《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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勇者「これはひどい」

 

 

 

「前線が崩壊し、各部隊との連絡が途絶えただと?」

 

 各国連合軍と戦う魔王軍の前線基地、そこの最高指揮官として座するジークはその報告に眉を顰めた。

 

「前線には十分な戦力を配備したはずだが? 

 最後の通信はどうなっている?」

「それが、要領が得ないようで」

 

 彼女の補佐をしているバンブスさんが首を横に振った。

 

「私が見てきましょうか?」

「いいや、撤退してきた兵士に事情を聞けばいい。

 我が国の兵士は比較的後方に居たはずだ、彼らに聞けば前線の情報も確認できるだろう」

 

 私の提案を、ジークは一蹴した。

 彼女は威力偵察に私を使うつもりは無いらしい。

 

 そしてしばらくしてから、伝令兵が状況を一足先に伝えて来た。

 

「不思議な音が鳴り響き、それを聞いた魔王の配下たちが混乱し始めたのです。

 我々は、彼らを置いて逃げ出すほかなく……」

「そうか、下がっていい。ごくろうだった、よく休んでいろ」

 

 ジークは伝令兵を労うが。

 

「あ、あの、私見ですが、陛下に奏上申し上げたく」

「よい。気づいたことが有れば、言ってみろ」

「我々伝令兵は、迅速に伝令を伝達する為に、時には弓矢を使います。

 だから気づいたんですけどあれは、弓の鳴弦だったように思います……。

 あんなに澄んだ、キレイな音は初めてでしたけど」

 

 伝令兵は恐縮した様子でそう言った。

 

「なんですと、弓の鳴弦ですって!?」

 

 それを聞いたバンブスさんが、目の色を変えた。

 

「追加の援軍を申請し、連中にぶつけましょう。

 次は私の方も状況を観測します。

 もしかすると、状況は私の手に負えるものではないかもしれません」

「バンブス殿、私も敵の打った手に興味がある。

 実際に何が起こるか目にしておきたい」

「ジーク、お供します」

 

 こうして、私達は最前線の近くへと行くことになった。

 

 

 

 §§§

 

 

 連合軍は、遠目にも戦勝に沸いていた。

 ここ最近で一番の勝ち星だったからか、魔王軍を追い払った彼らは酒を飲んで騒いでいた。

 

「では、彼らの肝を冷やしてやりましょう」

 

 彼らを眼下に収められる小高い丘から、私達三人は連中を見下ろしていた。

 バンブスさんが、手を振るう。

 

 すると、大型の召喚ゲートが連合軍のすぐ側に開かれる。

 その中からは、別世界から呼び出された魔王軍の志願者が大挙して押し寄せてくる。

 

 大いなる邪悪の女神リェーサセッタ様は、かつて最高位の召喚魔法の使い手だったという。

 その神官たるバンブスさんは、強大な召喚魔法を可能とするスキルの加護を得ている。

 

 やろうと思えば、いつだって奇襲できる。

 いつどこでも、無尽蔵の大軍勢を送り込める。

 初めから、現行人類に勝ち目なんて無いはずだった。

 

 大軍が激突し、恐怖と絶望、悲鳴が聞こえ始めたその時だった。

 

 トンッ、と弓の弦を鳴らす音が聞こえた。

 一矢として放たれたわけでは無いのに、自分の胸に矢が付きたてられたと錯覚するような、空気を切り裂くような澄んだ音だった。

 

 その瞬間、ずきり、と私の胸が痛んだ。

 とっくに蓋をしたはずだった、私が住んでいたあの村での思い出や、周囲の人たちを失った悲しみが溢れてくる。

 自然と、目から涙があふれて来た。まるで、それが有るべき正しい者であるかのように。

 

「スズッ、バンブス殿!?」

 

 涙を流すだけの私と違って、バンブスさんは胸を押さえて蹲っていた。

 私達の様子に驚いたジークが、私と彼を見比べ、深刻な方であるバンブスさんに駆け寄った。

 

「いったい何が起こったのですか?」

「ま、間違いありません。

 あれは破魔の鳴弦。私のような人体の構成の比率に魔力が多い存在に、この音は害になる。

 しかも、メアリース様に与えられたスキルも機能不全している。

 これはまさしく、伝説の……」

 

 バンブスさんは苦痛の堪えて立ち上がった。

 

「一刻も早く、魔王様に御報せせねば!!」

 

 そして私たちは、お父様のおわす魔王城へと戻った。

 

 

 

「なるほど。我も話だけは聞いたことが有る。

 至高なるメアリース様は、同門の妹分が居たと」

 

 お父様はいつものように退屈そうに玉座に座っていました。

 

「超一流の神業の弓使いたる妹君の腕前に、メアリース様の弓術が迫るほど優れていたという逸話だ」

「……ええまあ、そのようにふんわりと大雑把に大衆向けのお話と伝わっています。

 その弓の妹君は、その後神域に至りました。その彼女が所持していた伝説の霊弓を持つ者が現れたようでして……」

「ほう」

 

 私にはわかった。お父様の言葉尻が上がっていた。

 

「魔王様ッ、伝説が本当ならばいかな主上に愛されておられる魔王様でも御身に危険が!!」

「バンブス」

 

 その喜色の声音は付き合いの長いバンブスさんにもわかったのだろう。

 お父様を諫める言葉は、しかし遮られた。

 

 

「お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

 その言葉に、バンブスさんの背筋が思わずと言った様子で伸びた。

 

「お前は、勝てると分かっている戦いにだけ我にさせると言うのか。

 少しでも敗北の可能性が出てきたら、怖気づいて尻尾を巻けというのか」

 

 お父様は、とても嬉しそうだった。

 バンブスさんの失言をつついておちょくるくらいには。

 

「我、魔王なり。全ての四天王が、全ての部下が破れようとも、不動に玉座で勇者を待つ者である。

 それがわからないのであれば、お前は我が母たる神に仕える資格は無い」

「……大変失礼しました」

「よい。我も言いすぎた」

 

 バンブスさんはただただ頭を下げた。

 失言に対して失言して見せることで相手を立てる。この二人が長い付き合いでの信頼関係が窺える。羨ましい。

 

「素晴らしいことではないか。

 神に認められ、霊弓を授かってくるほど、この我を打倒したいという気持ちがあるということであろう。

 バンブス、これまでそこまでする人間は居たか?」

「いえ、ですがこれまで魔王様に相対した全ての勇者は、すべてその世界にあるモノで挑みました。

 いわばこれは、対戦ゲームでコンピューターウイルスを使うに等しい」

 

 バンブスさんの例えは分かりにくいが、要するに反則と言いたいのだろう。

 

「バンブスよ、お前の言う通りなら、既にその霊弓は取り上げられている筈だ。

 お前は神の前に相対し、武器を授かるのはチートだと言うのか? 

 なら我はなんだ。神にそうあれと造られ、神たる母に愛されている我はチートではないのか?」

「そういうことでは……」

「我の楽しみを奪うでない。

 我に対等な存在は、一族の者しかいなかった。

 だが、だがッ、ようやく、この我の土俵に殴りこんでくる者が現れた!!」

 

 龍人種の表情は分かりにくいが、この時お父様の笑顔は私も見たことは無かった。

 悔しい。

 

「バンブス、お前は命を賭して戦う戦士に、我だけ命の保証をされて戦えと言うのか。

 そんな舐めた真似をして、恥ずかしくは無いのか。自分は死ぬつもりは無い、と言いながら死闘とは笑わせる。

 我は我を殺せる者に、その手段を問わない。それだけ、人間たちとの差が有るのだ。

 お前も悪魔族なら楽しめ。

 我は楽しみだ。我は、我の命を奪える者に敗北するのなら、喜んでこの魔王の座を降りよう」

「お父様!!」

 

 私は、たまらず叫んだ。

 

「たとえ万が一だろうと、私は貴方が負ける姿なんて見たくありません!!」

「我が娘スズよ」

 

 魔王様は穏やかに、私に語り掛けた。

 

「ならば、お前はお前の価値を証明するがいい」

「は、はいッ!!」

 

 なんてことはない。

 私が、その霊弓の持ち主を殺せば良いだけなのだ。

 

「伝説の弓神の神器、是非とも見てみたいものだ」

 

 お父様はどっかりと玉座に座り直して、そう言った。

 この時、私はその言葉が実現するとは思っていなかった。

 

 

 そして、一週間後。

 

 

「お父様、これが弓神の神器であります」

「…………」

 

 私は、持ち主から奪った霊弓をお父様に献上した。

 

 その弓は、神々の持ち物と言うには美麗でもなければ突出して優れた代物でもなかった。

 ただただ何十年、何百年、と丁寧に使い込まれた普通の弓にしか見えなかった。

 ある意味で、弓の神という武神に相応しい機能的で実質剛健な代物かもしれない。

 

「一つ聞く、我が娘よ。

 これの持ち主はお前に相応しい勇者だったのか?」

 

 どこか憮然としたような、肩透かしを食らったような、そんなお父様だった。

 私はその問いに、曖昧に笑うことしかできなかった。

 

「陛下も興味があるようなので、私の方から報告いたします」

 

 私はあくまで付き添いで、ジークが報告を述べた。

 

 

 

 §§§

 

 

「相変わらず、魔王様の配下は役立たずか?」

「申し訳ありません」

「バンブス殿の所為じゃありませんよ」

 

 件の霊弓の存在が戦場に齎した影響は絶大だった。

 魔王軍の志願者たちは、霊弓の鳴弦が鳴り響くと役立たずになってしまうのだ。

 

 彼らの気持ちもわからなくはない。

 メアリース様の加護は彼らにとって手足のようなモノだ。

 それを無くして戦えと言うのも無理だろう。

 

「そうですよ、バンブス殿。

 あの連中は暴力を肯定して戦場に出ている。

 自分が一方的に暴虐を働ける、とね。そんな連中が泣きながらやられていく様は痛快ではありませんか」

 

 ジークはまさにそんな連中に自国民を殺されているからか、むしろ機嫌がよさそうだった。

 

「だが、このままやられていれば我が国の評価が落ちる。

 例の音の発信源は掴めたのか?」

「はい、間違いなく、敵は最前線で戦闘を行っています」

「まあそうだろうな。音の性質上、音源は近ければ近いほど良い」

 

 前線の野営地にて分析をしている魔法使いの言葉に、ジークも満足そうに頷いた。

 

「我が精鋭部隊よ!!」

 

 ジークの呼びかけに、帝国の虎の子の部隊が整列する。

 彼らは彼女の切り札的な最精鋭の近衛兵団だ。

 彼女が信頼できるものだけを集めて作った彼らは、帝国への忠誠で溢れている。

 

「神に選ばれた勇者の姿、我が精鋭たるお前たちとどちらが優れているか見せて貰おうではないか!!」

 

 精鋭たちは、ジークの言葉に剣を掲げて応じた。

 今回はジークも四天王として出撃するからか、彼らも気合が入っている。

 

 そして私たちは、敵部隊に接近し、強襲した。

 

「我こそは偉大なる魔王様の四天王にしてルートシア帝国最終皇帝ジークリンデである。

 我に挑む真の勇者は名乗り出て前に出よ。魔王様がその首をご所望だ」

 

 まず作法としてジークが名乗りを上げた。

 

「くそッ、魔王に魂を売った野郎に、名乗る名前なんてねぇよ!!」

「四天王を倒すチャンスだぞ!! 俺たちの名前を売るには絶好の機会だ!!」

「俺たちには、神から授かった弓があるんだ、負けるかよ!!」

 

 連中は無作法にもすぐに戦闘態勢へと移行した。

 

「見えざる神の矢に、魔物どもと同じように平伏しろ!!」

 

 そうして、恐らくターゲットと思しき相手が現れ、霊弓を引こうとした。

 

「……ッ、あ、あれ?」

「どうした、早く弓を引けよ!!」

「ひ、引けないんだッ、今までは引けていたのに!! どうしてッ!?」

 

 その時、私は戦闘前だと言うのに、どこからか視線を感じてその先を探してしまった。

 だが、私を見ている者など誰もいなかった。

 

「……どうやら見込み違いのようだった。

 お前たち、この無礼者どもを斬り捨てろ」

 

 冷めた視線のジークが、精鋭たちに命令を下した。

 即座に、戦場に惨劇が繰り広げられる。

 

 だが、ここは最前線。

 すぐに他の部隊が応援に駆けつけて来た。

 

「おい、例の弓だけは回収するんだ!!」

「させるな、全員殺せ!!」

 

 そうして、私達は激闘の末に霊弓を奪取した。

 

 

「と言うわけです」

「……なるほど、そう言うわけか」

 

 魔王様は、今の報告で大体のことを察したようだった。

 

「ええ、恐らく」

 

 ジークは、自分の推察を述べた。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 時間はスズたちの霊弓所持者襲撃の少し前のことだった。

 

「おいナーロン!! 

 なんでお前、あの弓を手放したんだ!!」

 

 ランスローの怒号が、彼らの野営地に轟いた。

 

「だって、仕方ないじゃないか……」

 

 当のナーロンは、身を縮こませて俯いていた。

 

「司令部の奴ら、あの弓を渡さないと俺たちの部隊を解散するって」

「だからって、渡しちまう奴があるか!! 

 あれはお前が苦労して神様から受け取った代物じゃねぇか!!」

「俺は、俺はッ!!」

 

 だが、言われている方も黙っていなかった。

 

「俺はお前たちと一緒に、魔王を倒したいんだよ!! 

 あの弓とお前たちをと比べたら、思い入れがないあっちを手放して何が悪いんだよ!!」

「お前なぁ!!」

「もうやめなさい、ランスロー」

 

 結局、言い合いになる前に二人の間にマリリンが入った。

 

「後悔はしていないのね?」

「……後悔してないと言っては、嘘になる。

 だけど、皆と一緒に行けないのなら、あの弓に価値なんて無いよ。

 俺はみんなの為なら、この命だって捨てられる」

 

 ナーロンの物言いに、これはマジだとマリリンは溜息を吐いた。

 

「それに、司令部の人たちの方が戦略的にあの弓を使えるかもしれないじゃないか」

「それは無いな。あれは絶対、手柄の為にお前からあの弓を奪ったんだ」

「なんでだ、ランスロー、なんでそう言える」

「あの司令部のトップ、俺の親父だ」

 

 ランスローの言葉に、ナーロンも口を閉じざるをえなかった。

 

「見栄が服を着てるような奴だ。

 どうせ、あれを持たせた部隊を無駄死にさせるだろうな」

「……」

 

 結局、その日はそれで通夜のような雰囲気のまま終わってしまった。

 そして時刻は現在に戻る。

 

 

「はッ、歴代の名作RPGシリーズの主人公のお約束に立ち会えるなんて光栄だね」

 

 ナーロンは独房にて悪態づいていた。

 彼の持っていた弓は偽物で、軍をだましたと濡れ衣を着せられたためだった。

 

 あれから、どういうわけだか霊弓は返って来たらしい。

 しかし、もう誰もがその弦を引くことはできなかった。

 まるで鋼鉄のように、びくともしないのだと。

 

 ここで、司令部は保身に走った。

 霊弓は偽物で、ナーロンのペテンであると言い出したのである。

 

 証言の為に招致された時、ナーロンの物言いもマズかった。

 聖樹教は、完全な一神教である。少なくとも表向きは。

 そもその教徒である軍人たちのいる場で、彼が弓の神からそれを授かったと言ってしまったのである。

 これには傍聴していたマリリンも頭を抱えた。

 

「どーせ俺は学がないですよーだ」

 

 散々に批難された彼が不貞腐れていると。

 

 ────爆音と共に彼の独房の壁が爆散した。

 

「は?」

「おいナーロン、無事か!!」

 

 彼の下に現れたのは、ランスローだった。

 その手には、光り輝く聖剣があった。

 

「ランスロー、お前それ」

「俺の実家からかっぱらってきた」

 

 とんでもないことをさらっという彼に、ナーロンは絶句した。

 

「私も居るわ。ついでに、私の仲間を貶めた教会にも愛想が尽きたから、これ貰ってきちゃった」

 

 爆散した壁の穴から、マリリンも現れた。その手に光り輝く杖があった。

 外には彼の部隊の仲間たちが居て、囚人服姿のナーロンを見て可笑しそうに笑っていた。

 

「隊長から霊弓を奪ったんだから文句ないはずだよな!!」

「お前たち、このままじゃ俺たち犯罪者だぞ!!」

「知るか!!」

 

 ランスローが、異変を察して現れた看守たちを聖剣の一撃で薙ぎ払った。

 

「お前の居ない部隊なんぞ、こっちから願い下げだ!!」

「こちとら、破門上等よ!! こっちが正しいんだから、私が破門状を叩きつけてやったわ!!」

 

 ナーロンは思った。

 こいつら、楽しそうだな、と。

 

 そう思ったら、彼も自然と笑ってしまっていた。

 

「とにかく、身を隠せるところまで走るぞ!! 

 馬を用意させている。隠れ家は手配させているから行くぞ!!」

「これでも、私達に賛同者は結構いるのよ。

 私達は犯罪者で終わるつもりは無いわ!!」

 

 ランスローとマリリンに連れられ、他の仲間たちが護衛してくれる中で彼は無事脱出を果たした。

 

 

「結局俺の手にこれだけ残ったのは、あんたの思惑通りなんかね」

 

 彼はなぜか没収されることのなかった黄金の鏃の矢を握った。

 結構トゲトゲしてる形状の為、いてッ、と涙目になった。

 

 

 

 

 

 




忘れてるかもしれませんが、この小説のジャンルはギャグです!!
もう自分でもギャグを書くことを諦めましたけどね!!

次回は、アンケートの結果通り、女神二柱の逸話、というか思い出話みたいな感じです。

それではまた!!

次回の話は何がいい?

  • 魔勇者スズと皇帝ちゃん
  • 四天王バンブスの独白
  • “文明”と“邪悪”の逸話
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