《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」   作:やーなん

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転生者「こんなの、使えるか!!」

 

 

 

 俺たちは王様と共に、連合軍の司令部に殴り込みを掛けた。

 

 何を言っているんだか分からないが、俺も分からない。

 実力行使を含めた、こちらの正当性の主張の為の交渉だった。

 

 あの、もうちょっと、穏便に行けなかったの? 

 え、話し合いをしたところで無駄? 

 そもそも悠長にしてる時間がない? 

 

 そりゃあそうかもしれないけどさ。

 人間同士なんだから、もっと話し合いとかさ……。

 

「さて、話し合いをしようか。長官殿」

 

 連合軍の司令部の守備隊をねじ伏せ、司令部の本営まで押しかけた王様の一言である。

 

「我らは、精霊様の意思によって行動している。

 これ即ち、我らが神の意思である。さあ、精霊様」

 

 そう言って、王様は精霊を司令部に招き入れた。

 彼女は見た目だけは神々しいほどに非人間的な美貌である。

 そんな彼女が入ってくるだけで、本営に詰めている軍人や聖職者は慄いた。

 

「魔王は、全人類が一丸になってようやく戦える存在。

 世俗に卑しき執着が有る身で、届きはしません」

「し、しかし、精霊様!! 世俗の事は我々に任せて下さると、古代の盟約が!!」

「任せた結果が、この有様ではありませんか」

 

 精霊の言葉に、長官はぐうの音も出ないようだった。

 

「親父、もう諦めて指揮権をこちらに寄越せ。

 魔王を倒さねば、この世界が無くなっちまうんだぞ!!」

「だ、黙れ放蕩息子がッ!! 足並みが揃わぬのは、そちらの所為ではないか!!」

 

 ここに来て、この長官逆ギレである。

 

「じゃああんたらに、魔王の四天王の一人でも倒せたのかよ!!」

「ふッ、ならば教えてやろう。

 我らは今、魔王四天王討伐作戦にかき集めた勇者たちの大半を宛がって攻略している。

 単調に見せた兵站の輸送路に偽装し、彼らを潜ませ返り討ちにすると言う作戦だ!!」

 

 どうせ無能だろう、と思っていた司令部の作戦だったが、聞いてみると意外と真っ当だった。

 帝国の奥地にあるという魔王の本拠地に行くには、広大な帝国の敷地を踏破せねばならない。

 当然、兵站の輸送路は間延びしてしまう。敵からすれば、これは攻撃のし甲斐もあるだろう。

 

 彼らの作戦は、わざと補給路に弱い所を作り、そこに聖剣の勇者たちを配置して逆襲するというものだ。

 

「だが、それだけで四天王は釣れるのか?」

「同時に道中の村々を攻撃している。

 連中の行動パターンから、必ず現れるとも」

 

 外道がッ、とランスローは悪態づいた。

 しかし、彼はその作戦自体には異を示さなかった。

 俺たちはもう、精一杯手を尽くすしかないのだ。

 

 だけど……。

 

「お前ら、恥ずかしくないのか」

「なんだと?」

「そんなやり方で勝って、お前たちは誇れるのかよ!! 

 ここにいる、精霊様に、天上に負わず女神様にッ、その勝利を誇れると聞いてるんだよ!!」

「黙れッ、兵法も知らぬ素人が!!」

 

 俺は叫ばずにはいられなかった。

 綺麗ごとで、何が悪い。

 その綺麗ごとこそを、女神様は求めてるんだろうが!! 

 

「彼の言う通りだろう。この戦いは、魔王に我らの意気地を見せつける戦い。

 我らの戦いを、神に何一つ恥じぬと示さねばならない。

 関係のない集落を襲うのは止めるのだ」

「はッ、もう遅い」

 

 王様の言葉は、しかし長官は鼻で笑った。

 

「先ほど、勇者たちが敵の四天王と接敵したと報告があった。

 もう程なくして、結果は出るであろう」

 

 自分たちの作戦は間違っていない、と自信満々に彼は言う。

 

 だが、結果的に彼らの作戦は失敗することになった。

 その責任を、彼らに追及するのは酷であろう。

 

 

 その瞬間、俺は、いやこの場に居る誰もが、その方向を見た。

 膨大な魔力が、柱のように立ち昇り、天を貫いたのだ。

 

「じょ、状況を報告しろ!!」

 

 取り乱す長官たち、しかしその回答を誰もが出来なかった。

 

「こ、これは、まさかこんなことが……」

 

 ただ一人、精霊を除いて。

 彼女は今まさに起こった異常事態に、何が起こったのか把握していた。

 

「残念ながら、爆心地の勇者たちは全滅でしょう。

 早急に、あの場所の敵に対処しなければなりません」

 

 彼女は、俺たちに向けてそう言った。

 

「ですが、覚悟してください。

 これから出会う敵は、全身全霊を掛けて相対してようやく倒せるかもしれないほどの相手です。

 ……よろしいですね?」

「もはや、その問答すら不要です。

 その問いに答える時間も、否と返す者もおりませぬ」

 

 王様の声に、俺たちは頷いた。

 

「では、あなた達をあの場所に転移させます。

 どうか、生きて帰ってきてください」

 

 精霊の転移魔法が発動する。

 俺たちは、すぐさま現場に急行することになった。

 

 そして、この時、司令部の連中は見ていた。

 

「まさかこのような僥倖がッ。

 この戦い、勝てる!!」

 

 精霊の無表情に、笑みが浮かんだのを。

 

 

 

 §§§

 

 

 しくじったッ。

 

 私の心は、焦燥感でいっぱいだった。

 補給路の襲撃は、定石であるからこそ読まれていた。

 

 敵が襲っている村の近くの補給路を見張っていれば、襲撃犯を抹殺できると思った。ジークの国民を害した連中を、生かしては置けない。

 それが、罠だった。奇襲だから、戦力も少ない。

 

 だが、それでもまさか、聖剣を携えた勇者が八人も伏兵に居るとは思わなかった。

 

「四天王ではないが、相手は魔勇者だ。殺せ!!」

「人類の裏切者を粛清するのだ!!」

「神に仇なした己の愚かさを悔いろ!!」

 

 多勢に無勢だった。

 いくら私でも、こう囲まれてはこの場で離脱も難しい。

 

「くッ、お父様ッ!!」

 

 絶体絶命だった。

 でも、私は勝たなければならない。

 私の価値を示さなければならない。証明しないといけない。

 

「ぐあ!?」

 

 まずは、一人。

 

「おのれ、舐めるな!!」

 

 ッ、こいつ!? 

 

 勇者の一人が、我が身を顧みず特攻してきた。

 攻撃は、ほぼ相打ち。

 

「今更、我が身を惜しむと思うな、我が家族の味わった苦しみ、この程度ではないのだから!!」

 

 血を吐きながら、その勇者は死に物狂いの攻撃を仕掛けてくる。

 それに対応するだけで、精一杯だった。

 

「かはッ!!」

 

 その隙を、残り全員に狙われた。

 私は、致命傷を負って倒れた。

 

 これが、こんなのが私の最期なのか。

 ああ、もっと、もっと殺さなくちゃいけないのに。

 

 お父様の元に、誰も行かせちゃいけないのに!! 

 

 

『ぷぷぷ、この程度で死んじゃうなんて、ホント人間ってザッコ♪』

 

 朦朧とする意識の中で、声が聞こえる。

 

『オマエ、兄貴のお気に入りだし、特別に手を貸してあげる♪ 

 嬉しいでしょ、ほらほら、そのよわよわボディ寄こしなよ♪』

 

 ……殺さなきゃ、全員、人間全部殺さなきゃ。

 

『私が代わりにやってやるよ♪ 

 兄貴のオモチャ、全部全部ぶっ壊してあげる♡』

 

 そして、その直後だった。

 私の中に、何か巨大なモノが押し入って来たのは。

 

 

「ぎゃはッ♡」

 

 私の体を通して、私じゃない誰かが笑う。

 

「こいつ、まだ死なないか!!」

「今度こそ、確実に息の根を止めるぞ!!」

 

「ぎゃはッ♡ ぎゃはッ♪ ぎゃはははは!! 

 誰が誰の息の根を止めるってぇ☆」

 

 とん、と私が軽く大地を足で鳴らす。たったそれだけで膨大な魔力が、天を衝く。

 その瞬間、世界は変貌する。

 

「そんな、聖剣の力が!?」

「あ、悪魔だ、奴は悪魔だッ!!」

 

 聖剣の力が、みるみる失われていく。

 超人の筈の勇者の力が、消えていく。

 

「お前たちの力の源は、めっちゃわかりやすい♪ 

 この私と、相性最悪なのね♡ あはは、干からびて、……死ね」

 

 帝国の不毛の大地が、更に枯れていく。

 水分が、養分が、魔力が、枯渇していく。

 

 砂漠だ。

 

 私を中心に、砂漠がどんどんと広がっていく。

 その上に立つ者の生命を奪い取る、地獄の砂場が。

 

「あれあれ、もう出ないの~♡

 なっさけな~い♡ 人間ってホントザコザコ♪」

 

 勇者たちは、もう既に干からびたミイラと化した。

 それでも、まだ彼らは生きていた。まだ、生かされていた。苦しみを長引かせる為だけに。

 

 その時だった、転移の魔法に近い空間の乱れが起こったのは。

 

「あはッ♡」

 

 私の体が、新しい獲物を見つけたようにそちらに顔を向けた。

 

「次に死にたいのは、お前たちかな♪」

 

 

 

 §§§

 

 

「なんなんだ、あいつは……」

 

 俺たちが目にしたのは、円状に広がる砂漠のような砂場の上に立つ、魔勇者の姿だった。

 だが、以前に見た奴とはまるで掛けなれていた。

 

 魔法を会得し、鍛えたシックスセンスが告げている。

 奴は、以前の奴ではない、と。

 

「誰だ、お前はッ!!」

 

「私? 私はね、兄貴の妹にして姉♪ 

 お前たちを滅ぼそうとしている、兄貴と同じ一族の者♪」

 

 

──その、名も。

 

────“大砂界”

序列六位、魔王ローティ

iakkas iaD ────

 

 

「この体を使って、お前たちで遊んであげるよ♪」

 

 絶望が、目の前に現れた。

 

 

 

「ねえねえ、あんたらなんでしょ♪ 

 兄貴が待ち望んでる勇者って♡」

「うぐぁ」

「よーわすぎぃ。こんなんで、兄貴に挑むってマジぃ? ウケるんだけど☆

 ぎゃはははははははは!!!」

「くそッ」

 

 ランスローが、王様が、前衛の仲間たちが成すすべなくぶっ飛ばされていく。

 聖剣の力を封じられた俺たちに、魔王の姉に対抗する手立ては無かった。

 

 さっきの司令部襲撃には、あんなに頼りになった聖剣の力が、マッチ棒の灯火みたいに頼りない。

 

「なんて、化け物!!」

 

 魔法の支援も打ち止めになったマリリンが、血を吐くようにそう吐き捨てた。

 

「お前たちが、兄貴のオモチャになれるわけないじゃん♪ 

 ……今ここで死ねよ」

 

 いや、一つだけあった。

 あいつは、あくまで、魔勇者の体を使っているに過ぎないのだ。

 

 だから。

 だからッ!! 

 

 

俺は、天秤を持つ女神に授けられた黄金の鏃の矢を手に取った。

 

 弓を矢に掛け、ゆっくりと弦を引く。

 狙いは、魔勇者。中身が魔王だとしても、人間のこいつは、必ず殺せるはずだ。

 

「どうしたんですか、撃たないんですか?」

 

 時間が止まったような感覚は、錯覚ではなかった。

 俺の耳元で囁くように、幼い魔女っ娘女神は弓を引く俺に語り掛けた。

 

「今撃たないと、人間として死ぬことすらできなくなっちゃいますよ」

「そんなこと、分かってる!! でもッ!!」

 

 俺は、俺は知ってるんだ!! 

 前世で、この世界をモデルにしたゲームであの子は主人公だった。

 

 あの子には、幾つものハッピーエンドが約束されていた。

 それだけの可能性が有ったんだ!! 

 なのにどうして、魔王の手先として人類を裏切り、挙句魔王に体を乗っ取られてやがるんだ!! 

 

 幸せになれたはずなんだ!! 

 なのにどうして、彼女はこんな目に遭わないといけない!? 

 

 撃てば絶対に当たるはずの矢の照準がブレる。

 俺は、これを撃って奴を殺すことを躊躇っている。

 

 だって、だって俺は、────まだ人を殺したことが無いんだ!! 

 

「うーん、土壇場でその甘さ。でも嫌いじゃないですよ。

 だけど、選びなさい。これは運命の岐路。

 私が残酷だから言ってるのではなく、これは誰にでも訪れる選択。

 ……私はこれでも、あなたを憐れんで助けてあげたいと思っているんですよ」

 

 ちょっと肩入れしすぎかな、と少女神は小首を傾げて微笑んでいる。

 

「選びなさい。運命と戦うか、人間として足掻いて死ぬか」

 

 俺は、俺はッ!! 

 

 

 時間が、動き出す。

 

「お前、ウザイよ♪」

 

 魔王の力を得た魔勇者が、マリリンの支援を煙たがり彼女に一直線で向かってきた。

 

「マリリンッ!!」

 

 俺はアンジェの時のことが脳裏に過った。

 考えるよりも先に、俺は“選択”していた。

 

「ナーロン!!」

 

 ぶすり、と体内から嫌な音がした。

 

「がぁッ……」

 

 血を吐き、意識が遠のく。

 俺は、彼女を庇っていた。

 その結果、心臓を魔剣でぶち抜かれていた。

 

 いっそ冗談みたいに、自分の胸に風穴が開いている。

 ああ、また俺は死ぬのか。

 

「あーあ……」

 

 どさり、と地面に倒れる俺の顔を覗き込むように、幼い女神が憐れむように俺を見ていた。

 

「だから、あんなに忠告したのに。

 これ以上、私からあなたに言うことは無いでしょう。ご愁傷様」

 

 意識が、消えていく。

 何度も経験した、死だ。

 

 奈落に堕ちていくような、何度経験しても慣れないこの感覚。

 

 ああ、みんなゴメン。魔王のところに連れて行くって約束したのに。

 

 俺、ダメだったよ。やっぱり、ダメな奴だったよ……。

 

 

 

 

 

『まだ、諦めてはいけません。マスター』

 

 ……え? 

 

 

 

 §§§

 

 

 

「ナーロン!!」

 

 彼が、スズの一撃によって倒れた。

 ナーロンを殺した彼女は、ボロ雑巾のように彼を地面に投げ捨てた。

 

「き、貴様ぁああ!!」

 

 ランスローが、仲間たちが、激高する。

 苦楽を共にした仲間が、心臓をぶち抜かれている。致命傷だ。絶対に助からない死傷だった。

 

「あれ、もしかして今のが兄貴が期待してた勇者だったの? 

 よわーい、ぎゃはは♪ ウソでしょ、これのどこか勇者だって?」

 

 嘲笑を隠さない、スズの姿をした何か。

 ナーロンの仲間たちは、最後の気力を振り絞って立ち向かおうとした。

 

「本体とのデータ照合。

 魔力波形パターンの合致を確認。

 魔王ローティ様と、お見受けします」

 

 だが、倒れる彼と、彼女のすぐそばに、精霊と崇め奉られる女が静かに佇んでいた。

 

「あなたのこの世界の活動は、認められていません。

 管理者権限で、退去を勧告します」

「はぁ? 私は、兄貴の代わりに仕事をやってやってるだけだし。

 端末如きのお前に、ごちゃごちゃ言われる筋合いはないんだけど」

「そうですか、わかりました」

 

 スッと、精霊の女は口元に手を当てた。

 彼女を知る面々は、この修羅場において目を疑った。

 

 だって、なぜなら、いつも無表情の彼女が、唇を釣り上げ喜悦の表情を浮かべていたのだから。

 

「だそうです。いつまで寝ているんですか、仕事ですよ。我が姉妹よ」

 

 

 

『所有者の、生命反応の低下を確認』

 

 その無機質な声は、ナーロンの懐から零れ落ちた球体から発せられた。

 

『緊急蘇生措置を実行。応急処置、開始』

 

 球体から、無数のマニピュレーターが生えた。

 まるでフンコロガシに動かされるかのように、球体は心臓を失ったナーロンの胸部に納まった。

 今度は無数のコードが生えて、彼の血管や肉体と融合していく。

 その様子は、一般的な感性から言えば、おぞましかった。

 

『有機ユニットとの接続を確認。

 メインエネルギーユニット『プロメテウスの第二の火炉』の稼働を開始。

 蘇生処置、完了。意識の回復を開始します』

 

「データ送信。

 予定に存在しない敵性存在を確認。

 敵性存在の推定文明レベル──80以上」

 

 ────だってあれは本来私が定める基準で、文明レベル80以上の敵性存在を想定した破壊兵器よ。

 

『──権能承認。

 本機は業務内容にに従って、出撃いたします』

 

 ────あれ一体でこの地上を容易く焼き尽くせる。

 

 むくり、と起き上がったナーロンの背から、天使の翼が左右に伸びた。

 

 

「アンジェ……?」

 

 マリリンは無意識に、その名を口にした。

 彼女は知っていた。

 部隊内で数少ない女性同士。アンジェの肉体的構造が、ヒトのそれとは違うことを。

 それを知ってて、彼女は態度を変えなかった。仲間として接した。だから涙も流した。

 

「あなたなの?」

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

 

「あはッ」

 

 地上、人々の住まう位相から一段上、神々の座する領域。

 ここは、隣り合う文明と邪悪の座する席。

 

「あはは!! ねえ見て見てリネンッ!! 

 私の設計したロマン重視の破壊兵器が起動したわ!! どうせ、使わないと思ってたのに!! 

 まさかこんな偶然があり得るなんて!! 早く、早く使って見せて!!」

 

 “人間”は、手にした力を使わずにはいられない生き物である。

 それそのものである、文明の女神は手を叩いてはしゃいで喜んでいた。

 

「……あのバカ娘め」

 

 なお、隣の席の邪悪の女神は娘の行動に頭を抱えていた。

 

「どうしますか。あの世界はテーマパークにする予定では」

「私が楽しいからどうでもいいわ!! 別の場所に建てればいいでしょ!!」

 

 はあ、と邪悪の女神は瘴気に満ちた溜息を吐いた。

 自分の盟友の悪い癖だった。その人間らしさを愛しているが、彼女の化身がシステマチックに振舞うのは理由がある。

 

 彼女が気分で動くと、大抵が碌なことにならないからだ。

 

「早く、早く見せて!! 私を楽しませて!!」

 

 だが、最近ヒステリー気味だった彼女の楽しそうなところを見てると、苦言も奥に引っ込んでしまうのだった。

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

「あはは、なんだそれ、なんだそれ!!」

 

 感覚が、広がっていく。

 知覚が拡大していく。

 

 目の前の化け物や、仲間たちの驚く表情。

 風の流れ、周囲の音、魔力の波長、どれもが手に取るように分かる。

 

 不思議な感覚だった。

 

 ──マスター。お目覚めですか。

 

 アンジェ、お前なのか? 

 

 ──肯定。マスターと私の中枢ユニットとの接続によりスリープモードが解除されました。心配させて申し訳ございません。

 

 ……いや、お前がそこにいるなら、それでいいさ。

 

 ──要請。マスター、それより今は目の前の敵を排除しましょう。今の私の状態は、オールウエポンズフリー。あらゆる武装の使用制限が解除されています。

 

 そうか。なら、──ぶっ放すぞ!! 

 

 ──はい。次元工廠(アーセナル)との接続を確認。対敵性文明兵器「プロメテウス・サード」を使用。マスター、封印解除コードを。

 

「我ら人類は最初、洞窟の中で暮らしていた。

 夜の闇に、獣の咆哮に怯え、生きていた。

 ある時、天から一条の雷火が落ちて来た。

 その火を手にした時、ヒトは初めて文明の芽を啓いた」

 

 次元の果てにある、神の工廠から特定の武器を招来する。

 取り出すのは、超高熱の溶断ブレード。

 

「ヒトはこん棒を作り、投槍を作り、弓を作り、銃を作った。

 ヒトは火で鉄を打ち、水の流れを変え、風でエネルギーを作り、大地を耕す」

 

 光の剣が、地の果てまで、闇を暴く。

 

「第三の炎よ、三度(みたび)ヒトを文明の光で照らせ」

 

 一振りで、俺は悟った。

 

「夜の闇を切り裂け!!」

 

 なんで、アンジェが、あんなにもレギュレーションに拘っていたのかを。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「ズルい!!」

 

 それは、人知を超えた戦いだった。

 

「兄貴はこんなオモチャ隠してたんだ!!」

 

 見渡す限りの砂地から、巨大なミミズが高層ビルのように飛び出していく。

 最下級の竜種にも該当する化け物が、彼女の眷属だ。

 

 そんな化け物の束を、たった一振りで天使は引き裂く。

 地平の果てまで熱で歪み、空間の位相が切断されることで物体が崩壊する。

 

 光の剣を持つ天使は、天使と呼ぶには機械的で人工的だった。

 しかし堕天使と呼ぶには、神々しかった。

 

「こんなオモチャを独り占めするつもりだったなんて!!」

 

 砂の竜巻が、空を飛ぶ天使を堕とそうと巻き起こる。

 しかし、小さな標的は重力や航空力学を無視した速度や機動で縦横無尽に空を駆ける。

 

 その一撃が、遂に砂漠の王を溶断した。

 その余波で大地の溶解し、大地を地平から地平まで引き裂いた。

 

「ぎゃはは!!」

 

 砂漠の砂の中から、無傷の魔王が弾丸のように飛び出した。

 大質量の砂の鉄槌を引き連れ、大地そのものを振り回す。

 

『ダメージ分析完了。

 攻撃の効果無し。砂そのものに攻撃を分散している模様』

「分かりやすい言葉で言えよ!!」

『要約。砂場が存在する限り、敵性存在は無敵』

「つまりフィールドそのものがアイツってことか!!」

 

 故に、“大砂界”。

 世界そのものを砂漠化させ、侵食し、まるごと滅ぼす。

 砂漠こそ彼女そのもの、全てを枯渇させ滅ぼす邪悪の化身。

 

『有効な武装検索。……該当アリ。次元工廠(アーセナル)と接続開始』

「量子変換装置、展開!!」

 

 無数のドローンビットが、神の工廠から飛来する。

 そこから発せられる力場が、魔王の展開する力と衝突する。

 

「あははッ、そう来たか!!」

 

 砂漠の砂が、ドローンビットの機能によって塩へと変わっていく。

 地上が白い大地へと塗り替わって行く。

 

『最大出力!!』

「このまま押し込め!!」

 

 真正面から、両者がぶつかり合う。

 他に何もできなくさせる為の殴り合いだった。

 

「あはは、ヤバッ☆」

 

 無理が表に出始めたのは、魔王の方だった。

 

「このザコ人間の体、脆すぎッ!! 

 処理能力が、限界ッ!!」

 

 光りの一閃が、魔王に直撃した。

 塩の大地に、彼女が叩きつけられクレーターを作りながら大の字で倒れていた。

 

「あはッ♡ 楽しい、楽しい!! 

 もっと、もっと遊びたい!! 

 ママ、ママッ、第二形態になるよ、力を貸して!!」

 

 力無く、人間の殻を被った魔王が空に手を伸ばす。

 だがしかし、それが応えられることはなかった。

 

「ママ、どうして!?」

 

 その瞬間だった。

 

 ──距離が、歪んだ。

 

 それこそ引きずられるかのように、彼女の体が高速で引っ張られていった。

 

「ローティ」

 

 彼女が気付くと、そこは魔王城だった。

 

「あ、兄貴!! ズルいズルい!! 

 私もあれが欲しい!!」

「ローティ」

 

 もう一度、魔王アテルが姉の名を呼んだ。

 そこでようやく、彼女は弟にして兄の機嫌が悪いことに気づいた。

 

「よくも、わての娘の価値を踏みにじってくれたな」

「か、帰るね、私ッ!!」

 

 スズの体から、異様な力が抜けていく。

 はあ、とそれを見て魔王アテルは溜息を吐いた。

 

「お、とおさま……」

「動くな、今は休め」

 

 彼はボロボロになったスズを抱き抱えて玉座の間を立ち去った。

 

 

 

 §§§

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 上空から塩の地上に降り立った俺は、ゆっくりと周囲を見渡した。

 見渡す限り、地平線まで白く大地は染められていた。

 

「こ、こんなの、使えるか!!」

 

 ほんのちょっと(・・・・・・・)、武器を振り回しただけでこれだった。

 本気で戦ったら、地上なんて無くなってしまう。

 

 なんでアンジェの奴が、頑なにレギュレーションに拘ったか理解した。

 こんなもの、安易に振るっていいわけない。

 

「お疲れさまでした」

 

 顔を上げると、精霊が相変わらずの無表情で立っていた。

 

「本来なら魔王戦で覚醒を予想していましたが、想定が予想以上に早まりました。

 セーフティは外れたままにしておいてください」

「お前なッ!!」

 

 俺は思わず奴に掴みかかった。

 

「この世界を愛しているんじゃなかったのかよ!!」

「勝てなければ、どうにもなりません。

 それに、これでようやく、あの分からず屋の無能どもも理解したでしょう。

 この世界を真に救うには、どうすれば良いのか」

「……」

 

 俺だって、頭では理解していた。

 アンジェの力が無いと、魔王には勝てないと。

 だけど、これはあまりにも、酷すぎる。

 

「……この力を使うのは、最後の最後だ。本当にギリギリになってからだ」

「ええ、それに越したことはありません」

 

 ──マスター。共に、世界を救いましょう。

 

 ……ああ。そうだな。

 

 胸から、心音とは違う鼓動を感じる。

 無限大に等しい、強大な力と共にアンジェの存在を感じながら、俺は塩の大地を踏みしめ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、女神メアリースは「もっと派手にぶっ放してもよかったのに」と思ってる模様。

後二話で終わらせるので、ちょっとぎゅうぎゅうに詰めました。
本当ならもちょっと戦闘描写細かくしたかったのですが、次回は魔王の本戦に行きたかったので。

ようやく、前から張っていた伏線が回収できましたし。
このまま最終回に向けて突っ走ります。

では、また次回!

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