《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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転生者「この世の全てに反逆だ!」

 

 

 

 四天王討伐作戦が失敗し、俺たちはメドラウドさんを失った。

 

 その結果、俺は遊撃隊のリーダーを押し付けられてしまった。

 まったく冗談じゃない。

 俺は責任って言葉が大嫌いなんだ。

 誰かの上に立つなんて真っ平だ。

 

 ムカつくからアンジェの奴を副リーダーに任命してやった。

 すると、全会一致で賛成された。こいつの冷静さは頼りになるんだとよ。

 

「おいアンジェ、これから取得するスキルで便利な奴を教えろよ」

 

 俺がステータス画面でスキルの取得を考えていると、相変わらず仏頂面のアンジェはこう言った。

 

「マスター。あなたは部隊のリーダーですので、状況を把握しやすくするために千里眼系のスキルはどうでしょうか」

「ああ、これか。動体視力も良くなるのか。

 どんな状況でも腐りずらいってのは強いな」

 

 使えそうなので、俺はこの系統のスキルを取得する。

 より上位のスキルなれば、集中することで体感時間がゆっくりと流れるようになるらしい。

 状況判断の猶予が増えるのはありがたいスキルだ。

 

「提案。マスターの戦闘力は魔法に依存しています。

 サブウエポンの取得を推奨します」

「……それは魔法が使えない状況に陥った時に何もできないって言いたいのか?」

「マスターの性格上、魔力切れは高い確率で状態異常:焦燥及び錯乱に陥ると判断。

 それ以前に、体内魔力の欠乏は思考能力・判断力を奪います」

 

 アンジェの言い分は尤もだった。

 人間の内在する魔力が底を尽きると、吐き気がして頭が働くなり体が動かなくなる。これは十分な睡眠を取らないと回復できない。

 

「じゃあお前の銃とかくれよ。

 いざと言う時はそれで戦うから」

「解説。私の装備はこの世界の文明レベルにおいて、全てがレギュレーション違反となっています。

 現在使用している銃器は、私の自己防衛の観点からの最低ラインとなっています。

 結論。私の銃器の貸し出しは不可能です」

「ああそうかよ!! お前の規則は他人の命よりも大事だもんな!!」

 

 アンジェは何も言わない。言い返さない。

 マネキンみたいに、気持ち悪いんだよッ、そういうの!! 

 

「質問。何か使用できる武器は無いのですか?」

「俺が剣を振り回せると思うのかよ」

「出来ないのですか?」

「……前世じゃ、小学生の頃に剣道を半年くらいやってたかな。

 先生に何だか知らないうちに試合に出させられて、大負けして笑い者にされたから辞めてやった」

「……そうですか」

「ああ、そう言えば中学の頃は弓道部だったっけな。

 アニメの主人公がやってたから入部したけどやっぱり長続きしなかった」

 

 この話は、俺にとって情けないエピソードだった。

 俺は何をやっても昔から長続きしなかった。

 気づけば、俺はアンジェにそんなことを話していた。

 

 才能が無いのが、耐えられなかった。

 周りから馬鹿にされるのが許せなかった。

 でも努力はしなかった。それが俺だった。

 

 魔法だけだった。魔法なら、俺は特別になれた。

 そうして俺は周囲に称えられ、認められ、賞賛されている。

 実際にこうして、前世の俺が欲しかったものを得たところで、達成感も優越感も無かった。

 

 この世界は何もかも、俺の思い通りにならないのだから。

 

「提案。弓の扱いが出来るなら、もう一度やってみてはいかがでしょうか」

「は? 嫌だよ、そんなの。それに言ったろ、別に得意なわけじゃない」

「情報開示。我が主上、我が造物主は弓に関する逸話を有しています。

 かの御方に創造された私は、弓術のデータもインプットされています。

 それをあなたに教授することも可能です」

「だから、誰がやるっつったよ!!」

「……わかりました」

 

 俺が怒鳴ると、アンジェはすぐに引き下がった。

 これで、この話は終わりだと、そう思っていたんだが。

 

「おいナーロン、お前昔弓を引いてたんだって?」

「は、なんでそれを」

 

 部隊の野営地で、急にランスローの色ボケ野郎が馴れ馴れしくそんなことを言ってきたのだ。

 

「アンジェが言ってたぜ、ちょっくら腕前を見せてくれよ」

「い、嫌だよッ、そもそも今は弓なんて持ってない!!」

「じゃあ俺のを貸してやるよ」

「お前何で持ってるんだよ!?」

「前に言っただろ、これでも騎士の名家出身だって。

 剣術、槍術、弓術、馬術に徒手空拳、算術や礼儀作法に詩の読み上げまでいろいろ仕込まれるんだよ」

 

 こんな色ボケ野郎にそんなに教養があるとは思わなかった。

 まあ、上司の嫁と寝なかったら若くして騎士団長をしてたままだっただろうから、こいつも元々エリートなんだろう。

 

「お、隊長って弓が出来るのか?」

「じゃあその辺の食える魔物でも狩ってきてくれよ」

「暇だから的当てでもしてみせてよ」

 

 すると部隊の面々が、勝手な事を言い出した。

 こいつらッ!! 

 

 俺は結局ランスローに弓を持たされ、適当な的を用意されて衆目に晒される羽目になった。

 渋々、俺は借りた弓で矢を引いて、的に向けて矢を撃った。

 

 結果を知りたいか? 

 勿論外れたに決まってんだろ!! 

 

 日本の技術で作られた優れた弓と、こっちの弓は段違いどころかそもそも設計が違うんだよ!! 

 日本の弓だったとしても、そもそも的に当たったかどうか分からないような腕だったんだぞ、俺は!! 

 

 普通、テンプレだとこういった的当ては学院の入学前にやるもんだろ!! 

 そうして周囲に実力を知らしめるもんなのに、部隊の連中と来たら大笑いしてやがる!! 

 

「……まず持ち方からダメだな。矢を射る前から外れるのは分かっていた。

 俺の学んだ弓術とは根本から異なる手付きだが、熟達していないのはすぐにわかる」

 

 ランスローのくせに冷静に分析しやがる。

 そのせいで、惨めな気分になっていた。

 

「俺で良ければ本格的に教えてやろうか?」

「余計なお世話だッ」

 

 俺がそう言い放ってその場を離れると、ランスローは肩を竦めた。

 

「疑問。……悔しくは無いのですか?」

「うるせぇッ、お前は俺に恥を搔かせて楽しいのかよ!!」

 

 野営地から少し離れたところで、どこからともなく現れたアンジェが現れたので、俺は怒鳴り返した。

 

「まさか。私はあなたに絶対服従の従者ですよ」

「だったら二度とこんなふざけた真似をすんじゃねぇよ!!」

「憮然。あなたは自らの努力で、魔法の高みへと至った。

 なぜ、それを弓で出来ないのですか?」

「お前に、俺の何がわかるって言うんだ!! 

 産まれた時から品質が保証されてるマネキン女が、努力を語るとは笑わせてくれるじゃねぇかッ!! 

 じゃあお前は努力して、挫折したことがあるのかよ!!」

 

 アンジェは何も言わない。何も言い返さない。

 ただじっと、俺を見ている。

 その態度が、いちいち癪に障る。

 

「何とか言えよ!!」

「回答。私は絶対服従の従者なので、不満を口にはしません。

 マスターバンザーイ。愛してマース。抱いてー。奴隷にしてー」

 

 こいつはホントにッ!? 

 

「理解不能。あなたは既に実績を挙げている。

 なぜ自信を持たないのですか。やる前から諦めるのですか。

 なぜ、達成する喜びを知っているあなたが……」

 

 その時初めて、俺はアンジェが恨めしそうに俺を見ていることに気づいた。

 馬鹿馬鹿しいと思った。無いことを羨ましがっているなんて。

 完璧な存在が、不完全さを羨むなんて、阿保らしい。

 

「なら……お前が本当に俺に教えられるって言うなら、やってみせろよ」

 

 俺は女神様に魔法を教わった。絶対に上達すると保証されて。

 

「お前に教わったら絶対に上達するんだよな!! 

 まったく上達しなかったら、不良品だって女神様に突き返してやるからな!!」

「ええ、それは勿論」

 

 アンジェは少し微笑んで頷いた。

 その日から、アンジェの指導が始まった。

 

 しばらくして、俺は魔法を併用した魔力の消耗の少ない弓術を独自に編み出した。

 技術を流用して不足を補う戦場の技だな、とランスローの奴は妙に感心していた。

 

 

 

 §§§

 

 

「なあ、聖剣があるくらいなんだから、伝説の武器とか無いのか?」

 

 あくる日、作戦会議の最中に俺は皆に尋ねてみた。

 魔王を倒すんだから、強力な魔法の武器とか必要だと思ったのだ。

 

「俺の実家に聖剣があるが、勘当されてるからダメだな」

「私も知らないわね、精霊様にでも聞いてみれば?」

 

 ランスローと会議中なのに酒瓶を持ち込んでるマリリンが答えた。

 

「教会秘蔵のマジックアイテムとか無いのかよ」

「聖剣こそがこの世界の至上の武具よ。

 同系統の聖杖ってのもあるけど、酒浸りにはやれんって言われちゃった☆」

 

 そうかい、と俺はマリリンから酒瓶を搔っ攫ってそう言った。

 返してー、と駄々こねるアル中女を尻目に、俺は他のメンバーに意見を求めた。

 

「今の我々には、決定打が足りんのは事実だ。

 いっそのこと、精霊様に聖剣の一つでもせびりに行ってはどうだ」

「そうだな、万が一にも下賜して下さるかもしれん」

「ダメで元々、やってみたらいんじゃね?」

 

 こいつらもこいつらでいい加減なことばかり言いやがる。

 相変わらず品の無い奴らだ。

 

「提言。私も、聖樹の精霊に会うのは賛成です。

 予備の聖剣ぐらいは保有している筈です」

 

 アンジェまでも、そんな物乞い精神だった。

 結局多数決で、俺たちは聖樹教国へと向かうことになった。

 

 

「で、どうやって聖樹の精霊に会うんだ?」

 

 聖樹教国の王都の宿で、俺は頼れる仲間たちに尋ねた。

 

「え、知らね」

「気が向いた時に現れるって聞いたぞ」

「大声で呼べばいいんじゃね?」

 

 この役立たずどもめ!! 

 

「静粛に。大丈夫です、呼びかければ応じて下さるはずです」

「ホントかよ」

 

 俺は疑わしいものを見る目でアンジェを見たが、そう言えばこいつ女神様の使徒の天使だったわ。

 そりゃあ会おうと思えば会えるわな。

 

 そうして、俺たちは世界樹の根元から、アンジェが見つけた隠し通路を通って世界樹内部へと入ることが出来た。

 

「世界樹の中に入るとか、罰当たりだって怒られないかしら」

「お前の場合は酒を止めろ」

 

 若干不安そうにしているマリリンにツッコミを入れつつ、俺たちは先へ進んでいく。

 

 そして俺たちは、世界樹の中心部へと辿り着いた。

 

「なんだ、これは……」

 

 ランスローやみんなが、そう呟くのも無理はない。

 世界樹の内部は、精霊の住処と聞いて想像してたのとは全く違っていた。

 

 そこは、未知の金属の光沢で壁や天井、床が鏡のように俺たちの姿を映しだす場所だった。

 そんな部屋の大部分を占めるのは、真っ暗な無数のモニターの集合体だった。

 まるでSFのコンピュータールームみたいな、近未来的な空間だった。

 

「ようこそ皆さん。世界樹の中枢へ」

 

 唖然としている俺たちの前に姿を現した精霊の姿を見て、俺は息を呑んだ。

 そっくりだった。女神様に。顔も、姿形も、声も。

 

「生憎と、なにかおもてなしできるモノはございませんが」

 

 ただ明確に違うのは、その顔の無表情と、無機質なまでに淡々とした声音だった。

 

「ですので、お引き取りください。

 ここはこの世界の住人が立ち入って良い場所ではありません」

 

 そして、この塩対応だった。

 

「ちょっと待ってくれ。

 俺たちはあんたに話が有って来たんだ」

「お引き取りください。

 ここはこの世界の管理システムがある場所。

 許可なく踏み入って良い場所ではありません」

 

 精霊が、片手を挙げた。

 ズシンズシン、と奥の扉が開いて、三メートルもの巨体を持つゴーレムが現れた。

 しかも、金属製。材質は、鉄では出ない青白い光沢。

 

「ミスリル合金製ゴーレム。

 話はこれを倒してから、と言うことでしょう」

 

 アンジェが、銃を構えて言った。

 ミスリルって冗談だろ、鉄より数倍丈夫で軽い奴じゃねえか!! 

 

「おい野郎ども、聞いたか!! 

 あれはミスリル製だとよ!! ぶっ壊して剥ぎ取れ!!」

「ヒャッハー!! 金塊が歩いて来たようなもんだぜ!!」

「今日の酒代にしてやるわ!!」

 

 俺の号令に、皆の士気も最高潮だ。

 こうなった時のこいつらは強い。

 

 目に物を見せてくれるわ!! 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、どんなもんじゃい!!」

 

 ありったけの攻撃を加えて、ミスリルゴーレムが膝を突いて機能停止する。

 それを見届けた俺たちは、疲労困憊でその場に崩れ落ちた。

 いくら何でも頑丈すぎだろ……。

 

「驚きました。

 この世界の文明レベルでは、聖剣を以ってしても破壊困難なはずですが」

 

 驚いた、と言っている割には表情が微動だにしていない。

 とにかく、番人は倒した。

 

「精霊様、無礼をお許しください。

 ですが、我々にもお話があるのです!!」

 

 必死に訴えるマリリンを、精霊はジッと彼女を見つめた。

 そして、一度だけアンジェに視線を寄越すと。

 

「良いでしょう。そこまで言うのなら、話くらいは聞きましょう」

 

 ようやく、彼女が折れてくれた。

 

「あんたが、精霊なんだな。

 俺はあんたと同じ顔を見たことが有る。何者なんだ、あんたは」

「そうですか」

 

 精霊は、俺の問いかけに小さく頷いた。

 

「私は、この世界の造物主、女神ユグドラリースの端末。

 この世界の管理担当として、この世界樹の中枢ユニットに配属された存在です」

 

 その言葉の意味の全てを、俺たちは半分も理解できなかっただろう。

 ただ、彼女は神によって遣わされた存在。それぐらいの認識でも十分なのだろう。

 

「私の業務は、必要に応じて世界樹の力を制御すること。

 尤も、ここ数百年でこの世界樹は老朽化し、先の魔王の一撃で世界樹の機能の九割五分がシステムダウン。

 私に残された仕事は、この世界の最期を見届けることでしょう」

 

 精霊は、無表情ながらも物憂げに何も映さぬモニターの集合体を見上げた。

 

「その件について、私達は此処に来ました。

 私達は、魔王を倒すために行動しています。

 ここに聖剣やそれに類するものはございませんでしょうか?」

「それを聞いて、どうするのです。

 ここには魔王と戦える武器などありませんよ」

 

 よく言う、と俺はミスリルゴーレムを見やってそう思った。

 それでもマリリンは食い下がる。

 

「本当に、無いのですか? 

 魔王を退ける、聖なる道具などは」

「魔王を退けたところで、何になると言うのです」

 

 精霊はどこか疲れたようにそう言った。

 

「どのみち、私が愛したこの世界は無くなってしまう。

 私は、あなた達が苦しむ姿を見るのが忍びない」

「仰っている意味が、分かりません。

 魔王を倒せば、この世界に豊穣が満ちるのでないのですか?」

「ええ、その通りです。

 ですがそれは、数千年後のこと。世界樹の再生にはそれだけの時間が必要でしょう」

 

 その言葉に、俺たちは愕然とするほかなかった。

 

「そんなの、詐欺じゃねぇか!!」

「あなたは疑問に思わなかったのですか?」

「何が言いたい!!」

「あなたは、我が主上と御会いしたのでしょう? 

 そこの戦闘用兵器と言うモノがありながら、なぜそれに魔王を排除しろと命じないと思いますか?」

 

 じわり、と背筋に嫌な汗が流れた。

 これ以上、こいつにしゃべらせてはいけない、と。

 

「この世界を滅ぼす、と決定し、魔王を招いたのは他ならぬ我が主上、あなた達の造物主たる女神ユグドラリース様に他ならないからですよ」

 

 がくッ、とマリリンが膝を突いた。

 彼女だけではない、俺たちのほとんどがそんな様子だった。

 

「ふ、ふざけんなよ、そんなのデタラメだ!!」

「ではそう思えばよろしい。それを慰めに、残りの時間を生きればいい。

 いずれにせよ、我が主上はあなた達人類をリセットし、新たに創生を成すでしょう」

 

 精霊に、嘘を吐く理由は無い。

 俺たちは通夜のように静まり返っていた。

 

「……あなたは、それで良いのですか?」

 

 ただひとり、アンジェを除いて。

 

「あなたはこの世界を愛していると言いました。

 疑問。あなたはこの世界が滅びるのを黙って指をくわえて見ているつもりですか?」

「あなたは、自分が何を言っているのか、理解しているのですか?」

 

 アンジェと、精霊の視線が交差する。

 

「私は、ただマスターの意思に従うのみ」

 

 そして、彼女の視線が俺に向いた。

 

「ッ!! もったいぶってんじゃねぇよ、どうにか方法があるなら教えろ!!」

「それは、叛逆だとしても? 

 我らの主上に、自分たちの造物主に怒りを買うとしても?」

「上等だ、オラぁ!! こちとらあの女神には一度泡吹かしてやるって思ってたんだよ!!」

 

 我ながら、何を言ってるんだろうか。

 アンジェの奴に乗せられて、とんでもないことを言っている気がしていた。

 

 

「…………良いでしょう。

 比較的に現実的な手段で、この世界を守る方法を教えます」

 

 精霊は目を閉じ、やがて意を決したのかこう言った。

 

「あまり知られてはいませんが、我が主上には妹君が存在します」

「……妹?」

「はい。我が主上は人間だった頃、魔導を学び、同じ師に教えを乞うた妹弟子が居られるのです。

 血が繋がっていないにもかかわらず、我が主上は実の妹のように彼女を愛したと言います」

 

 ですが、と精霊は続けた。

 

「お二方は、道が分かれ、最終的に殺し合います。

 ────そして勝ったのは、妹君でした。

 偉業を成して神の座に就いた我が主上を打ち破った妹君のその所業もまた偉業。

 彼女もまた死後、神の座に就いたと言います。

 彼女の助力を得られれば、“姉に勝った”という一点のみで優位に立つことも可能でしょう」

 

 それが、精霊の示した最終手段だった。

 絶対なる女神の、唯一の疵を抉ると言う方法。

 

「彼女の助力を得て、その上で魔王を斃すのです。

 そうすれば、我が主上も決定を覆すかもしれません。

 そしてこの世界を、この世界のまま存続を願うのです。きっと我が主上は妥協を選ぶでしょう」

 

 俺たちのすべきことは、こうして示された。

 

「それが、唯一の希望なのですね……」

「ところで、その女神はいったい何の女神なんだ?」

 

 マリリンに肩を貸して立ち上がったランスローが、そんなことを尋ねた。

 たしかに、神様なら何かしらを司る存在なのだろう。

 

「弓の神だそうです」

 

 それを聞いた時、俺は思わずアンジェを見た。

 こいつ、初めからそのつもりだったな、と俺は確信していた。

 

「……覚悟はしておいてください。

 かの妹君に頼ると言うことは、我らが主上に与えられた自由の範囲を逸脱していると言うことを。

 私もどのような怒りを買うか、わかりません」

「上等だ」

 

 精霊は俺をジッと見た。

 だが、何も言わなかった。

 

 しかしその時、けたたましい警報音と共に真っ赤なランプが室内を照らした。

 

「何事だ!?」

「どうやら、地上が魔王軍に襲撃を受けているようです」

 

 驚くランスロー達を尻目に、精霊は淡々と近くのモニターの電源を入れた。

 モニターの映像には、化け物どもが町を蹂躙して王城へと向かっていく姿が見えた。

 

「こうしちゃいられんぞ、皆!! 

 ただちに現場に急行する!!」

「私は、妹君の元へ行く準備をしておきます。どのみち装置の復旧に少々時間が掛かるので」

 

 任せた、と俺は精霊に言って、来た道を皆と共に駆け上る。

 

「……私は、あなたが羨ましいです」

 

 最後までその場に留まっていたアンジェに、精霊は淡々とそんな言葉を掛けていた。

 

 

 

 町で好き勝手してる魔王軍を蹴散らし、俺たちは王城へと急行した。

 

「遅かったな、お前たち」

 

 その玉座の間で、王に剣を突きつける不気味な鎧と兜の男がいた。

 その声を聴いただけで、俺たちは彼が誰なのか悟った。

 

 嘘だと、思いたかった。

 なんで、なんでオッサンが魔王軍にッ!! 

 

 だがもう、全ては遅かった。

 オッサンは魔王軍の四天王として名乗りを上げて、俺たちと相対することになったのだ。

 

 

 

 




最後に言及された弓の神である妹君は、アンズちゃんのことではないですので一応。

只今ジェットコースターの上昇から、次回落下へと参ります。
つまりは、もっと彼は苦しんでもらいます。

それでは、また次回!!
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