《完結》魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」 作:やーなん
書きたてほやほやです。
ほむほむと、配下どもがこの世界一番の帝国を陥落させたと報告を受けた。
ほーん、相変わらず仕事が早いやん。
実質玉座に座ってるだけで済ませられる仕事は楽でええわ。
まあそんなわけあらへんけど。
この世界で一番、と言う割には質素な帝国の玉座の座り心地を確認しながら、わてはこの国の王族やら貴族やらを見下ろす。
ほな、なんであんたら年中殺しあっとるんや?
ふむふむ?
この世界は世界樹の恩恵で成り立っとる、と。
世界樹に近いほど恵みの力が得られ、豊かな大地になるんか。
この帝国が長年敵対していた王国は、その世界樹の中心に建てられた国なんな。
近年、帝国は周辺諸国を武力で制圧して吸収、世界を統一すべく王国に攻め入っていた、と。
なんやそれ……理想的な悪の帝国やん!! 気に入ったわ!!
王侯貴族全員皆殺しにしたろかと思うたが、そう言うことなら話は別や。
生きる為に行う悪を、我が母たる神であるお母んは赦す。
この帝国周辺の貧しい生活を改善する為に、国家として戦争を行う。しかもこの世界の最大の宗教国家から破門されとるやと?
オイシイなぁ、オイシイやんけ。悪の帝国ちゃん。
せや、生きると言うことは、他者から奪うと言うことや。
おもろいプランを思いついたで。
この魔王アテルが、悪の王が帝国をバックアップしたろうやないか!!
この世界に、もはや世界樹の恩恵は無いぃ。
この世界の宗教も、世界樹を崇めとる。
そこに、まったく別の神を標榜するわてらが現れたんや。
それが帝国にだけ、後押ししたらどうなる?
立場が全く逆になるんやな!!
今まで悪の帝国に攻められていた、正義を掲げて対抗していた国々がこっちを攻めるしかなくなる。
この世界の人類は知るやろう。
正義なんてものが、いかに脆くあやふやで、妬みや憎しみで簡単に歪んでしまうものやってな!!
ははは、最高の喜劇やん!!
そして、そないな悪の帝国を裏から操るのが、このわてなわけよ。
これには邪悪の女神たるお母んも、にっこり。やっぱり性格悪いわ。
わてはお母んに、良い子良い子と撫でられながら、むふーっと鼻息を吐いた。
お母んは英雄譚の最終場面みたいな勇者と巨悪の対決を待ち望んどるが、そもそもお母んは人間の掲げるあやふやな立場で変化する正義が嫌いやねん。
立場が変わり、関係が変わり、正義が変わる、その混乱をお母んは愉しむんや。
せやからお母んはこんな損な事業を請け負っとるんやろなぁ。
だからこそ、わてらは揺るぎない信念に裏打ちされた真の正義に焦がれるんや。
「我が主上、至高なる文明の女神に申し願い奉る」
わては、隣に控えていたほむほむにそう言った。
無機質で無表情で無感情な彼女に、変化が訪れる。
わてはいそいそと玉座から降りて、王族や貴族の少し前から彼女に跪いた。
すると、入れ替わるようにほむほむが、玉座に座る。
いや、もう彼女はほむほむやあらへん。
機械のように動かなかった顔には、自信に満ちた微笑みが浮かんだ。
足を組んで背もたれに背を預け、当たり前のように玉座に座りこなす。
その所作の端々から、人間味で溢れていた。
「私の名は、メアリー・スー。……ああ、ここは地球系の世界じゃなかったわね。
改めて名乗り直すわ、我が名はメアリース。人類の文明を見渡す、至高の女神よ」
このヒト相変わらず自分を至高とかいうとるよ。
そしてやっぱり、いつも通りのありがたみがない登場や。
でも王族貴族どもは驚いとる。まあこの御方のフットワークの軽さは初見みんな驚くわな。
「私は“人類”の為の“人類”による、“人類”だけを贔屓する女神。
我が盟友、リェーサセッタの愛し子たる魔王アテルよ。
いったいこの私にいかなる用向きかしら?」
ほな、メアリース様、おもろいこと思いついたんですわ。
こいつらの国に、手を貸してやろうかと。その許可を貰おうと思ったんですわ。
「魔王アテル、この世界は我々の基準で撤去の予定よ。
この世界の人間に、我が叡智を授ける意義が見いだせないわ」
ほむほむの顔が、やれやれと溜息を吐いた。
まあ、そう言うわな。
でもな、これはこっちの仕事や。わて個人の裁量でこっちの人類を好きにしてもえやろ?
「うーん、それは困るわね。
この世界は撤去の後、テーマパークにする予定なの。
へたに住人を残しても面倒なだけだわ」
は、はあ、テーマパークでっか?
「そう、テーマパーク。最近巷のトレンドは競馬よ。
流行は廃る前に乗っかるべきだわ。幾つもの競馬場を作って、全世界への放送チャンネルを増設して、放送基地局も作らないと。
馬系の獣人を選りすぐってアイドルグループとか結成してみようかしら」
はあ、……相変わらずメアリース様の御考えはよくわからんわ。
わて、この御方苦手やねん。
「それで、この世界は私の作る競馬のテーマパークより価値があるの?」
あのー、メアリース様。その話はそれぐらいにしときまへんか?
後ろの方で怒りと屈辱に打ち震えてるのが何人かいるんやけど。
と言うか、わては知っとるで。そうやって流行りに乗ったわええけど、人気が無くなって廃れたテーマパークの世界を、わての一族が壊しとるんや。
メアリース様が娯楽に力を入れてるのは知っとるけど、どうせそのうち壊すやん。
わてはそないなことを、迂遠に失礼にならないように伝えた。
「まあ、それもそうね。
どうしても言うなら、この世界の住人に自治権を与えてもいい。
我が庇護下にいる人間を、そう簡単に殺すわけにはいかないから。
でも、別の世界の移住は難しい、移民は多くの場合で問題を発生させるから。
それ相応の働きを、示させなさい。そうなれば、生きたまま我が庇護下の世界に移住を許すわ」
メアリース様の大いなる慈悲に感謝するで。
要するに、この世界の住人に肩入れするのはええけど、それはメアリース様としては自分の庇護下に入れることと同義や。
自分の庇護する相手を、世界ごとぶっ壊すわけにはいかんやろ?
せやから、生かす人間は選べっちゅうこっちゃ。
ほな、聞いた通りや。
メアリース様は慈悲を示したで。
お前らが使えるなら、生かしてやると仰せや。
わての手下として、これより先にこの国に攻めてくる連中を迎え撃つんや。
さすれば、お前たちとお前の国の住人は、メアリース様の名の下で平穏を約束されるやろ。
ほむほむ!!
「はい、魔王様」
玉座から降り、ほむほむに戻った彼女はわての側に控えていた。
こいつらに、メアリース様の叡智を与えるんや。
不毛な大地に恵みを与える方法を。
未開の土地を切り開く道具を。
食べられないモノを食べるようにできる知恵を。
出生率を支える衛生の知識と、病院と医術を。
効率的な産業のやり方を。
文明を、メアリース様の司る文明を与えよ。
周りの国々が羨むほどの、黄金色の知恵を授けるんや。
悪の帝国が謎の兵器や技術を有してるのは定番のお約束やからな!!
そしてその兵器や技術は、こっそりと周辺諸国にも漏らすんや。型落ちさせてな。
そうやって、この帝国が抜けた人類の穴を補填しとこか。
……なんやお前ら、なに泣いとるんや?
ええ? 飢えの無い生活はこの帝国建国以来数百年の悲願やって?
お前らそないな長い間、殺しあってたんか。これやからメアリース様の恩恵の無い辺境の世界は嫌なんや。
ほな、泣くより先にやることあるやろ?
周りの国はお前らから全てを奪いに来るで。
お前らが負けたら、お前らの祖先が紡いできた歴史はテーマパーク以下になるで。
そないなこと、耐えられんやろ?
分かったらさっさとほむほむ達と協議せいや。
わてはあの御方は苦手やけど、その偉大さは身に沁みとる。
この帝国もたった二週間で様変わりしたわ。
スラム街は撤去され、衛生検査したのちに様々な国家事業に割り振られる。勿論、食事も出る。
重機で魔物の住む密林の山を切り崩し、木々や土地を確保。
まったく、環境破壊は楽しいゾイ!!
メアリース様は“人類”だけの味方やからな。人間は環境なんて気にせんやろ?
地球防衛軍が守るのは地球だけなんやと同じや。ははは、うける。
地方や帝国の属国からも人を集めさせ、経済を回す。
ライフラインを敷いて、エネルギーを各地に分配する。
えーと、たしかメアリース様の定める文明レベルの基準に寄ると、この世界は数字にして35。
世界観は、なーろっぱ、って言えばだいたい伝わるらしいな。
ちなみに文明レベル50は、すべての国が兵士に銃火器を満足な数を配備できることらしいわ。
それがこの帝国周辺だけ、文明レベル45程度になったと言えば分かるやろうか?
文明レベルを1上げるのに、技術大国が10年頑張らないとあかんと言えば、この帝国だけほかと技術が100年進んでることになるな。
もはや、世界樹の恩恵なんて必要あらへん。
人類が興ってから滅びるまでを見渡す、全能たるメアリース様の叡智に掛かればこの程度造作もないわけやな。
誰かが言うたな。貧困はラスボスやと。
物語では邪悪な敵を倒したとして、その後豊かになるんか?
わて、必殺するタイプの時代劇嫌いなんや。結局悪人を殺しただけで、何の解決にもならんからな。わいが悪の王やから心情的に肩入れしとるんとちゃうで。
だがぁ、メアリース様にとって貧困というラスボスはザコに過ぎない。
かの御方の恩恵の前に、飢えも疫病も家無き者も無ければ、職の無い人間もおらへん。
流石は、我がお母んと共に数万もの世界を統治し、平穏を齎しておる御方や。
わいは苦手やけど。
さて、お膳立ては済んだで。
異端の知恵で豊かになった悪の帝国という餌をぶら下げてやったんや、ほな人間ども、あとはわかるやろ?
魔王としての仕事はひと段落したから、あとは趣味の話にしよか。
おーい、ほむほむ。
「はい、いかがなさいましたでしょうか」
いや、待て。ほむほむは前科がある。
ここは、まあ苦手やけど、メアリース様に相談しよか。
「それで、なんの話かしら?」
わてがお願いすると、ほむほむはメアリース様に切り替わった。
いやな、世間話とかにも応じてくれるメアリース様の軽さはええと思うんよ?
人気は有らんけど。
「誰が人気が無いですって?」
ひえッ、心を読まんでくらさい。
貴女が人間にとって“善い”女神で居ようとしてくれる姿勢には素直に尊敬しとるんやから。
そ、それより!!
わてはスズが勇者として覚醒することを諦めておらんで!!
至高なるメアリース様の御知恵を賜りたく思うんよ。
「ふむ、なら学校に行かせてみればいいんじゃない?」
ほう、学校。それは盲点やったわ。
「あなた達魔王一族を産み出すのは我が盟友だけれど、あなた達の設計は私が担当しているの。
あなた達を独りで倒すなんて、土台無理な話だわ。人間はそんな風に出来てない。
この世界の住人のスペック的に、最高値の人間が四人も居ればまあ勝負にはなるでしょうね。
あなたがあの子と戦いたいのなら、自分と同等の戦力を見つけさせる意味でも学校に通わせる意味は有るわ」
ほへぇ、それは初耳だわ。
わての肉体はメアリース様も携わってたんやな。
流石は人間だった頃は最高位の錬金術師だっただけあるわ。
「そうでしょう? そのサイズの肉体にこれだけのポテンシャルを詰め込むのは苦労したんだから。
あなた達魔王一族は、私の自信作よ」
とりあえず、褒めておく。持ち上げとく。
この御方、割とちょろいから褒め称えておく。ご機嫌のままお帰り頂くためにな。
「さて、話は戻すけど、学校に通えば友人も出来るでしょう。
そうなれば思春期の人間だから価値観も変動する。あと我が庇護下に入ったんだからあの子に義務教育を受けさせなさい。私の敷く法は柔軟でも例外は無いわ」
そら、ごもっともで。
別に学校で戦友を見つける必要も無いしな。
丁度この国も制圧してライフラインも整えたし、学校に通わせる環境は整っとったわ。
いつまでも、わてらのところに居てたら反逆の算段も立てられんだろうしな。
「じゃあ、保護者は貴方で登録しておくわ」
ほな、頼んます。
そうして、メアリース様の意識は帰られた。
「では、全て手筈通りに」
おう、任せたわ。
ほむほむが行った後、また別のほむほむがやって来て、帝国の人間が謁見を求めて来た言うんから会ってみたわ。
おお、この世界の勇者の伝承の調査結果か!!
でかしたで、それを楽しみに待っとったんや!!
なんでも、この世界には伝説的な勇者が何人かおるらしく、強大な魔物や戦争で活躍した言うんねん。
そいつらは、聖なるパワーみたいなのを纏って戦っておったとか。
ふーむ、なになに……この世界の勇者とは、世界樹と感応しその力を引き出す者であり……。
ふーん……。
………………うそやん。
§§§
ルートシア帝国。
この世界、最大の国家。
この世界の名前を国名にしているあたり、その傲慢さが窺える。
建国当初からの典型的な侵略国家であり、世界樹の恩恵が満たされた地域や国に侵略しては周辺諸国とはバチバチにやり合っている。
世間一般では、この世界に長い戦乱を齎した元凶として語られており、当然のことだが敵国からは蛇蝎の如く嫌われている。
そんな世界最大の国家が、魔王の手によって陥落したとして世界に激震が走ったのは二週間前の話だ。
度重なる侵略によって疲弊し、帝都にはそれそのものよりも大きなスラム街が出来上がる有様だったと、私は聞いている。
だが、違法建築の群は魔王軍によって強制的に撤去され、スラム街は魔王の腹心たる女神の化身によって区画整理が行われることになった。
そこに住んでいた住人は数十万人にも及んでいたが、彼ら身元不明者は魔王軍主導で管理され、仕事を割り当てられた。
区画整理が終わり、別の事業を行う際に市民権を与えるとして。
拒否権は無い。そのスラムを仕切っていた裏組織のボスたちも抵抗空しく、服従することになった。
彼らは一応、曲りなりにもスラムの秩序を担っていたとして、後の地位が約束されもしたが、仕事を拒否した者は国境から他国に追い出された。
世界樹を破壊し、神をも畏れぬ魔王の采配だとして、帝都は魔王軍の完全な管理下に置かれた。
追放された者達によって、周辺諸国では帝都の惨状がおぼろげに語られ、誰もが奴隷のように働かされているのだと恐怖した。
だが、私の見る限り、それは違った。
区画整理と同時にライフラインの整備を行い、それに従事する男たちやそれを補佐する子供たちで活気にあふれていた。
女たちはそんな男たちの為に、炊き出しを行い衣服を縫い合わせ、風呂の準備をする。
仕事に従事している限り、食事が与えられる。健康も管理され、何時病気になって死ぬかわからない不衛生な環境からおさらばできる。
それどころか、市民として居住権を取得できる。違法に住んでいた彼らは、いつだってその日の寝床が重要だった。暴力によって、いつ追い出されるかわからないからだ。
暴力で鳴らしていた組織のボスたちが、身なりの良いスーツを着て工事の指揮を執っている。
問題が起こったなら、監督をしている人造の女がすぐにやってくる。
いつも戦争中で帝都内でも閉塞した空気が漂っているだけだったと、二週間前より以前のこの国の実情を知る者はそう言う。
とにかく、ヒトが足りない。マンパワーが不足している。
周辺の村や地域、果ては属国からも人手を呼び寄せて、現場を回していく。
それだけの人手を集めて、食料が足りるのかと言うと──足りるのだ。
至高の女神メアリース様は、数万もの世界を統治している。
余剰な食料など、それこそ掃いて捨てるほどある、らしい。私は想像もできないが。
だが、かの御方はそれを社会悪として、余った食料はこの世界みたいな辺境に送って支援にするのだ。
それでも、最低限以上の支援はしないらしい、自立できなければ支援は無意味だと教わった。
まさに、神の采配だった。
そうして、この帝都の元スラムに新しい学校が出来た。
私はこの学校に入学すべく、ここにやってきた。
「新入生代表、スズさん」
「はい」
その入学式で呼ばれた私は、壇上に登った。
保護者席では、魔王様が出席しており、周囲の人間は落ち着かなそうにしている。
ただでさえ大きい魔王様は、遠くからでも目立つ。
その光景に、私は少しだけ笑ってしまった。
この小説がこの話を投稿時点で、これまでこつこつ書いた別作品のお気に入りやUA数を上回ったりして、何だか複雑な気持ちです。
私が嫌いな某所系のやたら長いタイトルの作品が、目につきやすいってことが証明されたみたいで、嬉しいやら微妙な気持ちやらでございます。
でも、沢山の人に私の作品を見て貰うのは素直に嬉しいことです。
休みはまだまだ長いので、需要がある限り頑張りたいと思います。
では!!