り捨てた。

 ……だから私は、滅ぼした。自分たちが資源になるという恐怖を与えて」

「神は、残酷なのですね」

「そうだ。メアリース様の志は素直に尊敬している。賛同もしている。

 人類すべてにその恩寵を与え、楽園を創造して何不自由ない生活を保障しようと、試行錯誤を繰り返し向上心に満ちている。我が母を含めて、他の神に向上心など普通は無い。

 だがキライだ。あの御方はヒトの痛みを理解しない。

 あの御方の楽園は完成しない。永遠に。そう言う風に、この世は出来ている」

 

 聖樹教にも、楽園の概念が存在するのをメドラウドは思い返す。

 いや、きっと大本は同じなのだ。

 

「楽園は所詮、ヒトの夢でしかないということですか」

「そうだ。メアリース様は夢見ている。完全無欠の楽園と言う、見果てぬ夢を見続けている。

 あの御方が満足する楽園など、それこそ夢なのだ」

 

 その一環として、この世界は滅ぼされる。

 他の優良と認定された世界の住人の娯楽の為に、テーマパークとして礎になる。

 

「それを、悪いと言うつもりは無い。

 所詮は我々も、あの御方の所有物に過ぎない。

 我が母も、あの御方の人間らしい無垢なる残酷さを愛している。

 だが、時折もう少しヒトの心に寄り添って頂きたい。そう考えてしまうのだ」

 

 それが掛け値なしの、魔王の本音だった。

 

「この世に、正義など無いのですね」

「結局は、正義も悪も、人間の作り出した“文化”に過ぎない。

 高度な社会を形成するアリやハチに、正義や悪の概念が有るのか? 

 故に、メアリース様こそが、正義の神なのだよ」

 

 その魔王の言葉を受けて、メドラウドはワインボトルを掴んでそのままラッパ飲みした。

 そうして空になったボトルを投げ捨てると、不思議な感覚に陥った。

 数日前まで仇敵だった魔王が、哀愁を帯びていて自分と重なっていた。

 

「魔王様は、私に何をお望みですか」

「試練を。お前は試練となり、この世界の人類に絶望と苦痛を与えるのだ。

 その果てに、我が元までたどり着く勇者が現れることを望んでいる」

「ならば私は、お望みのままに篩となりましょう」

 

 この世界はくそったれだ、メドラウドはそう思った。

 

 

 

 §§§

 

 

「我々は恐れられているので、責任者が貴方のような現地の方であるのは彼らにとっても良いことでしょう」

 

 といった風に、バンブスがメドラウドに業務を説明していた。

 とは言え、全身に不気味な鎧と兜を身に着けている彼を見て住人が委縮しないかどうかは別だろうが。

 

「バンブス殿は神官だと伺いました」

「ええ、そうですが」

「この世の造物主たるメアリース様の他に、魔王様を産み出した邪悪を司る女神が共に並び立って我らを見守っている、と聞きました。

 しかし、魔王様はメアリース様が正義の神である、と。であれば、文明を司るかの御方は同じように悪も司る者なのでは?」

「良い質問ですね」

 

 帝都の町を歩きながら、バンブスは語り出す。

 

「文明の利器とは無縁のあなたには理解しがたいでしょうが、文明は発展するほどヒトとヒトの心の距離が離れていくのです。

 メール機能、インターネット、SNS、と物理的な距離が離れていても、遠い相手と繋がってしまう。

 そうして、簡単にヒトは目に見えない相手を傷つけてしまえるようになるのです。

 極端な例を言うなら、人を殺すのに剣より銃の方が精神的にも技術的にも敷居が低いのと同じですよ。

 他者を害するには、距離が遠ければ遠いほど容易くなるのです」

「……おおよそ、言いたいことは分かります」

「つまり、文明の発展は人類の精神的成長に繋がらない、と言うことです」

 

 バンブスは眼鏡の縁に手を当て、教師のように解説をする。

 

「我らが主上、邪悪の女神リェーサセッタ様はその悪を以って秩序を成す者。

 膠着した体制を悪逆にて打破することを赦し、悪に手を染めるしかない者に赦しを与える者。

 そして悪によって傷つけられた者を癒し、悪を必ず罰して下さる。

 あなたの心にも、ふとした瞬間に悪意が芽生えたことが有りませんか? 

 それを人間として当たり前のものとして、我が主上は肯定してくださるのです」

「それは、需要はあるのでしょうな」

「ええ、しかしヒトは悪だけでは物事は成り立ちません。

 パンを盗む路上生活者に住処と食べ物と教育を。

 正しく生きる者に正しい生活環境を。

 法も秩序も整え、真っ当に生きる者が寿命を迎えられるようにする。

 それらを与えるのが、至高なるメアリース様なのです」

 

 なるほど、とメドラウドはその解説に合点がいったように頷いた。

 

「メドラウドさん。あなたには資質がある。

 もしよろしければ、この仕事が終わったら神官になりませんか?」

「神官? 私が?」

「ええ、御二柱の神官は推薦でしか成れない、厳しい審査がある職業です。

 人格が保証され実績が無ければ、決して成れないのです。

 その点、あなたにはそのどちらも期待できる」

 

 バンブスの提案に、彼は目を見開く。

 まさかそんなことを言われるなどと露にも思わなかったのだ。

 

「ですが、私に信仰心は」

「御二柱に信仰心を持つかどうか、それすらもあなたの自由です。そこは考慮されません」

 

 元々聖樹教の信徒であった彼の中にあった信仰心は、この厳しい現実に直面し粉々に砕け散っていた。

 だがこの悪魔族の男は、彼にこそ神官の素質があると見ていた。

 

「信仰とは、宗教とは、所詮は人間の道具(ツール)

 衛生的に食べてはいけない物を食べさせない為に、規則正しい生活をさせる為に、要するに都合のいい便利な道具なのです」

「……それは、あまりにも」

 

 宗教国家の信徒として、これまでずっと敬虔に生きて来た彼には、その物言いは衝撃的であった。

 

「とはいえ、御二柱は人間だった頃に、宗教に痛い目に遭わせられたそうです。

 故に御二柱は我々に戒律を与えなかった。自分たちの言葉の曲解を許さなかった。神官の政治の介入を許さなかった。

 便利な道具は、時に使い方を誤ると自らに刃を向けるのです」

「それはそうですね」

 

 どうせなら祖国にもそれを適用してほしかった、とメドラウドは胸中で思った。

 

「神とは、システムである。メアリース様の御言葉です。

 太陽と同じように、神は物言わず心を持たないことが理想なのです。

 しかしそれでは、柔軟性に欠ける。人殺しは理由を問わずに地獄に墜とす、それは法ではなく悪法です。

 そして神の手が届かないところに手を差し伸べるのも、我々の役目でもあります。

 あなたも、その手伝いをしませんか?」

「……考えておきます」

「あと、給料は良いですよ」

「前向きに検討しておきます」

 

 神官か、とメドラウドは口の中で呟く。

 彼の祖国の神官どもは、いけ好かない連中ばかりだった。

 第二の人生はまた別の方法で、人に手を差し伸べるのもアリかと思うのだった。

 

「あれが、娘さんの通っている学校です。

 そろそろ放課後で、部活動をしている時間でしょうか」

 

 元はスラムがあったとは思えないほど整備されたその区画で、彼の娘は学校の敷地で魔法有りのテニスみたいな競技をしていた。

 

 リースはコートを縦横無尽に駆け巡り、躍動感のある動きでボールを撃ち返している。

 元々持病で部屋にこもりがちだったと、その姿を見て誰が信じるだろうか。

 

「あなたの娘さんですね。

 きっといい選手になる」

 

 バンブスはその姿を見て微笑んでいたが、メドラウドは兜の中で涙を流していた。

 コートで楽しそうにボールを追っている娘を見ていると、彼はその笑顔を守るために何でもできる気がした。

 

「信仰はともかく、恩を返さねばなるまい」

「治安維持任務の次のイベントは、聖樹教国の王都襲撃を計画しています。

 責任者は勿論、現地をよく知るあなたです」

「かたじけない。バンブス殿」

 

 仕事ですから、とバンブスはメドラウドに肩を竦めて見せた。

 

 

 

 




アンケートの結果、三十話ぐらいまで続いてもいいということなので、ちょっと安心しました。
昔、三話予定のお話が六話になった時が有るので。

とは言え、最終話までそこまで長くないのです。
あと十話は掛からないでしょう。

そこで、私は考えました。各々のキャラの後日談を書けば良いんだ、と!!
そういうわけで、次回は勇者候補の彼の珍道中を予定しています。

それではまた、次回!!

完結まで、何話ぐらいが最適でしょうか? あくまで参考までに。

  • 予定通り、20話くらい
  • もっとキャラ掘り下げて25話ほど
  • いっそ、30話ぐらいまで書いていいのよ?
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